【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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主人公視点


Case20:養護教諭の夏祭りと花火

日本の夏は暑さよりも湿度が極悪です。

汗が蒸発しづらいから体温下がりにくいのが問題なんですよね。

つまり、あっっっつい!!!(語彙力ぅ)

 

最近は9月末くらいまで30℃超えの残暑になったりするのが割と珍しく無くなってきましたが、みなさま熱中症で倒れたりしてませんよね?

部屋の中に居たとしても水分補給はこまめに行いましょう。

特にウマ娘はヒトより平熱が高めなので暑さ対策はしっかり講じましょう。

というわけで文明の利器(クーラー)は積極的に使っていこうぜ? メルテッドスノウです。

 

そうそう、まだ視察の途中ではありますが、やはり怪我などをする娘はほぼおりません。全くいないというわけでは無いですが、学園にいる頃と変わらない程度です。一安心ですね。

中間報告でたづなさんに電話でその旨を話した際、もののついでに例のナンパーズの件も報告したところ……翌日から警備が大幅強化されました。何でもメジロ家とシンボリ家の方から協力を申し出てくれたらしいです。

動きが早いですね。流石はウマ娘ちゃん様達を思いやる素晴らしい方々です。幼気(いたいけ)で可憐なウマ娘ちゃん様達が心の傷を負う事態になる前に対策して頂けて、スノウちゃん大変満足です。ありがたやありがたや。

 

そんなこんなで合宿期間も残り僅かとなって参りました本日、午後のトレーニングを終えたウマ娘ちゃん様達がここ合宿所に戻って来るのを冷房の効いた室内から眺めているわたくしです。

 

チームスピカへの同行は最初の1週間で終わっておりまして、その後も7日毎に他のチームに回されているわたくしですが、おかげで水着姿のウマ娘ちゃん様達を拝見してもすぐさま我を忘れるような事態には陥らない程度には慣れてきました。

 

ただし左手の指の間に鉛筆挟んでそれを右手で握りながらですけど。痛い痛い痛い。でも何かしらこうやって己を律していないと危ないんですってマジで。

お仕事モードになって集中していれば問題無いですけど、リラックスモードの時はまだまだ油断出来ません。それもこれもウマ娘ちゃん様達が可愛過ぎる萌え過ぎる尊過ぎるのがいけないんです。

 

本日は同行しているチームのトレーニングメニュー的に、動けないわたくしは邪魔以外の何者でも無い状態ですので合宿所でお留守番です。

いつもの保健室であればコーヒーをドリップしちゃうところですが、生憎ここにそういった設備はございません。ですので箱で買い溜めしておいた缶コーヒーを傾けていたところでございます。鉛筆が邪魔で飲みづらいですが我慢です。

あ、もちろんメーカーは例の1万字怪文書を生み出したり感謝の1万缶並べしたりしたとこのやつですよ。あの熱意には正直頭が下がります。

 

次々に合宿所へ戻って来る水着姿のウマ娘ちゃん様達。シャワールームと更衣室が合宿所内にありますので、皆そこで汗を流してからジャージもしくは私服にお着替えいたします。

つまり、部屋から眺めているだけで汗や海水にまみれた濡れ感MAXウマ娘ちゃん様達が自動的に次から次へとやって来るというわけですね。もうほんとこの状況に課金出来ないのバグじゃないですか?

 

ところで心なしかウマ娘ちゃん様達の表情に笑顔が多い気がします。浮足立っているような?

ま、理由は分かってるんですけども。

 

今夜は近所で夏祭りが開催されます。

花火大会もセットとなった、結構な規模のお祭りです。

アスリートではありますが同時に学生なウマ娘ちゃん様達、こんな楽しそうなイベントに食いつかない訳がありません。

 

わたくしはちょっと人混みが得意ではありませんので、お祭り会場まで行くつもりはありません。

少し離れた所から締めの花火さえ見られれば満足です。

ということで、お祭り会場方面が良く見えそうな場所を探しにでも出掛けようとしたところで、現在同行を許されているチームの娘に見つかり、声を掛けられました。

 

「あ、スノウ先生」

 

