社長のマリーさん   作:雪須

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離脱失敗

気を焦らせて、森の中、灌木や下草などの障害物が少ない箇所を駆けていった。後ろから追手が来ていないか?後ろを気にしつつ。

そして前に向きなおそうとした瞬間、一本のつり糸の様な線が喉元から腕、四足状態では前脚にひっかかった。

 

ええっ、トラップ?! こんなところに?!

 

やばいっ、駆け抜けないと、間に合うかっ?! さらに加速しようと、まだ接地していた後脚で精一杯、低い体勢を維持しつつ跳ねた。

 

ボフッと、仕掛け爆弾が爆発し、大きな圧を持った鈍い音が私を襲った。

 

「うがっ!!」

 

爆風で近くの木の幹に吹っ飛び、ぶち当たる。

 

金属片や鉄球などを含んでいない殺傷能力が低い型であったこと、体勢が四足姿勢と低かったこともあって、ひどい事態にはならなかったものの足には激痛が。

見ると、爆風か木にぶつかったときかは分からないが、打撲と裂傷を負ってしまった。

走れない。

 

爆発音で敵が来るに違いない。ターゲットを見つけられてはまずい。

 

ターゲットを近くにあった岩陰に埋めて隠す。そして埋めた場所に、自然っぽいが決まった特有のパターンで小石を並べる。私が死んでも仲間が見つけ出し、指示役らにターゲットを渡せるように。

 

並べ終わったところで、後ろ足を引きずりながら移動。少しでも隠し場所から離れなければ。

 

思った通り、遠くの方から足音が聞こえてくる。人数は数名ほど。

ここまでか。ターゲットを埋めた場所からは大分離れることができた。

 

覚悟を決め、最後まで戦うために拳銃を取り出す。

足音のする方向に狙いを定め、近づいてきたところで数発発砲。

バタッと音がして、いくつかの足音がしなくなる。

 

残りの足音が左右に分かれた。

よし、左の足音の方を狙って……

 

そこで頭が激しく揺らされた。何だろう、視界が暗くなっていく。崩れる体勢、狭まる視界。

 

その暗くなる視界の中に、巨体のサイの姿が見えた。それは、巨木の様な腕をもち、腕の先には大きな岩の様な拳を私に突き出していた。そして真っ赤な目で私を睨みつけていた。

 

その情景を見た後、視界は真っ暗になってしまった。

 

 

 

再び視界が開けた。頭部にグワングワンと鈍痛が走る。加えて顔面が焼けるように痛い。

 

「ここは?」

「お、やっと意識が戻ったか?てめぇら、派手にやってくれたな」

 

私の声に、誰かが返答する。

 

見ると、広い会議室のような部屋。どうやら敵のアジトの中らしい。

私は、その部屋の中央の椅子に縛り付けられていた。

 

返答した男は、縛り付けられている私の真正面、パイプ椅子に座るガタイのいい中年男性だった。そいつは人間のようだ。

その周りにも四名、私の両隣に二名の戦闘服を着た男が立っていた。人間もいれば獣人のヤツもいる。

 

「やあ、イタチ女くん、今日はウチのもんが大変世話になったなぁ。お返しにこっちからも返礼はさせてもらうぜ」

 

言い方がねちっこい。まぁ犯罪集団なんてそんなもんだ。そして。

私はミンクだ!イタチじゃねぇよ!

その男が切り出してきた。

 

「おまえら、ウチの保存庫から書類やメモリカードが入ったカバン、盗ったよな。ブツはどこだ?イタチ女くん?」

 

私は答えた。

 

「私はミンクな。イタチみたいな安モノじゃねぇよ。で、何だいそれ?そんな大事なモンちゃんと金庫にしまって鍵かけとかないとダメじゃ」

 

答えが終わりきらないところで、岩のような塊が高速で腹に抉りこまれた。椅子ごと後ろに吹っ飛ぶ。

 

「ごふっっ!!うぐぇぇ」

 

呻き声が出る。ひっくり返った状態で殴ったヤツを見ると、そいつは角のでかいサイの獣人。眉間に激しくしわを寄せ、こちらを血走った目で睨みつけ、私の胴回りほどもある太い腕と大きな拳で今にも私の顔を叩き潰さんとしている状況。

 

あの外で最後に見た追手だ。そしてそのサイが言い放つ。

 

