【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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主人公過去編

EX1~Case01の間のお話。


CaseEX2:メルテッドスノウととあるウマ娘

わたくしの名前はメルテッドスノウ。

どこにでもいる、普通の転生チート持ちのウマ娘です。

足と肺に障害が残っていますが誤差の範囲内です。

入水自殺未遂して救急搬送されましたが誤差の範囲内ですともええ。

 

死ぬ一歩手前までいったお陰かどうかは知りませんが、無事に前世記憶とチートを思い出してようやく転生人生ならぬウマ生スタートといったところでございます。

 

で、その後の顛末をざっくりとまとめると、わたくしは無事にざまぁを達成し、違う児童養護施設へと移されました。

 

川から這い上がった後、誰かが呼んでくれた救急車で搬送&即入院となったのですが、その入院してヤツらの目が届かない間に、ある人にコッソリと連絡を取りボイスレコーダーとデジカメをお借りしまして。

退院してから約1ケ月間、施設に戻されたわたくしは以前のように無感情っぽく振る舞いつつ、ソレらを使って虐待やセクハラの証拠を集めに集め、晴れてババアとエロオヤジに鉄槌を下してやることが出来ました。

ざまぁ。ざーまあー!!

 

ババアには役所から定期的な行政指導を行ってもらうことで手打ちとしました。

暴力行為は言語道断ではありますが、わたくしみたいな要介護者は介護する方される方、お互い歩み寄って協力する必要があります。それをわたくし側から拒絶してたのでそりゃあババアもストレスが溜まることでしょう。極々僅かですが情状酌量の余地ありです。

元々悪どいことしてたっぽいですがわたくしも良くなかったということで、まぁ今後に期待の意味を含めてお役所さんには監査厳しめの指導を毎週やってもらうことにしました。処分食らって施設無くなったりするのはそれはそれで問題あるしね、市の受入人数的に。

 

ただしエロオヤジ、テメーはダメだ。

セクハラは断固として許されぬ! ウマ娘をセンシティブな感じにしようなど問答無用である。

サ〇ゲ法務部が存在しない世界線で助かったなオヤジィ! だがわたくしが許さん。セクハラ野郎は惨めに這いつくばって叩かれて砕かれて丹念に擦り潰されてバクテリアに分解されて畑の肥やしにでもなればいい。

そりゃもう徹底的にやってもらうようにした。警察の方にも話をだいぶ盛って訴えた。知ってるか? セクハラってのは被害者がそうだと感じたらセクハラなんだぜ?(悪い顔)

『この子に暴力を振るわれた。押さえつけるために触ってしまったかもしれない』と悪あがきの自己弁護をしてましたが、良いぞもっとやれ。反省の余地なしってことで罪状が重くなりやすいからなぁ! 既にヤツを殴ってしまった時の経緯とそういう言い訳をするかも知れないって事は警察の方には伝えてあるし。

かくして無事にエロオヤジはお縄となりました。森へお帰り。もう戻って来るなよ。

 

今回の大捕物には事故った時に来てくれてた女性警察官も担当してくれて、そりゃあもう親身に対応してくれました。レコーダーとデジカメ貸してくれたのもこの人。なんか出会った時のことをずっと気に掛けてくれていたらしく、現状を話したら一も二も無く協力しまくってくれました。

……まぁ、あんなファーストインプレッションじゃなぁ……うん、正直すまんかったと思ってる。いきなり『殺してください』とか我ながら無いわ。トラウマるわ。

立場上どうしようも無かったでしょお姉さん、仕方ないって。今回こうしてその立場を使ってちゃんと助けてくれたわけですし。ありがとうございます。

 

というわけでざまぁ展開が無事終了した後、新しく入ることになった施設はそりゃもうまともな場所でした。加えて自分もまともになった(?)ので、お互いにコミュニケーションもしっかり取ることで同じ轍を踏まないよう報連相はしっかり行いましたとも。

おかげで新しい施設の長――身長2m強のスキンヘッド、髭にグラサンと、どう見ても何人かヤッちゃってそうなコワモテのくせにエプロンが似合うとか、某XYZの海な坊主っぽいガチムチオヤジ――からも、わたくしの自由奔放さに呆れられながらもしっかり面倒見てもらえました。

