【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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主人公過去編

[[[注意]]] 鬱展開描写、やや性的描写あり


CaseEX1-2:メルテッドスノウ -後編-

――ピッ――ピッ――ピッ――

 

私が次に目を覚ましたのは、部屋全体が白を基調とした知らない部屋だった。仰向けに寝ている私の両隣に、規則的に音を鳴らしているよく分からない機械がいくつか並んでいるのを見ることが出来た。

 

「メルテッドスノウさん、聞こえますか?」

 

いつの間にいたのか、白い服を着ている人が私に話しかける。答えようとしたけど、口が何かで塞がれてて喋ることができない。身体も動いてくれない。伝わるか分からなかったが、瞬きをすることで返事とした。

 

「先生、3ベッドのメルテッドスノウさん意識覚醒です」

 

白い服の人が誰かと電話で話をしていた。

しばらくして違う人が来て、私にいくつか質問してきた。寝起きのせいなのかしっかり覚醒してない状態で何を聞かれたかは覚えていないが、何とか視線だけでイエス・ノーを伝えようとしたのは覚えている。

何度かやってるうちに瞼が重くなってくる。おかしいな、さっきまで寝てたんだと思うのに、まだ眠い……

 

「いいですよ、眠ってください。いっぱい寝て、また起きましょうね」

 

誰かがそう言ったのを聞いて、私の意識は静かに暗闇の海へと頭から落ちていった。

 

………………

 

…………

 

……

 


 

再度目覚めた時には口を塞いでいた何かは無くなっていた。周りに並んでいた機械もよく覚えてないけど少なくなってる気がする。

この時、ようやく自分が病院のベッドにいるのだと理解した。

 

視線は……動く。

首は……動く。

手は……動く。

起き上がれ……ない。

足は……動かないどころか、そこにあるのかも感じることが出来なかった。

 

それから何日か経ち、やっと話が出来るようになってきた頃、何度か私を見に来ていた医師と一緒にスーツ姿の男女一組が訪れた。

 

「警察です」

 

そう言って手帳を開いて見せる二人に、本当にテレビドラマみたいにやるんだなぁ、なんて呑気なことを考えていた。

彼等は、私に何があったのかを説明しだした。

 

積荷を満載したトラックがカーブで曲がり切れず、膨らんで対向車線に出てきて、私達の車と正面衝突したらしい。

その衝撃で私達の車は弾き飛ばされ、そのまま崖下に転落したのだという。

 

「これからあなたには辛いことを伝えます。どうか強く自分を持って下さい」

 

そう前置きされて聞かされた内容は、辛いなどという言葉で表せるものではなかった。

 

お父さんはトラックとぶつかった衝撃で抉れてしまった運転席ごと車外に投げ出され、全身を強く打って即死したと言われた。

お母さんは私と一緒に車の中から見つかった。身体の半分が車体に潰され、出血多量で死んだと言われた。見るも無惨な状態だったらしい。

 

更に医師からは私の身体の状態を告げられた。全身に様々な打撲、裂傷、骨折があり、特に腰のダメージが深刻だと。車体に挟まれた際に脊椎を損傷したらしく、二度と足が動くことは無いらしい。

 

警察の女性の人が言う。保護者に連絡をしたいが、母親の両親はすでに他界しており、父親も勘当されて親族とは音信不通だったので、誰か頼れる人がいないか教えて欲しい、と。

 

へぇ、そうなんだ。

つまり、私は、

二度と歩くことは出来ず、

二度と両親には会えず、

身寄りも無くなって、

文字通り天涯孤独というわけか。

 

何だそれは。地獄かな。

 


 

「あの子、駄目かも知れんな」

 

病院の敷地を出て煙草に火を付け、吸い込んだ煙を吐き出してから課長はそう言った。

普段行っている交通整理以外の初めての仕事は、余りにも胸を抉るものだった。

 

山道バイパスでの大型トラックと乗用車の衝突。その凄惨な事故は連日メディアで取り上げられた程だった。

被害者が意識を取り戻したと連絡を受け、課長と私は事の顛末と今後について話すべく、彼女に会いに来た。が。

 

「……まさか、開口一番『殺してください』って言われるとは思わなかったです……」

 

誰か頼れる人はいないか、そう尋ねて返ってきた答えがそれだった。

 

「無理もないさ。絶望って言葉すら生温いとはよく言ったものだ」

 

