「ランページだ、宜しく頼む」
無事にトレセンへの編入を果たしたランページ、メジロラモーヌが同室というとんでもないハプニングに見舞われつつも今日からトレセン学園中等部の一員として頑張る事になったのであった。中等部3年からの編入という事で間もなく高等部に入るという時期なので色々と大変な事になるだろうが、これでも人時代は大学も出ているから何とかなるだろう……と思いながらも望む事になった。
「同じクラスで良かったぁ~」
「それはこっちの台詞なんだけどな」
休み時間、此方へと駆け寄ってきたライアンの表情を見て僅かに気持ちが緩んでしまった。
「美浦寮なんだよね、同室は誰だった?アタシはまだいないんだよね。なんか高等部から入る子の為にも開けておくんだって」
「は~……そういうのもあんだな、こっちはこっちでとんでもねぇ相手で腰抜かしそうになったわ」
「えっ誰だったの?」
「寮長の同期」
「ダイナガリバーさんだよね、ニッポーテイオーさんとか?」
「いや、メジロ家の至宝」
「え"っ」
そんな言い方をされて思わず顔が硬直するライアン、当然彼女だってそう言われたら誰なのかという見当は付くだろう。恐る恐る耳打ちでラモーヌさん……?という問いが返されて頷いておく。
「うっそぉ……」
「俺の方が言いてぇよ……これだったらライアンの同室にしてくれって思うわ」
「で、でもこれは色々と話聞けるチャンスじゃない!?だって凄い相手が同室なんだからさ!!」
「……まあ考えようによってはそうか」
余りにも身分が違い過ぎると思っていたが、逆に言えば自分では想像もつかない程の大舞台で戦ってきた歴戦の勇士と直ぐに話せる距離にいるという事になる。そしてその話は絶対に自分の糧になる筈……そう思うとラモーヌとの同室は代えがたい財産になるのだろう。
「んじゃ昼飯にでも行って来るかぁ……カフェテリアだったか、ライアンも行くだろ?」
「あっゴメン、先行っててもらっていい?ちょっと先生に呼ばれてるんだ」
「あいよ。んじゃ先行ってくらぁ」
ライアンと別れながらも教室を出て廊下を歩く、身に纏うトレセン学園の制服はスカートなので自分はそれに慣れるのかとも思っていたがタイツさえ穿けば気にならなくなったので問題ない。スカートが捲れるなどの意識が皆無なのでタイツはそういう意味での防止にもなる。
「見てみて、凄い大きい」
「―――何処が?」
「胸でしょ」
「お尻でしょ」
「いや身長でしょ……」
やはり此処まで身長があるウマ娘は物珍しいのか視線を集めてしまっている、現状ではヒシアケボノはこのトレセン学園にいないので自動的に自分が最も背の高いウマ娘という事になるらしい。確かにそれならば目立つのも致し方ない……自分の次点になると言えばそれこそあのウマ娘位だろう。そんな事を思いながらも到着したカフェテリアは酷く賑わっていた。
ウマ娘は本当によく食べる、あれだけの運動量を行うのだからそれを支えるだけの食事量が必要になって来るのは当然。故に大盛りで食べる事はウマ娘にとっては珍しい事ではない。ないのだが……
「……こ、これだけで良いのかい?」
「ええ、あんま腹減ってないんで」
「本当にいいのかい?お代わりは自由だからね!?せめてお代わりはするんだよ!?」
「なんか変な事したか俺……?」
そう言いながら注文したおかずと茶碗に盛られた白米を受け取るとそのまま席に着くのだが……周囲からざわざわとざわめきが起きた。
「えっ……ダイエット中なの、あの子」
「あの身体であれ持つ訳無い筈なのに……?」
「どんだけ燃費いいの……?」
「……なんかやったか俺?」
「やっとるわドアホ」
周囲のざわめきに困惑していると、目の前に呆れ果てたような表情を作っているタマモクロスが人気メニューのニンジンハンバーグ定食を持ったまま同じテーブルの席に着いた。
「タマモ先輩でしたか、何か?」
「あんなぁ……」
「お待たせしました~」
「済まない、待たせたなタマ」
