「ドッカン~……ターボォ!!!」
前走の不甲斐なさを取り返すかの如く、レース終盤、突如として凄まじい加速を行ったターボ。それまでに先頭に立ち続けていたのにも拘らずにこれが本当のトップスピードだと言わんばかりの急加速、その兆候自体はそのレースで何度もあった。走りに安定性が無く、序盤中盤にも不規則な加速を行っていた。次で最後の直線でもそれが起きた、正しくドッカンターボ。
『ターボエンジンは今日も快調!!ツインターボ、ホープフルステークスでの無念を見事このきさらぎ賞で果たしました!!なんと後続とは8バ身差!!』
「よっしゃあ~見たかテイオー!!終生のライバル、真性ターボの出荷日だ!!」
「出荷してどうするんだあのバカ……」
「他にも間違ってるような気もしますが、ターボさんらしいじゃないですか」
「あれをらしさとして認めていいもんかねぇ……」
トレーナー代理として、ターボのきさらぎ賞の付き添いに来ていたランページとイクノ。見事な勝利と褒めてあげたいのだが……その後のコメントが何とも言えない位にお粗末な物だったから反応に困る……。
「それでは同じチームカノープスのメジロランページさんにお話をお伺いしたいと思います、本日はランページさんとイクノディクタスさんが来ておりますが南坂トレーナーは?」
「南ちゃんは東京でネイチャのレースを見てるんですよ、だから今日は俺とイクノが代理という訳です」
「はい、ご質問がありましたら私達がお答えします」
そう、きさらぎ賞と共同通信杯は同日、流石の南坂も東京と京都を同時なんて事は出来ないので代理を立てる事にした。と言ってもこの時期は他のトレーナー達も忙しい時期なので、同じチームの先輩二人、そして信頼出来る人に代理をお願いしたのである。
「しかしまさか理事長秘書である駿川さんがトレーナー代理を行っているとは……」
「ちょうど私も予定が開いていましたから、それに私が居なくてもあの二人ならば問題はなかったと思います」
そんなたづなの視線の先にはターボを肩に乗せるランページ、嬉しそうな笑顔でピースを送るターボ、そんな彼女を微笑まし気に見つめるイクノ。三人家族の様な構図が出来上がっていたのであった。そして―――
「おっ南ちゃんからだ、あいよっこっちはターボが問題なく勝ったぜ。南ちゃんのドッカンターボ戦法もちゃんと機能してた」
『それは何よりです、此方もネイチャさんは5バ身差で勝ちましたよ』
「そりゃ良かった、んじゃまあ……次は俺の番だな」
順調に勝って行くチームメイト、そんな彼女たちに負けてはいられないと―――ランページは気を引き締めた。何故ならば、きさらぎ賞の1週間後には自分のフェブラリーステークスがあるからだ。
2月というのは春が目前という暦にある、だが実際はそこまで気候が安定しない。突然寒さが増したり、暖かくなったりするので体調を崩すものも多かったりする。この日は冬のそれに正しい程の寒気に包まれて、周囲のウマ娘達が時折吹く寒風に身を震わせながらも入念にウォーミングアップをしている。
『東京レース、これより行われるのはG1ダートレース、フェブラリーステークス!!今日はかなりの寒さですが、このレース場にはそれにも負けないほどの熱気が集っております。そして、なんと本日の東京レース場には凄い観客が集まっております!!なんと本日の来場者数は14万人を超えております!!日本ダービーにも負けない程の大観衆がこのレースを見る為に脚を運んでいます!!』
「へ、へ、へっ……へっくしゅぅん!!!」
大きなくしゃみが木霊した、それも当然。フェブラリーSはメインレースとされ、午後からのスタートなのに気温は全く上がらずに現在の気温は1度。そんな中で露出も多めな勝負服を纏っているウマ娘達は寒さを感じて当然の事、その中でも一際寒そうにしていたが東海ステークスにも出場していたアメイジングダイナだった。
「ウォームアップは確りしたのに……」