 

そうしてなんやかんやあって何年か経過しまして。

通う予定だった中学はとてもじゃないが通学出来る状態じゃないということで学校側と相談し、定期的に課題を提出してたまに学校で補習っぽいのを受けることで基本的に出席しないまま卒業。クラスメイト出来なかったです。ぴえん超えてぱおん。

高校には入らず、さっさと高卒認定試験だけ受けて自由気ままに過ごしております。

 

すっかり失念していたのですが、なんか遺産やら賠償金やら補助金やらが割と良い額で入ってまして、働かなくても細々と生きてく位なら余裕で出来るんですわ。夢のニート生活ですよひゃっほい。

なので18歳過ぎて施設出る時に、少し余分かなぁと思った額を『寄付すっから宜しくね』って施設長(オヤジ)に渡そうとしたら『将来のためにとっとけバ鹿モン』と脳天にカラテチョップされました。DVでございます。かなりイラッと来たのでその後に小分けして匿名で定期的に振り込んでやってます。ざまぁ。

 

というわけで転生ライフ満喫開始じゃーいとか思いながらわたくしは通い慣れたゲーセンから家路についている最中です。

あいにく本日は雨天なり。

手押し式の車椅子のわたくしは傘を差したり出来ないので全身雨合羽なりで雨天対策をしないといけないのですが、むっちゃ蒸れるので嫌なんですよ。

で、代わりにどうするかってんで、車椅子の背に傘の柄を固定してあげてます。これなら傘を持つ必要がなくてストレスフリーです。

傘の範囲からはみ出してしまう足部分は雨合羽をひざかけ状に掛けておけば全く問題ありません。

けど出来れば早いとこ電動の車椅子買お。

 

そういえば覚醒時に痛めた肺ですが、水と一緒に砂も飲んじゃったんでしょうね、医師にお手上げされました。

なんか肺組織と砂が癒着しちゃってるから肺まるごと全とっかえしない限り治せないってさ。

現代医学じゃ根治難易度高そうなので、一応カイロプラクティックとか漢方薬とかの東洋医学系も頼ってみたけど、あかんかった。

移植手術とか怖いし、息しづらいだけで死ぬわけじゃないし、まぁヨシ!

 

道中、近所のちょっと大きめの公園へ入っていきます。道なりに行くより公園内を突っ切った方がちょっとだけ近道ですので。

時刻的には夕暮れくらいですが、結構厚めの雨雲なんですかね、辺りはだいぶ真っ暗です。幸いにも街灯が既に点いてるので道が見えないとかは無いんですけど。

そうして車椅子を中程まで進めていたところ、なんか芝生んとこにぽつんと誰かがいるのが見えました。この雨の中、傘も差さずに。

うおっ、暗くてよく見えなかったからちょっとビックリした。

暗がりで降りしきる雨の中、俯き気味に棒立ちされてると幽霊かと思っちゃいますわ。どうやら実体がお有りのようですけど。

 

 1.見なかったことにして立ち去る

 2.人影に近寄って事情を聞く

 

何よこの脳内選択肢は。ギャルゲの出会いイベかよ。

てかここで1を選べるほどわたくし薄情なウマ娘ではないアルよ。無いのか有るのかどっちなんだ。

そんなわけで、ちょいとお話お聞きするくらいはしましょうではないですか。

そう思い、出来るだけ人影に近寄ります。

本当はもっと近くに行きたいけど彼? 彼女? が立ってる場所が芝生の真ん中なので、車椅子のわたくしではそこまで入り辛い。仕方ないので周囲の舗装されている通路からちょっと大きめに声を掛けます。

 

「もしもし、そんなとこ、いたら、風邪、ひいちゃう、よ?」

 

「放っておいてくれ」

 

しっとり濡れウマ娘さんはこちらを見ること無く、抑揚の無い声で返します。

はい、ウマ娘さんでした。ウマミミが垂れまくって髪の毛とほぼ一体化してましたが、僅かに揺れる尻尾が見えて何とか判別。

濡れた髪が顔を覆い隠して表情を窺い知ることは出来ません。

緑の七分袖シャツにぴったりパンツルック、鮮やかな鹿毛色のロングヘアで少し濃色の前髪の中に白毛が一房。

 

……どっかで見た事ある気がするぞこのウマ娘?