私達の話を聞いた彼女からみるみる生気が消え失せていったのが分かった。

顔色のことじゃない、文字通りの生きる気力が、だ。

一介の女児がその身に受けるには、あまりにも過酷すぎる運命だった。

 

「何も、出来ないんですかね、私達」

 

「何も出来んさ。お前に背負えるか? あの子の人生」

 

「……」

 

答えることが出来なかった。

己の不甲斐なさとやるせなさから握り締めた拳に爪が強く食い込む。

 

「すぅ……はぁーーーっ。ままならねぇよなぁ、世の中ってのはよ」

 

大きく吐き出した課長の紫煙が私達の気持ちを代弁するように、ゆっくりとゆっくりと空に溶けていった。

 


 

その後の事はよく覚えていない。

警察の人に何も答えられず帰してしまったような気もするし、その後に運送会社の社長が謝罪に来たり弁護士やら市役所の人やらが来たような気がするが、何をどう受け答え出来たのかはまるで覚えていない。

私は無気力で自ら進んで何かをする気にもなれず、言葉も必要最低限のものすら口から出ることはなくなっていた。

それから約二ヶ月、病院を退院した私は、児童養護施設に入れられることで話がまとまっていた。そして、

 

 

 

そこからが第二の地獄の始まりだった。

 

 

 

市役所の職員に車椅子で連れられてやって来た施設の前で、一人の初老の女性が待っていた。

ここの施設長とのことだった。

彼女はにこやかに市役所の人と少し会話した後、その笑顔を浮かべたまま誰かを呼んだ。中庭から他の職員らしい中年の男がやってきて、私の車椅子を押し施設へ向かっていく。受け渡しが無事完了したのだろう、市役所の人はそのまま帰っていった。

 

入り口のドアを閉めると、彼女と職員の男の人はその場で立ち止まった。

一体どうしたのだろう? 後ろを振り向き彼女を見上げると、先ほどまで浮かべていた笑顔が全くの嘘であったことが分かる。こちらを険しい表情で見下ろし、まるで隠す様子がないほどに大きな舌打ちを放つ。

 

「何も喋らなくて不気味な子だね、気持ち悪い」

 

憎々しげに彼女はそう言い放つ。

 

「ここでのルールはただ一つ。あたしらに逆らうな。分かったかい」

 

「飯は食わせてやる。お役所の目があるからね。騒いだり暴れたりするんじゃないよ。もし逆らったりしたらただじゃおかないからね!」

 

そういえば、ここは児童養護施設のはずだ。だというのに子供の声が一切聞こえない。

部屋から出てきて遊んでいる子供もいない。

あまり、いやかなりまともな場所でないことは子供の私でも感じることが出来た。

 

けど、今の私はそんなことすらどうでも良かった。

 

ご飯は朝と夜の二回。朝はパンとスープのみ、夜は良く分からない野菜くずのシチューといった、昨今の刑務所でもお目にかかれないであろう献立だ。

風呂は基本的に無い。水で濡らしたタオルで拭くだけ。

学校と買い出し以外の外出は厳禁。施設内での私語厳禁。トイレ以外に部屋から出るのも駄目。

 

行動が遅かったり嫌がる素振りを見せると施設長が暴力を振るうのが日常だった。

背中や腹といった服で隠せる箇所しか狙わない辺り、手慣れているなぁなんて他人事みたいに思ったりもした。

特に何も無くても『気に入らない』という理由で殴られたりもしたこともある。

 

行く予定だった中学校は休学している。とてもじゃないがそんな状態ではない。そして学校に行くという数少ない自由時間すら持てない私にとって、この場所は最早監獄と言って差し支えが無かった。

 

私は日がな一日、薄暗い部屋とトイレを往復するだけの毎日を過ごすこととなった。

本来ならば発狂するなりしてもおかしくはない環境だろう。

しかし、私の心は既に砕け散っていた。

 

こんなになってまで何故私は生きているんだろう。

お母さんはいない。お父さんもいない。誰もいない。

どうしてこんな事になってしまったのだろう。

分からない。分からない。分からない。

もしかして私がおまじないを使わなければ、お母さんもお父さんも死ぬことは無かったのではないだろうか。私がこんな能力(ちから)を使ってしまったから、神様が怒って天罰として二人と引き離されてしまったのではないだろうか。

 

