【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

15 / 34
唐突の最終回


Case13:養護教諭はほんのり関わりたかった

鳥達の楽しげな鳴き声が聞こえてきて、目を覚ました。

窓から見える外はとても良く晴れている。

割と傾いた太陽が、結構長いこと寝てしまっていたことを教えてくれた。

 

「あ、起きました? いっぱいお昼寝出来ましたね」

 

部屋に入ってきた女の人がわたしにそう声を掛けた。はて、この人は誰だろう? 知っているような、知らないような……?

そもそもここは何処でしょう? わたしの部屋じゃなさそうですけど。

 

「今日もいいお天気ですねー。でもその分、朝寒くって。なかなかお布団から出られなくて大変だったんですよ私」

 

あの、一体ここは何処であなたはどなた?

そう聞こうと思ったがうまく声が出ない。

女の人は言葉を返さないわたしを気にした様子もなく、わたしの手を取って、指先に洗濯バサミのような何かを付ける。

 

「お布団入ってる時の『あと5分』って気持ちいいんですよねー。やりすぎて危うく遅刻しそうになっちゃいましたけど。どれ、バイタル……正常っと。あ、テレビ付けましょうか? もうすぐ始まりますよ、有馬記念

 

有馬記念

……そうだ、有馬だ。テイテイの復帰戦だ。アニメ最終回の屈指の泣き回だ。

そんなの見ないなんて選択肢、あるわけが無い。

女の人がわたしが寝ているベッドのリクライニングを起こし、テレビの電源を入れる。

 

「そういえば、トレセン学園で働かれてらしたんですよね。もしかして知り合いのウマ娘、出てたりします? ふふっ。じゃあ少し他の部屋も見てきますね。テレビ、このまま点けておきますから」

 

女の人はそう言い残して去って行った。

テレビに映されているレースの様子は既にパドックでのお披露目は終わっており、出走ウマ娘達がバ場入場している所だった。

いつもの実況と解説の人が興奮気味に話すのが聞こえてくる。

 

≪今年のトゥインクル・シリーズを締め括ります有馬記念、今回はURA史上最も注目度の高いレースとも巷で言われています≫

 

≪無理もありませんね。数々の宿命の対決が一堂に会した形となる今回の有馬記念は間違い無く大波乱となるでしょう≫

 

数々の宿命の対決?

あれ、そんな流れだったっけ。

 

≪順に紹介していきましょう。まずは史上4人目の重賞6連勝、そして全てのレースで連対率100%の実績でグランプリ制覇なるか!? ヒシアマゾンです≫

 

≪底知れない強さを感じますね。最終直線での末脚は間違いなく一級品です。今回も気合十分といった様子で非常に期待が持てます≫

 

……ゴール板(ヒシアマ姐)さん、レースに出てたっけ?

なんかアニメとだいぶ変わっちゃった?

ってか知らなかったけど姐さん、そんな強かったのか。

がんばれ、ヒシアマゾン。

 

≪続いて今年の最優秀ウマ娘候補と名高い3冠ウマ娘、ナリタブライアン≫

 

≪彼女も今年のレースでの連対率は100%で、しかもその内2着は1回だけという脅威の強さを持っています。今回も間違いなく上位に食い込んでくることが期待出来ます≫

 

あ、ブライやんだ。

彼女もアニメじゃ出走してなかった気がするんだけど……まぁいいか。すっかり立派なアスリートの顔つきだね。ちゃんとバランス良くご飯食べてるかな。

がんばれ、ナリタブライアン。

 

≪さぁそしてやって来た、昨年の有馬では惜しくも2着、しかしその後も着々と勝数を重ねております、ビワハヤヒデです!≫

 

≪昨年も十分強い彼女でしたが、今年は更に一回り大きくなったように感じますね≫

 

お、ハヤひーお姉ちゃん。

すげぇ、ブライやんと一緒に走るの? 姉妹対決じゃん。

この娘もアニメで見たときよりオーラ出てるように感じるけど、実際に見てるからなのかな。

がんばれ、ビワハヤヒデ。

 

