貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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83話

様々な記事が書かれていく、どれもこれもがランページのジャパンカップの勝利を祝う物ばかり。その中でも最も勢いが大きかったのはジャパンカップ直後のインタビューに参加する事が出来た2社。その2社に言えている事はジャパンカップに出走すると決意したランページに対して批判的な意見が多かった出版社の中でも、彼女自身の実力や出走を決めている海外のウマ娘との比較、そしてエリザベス女王杯からの中1週の連闘によるマイナスなども確りと組み込んだ上での評価と批評を行っていたからだった。

 

『ジャパンカップを征したのはターフの独裁者!!ワールドレコード達成で独裁者は名君へ』

『シンボリルドルフ以来の勝者は無敗のトリプルティアラ!!』

 

単純に自分の味方をした、というだけではなく現実的な視線で批評を行った点をランページは気に入り2社の取材を受け入れている。一方受け入れられなかった出版社は彼女直々に気に入っていないことを暴露されてしまっているので肩身が狭くなっている。何せ、ジャパンカップの事でオグリキャップやヤエノムテキの事ばかりに目を向けていていた上にランページは絶対に勝てないやら調子に乗っているだの失策だの、そんな風に書いてしまった。

 

「まさかこんな事になるなんて……」

 

前評判を完全に覆し、オグリキャップもヤエノムテキも振り切って、ベストルーティンの最後の策でさえも捻じ伏せての堂々の逃げ切り勝ち。これをフロックだのという権利は誰も持っていなかった。加えて―――

 

『ランページさんが経験不足なら、ルドルフさんはどうなるんでしょうね……?』

 

取材拒否を言い渡された時、担当トレーナーである南坂トレーナーから自分たちの記事を引用されてそんな言葉を投げかけられた。かの皇帝、シンボリルドルフがジャパンカップに挑んだ際に積んだ経験は8戦。一方ランページが走ったレースは13、その中で重賞は11、そしてG1は5。その全てを勝利で飾っている、それならルドルフはどうなってしまうのか。そういわれて彼らは血の気が引いてしまった、そう自分たちの記事が皇帝を侮辱している事に気づいてしまった。

 

「なんか、一気に抜かれた気分だわ……」

 

気付いている者はいない、クラシックでの彼女はシニアに比べて経験不足で通す事は出来ているしこのままでいればきっと……そう思えなくなっている自分はもう記者としてやっていけないんだろうなぁ……と思いながらも仕事のためにペンを持つ、誰かに読んでもらう為の記事を。

 

 

「お姉様、大丈夫?」

「よっライス、俺は元気だぞ」

「まあその様子からしたら元気っぽいね」

 

その日、ランページの姿はメジロ家の療養所にあった。ジャパンカップの激闘は想像以上にランページの身体にダメージを与えていた、レース後のインタビュー以外では今のところ取材を受けていない。正確に言えば受けさせていない、その判断を下したのはメジロアサマと南坂トレーナー。取材なんて回復してからでいい、まずは彼女の回復に努めるべきだと療養所に缶詰めにされている。そんな様子を見に来たライスとネイチャを出迎えた当の本人はプールで泳いでいる。

 

「にしても流石メジロ家……トレセン学園よりもずっと凄いじゃん設備」

「お姉様、プール寒くないの?」

「全然。これ温泉プールなんだよ、いやぁ~気持ち良い上に軽い運動にもなるから最高だよな~」

 

ワザとらしく頭にタオルを載せ、身体から力を抜いて水面に浮かび上がって声を出してリラックスする。これが本当にワールドレコードをたたき出したウマ娘の姿なのかと思いたくないが、自分達からしたらこれが平常運行のランページだなと安心感を覚える。

 

「んで、どうだよトレセン学園の様子は?」

「そりゃ大騒ぎに決まってますよ、なんせワールドレコードなんてやってのけちゃったんだからさ。騒がない訳がないよ」

 

連日、トレセン学園への連絡は行われっぱなし、ではなかった。南坂が暫くの間はランページは療養に専念させるから取材は受けないとインタビューの段階でハッキリと言っているので報道陣の方は比較的に静か、それでも来てしまうものは来てしまっているが……騒いでいるのはウマ娘たちの方。

 

「もうカノープスに若い子がいっぱい来ちゃってさ、なんかもう信じられないって感じ。去年まではザ・中堅どころってチームだったのに」

「う、うん。ライスもレース場に行ったときに、間違えてリギルさんの所に来ちゃったのかな?って思った」

「あっちゃ~……なんか悪いな迷惑かけちまって」

 