特に何を見るでもなく、部屋のドアに向かってぼーっと考える。

もう死んでしまいたい、と考えたのは数え切れない。

このドアノブに服をくくりつけて首が締まる長さに輪を作って、そこに座ればそれで死ぬことは出来る。

しかし、お母さんの言葉、『生きて』という、今となっては最後に交わした約束を、私は蔑ろにすることが出来ない。

けど、こうやって毎日何もせず、何も感じずに過ごしている自分は果たして本当に生きていると言っていいのだろうか。

生きるって、なんだっけ。

生きていないのであれば、死んでも別に変わらないのではないか。

けど、お母さんとの約束が……。

 

毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日、私はこうやってただひたすらに、抜け出ることのない思考ループを繰り返し、いたずらに時間を消費して過ごした。

 

そういった日々を何十回か繰り返していたある日、いつも静か過ぎる施設内の雰囲気が僅かに騒がしくなった。何人かまとまった人数が移動しているのが聞こえる。

何かあるのかな。それとも何かあったのかな。

火事でも起きてて逃げ遅れることが出来たら良いのにな。

 

そんな事を考えていたら、部屋のドアが開けられた。

ノックなんて無い。

現れたのはここの職員の男だ。

 

この人のことは好きじゃない。

どろりと濁った瞳でよく私のことを下卑た目で見てくる。

そいつは私の前に立つと、聞いてもいないのに一人で喋りだした。

 

「明日はお役所の視察があるからな、お前ら風呂に入れて綺麗にしとかねえと怪しまれちまう。けどお前は一人で入るの大変だよなぁ? だから俺が手伝ってやるよ、へへへ」

 

男は厭らしい笑みを浮かべながら舐め回すような目線で私を見やる。

無くなったと思っていた感情の波がぞわりと立ち上がる。これは、恐らく身の危険を本能で感じたんだと思う。

 

「へ、へへへ。いつもあのクソババアにコキ使われてんだ、これくらいの役得があったって……」

 

男の手が両肩に触れる。気持ち悪い。

肩から肘、手首へと男は這うように手を滑らせていく。気持ち悪い。

そして男の手が私の腹に当てられ、撫で回される。気持ち悪い。

男の手が、私の服に手をかけ、ゆっくりと脱がせようと……

 

「……ぃ……」

 

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い!!

 

「……い、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

大声をあげ、がむしゃらに腕を振り回す。いきなり暴れ出した私に男は驚いて手を離す。しかし暴れ続ける私の腕は、その男の顔面を捕らえた。

 

「べぶぁ!!」

 

いくら足が動かないとはいえ、ウマ娘の膂力はバ鹿には出来ない。男は立ったままぐるんと一回転し、床に倒れ伏した。ピクピクと動いているが、そのまま起き上がる様子は無い。

 

全身を襲った、まるで頭からコールタールを被ったようにべっとりとへばりつく悍ましさを振り払いたくて、私は全力で車椅子の車輪を漕いだ。

こんなとこに一秒でも居たくない。

無我夢中で逃げた。ただ逃げた。

どうやって施設から抜け出せたのか、どこをどう走ったのかなんて全く覚えていない。

ひたすらに、衰えきった体力が無くなるまで漕ぎ続けた。

 

どれくらい漕いだか分からない。

全身を流れる汗のおかげで悍ましさが少し薄れたのと、限界を超えて動かし続けた腕が言う事を聞かなくなってきた頃。

気付いたらどこかの橋の上にいた。眼下には大量に水を湛えた川が流れている。

橋の上から川を見下ろすと、さわさわと流れる水音は聞こえているが、街灯も少なく何も見えない。どこまでも黒く暗い闇が流れていた。

 

春になったとはいえまだ冷える夜の寒さに、折角忘れていた先刻の悪寒を思い返した私は、お母さんと別れた日以来すっかり枯れたと思った涙を両の眼からぼたぼたと零した。

 

「やだ……もう、やだよ、おかあさん……ごめんなさい、もう、無理だよ……」

 

限界だった。

苦しみと悲しみと恐怖しか無い世界に、未練なんて微塵も無かった。

これが最後と言わんばかりに、ここに辿り着くまでに力を絞り切ってしまって震える腕で、橋の手すりをよじ登る。

そしてそのまま身を乗り出し、後は重力に任せるまま、私は落ちた。

 

「おかあ、さん。ごめんね、私も、そっちに……」

 

激しく水飛沫を立てて私の身体は水の中へと落ち沈んでゆく。

ごぽりごぽりと肺から抜けていく空気が、沈む私と対称的に水面を目指して上がっていく。

水底に辿り着く私。巻き上がる汚泥。

もう、指先一本動かす気も起きない。

 

