貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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84話

療養所に併設されているコース、療養所と言っても常に休み続ける訳ではない。適度な運動も休む事には重要な物となるのでその為の施設も確りと完備されている。そのコースで軽いジョギングを行ったランページはシューズで地面を蹴りながらジャパンカップを最後にする、そう判断したトレーナーのそれが正しかった事を知る。

 

「んっ~……こりゃ南ちゃんの読み通りだな」

 

軽く走って分かった、まだ自分の脚は回復しきっていない。数日はたっぷりと休んだ上でマッサージやらを受けた筈なのに脚のコンディションが優れない。此処に居てこのペースでの回復だとすると……有記念には絶対に間に合わないだろう、自分だって今走って分かった事なのに……自分の事を100%理解している最高のトレーナーだ。

 

「お嬢様、どうぞこちらを」

「ああ。ありがと爺やさん」

 

タオルとドリンクを差し出してくれるメジロ家の爺や、邸宅での仕事もある筈だがアサマに自分の世話を焼くようにという指示を受けているらしい。筆頭執事である筈の爺やを当てている辺り、自分が勝手に走ったりしないように見張る意味もありそうだ。自分はそこまでの問題児に見えるのだろうか……少しだけ心外である。

 

「もう12月か……確実に有には間に合わねえな、まあ走る気はねぇんだけど」

「お嬢様は既に世界一の称号を取りました、これ以上走る事はないかと思います」

「分かってるって、でもさオグリさんとライアンと一緒に走れる舞台だったんだぜ?惜しむぐらいは許してくれよ」

 

既に南坂が自分は今年はもう走らない事を発表しているので、今足搔いたとしても出る事は叶わない。その発表の場面でも相当に荒れていた。

 

『ワールドレコードを出したメジロランページさんの走りを是非見たいと思う方は多いと思うのですが!!』

『それは私も同意見です、ですが現在のコンディションで無理に出走をしてもいい結果にはならないという確信があります。寧ろ、怪我に繋がりかねません』

『普段からかなりきつめのトレーニングメニューを課している貴方がそれを言う資格があるのですか?』

 

中には批判的な意見を口にする記者もいた、なぜ出さないのか、クラシック三冠であるメジロライアンと戦わないのか、独裁者は永世三強から逃げるのか、共にジャパンカップを走った戦友と戦わずにこのまま勝ち逃げするのか、目に余るような発言も飛び出していたが、それにも南坂は断固とした対応を貫き通した。

 

『あります、私は彼女のトレーナーです。トレーニングに関しては彼女の身体の事を把握した上で行っています、そして把握しているからこそ走らせません。私には彼女を守る義務があります。どんな言葉を掛けられようが、彼女は出走しません。来年からの活躍を楽しみにしていてください』

 

普段の優男な雰囲気とは真逆と言ってもいい程に一本筋を感じさせる姿に鳥肌が立ってしまった。

 

「流石俺が惚れたトレーナーだと思わないかい?」

「ええ、私もあの会見は大奥様と拝見いたしました。大奥様も南坂様がお嬢様のトレーナーで良かったと仰っておりました」

「だろ?俺ってば意外に見る目あるのかもな」

 

調子に乗ったような発言にも爺やはニコニコとしながらも左様でございますね、と合わせてくれる。そんな事をやっていると自分の携帯が鳴った、爺やに取って貰うと画面にはパーマーが表示されていた。

 

「あい此方療養所でのんびりしてます独裁者のランページで~す」

『ハハハハハッそういう言い方してると本当に独裁者っぽい!!』

 

電話の向こうのパーマーは酷く元気そうだった。そういえば今日はパーマーのレースがあった筈……

 

『ステイヤーズS(ステークス)……勝ったよアタシ~!!』

「おおっマジか!?」

『マジマジ!!しかも、6バ身差で勝ちました!!』

「おまっ……俺よりすげぇ事やってね?」

 

ステイヤーズSは長距離のG2レース、数少ない長距離レースの一つだが……その距離はなんと3600m。メジロ家が悲願としている天皇賞(春)よりも400mも長い距離を走る、国内では最もゴールに時間がかかるレースの一つとされている。パーマーの脚質は自分と同じ逃げ、しかも大逃げ。それなのに3600を走り切った上でそれほどの着差を付けて勝ったならばそれは自分よりも凄いと思える。

 

『よしてよ~天下のジャパンカップ、ワールドレコード保持者に比べたらアタシなんて下の下だよ』

「こちとらまだ2400までしか走ってねぇんだ、3600なんて俺からしたら走れる気がしねぇから走れるパーマーは俺から見たらバケモンだ」

『いや、それ完全にこっちの台詞だし』

「ですよね」

 

パーマーからしたら2400のワールドレコードを達成したランページは怪物に見えるし、ランページからすれば3600という余りにも果てしなく長い未知の距離を逃げ切ってしまうパーマーは化物に見える。これに関してはお互い様という事になる。

 

「だけどやったな、これで天皇賞にも弾みが付くって訳だ」

『うん!!この距離を走り切れたから自信が付いたよ!!春の天皇賞でも爆逃げやったるから!!』

「その意気だ。あ~あ、それ聞いたらなんか走りたくなってきちまったよ……今からでも有にエントリーすっかな……」

『えっ!?』

「ランページお嬢様!!」

「……冗談だっつの」

 

パーマーの話はウマ娘としては確かに惹かれるものがある、同じ大逃げを戦法とする身としては負けてられないというライバル心のような物が燃え上がって来てしまっている。だが、此処で出てしまったら南坂の信頼を裏切る事になってしまう。それだけは絶対にしたくはない。

 

『あ~もう吃驚したぁ……アタシの所にもお婆様から話来てるから焦っちゃいましたよ、報告したくてしちゃったけど、やめた方が良かった!?ってマジに考えちゃいました』

「そりゃ悪かったな。でも分かるだろ、分かっちゃいるけどなんか血が騒いじまうんだよ。つう訳で別の何かで発散させるか……んじゃまあパーマー、優勝おめでとさん、今度ヘリちゃん誘って打ち上げにでもやろうぜ」

『あっそれいいね!!絶対やろ!!』

「んじゃまそゆ事で」

 

という訳で通話を切ってドリンクを喉奥へと流し込む。パーマーも頑張っている、自分も負けてはいられない。その為にも―――確りと休む事にしよう、自制して疲れを取る事も闘いの一つだ。

 

「爺やさん、俺部屋に戻るわ。適当にゲームでもしてるよ、大丈夫だよ走ったりしないから」

「畏まりました、ではご入浴とマッサージの準備を至急させます」




尚、ポケモンでイダイナキバとトドロクツキの色証厳選をやっていた。
色違いのカリスマ証イダイナキバと、たそがれ証トドロクツキを発見し、ウマッターで報告しようとしたが、やっていいのかを南坂に聞いてみたら苦笑いされた。
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