「ボス、こいつを()らせてください、俺の部下を()ったヤツなんだ」

「ダメだ。こいつはブツを取り戻す手数の一つだ。そちらの方が優先だ」

「くそっ!!」

 

そっか、じゃあしばらくは殺されることはないようだな。

 

「まぁ片が付いたら、薬漬けにして売り飛ばしてもいいかもしれんな。ミンクらしいから毛並のいい毛皮の等身大抱き枕になる、高く売れるぜ」

「いや、俺は()りたいんだ」

 

ゲスい。この時だけは自分がミンクであることを不幸に思った。

 

この後、ボスと呼ばれた男が部屋を退出、その後、残った男たちはひっきりなしに私に暴行を加えた。ブツはどこだと、ターゲットのありかを吐かせようとして。

 

「そんなもん知らねぇって!ぐがっ!」

 

腹部を蹴り上げたり、尾や足の裂傷の箇所を思いっきり踏みつけたり。

何も知らないで押し通す。絶対言うもんか。このくらい小さな頃からさんざんやられてきたことだ。

そしてありがたいことに、私の行く末が抱き枕だからなのか、キズモノになる行為は無かった。なんとかなるかもしれない。

 

敵集団はターゲットのありかを知らない。何とか隠しているターゲットの位置を指示役に伝えなければ。それがリーダーからの命令だから。

 

しばらくして男たちの暴行が止み、ボスと呼ばれた男が部屋に戻ってきた。

何とか拷問に耐えることができた。しかし殴られすぎて頭がぼーっとしている。

頭に靄がかかったように判然としない中、ボスが周囲に言い渡している声が聞こえてくる。

 

「今、向こうの上のヤツと話をしてきた。ブツと人質との交換なんだが」

「そしたら、「失敗した獣人たちはもう必要ない。替えの獣人はいくらでもいる。そっちの好きにすればいい。ターゲットももういい。この件から我々はおりる」だとさ」

「もう人質の必要もなさそうだ。明日にでも全員殺しちまうか」

 

そう言うと、ふっ、と私を憐れむような目で、ボスは私を見た。

 

「そういや、お前は抱き枕だったな。あーあ、ターゲットもいらないって言われるとは、ホントお前ら見捨てられちまったなぁ」

 

「どうやってウチの指示役らの連絡先知ったんだよ」

「捕まえたヤツから聞いたのさ。あいつらポンポンと何でも教えてくれるなあ。もっとちゃんと教育しとけよ。といってももう遅いけどな」

 

ボヤッとする頭でなんとかひねり出した私の問いに、ボスは嫌味を添えて答えてくれた。

で、今、捕まえたヤツらって言ったな?

 

「捕まえたヤツって、私の他にもいるんだ」

「ああそうだ。交換する手数は多い方がいいからな。ただ向こうはもうどうでもいいらしいから、全員あの世行きにするがな」

「そんなことしたら、うちのリーダーがだまっちゃないぜ。お前ら後で皆殺しにされるな」

 

リーダーなら、後々でこいつら全員片付けてくれるだろう。

 

少しの沈黙の後、ボスと男たちは大笑いを始めた。

 

「リーダー?あの豹男のことか?お前らに指示とかしていたヤツだろ。そいつなら玄関前で死んだぞ」

 

男の一人が嘲笑する。

 

えっ?

私の頭の中が、ノイズだらけの靄がかかった状態から、一つのこと以外何もなくなった状態になる。

 

「入口の外で全身さらして、ウチの団員と撃ちあいをやってなぁ。

向こうが途中で弾撃てなくなったんで一気に撃ちこんでやったんだ」

 

リーダーが? 死んだ? 

 

「いくらなんでも隠れる位の能はないとなぁ。そんなヤツが俺たちを皆殺しにできるって、お前人ぐらい見れるようになれよ。まあもう遅いがな。ゲハハハ」

 

バカ笑いする連中。

 

嘘だ。

 

バカ笑いの中、私は声を絞り出す。

 

「黙れ」

「あ?」

「黙れ、黙れ!あの人はそんな能無しじゃないっ!!わぁぁぁ!!」

 

もう何も考えてなかった。縛り付けていたロープを切ろうとしたのかもしれないが、残っていた体中の力を込めて体を思いっきり体を揺らす。が、当然何も起こらず。

 

それどころか。

 

「うるせーっ、クソアマッ!!」

 

頭がまた大きく振動する。視界と思考が大揺れし、椅子ごと倒れる。サイ男にまた殴られたのだろう。そして意識がまたとんだ。

 

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