最近テレビで見た事ある気がするぞ?

前世知識でも見た事ある気がするぞ?

 

「でも」

 

「いいから、頼む」

 

いやぁ、流石にまだ春先の雨は冷たいっすよ?

身体はあるうちが華なんですから労ってあげませんと。

とはいえ、このままでは押し問答が続くだけでしょうね……仕方ない。

 

「……ん、分かった」

 

このままでは説得出来ないと言うことが分かりましたとも。

ならば分からせてやる。

雨でぬかるんで進みづらい芝の上をちょっと頑張って彼女の隣まで進みます。

そして傘を脇に捨て、彼女の隣に佇みます。

うっひゃーやっぱ冷たいじゃん雨。

 

「……何を、している?」

 

やや困惑気味な問い掛けが聞こえて来ますが素気なく返します。

 

「放って、おいて」

 

「いや、しかし」

 

「そういう、ことだよ?」

 

「……」

 

な? 放っておけなかろう?

何か辛いことがあったんなら、おいちゃんが聞いてあげますからとりあえずこれ以上雨に濡れないようにしようぜ。寒いし。

 

「近くに、いいとこ、あるから、身体、だけでも、拭いて、いかない?」

 

「……分かった、君を送っていこう」

 

「ん」

 

近所にわたくしの()家がありますんで。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「オヤジー、風呂貸してー」

 

はい、海な坊主がいる養護施設に突撃隣の晩御飯もといお風呂借りに来ました。既に施設を出て一人暮らしをしている身ですが、時々こうやってお風呂借りに来ております。複数人同時に入れる大きさの風呂って楽なんですよね。

 

「……あぁ? スノウか……お前今度は何拾いやがった」

 

「濡れウマ娘」

 

なんかオヤジ、盛大に溜息ついてますね。何かいいことでもありました?

 

「はああぁぁ……もう沸かしてあるからジャリ共に乱入される前にさっさと入って来い。……何ボサッと突っ立ってる。あんたもだ、嬢ちゃん」

 

「いや、私は」

 

「やかましい、ガキが一丁前に遠慮なんかしてんじゃねぇ。着替え用意してやるから風邪引く前にあったまって来い」

 

もー、なんやかんやで優しいんだからオヤジぃー。

勝手知ったるなんとやら、車椅子を玄関に置いたわたくしは、わたくし用に用意された屋内移動用の台車に乗り込んで浴室へ向かいます。

 

「ほら、こっち」

 

「あ、あぁ……」

 

早くあったまろーぜー、まじ風邪引いちゃう。

一緒に入っても女の子同士だから何も問題は無いぜ!

 

何も問題は無いぜ!(大事2回)

 


 

「ふぅ、いい湯、だった」

 

はい、キングクリムゾンさん良いお仕事です。

気が付けば湯上がりぽかぽかスノウちゃん一丁上がり。そしてそんなわたくしの隣には同じく湯上がりぽかぽかウマ娘ちゃんも。

お風呂から上がったわたくし達は、以前までわたくしの部屋だった、現在は客間にて二人で寛いでおります。

テーブルにはいつの間にか用意されてる麦茶のピッチャーとコップが2つ。こういう細やかな心遣いが出来るあたり、やはり内面イケメンだなオヤジぃー。

 

「君は……何というか、特殊な入り方をするんだな」

 

「まぁ、足が、動かない、からね」

 

さっきまでの入浴スタイルを思い出し、ウマ娘ちゃんがそんなことを呟きました。

バスタオルを体に巻いて腹ばいになって、浴室を腕の力だけで滑っていって、湯船に辿り着いたらそのまま頭からぬるんとダイブ。

『スノウアザラシ』の異名で昔は一緒に入ってた子供達にも評判でした。

まぁここみたいなタイル貼りの広めの風呂だから出来る技なんですけどね。一般的なユニットバスじゃ無理かな。

 

「そういう場合は誰かの介助を必要とするものだと思っていたよ」

 

「本来は、そうなんだ、ろうけど、ここじゃ、出来るだけ、自分らで、やるのが、ルール、だから。出来るから、やってる。それだけの、話だよ」

 

