社長のマリーさん   作:雪須

2 / 9
社長業

「ふあぁーっと、さぁ仕事でもやるかね」

 

先日の港から帰ってきて、しばらくたったある日の昼下がり。

マリーは渡船業をしている自分の事務所で、来客用のソファーに座り、伸びをしながら独り言を言った。

 

事務所はアニマシティの港の傍らにある。

 

アニマシティの港は先日の港と海を隔てた真向いにあり、その大きさも同程度で、そこそこ大型のコンテナ船が停泊できる規模を有している。今もコンテナヤードではコンテナを積んだフォークリフトがひっきりなしに動いている。

 

アニマシティは、獣人が獣人らしく生きられるために設けられた獣人特別区、ほぼ獣人だけが住む街だ。

 

獣人、獣人種とは、特定の四足獣類、鳥類、海獣類、爬虫類の姿をした獣人態にも、人間の姿をした人間態にも変身できる種族のこと。

いつもは人間態で過ごしている獣人種だが、いざ本気となれば獣人態に変身する。

 

獣人態では獣の骨格、筋構成に増強され、人間よりも敏捷かつ高速に移動ができる。

強力な筋力から生み出される腕や脚の一振りは、獣のもつ鋭い爪とも相まって、対象を切り裂き、抉り、ふっ飛ばすことができる。

 

実際先日の騒ぎでは、相手が獣人に対して経験不足だったこともあるが、獣人の運動能力で多人数の人間の男どもを圧倒できた。

 

そして種によっては暗闇でも見える目や、1キロ以上先の存在を聞き分ける聴覚、嗅ぎ取る嗅覚をも持っていたりする。

 

そして知能は人間とほぼ変わらない。機械操縦や情報操作などは人間種の方が上手(うわて)だが、獣人種は人間態にもなれるから、そっちに長けた獣人種もいたりする。

 

なので獣人種は人間種よりも非常に優位な立場にいるのだ。ただ単独かつ腕力に頼る傾向が強いためか覇権は全然とれずにいるが。

 

マリーも、獣種がイタチ科ミンクの獣人だ。

 

「しっかし、ホント本業の方は誰も来ないねぇ、これじゃ従業員(あいつら)の接客態度もさらに悪くなっちまうなー」

 

マリーが経営する渡し船は、アニマシティと対岸の人間の街とを結ぶものである。

しかしその経路にはフェリーが就航しており、運賃ではどうしても負けてしまう。

そのため、渡し船を利用する客はほとんどなく閑古鳥状態。

 

従業員は二人、あのイノシシ獣人とハイエナ獣人。

それぞれ機関士と操舵手をしているが、この閑古鳥状態、客相手をすることはほとんどない。なので彼女らの話っぷりは、腕力こそが正義な獣人らしく無礼千万。

いざ実務のときは下品な言葉使いでクレームが来そうだ。

 

しかし少ないながら、この渡し船を利用する客はいる。

 

それはフェリーを利用できない、したくない客。他人に見られたくない物を運びたい、人目に触れたくない人物など。

 

そう、この渡し船は表向き潰れかけた堅気の業者のように見えて、実は裏稼業を生業にしているところなのだ。

 

マリーはこの事務所を拠点に、普通でない人物や物品を運搬する運び屋をしている。

運び屋は、何もチャールズブロンソンの様なイカシた男性がするものと決まっているわけではない。実力さえあれば美女(自称)がやるのもアリなのだ。

 

まぁマリーの場合、本気になると美女(自称)からミンク(真性)になるが。

 

そのほか、違法物品などの調達、果ては潜入調査、物品収奪までをこなしている。

このおかげで、会社と従業員二人を養うことができている。

 

「んじゃ、頼まれ物の発注でもやるかな。えーっと、AK47を五丁とそれ用の7.62mm弾三千発か」

 

先日も調達屋として、シティ内のとあるマフィアからの発注を受けたところだ。

その処理をする。

 

「じゃ、電話っと」

 

マリーは、人間の銃器関連の調達屋にIP電話をする。

直接音声でやりとりする方が相手の様子を把握しやすい。なのでリアルタイムでデジタルデータ化、さらに暗号化し送受信してくれるIP電話は、マリーには欠かせない。

 

この分野の通話相手は一択。

 

「よう、マーサ、元気?」

「おう、マリー。まだ生きてるみたいだな」

 

マーサと呼ばれた銃器類を取り扱う業者から明るい声が聞こえる。

扱っている品目から分かる通り彼女も裏稼業の人間だ。

 

軽いあいさつの後値段交渉、いつもやり取りしている品物なので、ほどなく交渉成立。

マリーの交渉が成立したところで、今度はマーサ側から交渉の話が。

 

「あのさ、また力自慢のヤツ一人都合できる?前の奴すっごい評判良かったよ。

カバの奴だったかな。敵の弾避けのワゴン車、乗った奴ごとひっくり返したりとか」

「へー、そうかい?あいつもやる気ありまくりだったからなぁ。

OK、確認するけど、何やらせたい? 費用はいくらぐらいまで出せる?」

 

仕事内容と予算上限からどんな獣人を派遣できるか、獣人本人が受けるかの確認が必要、以上をマーサに伝え、こちらも進めていくことで決まった。

 

「あー、私もあんたみたいな獣人だったらねぇ、もっと現役でやってたんだけどなぁ、羨ましいったらありゃしない」

「へっ、そのおかげで、小さいときはしょっちゅう目つけられてボコられてたし、危険な事させられてC4で吹っ飛ばされたこともあったし。今よく生きてんなぁって思うくらいひどかったけどなぁ」

 

獣人種は運動知覚能力の点で人間種よりもはるかに優れてはいる。

が、人間の社会ではいずれもがアルティメットオーバーな能力、人間からは危険視されているのが実情だ。

 

同じく運動知覚能力の高さで優劣が決まるプロスポーツ界では、少数の獣人種の進出によって多数である人間種が一掃されてしまうのではという危機感がある。

 

実際に野球では、初の獣人選手に対して同僚選手がいやがらせや迫害行為を実行した。

その結果、忍耐の限界を超えた獣人選手が、多くの同僚選手の選手生命を終わらせた暴力事件を起こし、今では獣人種は参加できなくなっている。

 

さらに倫理観や罪悪感を習うことなく欲望のままに行動する獣人が少なからずおり、窃盗や暴力事件をやらかして、獣人種は目の敵にされている。

 

おかげで、人間社会で真面目に生活している獣人は、普段は獣人であることを見せないように生活しているらしい。

 

その反面、この業界は稼ぎが一番大事。自分に稼ぎをもたらしてくれる存在ならば、種なんてどうでもいいこと。

まぁ、裏切りはよくあることだけど、されたら上等、倍返しなんてのも全然普通だし。

 

そういうわけでこの業界では、獣人は獣人らしく住まうことができ、多くの獣人が関わるにいたっている。

 

ひとしきりマーサと昔の話をしてマリーは通話を切った。ふーっ、と一息つく。

 

久々に昔のことを話して、ふと思った。

自分は、獣人としては珍しく人間と商売もこなせている。

そんな状況を再確認し、ぽつり独り言を漏らす。

 

「ほんとに今生きてんのも、人間と商売できるのも、ツイてた、以外にねぇよなぁ」

 




説明が多くて、地の文が多くなってしまったんですが、これどうやったら少なくできるんでしょうか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。