「先生こんなとこでどうしたんだ? お祭り、行かないのか?」

 

「へいへーいスノウちゃん先生、こんなとこにいたって祭りは待ってくれないんだぜ! どうせなら一緒にゴートゥーヘルだぜ!」

 

「地獄に行ってどうするんですか。お疲れ様です、メルテッドスノウ先生」

 

イエス、チームカノープスの面々です。

私服に着替えたネイチャさん、ターボ師匠、カネタン、イクノんの4名がわたくしに近寄ってきます。みなさん普段の格好も素敵ですが私服姿もとてもお似合いですね。

学園ではネイチャさんを始めとして週1ペースで誰かしらが保健室に遊びに来てくれていましたが合宿が始まってからは中々そうもいかず、今回の同行が久々のご対面だったりします。

 

「ん、わたしは、花火が、見られれば、良いから、お祭りは、行かない、つもり」

 

「えーーーー!! 先生行かないの!? やだやだ行こうよ、ターボたちとお祭り一緒にいーこーおーよー!」

 

抗議の声を上げた師匠がわたくしの後ろに回り込み、車椅子の手押しハンドル部分に掴まって左右に大きく身体を揺らします。こらこら師匠、そんなことするとこうですよ。

車椅子を操作してその場でくるくる回転します。ハンドルを掴んでる師匠を振り回しながら。秘技、セルフメリーゴーラウンドー。

 

「お、え、わは、うわははははははは、いーやっほーーー!」

 

「ほらほら、二人とも遊んでるんじゃありません」

 

あ、ネイチャさんに嗜められた。ごめんちゃい。

 

「で、本当にスノウ先生は行かないの?」

 

「ん」

 

ええ。先程も言った通りわたくし、人混みがやや苦手でして。大勢の人と関わるのが嫌いってわけではなく、単純に人混みを避けるために車椅子の操作に気を張り続けてなきゃいけなくなるんで少し疲れるんですよ。

わたくし的には花火は確実に見ておきたいんですが、それさえ出来ればそれで良かったので無理に会場まで行くことも無いかなぁと。

 

「うーん、そっかぁ……いや、まぁね? あまり乗り気でない人を無理に誘うのもアレだし、仕方無いんだろうけどさ……」

 

おや、ネイチャさん微妙に歯切れが悪い。

 

「んーと、出来ればネイチャさんとしても保護者がいてくれると助かるというか。ほら、ターボとおマチは見ての通りだし、イクノは割とましだけど時々流されてるし、あたしだけでテンション上がってるみんなを抑えられるか不安だし、南坂トレーナーはちょーっと忙しそうで誘えなかったし、他に誰かもう一人くらいいると安心かなーというか。……ぁー、というかですね、あたしも、先生とお祭り、行きたいなーと言いますか……」

 

こちらから目線を外し、されどもチラチラとこちらを伺いつつ、ツインテールの片方を指でくるくるといじりながらそんなことを言ってくるネイチャさん。

ぅーーーゎーーーぁーーーいじらしい! めんこい! 萌え苦しいーーー!!

本日のわたくしの心臓を止めに来た刺客はあなたでしたかネイチャさん! 

ゲイ・ボルク(必中)、相手(スノウ)は死ぬ。その攻撃はわたくしに良く効くぞもっとやれ。

 

普段そんなに自己主張してこないネイチャさんにここまで言わせてしまったんです、この心意気を拾わずしては養護教諭の名が廃ります。

車椅子の操作で疲れる? そんなもん今のこのネイチャさんの表情を拝見することで分泌された脳内麻薬で微塵も感じる気がせんわぁ!

 

「ふむ、そういう、ことなら、付き合うよ」

 

元より『疲れるから』以上の理由もありませんので、固辞するほどのことでもありませんし。

折角お誘いいただいたことですし、みんなと回ってみるのもまた一興でしょう。

 

「え、ほんと? やたっ、言ってみるもんだ」

 

小さくガッツポーズをするネイチャさんがわたくしの心臓に追い打ちを掛けてきます。もうとっくにライフはゼロです。あと2時間ほど耐え切れスノウちゃんハート。

 

「あ、確認しなかったけどターボとおマチは兎も角、イクノ。先生も一緒でいい?」

 

「ええ、何も問題ありません。ご同行、宜しくお願いします先生」

 

ではでは少し予定を変更しまして、カノープスの面々と共にお祭り会場へ向かうことと致しましょうか。

 

 

 

■Case20-1:焼きそば

 

はい、というわけでやって参りましたよお祭りへ!