だんだんと薄れていく意識の中で浮かんでは消えていく、両親との思い出。

あぁ、これが走馬灯ってやつなのかな。

 

――小学6年生、サンタの格好をしてプレゼントをくれたお父さん。

 

――小学4年生、授業参観で振り向いた私に小さく手を振ってくれたお母さん。

 

――小学1年生、高熱で苦しかった時、夜中に車で病院に連れてってくれたお父さん。

 

――小学入学前、初めて着けたランドセルが大きくて、整えてくれたお母さん。

 

楽しかった情景はどんどん記憶を遡っていく。

楽しかった、なぁ。本当に……楽しかった。

 

――4歳、初めておまじないを使っちゃって、お母さんと交わした約束。

 

――2歳、初めての芝の感触が嬉しくて公園で走り転げた私。

 

――1歳、初めて立った瞬間を見逃して悔しそうな顔をするお父さん。

 

――0歳、生まれてくれてありがとう。そう言って私を抱き抱えながら微笑むお母さん。

 

こんな生まれたての記憶なんて覚えてない。

私の夢なのかな。夢でもいいや。

お父さんとお母さんに会えるなら。

 

――迫る車の影。道路で轢かれそうな娘を間一髪助ける自分。

 

……え、なにこれ?

 

――電車に揺られる自分。妻と娘に見送られる自分。初めて出来た我が子に涙ぐむ自分。

 

なにこれ。なにこれなにこれなにこれ。知らない。こんな記憶知らない。

 

――働く自分。遊ぶ自分。学ぶ自分。休む自分。色々な自分。

 

知らない、知らな……いや、知ってる。これは、自分だ。

私、メルテッドスノウが生まれる前の、俺だったときの、記憶……

そうか、私は、『転生者』だったんだ。

あはは、死ぬ時に生まれる前の記憶を思い出すなんて、へんなの。

でも、もう、いいんだ……もう、この、ま……ま……

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………こ……の、まま、

 

死、ん、で、たまるかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああぁあぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああぁぁあぁああぁぁあぁあああああぁぁあぁああぁああぁぁぁぁあああああああああああぁああぁあああぁああぁあああぁぁあぁあぁああぁああああぁあぁぁあああぁあぁぁぁあぁあぁぁぁああぁあぁぁあぁぁぁあぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!

 

ふっざけんな! ふっざけんな!!

何でこのタイミングで覚醒(めざ)めさせるんだ神様マジふざけんなよ畜生!

転生だぞ!? 令和前後に掃いて捨てるほど出まくった王道中の王道だぞ!

 

しかもウマ娘だぞ!!? あのアニメやゲームでしか存在してなかった、可愛い可愛いグッドルッキングウマ娘ちゃん様達がいる、平和で優しい世界線だぞ!!

 

魔法少女もいない、ゾンビもいない、魔王もいない、世紀末救世主もいない、真祖の姫もいない、ヒトガミもいない、学園都市も深海棲艦も国家錬金術師も巨大な蟻もデコ助野郎もラヴォスもネギ星人も喰種も地下大墳墓もシビュラシステムも全集中の呼吸も帝具も上昇負荷も人理焼却も毒電波も暴王の月(メルゼズ・ドア)もモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)もブルーベリー色の鬼もアラガミも使徒もナービィも壁壊す巨人もモビルスーツもタチコマもドリルもゲッターもイデも無い、転生世界じゃ大当たりの部類だぞ!?

 

彼女らがレース場で走る姿を生で見て聞いて感じることが出来るんだぞ!?

彼女らがライブで歌って踊るのを生で見て聞いて感じることが出来るんだぞ!?

ケモ耳ケモ尻尾が当たり前に存在している世界線なんだぞ!?

 

こんなオタ垂涎もののシチュ、易々と逃せるわけねぇだろうがああああぁぁぁぁぁ!!!

動け、動け動け動け動け動け動け!! 今動かなきゃ、今やらなきゃ、ってこんな時に初号機ごっことか余裕だな()()()()()!?

と、に、か、く、動きやがれマイボディいいいいいいいいい!!!