入念なウォーミングアップをしたが、それでも寒さを感じる程に今日は寒い。特に彼女の勝負服は動きやすさを重視したスポーツウェアに近い物、ドレス系のウマ娘に比べてダイレクトに寒さを感じてしまう。そんな時、自分に何かが差し出された。
「俺ので悪いけど着るか?」
「あっこれは御親切に……ってぇランさんのコートじゃんそれ!?」
厚意に甘えそうになって伸ばした手を大慌てで引っ込めた。目の前にいたランページが自分の勝負服のロングコートを差し出していたのだ、そして露わになる普段ロングコートで隠れているランのナイスバディ。それに一瞬見惚れるが、慌ててコートを着直させる。
「駄目ですってちゃんと着てください!!これは私の意志でこういう勝負服にしてるんですから!!」
「ぜってぇ寒いだろそれ、見てる俺の方が寒いもん」
長袖ロングパンツにコートまで羽織っているランページは寒さは大分マシな部類ではあるが、ダイナは本当に寒そう。小学校の頃にいた冬でも半そで半ズボンの子供が居たが、それ並だ。
「レース見てて毎回思うんだけどよ、マジでそういうのって寒くねぇの?」
「確りとウォーミングアップをしておけば、問題ないから大丈夫です。勝負服ってウマ娘に力をくれますし、冬場はウォーミングアップの効果を向上させて長続きさせてくれるから大丈夫です!!まあ寒いものは寒いんですけど……いざ走れば直ぐにポカポカです」
「ホント俺達って不思議な生き物だよなぁ……」
勝負服一つで此処まで変わるのだから、本当によく分からない生き物だ。
「兎も角―――今日は東海ステークスの借りを返しに来ました、絶対に負けませんから。この勝負服さえ纏えば、ダートじゃ負けません!!」
「言ってくれるな、俺だってこいつで世界を相手に戦ったんだぜ。そう簡単には負けないぜ」
あの時と同じように握手をする、またダイナと戦える事は非常に嬉しい。そんな思いを抱いていると2番人気のレディセイバーが挨拶をして来た。
「レディセイバーです、G1の舞台で貴方と走れる日が来るなんて……本当に嬉しい限りです」
「此方こそ」
「……このレースに参加している私達全員は、ランページさんに感謝しているんです」
「感謝?」
セイバーはスタンドの方を見た、そこには14万人を超える大観衆が自分達の走りを見に来てくれていた。その事にダイナやセイバーは感激しているのだ。
「ダートレースに此処までの人が来てくれるなんて……他のレースでも多くの人が私達の走りを見てくれるようになりました。これもランページさんのお陰なんです、私達の大好きなダートレースの魅力を知って貰えて、嬉しいんです」
「芝にはない魅力がダートにはある、それが分かって貰えた……そして今日はそれが最大限に出るG1、フェブラリーステークス。それにこんな大人数、嬉しくない訳が無いじゃないですか!!」
10万人を超える大観客なんて芝のG1でもそう簡単に集まるような物ではない、日本ダービーにも匹敵、それ以上の人達が来てくれている。そんな舞台で走れる……それがウマ娘としては嬉しくてたまらない。だから此処にいる全員が感謝している。
「だから、この感動に報いる為に私達一同は全力で貴方を迎え撃ちます!!全力で来てくれていることは重々承知、ですが私達にもダートウマ娘としての意地があります!!夢があります!!その二つに掛けて、貴方には負けません!!」
「いいねぇその表情、その覚悟……望む所だ、寧ろ俺は挑戦者だ。お前ら全員に勝負を申し込む、このフェブラリーステークスでな!!!」
『望む所!!!』
『さあ、間もなくゲートインです!!注目は矢張り1番人気のメジロランページ!!このフェブラリーステークスに勝利すれば、G1を7勝した事になります!!そして史上初の芝ダートG1制覇を達成した事にもなります!!大偉業が掛かったこのレース、それを阻止するのは砂塵の騎士、レディセイバーか!?はたまた東海ステークスでのリベンジに燃える砂の超特急こと、アメイジングダイナか!!?目が離せないぞ!!』