貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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82話

「だぁぁぁぁぁっ……もう無理、もう駄目、もうキツぃ……」

 

一応諫めようと試みたのだが、そんな理性なんて無視して口から決壊したように言葉が溢れ出た。控室にある椅子に座り込むが、床に崩れ落ちないようにするので精一杯だ。

 

「クソがぁ……一気にドバっと来やがった……冗談抜きの全出しだ、これ以上振っても何も出ねぇぞ俺は……」

 

正真正銘の全力全開、オーバードライヴ、色々言えるような気もするけどそんな軽口を叩く気力すら残っていない。取り敢えず疲れたから飯食って風呂入って寝たいという欲望が徐々に大きくなってきた。偉業を達成した?知らん、だったらそんな事をした自分を敬って許せ、とメジロ家の為にもとさえ思えない。それだけ疲れた。扉がノックされた、ガン無視しよう。そう決めると分かっていたように声が聞こえて来た、南坂の声だ。

 

「ランページさん、入っても大丈夫ですか?」

「あ~南ちゃんか……どうぞ~……」

 

トレーナーならば認めない訳にも行かない。許可を出すと扉が開けられて南坂が入って来る、自分の姿を見て苦笑いをするが口うるさい事は一切言わない辺り分かっている。

 

「スポーツドリンクとか買ってきましたけど、飲みます?」

「飲むぅ~……」

 

自販機で買ったと思われるそれを受け取って飲む、これがジャパンカップをワールドレコードで制した無敗の三冠ウマ娘の姿なのかとマスコミが見えたら大喜びで写真を撮りそうな光景だ。

 

「はぁぁぁ……サンキュ南ちゃん、少し元気になった」

「それは何よりです、しかし大丈夫ですか?」

「いやもうさ、もう俺の全部出し切っちまった。もうこれ以上なんかやれって言われても何も出ねぇよ」

「ウイニングライブは辞退しますか?」

「あ~……いやそっちはやるわ、まだ時間あるだろうし……ちゃんと休めば大丈夫だろうから」

 

疲れてはいるが、ライブはやり遂げる。最初こそライブかぁ……と思っていたが慣れる物だ、これも一種の楽しみに思えるようになってきたのだから順調にウマ娘化していると思う。

 

「でもさ、取材とか来てんだよね」

「それはもう……何せクラシックでのジャパンカップを制覇、しかもワールドレコードですから」

「いやぁ参っちゃうよねぇ、世界の独裁者になっちまったか~……やめようか、なんか世界征服した悪の大魔王みてぇ。んでさ、あの記事書いた記者共も居るんでしょ?」

「当然のようにいますよ」

「掌ハイパードリルかあいつら」

 

まあ記者なのだから世間を煽ったりするのも仕事の内なのだから致し方ない……なんていうと思ったら大間違いである。生憎自分はそこまで大人しい優等生ちゃんなどではない、何せ暴君と其方に付けられたりするほどの暴れウマ娘だ。指でスナップをすると南坂が即座に手帳を開いた。これで通じるのか、内心で笑うランページと、実はやってみたかったと少しだけ恥ずかしがる南坂、お似合いの二人である。

 

「出版社と記者は押さえてるよな」

「勿論です、合計で7社ですね。その中でも単純に煽るのではなく、現実的な分析を加えた批評を行ったのが2社ですね」

「んじゃ、その2社の取材受けるわ。それ以外は退場で」

「生放送のテレビクルーは残しても良いですよね?」

「勿論、まあ俺が何言うか分かったもんじゃないけど?」

「またまた」

 

此方は久しぶりに現れたジャパンカップ制覇ウマ娘だ、加えてワールドレコードを達成したんだその位の我儘を言う権利はある。というか純粋に疲れているんだから長時間の取材はシンプルに勘弁してほしい―――まあ本音はそんな取材受けたくないだけなのだが。

 

「この位の我儘、許されるよな?」

「ええ、あれ程の走りを見せたわけですからウイニングライブに出る事も踏まえて取材の時間の短縮などを口実に可能ですよ。当然何故その2社何だとごねるでしょうけど私が何とかして見せますよ、貴方のトレーナーとして」

「流石南ちゃん、分かってるねぇ~」

 

本当に頼りになるトレーナーでつくづく自分は彼のチームに入って良かったと思う。控室を出て報道陣の待つ会場へと向かっていく背中を見送りながらもランページはシガーを銜えながら天井を見つめる。

 

「14戦14勝……ランページ、俺は歴史を作ったよ」

 

亡き魂へとそう語り掛けた。満足してくれているのだろうか、それとももっと頑張れとエールを送ってくれるのだろうか……と言ってもこれで立ち止まるつもりはない、自分はまだクラシックだ、これからシニアへと上がっていく。天皇賞にも出てメジロ家のウマ娘である事を示さなければならない。そう思っていると携帯が煩くなった、取りながらもウマッターになんか上げようかなと画面を見たらアサマからの電話だったので急いで出る。

 

「はいランページです!!」

『ランページ、今大丈夫でしょうか?疲れているとは思ったのですが、電話をせずにはいられませんでして……』

「い、いえ今は休憩中ですので大丈夫です」

 

疲れに任せて取らなくていいや、という気持ちに負けなくて良かった……と心から思う。

 

『よく、よくやりましたね……本当に貴方は……』

「お、お婆様?」

『貴方はメジロの誇りです、ぁぁっ……すいません、年を取ると涙腺が緩くなって仕方ありませんね。兎も角本当によく頑張りました』

「有難う御座います……なんか、照れますね」

 

此処まで屈託のない正面の称賛を受けると素直に照れる。嬉しさもあるがそれ以上に照れる。

 

『療養所で確りと休むのですよ、良いですね?』

「はい、折角なのでオグリさんとまた行ってきますよ」

『ええ、是非そうしなさい』

 

と確りと許可を貰ってから通話を切る、矢張りお婆様と話すと緊張するが、今回のそれは緊張よりも嬉しさが大きかった。何というか……家族として褒められたという感じが凄かった。スマホを仕舞い直すとそこへタイミングよく南坂がやって来た。

 

「ランページさん、インタビューの準備が出来ました。少々いざこざはありましたが問題なく2社と生放送のテレビクルーのみに絞れました」

「おっそれなら行くわ。さてと……ドヤ顔でもかましてくるかな?」

 

 

「それでは登場して頂きましょう、ジャパンカップをワールドレコードで征したメジロランページさんです!!」

「やっほ~い、どうも皆さんこんにちわ。皆の心を独占掌握、ターフの独裁者のメジロランページ、なんつってな。どうもどうも~」

 

気分がいいせいか、ノリノリでポーズを取ってウィンクをするというサービスをするランページに記者たちもインタビュアーもテンションが上がっている。

 

「悪いね~ちょっと小規模にしちまって。こっちも疲れてるもんで、個人的に気に入ってる出版社さんを優先させて貰ったぜな。ああ、インタビューのお姉さん気にすんな、生放送なら大した手間じゃねえから」

 

遠回しに追い出された出版社は気に入っていない事を暴露する彼女に、南坂は苦笑する。元々此処から追い出された者達の共通点を探れば直ぐに分かるのに、当の本人からそれを言われてしまった、これは痛い事になるだろう。

 

「ジャパンカップ優勝おめでとうございます!!今のお気持ちを宜しいですか!?」

「一言で言えば、そうだな……滅茶苦茶疲れたが、兎に角最高の気分だな!!」

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