 

文字通り、必死の思いで念じると火事場のバ鹿力なのかオタクの執念なのか、身体は力強く水を掻き、水面を目指した。

 

「げぷあぁっっ!! おろろろぶふあっ!!! げぇーーーっほ、げっほ、げふぅっぷ!」

 

川岸の草を掴み、盛大に水を吐く。女としての尊厳なんぞと言ってる場合ではない。下品に、豪快に吐く。あ、なんか水だけじゃねぇなこれ少し血も吐いてるくせぇ。鉄味。

 

「けほっ、けほ、げほっ、はぁっ、はぁっ……ぁぁ゛ー、じぬ゛、がど、思っだ……げぇーーーっほぁ!」

 

腕の力だけで必死に川岸を登り、地面を感じたわたくしは仰向けになって寝転んだ。

なんかやたら息苦しさが残ってるし口の中も相変わらず鉄味がしてる。けど今は酸素だ。限界を超えて振り切って無茶してくれた身体に深呼吸して酸素を行き渡らせなければ。

 

「すぅーーーーっぁがぁ! ごっぱぁ! げっへぁ!!」

 

痛ぇ! なんか息吸うと胸痛ぇ!! 水と一緒に川底の砂でも飲んでたか!?

というか咳しても痛ぇんですけど!? まだ少し血ぃ吐いてるしわたくし。

あかん仰向け無理だ、吐血で溺れ死ぬ。うつ伏せにならんと。

 

「がっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」

 

深呼吸できないなら小さく短く早く呼吸を。とにかく酸素!

そうすること数分、ようやく落ち着いてきた。

そうだ落ち着けーわたくし。クールだ、KOOLになるのだ。冷静に現状の整理をするのだ。

 

まず、わたくしの名前はメルテッドスノウ。

さっきまでとはまるで性格が変わってしまったが、憑依の類では無い。同一人物だ。今までの記憶に、思い出した前世の記憶をプラスしてブレンドしてみた状態とでも言えば良いだろう。

なので先程までのわたくしが消えてしまって今のわたくしが乗っ取ってしまったのでは、というありがちな転生葛藤は不要だ。わたくしは生まれたときからわたくしなので。ちょっと十数年ほど記憶喪失だっただけで。

 

そして記憶が戻ったことで、幼少期にしか使わなかったあの能力(ちから)を完全に把握した。

何で分かるようになったのかは自分でもよく分からないが、何故かそういうものだと『理解』した。

っべぇわ、この能力。痛いのが自分に飛んでくるどころじゃねぇわ。マジチートじゃん。

とはいえ、これが分かったところでどう使えるかいまいち分からんけど。

 

そして現在わたくしを取り巻く環境。

軽くハード越えてルナティックにも思えるが、それはさっきまでの震えるポニーちゃん状態であった場合の話。

両親と死別して超絶悲しいのは変わらないが、それでも生きていかなきゃいけないのが人生だ。いやウマ娘としてはウマ生と言うべきか?

まぁ何にしろ苦境を打開する努力をしない理由にはならない。

酸いも甘いも噛み分けた前世の経験を踏まえて考えれば、ハードルはいくつかあるが挽回は可能である。

こんないたいけな美少女にさんざ好き勝手してくれやがって……転生らしく『ざまぁ』してやるからな、首洗って待ってろクソババアにエロオヤジィ!

 

足は動かんし未だに肺は痛くてまともに息が吸えんくて、声も出し辛ぇ。

が、両目は見えるし両手も動く。触ってみた限り、顔に大きな傷は無い。

社会的ななにがしかは何とでもなる。てかする。

以上を踏まえまして。

 

さってっと、これからどうすっかね?




■メルテッドスノウのヒミツ①’
『傷病の因果を自己へ転嫁出来る能力』
他者が負った怪我・病気を自分に移すことが出来る。
また、今後その相手が負うであろうものも、因果として受け取ることが出来る。
因果のまま受け取った場合は、必ずしも傷病が発現するとは限らない。
例えば『走り続けると骨折する因果』を受けても、走らなければ骨折には至らない。

能力の発動条件は、相手に触れること。触れていれば場所は問わない。
触れた時に、相手にどんな傷病の因果があるのかを知覚することが出来る。
受け取る因果を取捨選択することが出来る。

逆に自分から誰かに傷病・因果を受け渡すことは出来ない。

■雑記(2023/01/23)
ようやくスノウちゃんの過去解禁です。
いやぁ、しんどかったですね。
私自身、これ書き上げた時あまりの鬱展開に吐きそうになりましたもの。
次回からはまたいつものゆるめの空気でほのぼのしたいです。

■外れの世界線リスト
とにかく思いつく限りの『死亡フラグ高めの世界』を羅列。
もっとありますけどキリが無いので。
全部分かったあなたはきっと同世代。
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