会場では奥にある広場の中央で櫓が組まれ、その上で和太鼓を軽快に叩いております。そしてそれを囲むように盆踊りを楽しむ人々がたくさんおりました。そしてそこまで通ずる道の両端には所狭しと色々な屋台が並んでいます。

 

陽も落ちて西の空にわずかな茜色を残してはいるものの、全体的にはほぼ藍色の星空。電球色の温かみのある色を使った提灯や屋台の照明。聞こえてくる祭囃子。賑わう人々の群。

 

ンンンンン良いですねぇ! これぞ夏の風物詩といった感じです。

はいそこ『さっきまで行かないつもりでいた癖に』とか言わない。

日本にはこういう時に使う素敵な諺、アリマース。

『それはそれ。これはこれ』

結果オーライなら良いんです。

 

「へーいらっしゃい! 焼きそばいかがっすかー!」

 

ほーら、屋台の呼び込みとかも実に威勢が良くて祭りの雰囲気を盛り上げてくれてるじゃないですか。いつまでも細かいことを気にしてないで楽しんでいきまっしょい。

……というかですね、焼きそば、合宿所の近所。このコンボが成立していて先程の声に聞き覚えがあるということはですよ。

 

「やはり、いたな、ゴルシちゃん」

 

登場が早いんだよゴルシちゃん(オチ担当)よぉ!?

のぼりに『やきそば』と書かれた屋台では、法被を着てねじり鉢巻きをつけたゴルシちゃんが金属ヘラを両手に、大きな鉄板を前にソース香るやきそばを大量に炒めていました。

法被姿とかが余りにも馴染みすぎてるんですよこの場の空気に。

 

「お、先生じゃんか。そりゃ近くにこんな稼ぎ時がありゃあたしが出張らないワケが無いんだよなぁ」

 

「それは、納得」

 

まぁ特にあなたの場合はどこにいても不思議じゃないですけど。

どこにでもいて、どこにもいない。どっかの戦争好きの人の部下みたいなやつめ。

 

「兎も角だ。ほらよ先生、食ってけ食ってけ。こいつはあたしの奢りだ」

 

そう言ってゴルシちゃんが、わたくしの前にパック詰めされたやきそばを差し出しました。

雑に詰められた焼きそばはパックの口からややはみ出しており、出来立てのそれから立ち上る湯気が、ふりかけられたかつおぶしをゆらゆらと踊らせています。

青のりと焼けたソースの香りが減り気味のお腹にダイレクトアタックを仕掛けてきます。ほーいいじゃないか。

 

「あら。ありがと、ゴルシちゃん」

 

感謝祭で食べられなかったというフラグ回収、雑ぅ。いや頂きますけど。

けど今はまだみんなと動き回りながらなので持ち帰りでお願いします。

他にも色々食べ歩きしたいですので。

 

「あーーー! 先生、抜け駆けはずっこいですよー!」

 

おやカネタンに見つかった。まぁそうだねずっこいね。

 

「ゴルシちゃん、あと5つ、頂戴。流石に、お金は、払うよ」

 

「あいよっ。ま、先生もしっかり遊んできな。言うまでもねーかも知れねーけどさ」

 

ビニール袋に入れられたパック焼きそば計6つを持たせてくれたゴルシちゃん。

人数に対して1つ多くないかって? 南坂トレーナーへのお土産ですよそりゃ。こんな日でもウマ娘ちゃん第一で残業している素晴らしい超有能トレーナーにも差し入れしないとでしょう。

 

「ん。ありがとね」

 

「おう」

 

どーれ、確かに折角ですんで全力で遊んじゃいましょうかー!