≪おっとどうしたビワハヤヒデ。観客席側をじっと睨みつけるように動かなくなってしまったぞ≫

 

≪……観客席というか、実況席(こちら)を見ていませんか?≫

 

≪その後ろから彼女に先を促すようにウイニングチケットとナリタタイシンが入って来ました≫

 

≪昨年の菊花賞以来となるBNWの3人が揃いましたね。こちらの因縁の対決にも注目ですね≫

 

あら、チケゾーとタタちゃんまで。

相変わらずあの3人は良い関係を続けてるみたいですね。どこまでも元気なチケゾー、かっこいいお姉ちゃんなハヤひー、つっけんどんだけど本当は優しいタタちゃん。3人ともいつまでも変わらずそうあって欲しいな。

がんばれ、ウイニングチケット。

がんばれ、ナリタタイシン。

 

≪GⅠ2勝の実績、闘争心に火がつけば9ヶ月のブランクも気になりません。漆黒の花嫁衣装を思わせる勝負服に身を包んだレコードブレイカー、ライスシャワーです≫

 

≪黒い刺客の異名を持つ彼女、今回も魅せてくれるのでしょうか≫

 

お米様だぁ。

普段はどっかのメイドロボか駆逐艦みたいにはわわとか言うのが似合いそうなのに、レースに出るとめっちゃ格好良くなるのナイスギャップです。完全にスイッチ入ってます。

がんばれ、ライスシャワー。

 

≪そのライスシャワーに雪辱を果たす事が出来るのか!? 坂路の申し子、ミホノブルボンが登場です≫

 

≪長い闘病生活から見事に舞い戻って来てくれました。前回、前々回のレースから徐々にではありますが確実に仕上げて来ています。持ち味の力強い逃げ足に期待です≫

 

ぇ、ブルるんも出るの?

わー、これは確かに数々の対決が勢揃いっていうの、納得。誰よりも待ち望んでましたもんね、お米様との対決。実現して良かった。悔いの残らないよう、しっかり競い合ってね。

がんばれ、ミホノブルボン。

 

≪去年は3着、今回はもっと少ない数字が欲しい。ブロンズコレクターの名を返上出来るか、ナイスネイチャ≫

 

≪高松宮杯では見事な勝利を見せてくれました。今回も気合は十分です。≫

 

きゃー、ネイチャさんだ。

曇りの無い表情だ。出会った頃の迷いは完全に晴れたみたいだね。そうだよ、ネイチャさんは凄いんだから、自信持って走ってね。

がんばれ、ナイスネイチャ。

 

≪そのナイスネイチャと同チーム、小さな逃亡者ツインターボも入ってきました≫

 

≪決して勝率は高くない彼女ですが、その大逃げスタイルは多くのファンを魅了して止みません。今回も期待したいですね≫

 

うっそ師匠?

またあの爆逃げしてくれるの? うわぁ凄い楽しみ。あなたの走りは間違い無く誰かの勇気になってるよ。みんながあなたの走りを見てるよ。

がんばれ、ツインターボ。

 

≪更に同チームのマチカネタンホイザですが、蕁麻疹発症のため出走取消となっています≫

 

≪何があったのか心配ですね。ナイスネイチャとツインターボには是非彼女の分も頑張って欲しいです≫

 

あれ、カネタン出走取消?

おかしいな、わたしの覚えてるアニメではしっかり走ってたはずなのに……。

やはりこのレース、わたしの知ってるものとは完全に異なるみたい。

いやそれより蕁麻疹とかって大丈夫なのかなカネタン。

 

ちょっとウマホで調べてみようかな。

あれ、ウマホどこだろ。……というか、手、動かないな。身体も、動かせない。困ったな。どうしちゃったんだろうわたし。

 

≪さぁそして、さぁそして! 会場の大きな歓声が聞こえますでしょうか! 昨年の有馬記念の覇者、奇跡の復活劇を見事に成し得ました、トウカイテイオーが出て参りました!≫

 

