木で作った檻の中にハイエルフと女神官とツンデレご令嬢達が入ったモノを邪教徒に扮したオイラ達が運んでいる。
顔や鎧には今にも我々は邪教徒であると明から様にしていてこんな機会は無いとちょっと悪ふざけが混ざっていた。
先頭にはゴブリンと意思疎通が出来る奇跡を持つ蜥蜴僧侶と荷運びの前担当のオイラ。
後続には荷運び後ろを担当するドワーフと周囲を警戒するゴブリンスレイヤーが歩いている布陣だ。
ハイエルフ達の衣装は村娘風だけど彼女達の衣装はオイラの道具袋に仕舞い込んである。
そして、砦に辿り着いた蜥蜴僧侶が邪教徒風に演じて交渉するとシャーマンは喜んで中の牢獄へと案内した。
そこは汚物室も兼ねているのか鼻が曲がりそうなほど臭く、他の奴隷達も凍える寒さに死にかけていた。
牢屋に辿り着いてハイエルフ達を入れるとシャーマンは女神官を選んだ。
その直後、ご令嬢が隠していたナイフでシャーマンを滅多刺しにして殺してしまった。
「まぁ、最初から分かっていた事だ」
「ごぶりん、は、ころさなきゃ、ならないの!!」
半狂乱のご令嬢をハイエルフと共に押さえ込む。
「確かに、ゴブリンは殺した方が世の為だ。だけど、貴方のコレは貴族としての矜持ある行動か? それとも私怨か? どちらだ?」
シュードは自称だが伯爵位を持つ人物だ。伯爵としての実力はまだ未熟ではあるが貴族の吟味が知らないわけでは無い。
1人の貴族の男として半狂乱に陥っているご令嬢を睨み付けると彼女はそっと静かになり声を殺して涙する。
その間に他の捕虜達の生存確認やら何やらを行っている内にご令嬢も落ち着きを取り戻して、ハイエルフ達は自身の装備に着替えこむ。
捕虜を竜牙兵に守らせて毛布でくるんで暖かくした。シュード特性の蜂蜜生姜入りミルクも飲ませたので死にはしないだろう。
「まずは武器庫から破壊する。術は幾つある?」
「私達で……10回?」
「そこの小娘は入れておらんぞ」
「……2回」
「何でも屋殿はその時々でお願い致しますぞ」
「なんでそいつは……?」
「そこの小僧は規格外じゃから数えるのも馬鹿らしいわい」
「オイラだけ仲間外れはよしてくださいよーっと。今回はサポート全開で行きますんでジャンジャカ使って構いませんからね」
「ハッハッハ! これは頼もしい限りですな」
無駄話をしながら武器庫へと辿り着く。ドワーフやオイラがその中からいくつかの武器を取り出して持つ。
ゴブリンスレイヤーやハイエルフの弓矢の消費量はどうしても多くなるから今回のオイラは荷物持ちでマトモに動けなさそうに見える。
武器のほとんど全てを奪い取り外へ出るとそこにはゴブリンパラディンがシャーマンはまだかと待っている様だった。
ゴブリン達の祝宴を光景を見てベホマで烙印の傷跡を消した筈なのにご令嬢のトラウマがフラッシュバックして悲鳴を上げる。
ご令嬢の悲鳴によって気が付いたゴブリン達はシュード達を目掛けて弓矢を放つ。
「ゴブスレさん、燃える水ありますかっ……!?」
「っ!? 充分ある!」
「それを敵のど真ん中に投げちゃって下さい! こっちで燃やしておくんで!!」
ゴブリンスレイヤーはシュードの言葉を信じて矢の嵐の中で燃える水を敵のど真ん中に投げ込んだ。
それを見たシュードは矢の嵐を見ながら上空に大火球を浮かべる。それを見たゴブリンパラディンに怖気が迫る。
「メラゾーマ」
大火球が地面に落下すると燃える水と相まってゴブリン達の足場が地獄の劫火と化した。
「矢の雨が止んだのでどうしますか?」
「二手に別れて予定通り残党狩りだ」
「了解。オイラはゴブスレさんについてご令嬢共々女神官さんの護衛をするんで弓矢のストックをお願いします!」
「承知しましたぞ!」
「そっちも気を付けろよ!」
そして、砦の上層部に逃げ込んで行くとそこには数えるのも億劫な程のゴブリンとパラディンがいた。
「スクルト、ピオリム! ゴブスレさんには更にバイキルト!」
「これはっ……!?」
ゴブリンスレイヤーは自身の内から全身に掛けて漲る力に困惑していた。今なら何でも出来ると錯覚するほどに力が沸いた。
「全体の防御と速度上昇と個人の身体増強の付与魔法ですよ!」
「っ!? 助かる! 姿勢を低くして急ぐぞ」
魔人と化したゴブリンスレイヤーがゴブリン達を素早く、それでいて力強く切り殺していく。
「それにしてもオイラ達モテモテですね〜。余程儀式を邪魔されたのが腹立たしいのでしょうかな〜」
「もう! そんな事を言っていないで貴方も倒して下さいよ!」
ピオリムを掛けたお陰で体力を失ったご令嬢も何とかシュード達の速度に着いて来れた。
オイラ達は土木で使われたヤグラを足場にして下へ降りて、力技でそのヤグラ自体を倒壊させる。
「予定通り一旦下へ撤退っ……!?」
ヤグラの近くにゴブリンパラディンが上から降ってきた。相当お怒りの様だ。
「ボミオ、ルカニを掛けて速度と防御力を下げておきました! やっちゃって下さい!」
明らかに速度が遅くなったパラディンの斬撃を交わしてゴブリンスレイヤーはその首を刈り取る。
そして、ゴブリンパラディンが持っていた剣と鞘を奪い取りご令嬢へ渡す。彼女の誇りは取り戻せた様だ。
「助かった。だが、まだ残党は多い。下へ降りるぞ」
雪が積もっているとは言え結構な高さから飛び降りる。ご令嬢達はオイラが抱え込み、ゴブリンスレイヤーは縄を使う。
闘気力で全身を守っていたとは言えジーンと振動に震えていると女神官さんから文句を言われる。
「し、死ぬかと思ったじゃ無いですかっ……!? 事前に言ってくださいっ……!!」
「今度からそうしますよ」
「心の準備があるんですからねっ……!? 寿命が縮んだら恨みますよ!!」
女神官さん達の泣き言をスルーしながらも砦の入り口付近で蜥蜴僧侶さん達と合流を果たした。
どうやら砦の食糧庫に火を付けてから捕虜と竜牙兵を連れてドワーフが穴を掘ってきたらしい。
ゴブリンパラディンと言う指導者を失ったゴブリン達は最早烏合の衆。
破れかぶれに襲い来るゴブリン達を殲滅していく。今度はご令嬢も参戦して今度は貴族の吟味を取り戻す為に動いたのだった。
今回の依頼を機にご令嬢は一度実家に戻るらしい。そして、今後の事について話し合うそうだ。
「今回も助かった」
「いえいえ。オイラも行動範囲と何でも屋の宣伝が出来たので良かったですよ。また、ご贔屓して下さい」
「あぁ。それとあのミルク」
「牛飼娘さんにはレシピを教えてあるので伝えてあげて下さいな。きっと喜んで作ってくれると思いますよ」
「そうか……」
どうかゴブリンによって心を閉ざし冷え固まった彼の心を溶かす存在になってくれる事を祈ってオイラ達は別れたのだった。