 

 

 

■Case20-2:お面

 

ずらっと並んだ様々なキャラクターのお面に、師匠が興味を惹かれております。

一個々々見ては『おー』とか『はー』とか言ってます。ぷりちーだなこの師匠。

 

「なぁ先生、これ何のお面なんだ?」

 

オレンジ色のフルフェイスマスクに黒いゴーグル、緑のモヒカンを生やしたようなお面を指さして師匠が尋ねます。

 

「それは、キャロット、マン」

 

こいつはビコペンが好きな特撮ヒーローでしたね。人参がモチーフのフォルムで、基本的には子供向けの勧善懲悪で分かりやすいお話なのですが、動画配信サービスのほうでやってた同シリーズの「キャロットマン・ブラックさん」とかは子供完全置いてけぼりのむっちゃ泥臭いお話でした。この作品も息が長いので支持年齢層が幅広いんですよね。

 

「これは?」

 

「爆走、猛姫☆、プリンセス、ファイター」

 

キャロットマンが男の子向けだとするならば、こちらは女の子向けのアニメ作品です。闇から生まれ、勝利の為に悪逆非道の限りを尽くすダークウマ娘と、正義の心で正々堂々と立ち向かう姫戦士ウマ娘がレースで戦うお話ですね。こちらも小さいお友達(おんなのこ)から大きなお友達(おとうさん)まで支持されています。こちらもシリーズ化されてますね。初代はプリファイにて最強。

 

「こっちのは?」

 

「美少女、ソルジャー・ブレザー、ルーナ」

 

あら懐かしい。こちらの歴史はやや古く、お母さん世代がハマったアニメですね。月のお姫様の生まれ変わりとか思い込んでるJCが、やたらと何かの契約を迫って来る白猫と、仮面を付けた怪しいロリコン紳士に付き纏われるという……あれ、そんな話だったかな? 違ったかな?

 

「へー、先生詳しいな。あれ、じゃこれは?」

 

「ん……んん!?」

 

マニアックぅ! こんなお面も売ってるの、てか作られてたの!?

師匠が指示した先にあったのは、白い猫耳と両耳下に大きな鈴をつけた緑髪の女の子のお面。これは……。

 

「ベ・ジ・キャロット、通称、ベジ子」

 

すこーし(?)前に深夜アニメでやっていた、完全ドタバタギャグコメディアニメじゃないですか。世間に『萌え』という文化を根付かせた内の一柱。

うわぁ、隣にはミニ・キャロット、通称ミニ美の。更に隣にはラディッシュ・ローズ、本名うさだのお面もあるぞ。

主人公から放たれる『耳からホーミング(レーザー)』は当時衝撃的だったなぁ。

そういえば最近、動画で復活したんだっけ。

 

「どれか、欲しいの、ある?」

 

ええぞー、気に入ったのがあればおいちゃんが買うたるでー。

きらきらしたお目々で端から端まで満遍なく物色する師匠が選んだものは。

 

「うーん、そうだなー……じゃあ、これ!」

 

うわーお、そいつを選びますか。

分かって選んだわけじゃないよなぁ。絶対知らないはずだよなぁ。

彼女が選んだのは、全体が青色でツンツン髪、ウマ娘のように頭の上の方から耳を生やした、何故か眼球が繋がってるデザインの、通称『冒険好きの青いハリネズミ』でした。

 

「さすがだね。こいつは、速いよ」

 

「速いのか!?」

 

めちゃくちゃ速いぜ。道は彼が走った後に出来ますぜ。

師匠も彼のように運命をスピードで振り切ってやろうぜ。

障害になりそうな因果(もん)はわたくしが貰っておきましたんで。

 

 

 

■Case20-3:射的

 

「こういうものは軌道計算が重要です。このように……弾丸の重量、形状、銃のパワーから射出速度を算出し、現在の気温から空気抵抗率を代入、そして景品の重心から最大限に揺さぶるポイントを見出して……ここです!」

 

――パンッ

 

ちょいと縁日の射的相手に本気で計算して最大効率を叩きだそうとしているイクノん。

脇を締めて、照準を覗くときに片目を瞑ったりせず、両肘を台の上でしっかりと骨で支える形について射線がブレないようにする、お手本のような射撃姿勢です。

加えて狙っている景品も無理なく、下の段の方にある軽めのお菓子とかなんですが。

 