≪3度の骨折から不死鳥の如き復活を果たしたトウカイテイオー、その後の戦績も安定して上位を収めています。今回も彼女から目が離せませんね≫

 

身体の不具合に気を取られている間に2,3人聞き逃してしまいましたが、ワアッと盛り上がる音が聞こえてわたしの意識は再びテレビへ。

おっ、テイテイだ。すっかり元気そうで良かった。

でもテイテイって、去年の有馬はボロボロじゃなかったっけ……記憶違いかな。

 

≪あぁーっと出た! 出たぞテイオーステップ! 今日のテイオーは絶好調です!≫

 

≪会場に向けてアピールする余裕すらありますね。非常に良い仕上がりと思われます≫

 

まぁいいか。

彼女はいつも一際楽しそうにレースを走る。幾度の挫折を乗り越えて、それでもまた走ってくれる。その雄姿をまた見ることが出来るんだ。

がんばれ、トウカイテイオー。

 

≪おおっと!? そして先程の歓声に負けない程の、会場が正に割れんばかりの大歓声! そうです、満を持しての登場です! 昨年末に彼女を襲った病、繋靱帯炎。ウマ娘にとって不治の病とも言われる大病を患ってしまった時、引退の話も上がっていました。が、しかし! しかし彼女は帰って来ました! 1年という雌伏の時を経て、我々の前に、この有馬記念という大舞台に、戻って来たぞメジロマックイーン!!≫

 

≪昨年期待されていたトウカイテイオーとの対決が、今回ついに実現です。私も冷静に解説を続けられるか自信がありません。本当に、本当に良く戻って、来てくれました……≫

 

わぁ……わぁ、パクパクさんだ!

脚、良くなったのかな。良かった、走れるんだ。テイテイと対決、出来るんだ。

本当に、良かった。良かったねぇ。

がんばれ、がんばれ、メジロマックイーン。

 

≪細江さん、涙はまだ早いですよ。私達にはまだこの闘いを最後まで皆さんにお伝えする使命があります。頑張りましょう≫

 

≪はい……はい。その通りですね。失礼しました≫

 

≪さぁ、ゆっくりとスターターがスタート台に向かいます。誰もが待ち望んだ夢を詰めに詰め込んだ今回の有馬記念、今年最後のGⅠのファンファーレです≫

 

うふふ、解説さん泣いちゃってる。

嬉しいよね、わかる。楽しみだよね、わかる。

ブラアマ対決、姉妹対決、BNW対決、ブルライ対決、テイマク対決……あ、テイネイとテイタボ対決もだ。これは確かにとんでもないレースだ。てんこ盛りだ。誰が勝っても不思議じゃないよ。

 

≪15万人近いファンが埋め尽くしております、中山レース場です。さぁ各ウマ娘がゲートインしていきます≫

 

……あれ?

なんだか、急に瞼が重くなってきた……。

おかしいな、いっぱい寝たはずなのに、まだ眠い……。

レース、見たいのに……。

 

≪順調ですね。ナリタブライアンがちょっと立ち止まってそれから入りました≫

 

≪さぁ13人、ゲートイン完了しました。間もなくです。間もなく今世紀最大の有馬が、今……≫

 

目、開けてらんないや。

見たい、なぁ。みんなが、走る、姿が。

 

見たい、けど……まぁ、いいかな。

みんなが、無事に、走れる。それだけで、十分。

 

 

 

──ガシャン!!

 

≪いま、スタートしました!!≫

 

 

 

わたしは、わたしに、出来ることを、やり遂げた。

 

あぁ、

 

いい、人生、だったなぁ……

 

 

 

走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい:了

 

      << 前の話            目 次           次の話 >>        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って夢を、見たんだけど、ゴルシちゃん、どう思う?」

 

「うん、とりあえず笑えねぇわ」

 

ってなわけで、やたらリアルすぎる初夢を見ました。

あなたの傍に這い寄るメルテッドスノウちゃんです。

新年を迎えて最初のお仕事デーです。

 