レースレコードやコースレコードどころか、ワールドレコードを叩き出すなんて事はスピカやリギルですらない。日本という国を飛び越えて世界中のウマ娘が本気で競い合った記録との戦いになる。そこまで視野を広げて戦うなんて事は普通しない、そんなレコードが出るのは正真正銘の実力故に。それを出したランページが所属するカノープス、元々無敗の三冠ウマ娘が所属していたのに、更に入部希望が増えてしまったとの事。

 

「まあそっちはいいよ、元から騒いでたし。んでそっちは如何なの、TVのニュースとかじゃ年末にでてくるのか、それで三冠同士が戦うんじゃないか!!って大騒ぎしてたよ」

「さて、どうなるもんかね」

 

ネイチャの言葉にランページは少々言葉を濁す、ここにいる間に南坂がやって今年のスケジュールについて尋ねてきた。ジャパンカップの後のスケジュールは越えてからでないと断言は出来ないと敢えて空白を残していた。

 

「どうしたいですかランページさん」

「どうしてぇって言われてもねぇ……俺としては走ってみてぇ気はするよ、何せオグリさんと走る事ができる最後の舞台だからな、それにライアンとも走れるしある意味最高の舞台、それに興味がないなんて言ったらうそになる。ウソになっちまうんだが……そういう顔を見せられたらね」

 

南坂は渋い顔を作っていた。それは自分の意見に否定的、いや反対を意味するものだった。トレーナーとしての判断は有記念は出走しない。

 

「俺の脚、怪我でもあるのか?」

「主治医さんには入念な検査をお願いしましたが、貴方の脚に怪我はなくその兆候もありませんでした」

「んじゃなんでまた?」

「―――消耗の度合いが激しすぎているからです」

 

ワールドレコードをたたき出したランページの走りは素晴らしかった。モンスニーの走法、マルゼンスキーからの心、そしてカツラギエースの技術、日本でもトップクラスのウマ娘の力が収束されたといってもいい、その集大成がジャパンカップ。それを見て自分も感動した、感動したが……その代償としてランページの身体は本人が思っている以上に疲弊している。

 

「来月の開催までに万全なレベルにまで回復する見込みは低いですね……出られる程度には回復はするでしょうが、それで走ったとしてもオグリキャップさんやライアンさんには絶対に勝てません」

「そこまで断言しちまうのか」

「いえ、最悪の場合は……怪我にも繋がりかねない」

 

去年のジャパンカップ、そこで激走したオグリは繋靭帯炎を発症させてしまった。そのニュースを聞いて、南坂もショックを隠し切れなかったしウマ娘が全身全霊を尽くして走ればそのような事も起こりうる。それを許す訳には行かないと掲げたのが無事之是名バ。故に、今年のレースはジャパンカップで終わりにする。そう南坂は決定づけた。

 

「どうしてもかい?」

「私は貴方のトレーナーです、私には貴方を守る義務があります。貴方にはもう、沢山の夢を見せていただきました。だからまた、来年も、そのまた次も……私は貴方と、あなたを含めたカノープスで夢が見たいんです」

 

必死な顔をする彼の顔は、初めて見るようなものだった。何か、大事なものを失いたくないと言いたげな男の表情を見たランページはそれを歪める選択なんて出来なかった。

 

「そういう風に言われちまったら、俺が強行する訳にもいかないよな……わかったよ南ちゃん、俺のクラシックはジャパンカップで終いだ」

 

身体をプールへと浮かべながら空を仰ぐ、今年はもう走り尽くした……今は、休むとしよう。

 

 

「まあそれもありだと思うよ、下手に無理して怪我して終わりました、なんて事になったらシャレにならないし」

「そうなったらライスも嫌、だからいいと思う」

「ああ、俺も南ちゃんの判断が正しいと思う」

 

最終的な判断は自分の意見も入れた物、そしてそれに納得している。それでこの療養所でゆっくりしている。

 

「オグリさんが言ってたんだよな、此処は前にベルノさんと来たハワイと一緒だって」

「えっ先輩ってベルノライト先輩とハワイ行った事あるの?」

「いや、なんか日本のハワイなんだと」

「日本なのに、ハワイなの?」

「なんか、俺もよく分からないんだよな。オグリさんもよく分からないって言ってたし」

 

実際はハワイ風のアミューズメント施設で療養兼トレーニングをしたと六平トレーナーから聞いた。なので自分は自分で此処のプールを使ってそれをやっているという事、軽く泳いだりする分には良いと許可ももらっている。

 

「どうせだ、ネイチャとライスも入らねぇか?」

「えっでも水着とか持ってきてないし……」

「私たちメジロのウマ娘じゃないし……」

「気にすんなって、オグリさんだってここでのんびりしたんだから」

 

結局、ネイチャとライスはお言葉に甘えてメジロの療養所を堪能しつくしたのであった。

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