職員がオヤジしかいないんですよねこの施設。ですので炊事洗濯掃除買い物に至るまで子供達主体でやってました。年上の子が年下の面倒を見る感じで。オヤジは子供じゃどうしようもない事のみ担当。こんなんでよく回ってんなココ。

 

「そうか……時に、君は何というか、独特な話し方をするんだな」

 

あ、やっぱり気になるよね。

なんかね、肺が駄目になってからまともな呼吸が出来ませんでして。少し浅めにしか吸えないので、会話がどうしても途切れ途切れになっちゃうんですよね。

 

「あー……肺に、問題が、あってね。聞き苦しくて、ごめんね」

 

「! いや、そういう訳じゃないんだ。こちらこそ不躾なことを聞いてしまってすまなかった」

 

「ん、特に、気にして、ない。問題ない」

 

聞き苦しいのはこちらの過失なんでね。むしろ無駄に気にさせてしまって申し訳ない。

 

「……」

 

「や、ほんとに、気にして、ないんだけど?」

 

「しかし……」

 

もぅ、真面目さんなんですから。そんなにションボリしなくていいのに。

ならば強引に気にしなくさせちゃいましょう。

 

「んー、じゃあ、不躾、返し」

 

「なにふぉっ!?」

 

彼女の両ほっぺを人差し指でぷにっと。

うわーお、わたくしがやっといて何ですけど、顔がいい人って変顔でも顔がいい。ギザカワユス。

 

「はい、これで、おあいこ」

 

異論は聞かぬ。はい終了!

 

「さて、ぼちぼち、自己、紹介。わたしは、メルテッド、スノウ。以前、この施設で、暮らしてた、ウマ娘。今は、ただの、ニート。あなたは?」

 

「私は、シンボr……」

 

わたくしからの名乗りを受けて返そうとしたウマ娘ちゃんが途中で止まります。おや、どした?

 

「?」

 

わたくしが小首を傾げると彼女は申し訳なさそうに軽く俯き、言葉を続けます。

 

「ぁー、すまない。とある事情で名乗る訳にはいかなくてね。仮に……そうだな、ルナとでも呼んでくれ」

 

あーそういうことね完全に理解した。

まぁ、7冠ウマ娘ですなんて名乗ったらこの場がパニックになる可能性もあるでしょうし。多少素性を隠すのは有名人の嗜みなのでしょう。

 

「ん。承知」

 

そういうこともあるのだろうと特に気にせず返事をしましたが、ルナちゃんはお耳をピクリとさせてわたくしを軽く訝しみます。

 

「……私が言うのも何だが、納得するのが早過ぎはしないか? 怪しいとは思わないのか?」

 

「別に、気にしない。名前、なんて、個人を、特定、認識、するための、記号の、一つ。今、目の前に、あなたが、いるなら、この場では、そこまで、重要、じゃない」

 

見た目でモロバレな気もしますが本人だと名乗らなければそっくりさんで誤魔化せる範囲内でしょうし。

彼女が彼女であるとわたくしが認識していれば呼び方なんぞ何でも良いのです。

 

「そう、か……中々ユニークな考え方だな」

 

「変人、って、言っていいよ。何故か、よく言われるし。解せない、けど」

 

「くふっ……失礼。確かに、変わっている」

 

あれー? 否定してくれない。何故だ。

 

「で、ルナ。あんな、ところで、何してた、の?」

 

「……ぁぁ、と、それは、だな……」

 

落ち着いたところで本題に切り込みます。

ま、言い淀むところまでは想定内。

 

「話して、みた方が、気持ち、楽に、なるかもよ? ほら、行きずりの、女、相手なら、後腐れも、無いでしょ?」

 

「すこぶる聞こえが悪いな!」

 

声を少し荒げてルナちゃんが抗議します。

ん、ツッコミ出来るくらいには元気になったなヨシヨシ。

 

「なら、私の、ことは、道端の、石ころ、とでも、思って、話して、みない? 知り合いに、打ち明ける、よりは、気が楽、じゃない、かな」

 

「それはそれで私がとても哀れなウマ娘になりそうなんだが……だが、まぁ、そうだな。うん。少し長くなるかも知れないが、聞いてもらえるだろうか?」

 

