貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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87話

その日、ランページの姿は療養所にあった。不満げな表情を浮かべながらも脚部の集中マッサージを受けている、後僅かで完全回復すると言われているのだが……この日ばかりの調整はアサマから厳命、ランページは渋々とそれを受けていた。

 

「どうかご理解くださいお嬢様」

「分かってるよ……あ~もう、ぶつくさ言ってもしょうがないのも分かってるけどさぁ……中山に行きたかったぁぁぁ!!」

 

そんな叫びにスタッフ一同は同意見。自分達だって中山に行きたかった、何故ならば……今日は今年最後のレース、有記念があるのだから。結局ランページは出走せず、その事に未だに何かを言う者も居るがそれらは完全に無視する事を決めた。ワールドレコード出したんだからこれ以上何やれというのか、まあ本人的には出たい気持ちが無かったわけではないが……そうではなくも直接観戦しに中山レース場に是非とも行きたかった。

 

「なんでオグリさんのトゥインクルシリーズ最終レースを見に行けねぇんだよぉ……ライアンだって出るから応援しに行きたかったのにぃ……」

「ご容赦下さいお嬢様」

「うぅぅっ……」

 

目の前に置いて貰った大型TVを睨みつけながら恨み節が止まらない。本当ならば現地に行くつもりだったのに……如何してお婆様は許してくれなかったのか……。

 

「それは貴方を守る為ですよ」

「そんなに俺って信用無いんですかぁ~ん……」

「そうとは言っていません。ですが万全を期す為です」

「何の万全……ってぇお婆様いつの間にぃ!!?」

 

何の前触れもなしに、突然現れたお婆様、メジロアサマに仰天。どうしてこんな所にいるのかと言いたいが、言葉が上手く出ない。

 

「貴方を見張りに来た、とでも言えば満足ですか?」

「お、お婆様直々にって……何だよ俺ってそんな信用無いのぉ……流石に凹むぜぇ……」

「違いますよ―――言ったでしょう、守る為だと」

「だから誰から」

「貴方なら、分かっているのでしょう」

「他のメジロ家、ですね」

 

やっぱり解っているんじゃないか、と思いながらもTVの中ではいよいよ有がスタートした。全員が良いスタートを切って、ゆっくりと纏まって進んでいく。先頭は僅かにヤエノムテキ、その少し後ろにオグリとライアンが並んでいる。

 

「ライアンの友人でしかない俺をメジロ家に入れる、その段階で相当やり合ったんじゃないですか」

「有象無象の言葉など塵芥にも及びません」

「やり合ってるんじゃないですか」

 

何も分からなかった訳じゃない、メジロに入る前のランページなんて寒門のウマ娘も良い所だ。それを簡単に名家に入れてしまうのは問題にならないのか、そう思う事はあった。自分を守ってくれているのならば、結果を出せなければ守ってくれている人の急所になる事になる、だからこそ走った。

 

「トリプルティアラにジャパンカップのワールドレコード、それで貴方を認めた者が大半です。それでもまだ認めぬ者も居る」

「元々のメジロ家系の人達からすれば俺は血脈も何もない唯の赤の他人ですからね。ある意味当然です」

 

一周目のスタンド前、それを通った時に大歓声が上がった。普通のレースならゴールした時のような歓声。

 

「中山に行けば必ず貴方に接触を図り、貴方を挑発するでしょう」

「如何言う風に、でしょうか?」

「―――凱旋門賞、そこに行けと」

「―――凱旋門って……成程、所詮俺は井の中の蛙大海を知らずって寸法か」

 

全てを察する。そして同時に怒りも感じて来た、言外にお前のジャパンカップの勝利なんて意味がない、自分のホームだから勝てたに過ぎないんだと言っているのだと理解した。なんて浅ましくて愚かで馬鹿な下品で最低な発想だ。

 

「それ、シンボリにも喧嘩売ってないですか?」

「売ってますね、既に現当主にもチクりました」

「お婆様……最高の発想です」

「でしょ」

 

悪い顔を作り、アサマも少しだけ笑いながらピースサインを作った。何だかんだでお茶目で可愛らしい人なのだと再認識させられる。

 

