この日、東京レースは普段とは違う熱量を放っていた。今日、此処で行われるのはG1レース。だが唯のG1ではない、国際競争とされるジャパンカップ。既にアメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアのウマ娘は会場入りしており、パドックでそれぞれの勝負服に身を包みその姿を見せ付けている。その中には当然オグリの姿もある。
「オグリさん、調子良さそうですね」
「ああ。こういう時なんて言うんだろうか……意気軒昂……であってるかな?」
「威勢よく元気であるというのならそれで合っています」
「ならばそれだ」
フンス、と元気よくしているオグリ。メジロの療養所ではすっかりリフレッシュが出来たのか今日までの練習でも良い結果を残せているので、前回の天皇賞(秋)よりもいい結果を残せると思っている。
『さあ次は―――此処まで13戦13勝、無敗のトリプルティアラウマ娘、メジロランページ!!』
パドックに姿を現しながらも勢い良くコートを肩に担いだ。その登場にファンたちは沸き立った、マスコミからの反応は良くはなかったが彼女に魅了されたファンはそんな気持ちなんて抱いていなかった。寧ろ、彼女こそが日本の総大将だ!!と叫ぶファンも多い。
「ランページ今日は頼むぞ~!!」
「日本の誇りを見せ付けてくれ~!!」
「女王様~!!」
「よっカッコいいぞ暴君~!!」
「おうこの状況での暴君は褒め言葉になんねぇぞ馬鹿野郎、でもあんがとな~」
『本日は9番人気、ですがパドックに満ちる声はオグリキャップやヤエノムテキへと向けられる物にも負けていません!!未だ無敗の独裁者の力は海外のウマ娘にも通用するのでしょうか!!?』
『エリザベス女王杯からのローテーションですからね、ですが頑張ってほしい所です』
「ランページさん頑張ってくださ~い!!」
「―――任せとけ」
パドックから引こうとした時、バドックを見つめる歓声の中に少女の物があった。それに惹かれるように見返してみると、そこにはエアグルーヴの姿があった。此処まで応援されているのだから頑張らない訳にはいかない―――
「ラン頑張れ~!!」
「気負い過ぎないようにね~!!」
「お姉様~!!」
「先輩チーム一同応援に来ました~!!」
「頑張って~!!」
「ラ~ン!!!頑張ってよ~!!!」
カノープスの皆も駆けつけている、そして……ライアンまで来てくれている、これならば百人力だ。後は走るだけだ。
間もなくゲート入りだ。地下バ道を越えて入場した先のゲート、様々なウマ娘が日本のウマ娘である自分達を見ている……だが矢張りというべきか、オグリを見ている視線が大半なのはある意味で納得だ。前回のジャパンカップでは2着に入っている、紛れもなく日本のトップクラスの実力なのは当たり前なのだから。
「大丈夫ですかランページさん、緊張してませんか?」
まだクラシッククラスというのもあってか、ヤエノムテキが自分を心配してくれている。先輩というのもあるが、このレースに出る中では最年少というべき存在、このレースの雰囲気に呑まれてしまっては一気に崩れて行く。それを危惧してくれているのだろうが……緊張は不思議としていない。
「Hey Japanese tyrant!!」
やや大きい声で声を掛けられる、振り向いてみるとそこには自分と同じくクラシッククラスでの挑戦となるエルグッツ。近くにいたオグリは首を傾げている、誰の事を言っているんだ?と素直に分かっていなさそうなので、自分が対応する事にした。
「ド、ドウモ……ハ、ハハ、ハジ、メニ?」
『英語で構わんぜ、日本語、面倒だろ』
『助かるよ、一応簡単な挨拶集は読んできたんだけど……何で日本語ってこんなに面倒臭いの?』
『俺に言われても困るぜな』
クククッと笑いながらもエルグッツの言葉に応える。
『如何やら、クラシックは二人だけらしい』
『もう一人日本からも来る予定だっただけどな、回避しちまった。やれやれ新人の肩身は狭いぜ』
『そうには見えないけどね、暴君って呼ばれてたけど何か問題児なのかな?』
『別に何もしてねぇよ、ウゼェマスゴミ共が勝手にほざいてるだけだ』
『え~っと……』
『ジャパニーズパパラッチで通じるか?』
『成程……あれマジでやばいよね』
と、何処かゲンナリしたような表情を浮かべながら溜息をつくエルグッツ。何やらパパラッチに追い掛け回されたりしたのだろうか……エルグッツ自身はイギリスで走っているが生まれはアメリカなので色々と思う所があるのかもしれない。
『日本のパパラッチはやばい?』
『本場に比べたら大分マシだと思うぜ』
『やけに楽しそうだな』
そこに入ってきたのは自分よりも大きなウマ娘。これでも身長は伸びているランページ、現在は180を超えているのだが……普通に抜かれているのを見てこれが日本と海外の差か……と痛感するのであった。入ってきたのは2番人気のベストルーティン、オーストラリアのウマ娘である。
『無敗の三冠ウマ娘と聞いたぞ、それなのに随分と人気薄だな』
『煽ってるつもりかい、前走が2週間前なんだよ。まあ余計なお話はこの位にしとこうぜ―――俺達はウマ娘だ、言葉よりも、走りで語ればいい』
『良い事を言うようだが、悪いが君よりもOguri Capを此方は警戒しているよ』
『Rampage、悪いけどこっちも同感。それを覆す走りを期待してるよ』
『あいよ』
そう言いながらも二人は離れて行く、そして入れ替わるようにオグリとヤエノがやって来る。
「大丈夫か?何やら私の名前が出たようだったが……」
「まあ端的に言えば……こっちが警戒しているのはオグリキャップだけだから、後人気の低いおめぇの掲示板入りねぇから!!って煽られたって所ですかね」
「何と失礼な……!!」
二人は通訳が居ないと日本語は不自由なのでランページの発言の意味は分かっていない、だが分かっていたら言ってない!?と反応する事だろう。興味ないと言われたんだから細やかな仕返しという事にしておこう。
「オグリさんは4番でヤエノ先輩は6番、んで俺が9番。順番で見たら開催国の最底辺人気ですからある種順当っすよ」
「だとしても、ウマ娘として走るのであれば走る相手にも礼儀を払うのが当然の事!!」
「まあそれは思わなくはないですが―――そういうのは実力で見返した方がカッコいいじゃないですか」
言葉を返すよりもずっとカッコいいと返すランページにオグリは確かに、と簡単オグリになりながらも頷いた。ヤエノはその通りですね、気を引き締め直す。
「さてと―――なんで俺が暴君やら独裁者って呼ばれてるのか……見せてやるよ」
「もう直ぐね、フフフッワクワクしちゃうわ」
「奇遇だな。私もだ……さあランページ、私の後に続けるか、それとも……マルゼンスキーとの特訓の成果、全てを見せてみろ」