呆れ果てているタマモクロスを追いかけるように同じようにテーブルに着いた二人のウマ娘。顔を上げてみると……そこに居たのは平成において爆発的な競馬ブームを引き起こし、ギャンブルという認識からスポーツという物へと変えた名馬たちがそこに居た。平成の三強の内の二強、
「ムッ?済まない、気付かなかった。一緒に構わないか?」
「ああ、お好きにどうぞ。同席を断る程狭量なつもりはないんで」
「それでは失礼しますね~」
ラモーヌとは別の意味でおっとりとした美人と言った感じのスーパークリークと何処かほんわかとしていて出会って数秒なのに天然臭を感じ取れるオグリキャップにランページは苦笑いを浮かべた。これが、競馬ブームの火付け役となったあの名馬たちなのだから世の中とは分からないものだ。そんな名馬たちは自分の食事の量を見て思わず目を白黒させた、特にスーパークリークは心配そうな表情を作った。
「そんな量で……足りるのか?私のハンバーグを分けるか?」
「何処か御身体の具合でも悪いのかしら、何処か苦しかったら遠慮なく言ってくださいね?」
此方を心配するオグリとクリークにランページは何が何だか……と言わんばかりに困惑しているとタマモクロスが溜息混じり自分の箸で自分の食事と自分達の食事を見比べるように示す。オグリは大盛りを越えたてんこ盛りでクリークも次点でこのトレセン学園で身長が高いのもあって、それに相応しい量を持って来ている。タマモクロスは小柄なのもあるが、それでもそれなりの量があるのだが……ランページのそれは、タマモクロスよりもずっと少ないのである。
「味噌汁に目玉焼きにポテトサラダと米のみ、しかもどれも普通盛り!!如何見ても可笑しいやろがい!!」
「いや、十分多い……ってああ~……そうか、そういう事か……しまった、やっちゃった……」
そこまで言われて漸く解せたのか頭を抱えてしまった。これまではメジロ家にシェフと栄養士がメニューを組んで、その通りに出て来た物を食べて来たのだが……寮生活に当たって今までの自分の感覚で取ってしまったのである。だがそれでも十分豪華で多いと認識してしまっていた自分に思わず溜息が出た。
「あ~……その、俺はあんまり家が裕福じゃなかったんで、これでもご馳走というか十分な量だと思ってしまったんですよ。メジロ家で色々あって治ったと思ったけど全然だなこりゃ……」
「なんや訳ありかいな」
「訳ありというかなんというか……」
如何説明すべきか……流石に家の事情を簡単に話す訳には行かない、と思っていたのだがタマモクロスが自分の手を力強く取って握り込んできた。
「ええんや、気にせんとええんや。色々と苦労してたのは分かった……だけどここは天下のトレセン学園、好きなだけ食いや!!オグリ、ランページにお前のおすすめ持ってきいや!!クリーク、お前もや!!」
「分かった、よく分からないが持ってくる」
「分かりました、とても大変だったんですね……はい、私に任せてください♪」
「え、えっと……」
「何も心配せんでええ!!ウチらはお前の味方や!!」
サムズアップしながら何やら熱くなるタマモクロス、彼女も彼女で家が裕福でなかったが故に苦労を重ねて来たからか、何となくランページの事情を察する事が出来た。そしてこのままではいけないと世話を焼きたくなったのである、オグリは純粋にお勧めを食べて欲しいから、そしてクリークは……何やら自分の中の何かがランページを絶対に放置してはいけないという炎を燃やし始め、それによる使命感に駆られ始めていた。
「さ、流石にこんなには……」
「遠慮する事無いわ、どんどん食うんやで!!喰わなきゃ強くもなれへんからな!!うちも頑張って食うからお前も頑張りや!!」
「無理なら私が食べるから安心してくれ」
「さあ、このニンジンポタージュはとっても栄養たっぷりなんですよ。はいあ~ん」
「……な、なんか凄い事になって来た……」
クリーク「私が守らなきゃ……甘やかせなきゃ……!!」
ランページ「なんか、寒気が……」
クリークにロックオンされたようです。