「でも凱旋門……考えた事も無かった」

「そうなのですか、トレセン学園には貴方宛ての挑戦状も来ていると聞きましたよ」

「えっ何それ俺知らない……」

「あの子もまだまだですね」

 

アサマはルドルフなりに考えがあっての事なのだろうが……ランページに対してはそれは完全な遠回りでしかない。徐々に興味を持たせて自分で決めて貰おうとしたのだろうが、彼女には最初から挑戦状を見せた方が圧倒的に速い。

 

「因みに誰が送って来たんですか?」

「貴方がジャパンカップで対戦したウマ娘全員です」

「あらやだ、俺ってば人気者」

 

中山の最後の直線、心臓破りの坂へと掛かった。その先頭を行くのはオグリ、それを追走するのはライアン。このレースを最後にトゥインクルシリーズからドリームトロフィーへと行ってしまう憧れの人、その人と本当の意味で戦う事が出来る最後の機会、三冠ウマ娘としての意地なんてない。ライアンの中にあるのは―――メジロライアンとして、憧れの先輩と戦うという気持ちだけ。

 

『さあオグリが、オグリキャップが来た!!オグリだオグリ先頭!!オグリが先頭だ!!外からライアンも迫ってくる!!オグリが先頭このまま行けるのか!?今年、最後のオグリが、オグリが、オグリ頑張れ!!頑張れオグリ!!ライアンを押し退けて、オグリが、オグリ1着!オグリ1着!!オグリ1着!!!オグリ1着!!!!トゥインクルシリーズの引退の花道を、勝利で飾ったスーパーウマ娘オグリキャップぅぅ!!!!三冠ウマ娘、メジロライアンを振り切っての見事な走りでしたぁぁぁぁ!!!』

 

今年最後の大勝負、トゥインクルシリーズという戦国時代の最後の戦を制したのはオグリキャップ。誰もが認めるスーパースター、彼女よりも強いウマ娘はこれから出るだろうが彼女よりも愛されるウマ娘は出るとは思えない、そんな言葉も納得できてしまう魅力が彼女にはあった。そんなレースを見たランページは全身に電流が走ったような気分だった。

 

「流石オグリさんだ……すげぇ走りだ」

「ライアンも良い物でしたが……矢張り彼女は凄い」

 

アサマもそれは認める、あの走りを認めない者などはいない。それ程迄の走りだった。目に焼き付けたランページは思った、これこそが挑戦だ。オグリは引退するのではない、新しい舞台へ戦いに行くのだ。ライアンもそうだ、彼女も戦いに行った……ならば自分もやろう。

 

「お婆様、そいつらの事ですけど」

「気にしなくていいですよ、時間は掛かりますが封じる事は出来ます」

「そっちは任せます、俺は俺で……ちょっと燃えて来ました」

 

自分の事が気に入らない、結構な事じゃないか。俺は俺の道を行く、但しそれはメジロの道にもなる、その事を全く理解していない。どんな事を喚こうとそれは紛れもない事実として世界に記憶される。アサマは少しだけ笑った、境遇の事もあったせいか過保護になり過ぎてしまったと。

 

「私は好きにします、貴方も好きになさいランページ。栄えるも滅びるも己で決めなさい」

「そりゃ……最高ですね」

 

矢張りこの人は最高だ。

 

「まあ貴方がなんと言おうと、それら……いえ、俗物は処分すると決めていましたがね」

「お婆様こぇぇ……」

「私なんかよりも、ルドルフのお婆様、スピードシンボリの方がもっと怖いですよ。今回の事を伝えたら彼方にも伝わりましたから……その時笑ってました」

「えっ」




「それはそうとランページ、貴方ウマッターで何やらゲームの報告をしてましたね?」
「メジロのウマ娘としてそういうのはやめた方がいいですかね……(やべえ怒られる……というか、ウマッター監視されてるの……?)」
「……スカーレットのパラドックスポケモン、交換して貰えます?」
「えっお婆様もポケモンやってるの!?」
「赤緑時代からずっと」
「意外!!?」

その後、ウマッターにアサマと一緒に撮ったツーショット写真を上げたら大騒ぎになった。
主にメジロ家が。
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