いやいや死んでたまるかよ。何満足しちゃってんのよ夢の中のわたくし。

わたくしはまだまだウマ娘ちゃん様達が幸せそうに学園生活を謳歌する様を拝みつつ時折一緒にキャッキャウフフするというこの上ない欲望丸出しの人生を満喫しなきゃいけないんですから。

 

あんまりにもあんまりな夢だったので、両手にゴーヤー、口にピロピロ笛を装備したまま相撲の摺り足してたゴルシちゃんが窓の外から丁度通りかかるのが見えましたので、彼女を捕まえて話してみたのですが、心底呆れられてそのまま摺り足再開してどっかに行ってしまいました。

いやむしろゴルシちゃんが何してるんですか意味が分からな過ぎる。

 

何でしょう、年末の有馬記念でテイテイの大復活を目の当たりにしちゃったから気持ちが先走って "次の有馬" を思い描いちゃったりしたんですかね? いやぁだってすんごいレースでしたもの。未だに実況さんの『トウカイテイオーが来たぁ! ぇ……えトウカイテイオーが来たぁ!?』が耳にこびりついて離れません。

 

もし本当にあんな激熱なレースが未来で待っているとしたら、意地でも夢の内容を、そして夢の続きを見ないと死んでも死に切れませんねこりゃ。

さぁ、今日も張り切ってウマ娘ちゃん様達の心身の健康の為に身を粉にして働きますよー!

 

足は動かないしまともに息が吸えなくて、声も出し辛い。

けど、両目は見えるし両手も動く。顔は素敵なべっぴんさん。

足やら何やらに爆弾はあるけど、とりあえず生きている。

以上を踏まえまして。

 

さってっと、今日はこれから何しましょうかね?

 

 

 

走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい:続




■あとがき(2023/02/11)
この度は「走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい」をお読みいただき誠にありがとうございます。

まず、13話で最終回というのは昨今のWEB小説ではかなり少なめの部類かと思われますが、決して打ち切りエンドでは無いことだけはお伝えしておきます。
もともとこのお話、アニメ1クールと同じ13話構成で考えておりました。

で、大多数の方がお気付きと思いますが……本来は夢オチの内容通り、スノウちゃんには虹の橋を渡ってもらうビターエンドを想定していました。
なのですが……ちょっとスノウちゃんの覚悟が想像していたより強くなり過ぎまして、ビターに辿り着けなくなっちゃったのですよ。

“線路の上にウマ娘達が大勢います。暴走したトロッコが突っ込んで来てますがウマ娘達は誰も気付いていません。歩道橋の上にスノウちゃんがいます。彼女を突き落とせば障害物となってトロッコが脱線し、ウマ娘達を助けることが出来ます。が、スノウちゃんは迷うことなく自ら飛び降りてトロッコを止め、ウマ娘達は助かりました。あなたは特に何もしていませんので、罪悪感に苛まれる必要はありません。めでたしめでたし”

という、トチ狂ったトロッコ問題状態になっちゃいそうでして。
ビターどころか胸糞エンドじゃないですかやだー。

で、今更ですが皆様の感想を見ているうちに、『この自己犠牲の権化、何とか救えねぇかな』と思い直しております。
書いているうちに筆者自身がスノウちゃんに情が湧いてしまったのと、皆様からこんなにもスノウちゃんを応援していただけると思ってもみませんでしたので、何とかしたいと思いまして。下手すると何ともならない可能性も微レ存なんですけど。

というわけで、一応この話とおまけをもう1話で完結とはいたしますが、いずれシーズン2を書こうと思っています。
ただ現時点で全く何も出来上がっていない上に虹の橋カウントダウンが残り僅かな状態でどうすんのよ!?  って感じなので、シーズン1終了後、今しばらく構想&書き貯めのお時間を頂戴したく存じます。

今後も『スノウちゃんを含む』ウマ娘ちゃん様達がほのぼのグッドエンドを迎えられるよう鋭意努めてまいりますので、ご理解の程よろしくお願いいたします。

■偽フッター
驚かせてしまってすまない。私のpcとスマホからはちゃんとそれっぽく見えるように調整しましたが、他環境で崩れてたらすまない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。