「ん。どんとこい」

 

多少吹っ切れたのでしょう、居住まいを正してルナちゃんが話し始めます。

 

「……私には、夢があるんだ。『全てのウマ娘を幸福にする』という、最早生きる理由と言っても過言では無い夢が。その為に信頼と実績を得るべく、私は頂点を目指し走ってきた。先日、大きなレースがあって、それに勝利すれば私は夢に向かって大きな一歩を歩めるはずだった。はずだった、のだが……」

 

目線とウマミミがやや下がります。コップの麦茶を一口含み、軽く息を吐いてから彼女は続きを話します。

 

「調整に失敗してね、その大きなレースに出る前に脚を痛めてしまったんだ。慣れない環境と気負いすぎた思いが、私から冷静さを失わせていたのだろう。そうして医師から告げられた病名は、繋靱帯炎……そう、ウマ娘にとって不治の病とも言われているそれだ」

 

そう言いながら左脚をさするルナちゃん。

そういや風呂入った時に包帯巻いてるの見ましたね。

 

「私は結局、その目的だった大きなレースに出ることが叶わず帰国したんだ。大きな一歩を踏み出すどころか、果てしなく後退してしまったんだ。あと数ハロンというところまで見え始めていたゴールが、遥か遠くに行ってしまったんだ……」

 

「私がこれまで努力して来たものは何だったのかという絶望感と虚無感、そして今まで私を支えてくれた皆に対する罪悪感で自暴自棄になってしまってね……もういっそ、綺麗に全てを諦めてしまった方が良いのではないかという考えさえよぎった。だがそれこそ期待してくれたすべてに対する裏切りだろう? 正直、分からなくなってしまったんだ。私が歩んだ道は間違っていたのか、そも目指すことから間違っていたのではないか、と。茫然自失のまま空港を出た後、戻るべき場所に戻ることも出来ずふらふらとしていたら、いつの間にかあの場に佇んでいた……という訳さ」

 

なるほど遠征帰りの途中だったか。この地域、別に学園の近くってわけじゃないのに何でこんな所に彼女がいるんだろうと思ったけどそういうことか。

 

ていうか前世知識でもアプリでお迎え出来てなかったから知らなかったけど、彼女ってそういう経緯持ってるウマ娘だったんだ。

アニメ1期ラストのウィンタードリームトロフィーでしか走ってる姿を見たことが無かった理由がこれか。

 

……くっそ重っ。

 

「どうだい、まるで道化の演じる喜劇のようで笑えるだろう?」

 

「笑えない、よ。笑わない」

 

「そうか……どうも私にはユーモアのセンスが足りていないらしい」

 

肩を竦め、自嘲気味に笑みを浮かべるルナちゃん。

なるほどね。大義も走りたい欲求も持たないわたくしには彼女の気持ちが分かるとは言えませんが、気落ちしたくなる理由としては理解出来ます。

 

「ルナの、事情は、理解、した。その上で、言わせて、もらう」

 

理解は出来ますが、納得は出来ません。

全く。頭の良い娘は頭でっかちになりがちですね。

自分の中だけで結論を出すんじゃありませんよ。

 

「あほか」

 

あ、ルナちゃん固まった。

 

「……あ、阿呆!?」

 

「なに、勝手に、絶望して、勝手に、罪悪感、感じてるの。あなたの、夢は、そんな、ちょっと、躓いた、程度で、諦めて、しまうような、ものなの? あなたの、夢に、志を、同じくして、付いて来た、人達は、その程度で、貴方に、失望する、ような、関係なの? もうちょっと、信じて、あげなよ、周りの、人達を、自分の、信念を」

 

「……」

 

「あなたの、積み重ねが、無くなった、わけじゃない。あなたの、夢が、無くなった、わけじゃない。諦め、なければ、それは、全て、また進む、ための、糧なんだよ」

 

積み上げたジェンガにボールがぶつかって崩れても、ピースは残ってるんです。また同じように積むも善し、ボールも巻き込んで違う形を作るも善し。崩れたままにするのはもったいない。

 

「わたしの、言ってる、ことが、綺麗事、なのは、分かってる。けど、あなたの、理想も、綺麗事、なんだし、ちょうどいい、でしょ?」

 

「……はっ……はは、はははは、あはははははははははははは!」

 

堰を切ったようにルナちゃんから笑いが溢れます。先程の自嘲の色は見えないが、果たして、届いてくれたか?

