「先輩、お隣宜しいでしょうか?」
「んっ勿論いいぜ、悪い今新聞退けるわ」
「お邪魔します」
昼食のカフェテリア、端のテーブル席に新聞を広げながら手帳を手にし、指の上でペンを高速で回しているランページ。そこへ妹を引き連れたハヤヒデが同席を願った。
「えっと、何をしてたんですか……?」
「まあ日課に合わせたネタ集め、かな」
「ネタ、ですか。もしや配信の」
「大体合ってる」
日ごろからよく新聞を見るようにしているランページ。世間の事やら流行りのなにがしを知るには丁度いい時間なので、此処で配信のネタを作ったら便利なのでは?と思い立って手帳を購買で買って来て今に至る。新聞を広げる関係で邪魔にならないように端っこの席にいた。
「ではお邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、もう打ち切ろうと思ってた所だから気にするな」
「でも凄い……私なんて、色んな人の前でしゃべるなんて考えただけで……」
「人には向き不向きってのがある、誰かがやってるからって自分もやらなきゃいけない訳じゃない。だからそんな風に落ち込む必要なんてないぜ」
「はい……!!」
憧れの先輩からの言葉もあるのか、ブライアンは少しずつだが明るくなり始めているとハヤヒデは思っている。
「それで、何か見つかりましたか?」
「いやメモる程の物はないな、というか俺だって配信の時に特段何かを考えて喋ってるって訳でもないからなぁ……」
「そ、そうなんですか?あれだけ流暢に言葉を続けているので台本があるのかと……」
「そりゃゲストが居る時は軽い打ち合わせとか内容については話すが、大体は全部アドリブだ」
基本、自分のトークは勢いとノリで構成されたアドリブ。これまで感じた事に対する感想や感情などをその都度感じ直して発する、逆に台本があるとその通りに喋ってしまうのでその時に感じた事を喋れなくなる。
「ああそうだ、ハヤヒデにブライアン、その内に二人にも出演依頼を出すかもしれないぜ?」
「ええっ!?」
「わ、私やブライアンにですか?」
「ああ。きっと二人は次世代のスターになる」
元々知っている知識を喋っているだけのある種の予言に……という訳ではない。トレセン学園で二人の走りなどを見るとそう思わざるを得ない程の素質を感じる事が出来る、三冠を取れる程のポテンシャルを秘めたビワハヤヒデと実際に三冠を取ったナリタブライアン。あの時、誰もが思い描いた二人が対決する夢のレース……それを自分だって見たくて仕方がなくてしょうがない。
「今から楽しみでしょうがねえよ、二人が走るレースがさ」
「先輩にそう言われると……」
「なんか、ムズムズしちゃう……」
照れくさそうにする二人、だが今言った言葉に偽りはない。本気でこの二人の競り合いが見たい……そんなマグマの様な熱意が滾っている、それに自分も随分と立派なウマ娘になったということなのだろうな……そう思っていると誰かが近づいて来た。
「此方にいらっしゃったんですね」
「誰かと思ったら麗しのたづなさんじゃないの、また理事長が突拍子の無い事でも言いだしたかい?」
それにクスクスと口元を隠して上品に笑う姿を見て、一応メジロ家の令嬢扱いの自分とは凄い違いを感じる。一応令嬢に区分される身だよな……と少しだけ自分に冷める。
「どったの、また理事長が突拍子ない事でも言ったの?回転寿司を導入!!とか」
「大丈夫ですよ、最近はハテナちゃんが変な事を言うと頭を叩くようになりましたから」
「ほほう、ハテナもやるようになったもんだ」
「それと回転寿司云々は前に私が止めました」
「言ったんかい理事長」
ウマ娘の食欲を考えると回転寿司なんてキツいに決まっているだろうに……多分、オグリが喰い尽くす事になる。それは置いておくとして、本題に入った。
「ランページさんがURA賞に選出されましたのでそのご報告をと思いまして」
それを聞いてハヤヒデとブライアンはおおっ!!と大きな反応をするのだが、当の本人はそこまでの物ではなくはいそうですか、で終わらせる。
「どうせ選出されるって南ちゃんも言ってたしなぁ……客観的に観ても明白だからな、ンでその授賞式に出ろってこと?」
「はい。是非というお話が来ていますが……如何なさいました?」
「ま~たURAのデザイナーチームの趣味が入った勝負服が送られると思うと溜息しか出ねぇんだわ」
送られた勝負服はメジロ家のお抱えのデザイナーの手によって改修が成されている、露出控えめでお淑やかで大人の色気を感じさせる系なドレスへと生まれ変わって、其方ならまだ着る気は起きる。なので其方はメジロ家のパーティなどで使っている。
「俺今の勝負服気に入ってるから新しいのとか要らねぇんだけど」
「まあそう言わずに、今度の勝負服は複数のデザイナーが意見を出し合って絶対にご満足いけるという確信があると仰っていましたよ」
「えっ~……」
「ランページさん」
「……ハヤヒデ、ブライアン、行った方がいいと思う?」
「わ、私達に振るんですか!?」
まさかのキラーパスに言葉を失いかける、ブライアンなどはなんて言ったらいいのか分からずに狼狽えてしまっている。此処は姉である自分が確りとした所を見せなければ……。
「お気持ちは分かりますが、授賞式に出る先輩の姿を楽しみにしているウマ娘もいます。実際に私やブライアンも先輩の授賞式を見て何れ私達もあそこに……という思いを募らせていました。ですので授与される勝負服云々ではなく、次の夢を作る為に行くというのは如何でしょうか」
理論派の彼女らしい説得は思いの他、ランページに入っていった。勝負服は如何でもいい、だが……次の夢、その時に脳裏を過ったのはエアグルーヴだった。彼女も自分の授与式を楽しみにしているのだろうか……そう思うと行かない訳にはいかない。
「分かったよ、夢の大切さは分かってるつもりだ。んじゃまあ行くかぁ……」
「有難う御座います、勝負服については今度こそ着て貰うって自信満々でしたから期待していいと思います」
「だと良いけどなぁ……今の勝負服以上にいい物じゃないと俺着ないぞ、高確率で箪笥の肥やしになる」
「まあまあそう言わずに」