 

「い、今まで、私に助言をしてくれた幾人かはいたが、阿呆と言われたのは初めてだ! 罵倒されたはずなのに、何だこの爽快感は! あはははは、凄いな、君は!」

 

笑いながら憑き物が落ちたように語り出す彼女。

 

「あぁ、ああ! 確かに私の理想は綺麗事だ。実現には多くの障害が立ちはだかる夢物語なのかも知れない。けれど、それがどうした。それが夢を追ってはいけない理由にはなり得ない。ならば確かに、怪我をして満足に走れなくなった()()で、諦めていい理由にはならないな!」

 

いつの間にやら先程まで悄気(しょげ)ていたウマミミは凛と真っ直ぐに天を向き、更には彼女の存在感が増したように感じます。

これは恐らく、強者のオーラあるいはカリスマと呼べるような代物なのでしょう。

消え入りそうだった存在感は一転して、誰もが無視することの出来ないほどに大きく濃く、熱い圧を放っているかのようです。

きっと、これが本来の彼女の姿。

 

「近道は失われたかも知れない。長い長い遠回りになってしまったかも知れない。けれど目指すゴールは確かに存在している。ならば私はそれを目指して走るだけのことだった! 君に言われるまでそれを忘れてしまうとは、私もまだまだ精進が足らないな! ははははははっ」

 

お腹を抱えてテーブルに突っ伏し、肩を震わせながら笑い続けます。

それからしばらくして。

一頻り笑ったルナちゃんが起き上がります。

全身から漂うオーラはまるで大河を思わせるかのように穏やかながらも力強く、そしてその瞳にはアメシストが如き鮮やかな紫色が光り輝いています。

軽く見惚れていると、こちらにスッと右手を伸ばしてくるルナちゃん。

 

「メルテッドスノウ、ありがとう。君のお陰で私はまだ前を向いていけそうだ」

 

おや、これは握手を求められています?

ふむ……ならば丁度いい。しっかりと握り返して、えいやっ。

 

「ん。それと、わたしからの、予言。あなたの、脚は、治るよ。そして、必ず、また走れる。迷わず、行けよ。行けば、わかるさ」

 

あなたの進む軌跡よ、道となれ。

 

「君は……本当に凄いな。今の私が欲しい言葉をくれる。まるで年下とは思えないよ」

 

今度はわたくしがテーブルに突っ伏す番でした。ゴンっと小気味いい音が響きます。

ぁー……やっぱりそう思われてたか。

幼児体型でごめんなさいねぇ!

 

「……ぁー……ごめん。多分、年上」

 

「んんっ!? て、てっきり小学生かと……それは、すまなかった……」

 

言うに事欠いて小学生だとぉ!?

それは言い過ぎだろこの恵体ウマ娘めぇ!(血涙)

 

「とっとっと、特に、気にし、気にして、ない。問題ない、ない」

 

「気にしまくってるな」

 

「ぐぬぁー」

 

見上げると彼女と目が合って、何だか可笑しくなってお互いに笑いが込み上げる。

 

「「……ふふふっ」」

 

何よ、そんな可愛い笑顔出来るんじゃない。

 


 

しばらくして、オヤジが部屋にやって来ました。

ちゃんとノックして入るなんて良く出来た紳士ですね。

 

「おい、雨上がったぞ。いい時間だ、帰るか泊まるか選べ」

 

「あらま。どうする?」

 

「帰ることにしよう。先程マルゼン……こほん、知り合いから連絡があった。あまり心配を掛けるのも良くないからな。……本当に、ありがとう、メルテッドスノウさん。貴方は私の迷いを払ってくれた。正に六根清浄(ろっこんしょうじょう)の心持ちだ。貴方のことは決して忘れない。施設長もお世話になりました」

 

ルナちゃんは立ち上がってこちらを向いた後、オヤジに頭を下げました。

うん、今の彼女ならこのまま帰らせても心配無いかな。

 

「気にするな。服は洗濯してこの袋に入れてある、持ってけ。今着てるのもくれてやる」

 

「おおげさ。まぁ、またどこかで、会ったら、よろしくね、ルナ」

 

「あぁ、またどこかで。では」

 

玄関でルナちゃんが遠ざかって行くのを見送ります。いつまでもいつまでも見送って、見えなくなった頃合いでオヤジに声を掛けました。

 

「んじゃ、わたしも、帰る。オヤジ、ありがと、ね」

 

「礼なんざいらん。親が子の面倒を見るのは当たり前だ」

 

「ん」

 

マジ良い人。聖人だわ。

わたくしに対することもそうだし、彼女のことも事情を聞かないでくれた。頭が上がらんわ。

 

「あとな、最近匿名で振り込まれてるが、お前だろアレ。まとめて振り込み返すからな」

 

「なぜバレたし」

 

勝てねえ。素直に受け取ってくれよオヤジぃ……。

 

さて、チート使っちゃった。ごめんお母さん。

だって彼女の落ち込みっぷり、見てられなかったんですもの。あんなに夢に向かって頑張ってる娘っ子、報われて欲しいって思うじゃん?

脚の怪我だったから、わたくし麻痺ってて痛くないからギリセーフってことで。

 

……ところでこれ、アリじゃね?

ウマ娘にとって悩みの種の脚の故障、わたくしなら引き受けてもノーリスクじゃね?

因果のうちに貰っちゃえば走るどころか歩けないわたくしなら発動の心配も無いし。

怪我の状態で貰っても痛くないし。

 

けどどうやってアニメのウマ娘ちゃん様達とお近づきになろうかねー?

学園近くでカフェでも営んでみようかしら。んで軽くお話ししながらカウンセリングっぽいのしながらこっそり因果貰ってみたり。いやそれだと客として来てくれた娘しか対応出来ないな。しかもよく考えたら客にベタベタ触るとかセクハラだわ終了わたくし自身があんなウジ虫に成り下がるとか冗談じゃないわ。

んー、ウマ娘ちゃん様達を自然な流れで健康に、健やかにする何か上手い方法は……ぁ。

 

 

 

そういえば学園に養護教諭とかいねぇな?




■チートオープン、界放!!(誤字じゃないよ)
この頃のスノウちゃんは『脚の故障なら余裕で引き受けられるだろ』と軽く考えてました。まさか『脚以外の傷病を患ったウマ娘もいる』とは思わずに。
彼女がそれに気付いたのがCase03の本文ラストです。気付いた方もいるみたいですが、なんか文字反転したくなるような不自然な空白がありますね?
スノウちゃんが覚悟完了した瞬間です。
ライフで受ける!!!

■セクハラ憎し
完全なる裏設定。
前世で痴漢冤罪を食らいかけた経験があり、痴漢行為に対し非常に強い嫌悪感を持っている。
EX1-2で壊れかけてた自我が呼び戻される程度には魂に刻まれている模様。

■いくつか感想返し
Q.子供時代にお母さんの事故、因果の時点で引き受けなかったの?
A.覚醒前なので因果のやり取りは自覚していない=使えない、という扱いにしています。

Q.発動してないだけで足、やばくないの?
A.もし一歩でも歩いたら足パーンすると思います。

Q.10話、てっきりデジたんが鼻血出すのかと
A.そういうミスリードは狙いました。今は反省している(棒)

Q.マチタンの蕁麻疹は治さなかったの?
A.裏設定ですがスノウちゃんは傷病を受け取る基本的なルールとして、①引退に関わるほどの傷病であること ②命に関わるものであること のどちらかに該当するものに限っています。その上で③スノウから治しに出向かないこと が適用されます。が、テイオーの時はそれらをガン無視したので結局はスノウちゃんの気分次第です。

Q.スズカは治さんの?
A.スノウちゃんが就任したのがアニメ2期頃なので時期的に1期に骨折したスズカは救えてないはず。が、今回のように過去に出会っていれば、あるいは……

Q.Case12後書きの大会云々、筆者特定されない?
A.当時から芸名で活動していたので問題ありません。むしろTwitterも同じ名前でやってますので、そっちからの方が特定しやすいと思います(ぇ
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