「……お嬢ちゃんは可哀想になるくらいかすりもしないなぁ……」

 

「な゛っ! な、何故……」

 

屋台のおっちゃんからすら同情され始めておりました。

まぁ、屋台のコルク銃ごときに理論値通りの性能を引き出せる精密性はありませんわなぁ。

ゎ、茫然として眼鏡が斜めにずり落ちちゃってますよ。けどそんな姿もお可愛らしい。流石は『眼鏡が似合うインテリ系ウマ娘』ランキング第3位(スノウちゃん調べ)です。異論は認める。

 

――パンッ、コンッ

 

「っくぁ〜〜〜、惜しいっ! 揺れたんだけどなぁ」

 

「ぉ、こっちのお嬢ちゃんは筋が良いねぇ。もうひと押しっ!」

 

ネイチャさんが狙ったものは、一番上の段にある一抱えもあるような大きいぬいぐるみ……ではなく、その下の段にある純和風の茶運び人形……渋いっすね、ネイチャさん。

先程から割とヒットはしてるんですが、頭がゆらゆら揺れるだけで倒れたり落ちたりはしてくれません。重心の上の方に当ててるので狙いも良いのですが。

さてもう一手、何が足りないか分かるかなネイチャさん?

 

「大きい、景品は、重くて、倒れづらく、出来ている。必要、なのは、それを、圧倒する、パワー。よって、こう」

 

景品が倒れない? ならば倒れる威力で撃てば良い。

コルク銃を右手に持ち銃口は景品に向けたまま、出来るだけ身体より後ろに引きます。逆に左手は照準を定めるように真っ直ぐ前に。狙いは勿論上の段、一番大きいニンジン型のぬいぐるみっ!

まるで銃を矢として番えて弓を引き絞るような体勢から、右手を素早く前に突き出し、反対の手を同時に引き、更に腰の捻りも交えながら腕が伸び切るその直前でトリガーを引きます。

難しいこと言いましたが、要は突きながら撃つ!

そう、銃単体で足らないパワーは他の運動エネルギーで補えば良いのです。

これぞわたくしが編み出した必殺の射法、名付けて『ブラッディースクライ(略』。

 

――ズパァンッ! コンッカンッ、バチィッ!

 

「ぐああああーーっ!」

 

ま、マチカネコダインーーー!!

何故か後ろにいたカネタンのおでこにヒットした。

ごめん、この撃ち方ってパワーは兎も角、狙いはブレブレだから命中率は目も当てられなくって。

カネタンが倒れてしまったホントごめんよ。

……これ、カネタンゲットしたことにならない? あ、ならない。デスヨネー。

 

 

 

■Case20-4:花火

 

――ドドォン!

 

「たままやーーー!」

 

「なんか違くないターボ?」

 

――ドンッパパァン!

 

「なかむらやーーー!」

 

「それはもう完全に違うよねおマチ?」

 

――ドドンドンドドォン!

 

「……ファーーー!」

 

「最早分かってて言ってるよねイクノ!?」

 

あれから花火が始まるちょっと前に見晴らしの良い場所にみんなで移動し、屋台で買い込んだ食べ物をかき込みながら、打ち上がる花火に一喜一憂しております。

そして律儀に全員にツッコミ入れてるネイチャさん、流石です。さすネイ。

 

「はぁ全く……ぁー、もうすぐ夏も終わるなぁ。合宿も終わるなぁ。残り数日、頑張りましょっか」

 

ふいにしみじみと呟くネイチャさん。

出逢った頃のように『頑張る』という台詞に変な影は差していないようです。ちゃんと自分なりの頑張り方を見つけられたようですね。さすネイ。

 

――ドンッドンッ!

 

「ん……あ、そろそろ、かな」

 

プログラム的に花火も後半戦に移ってきた頃です。

ぼちぼちわたくしが花火を見ることには固執していた理由が出て来るはず。

 

「ん? どしたの先生?」

 

「みんな、次の、花火、注目」

 

ネイチャさんの問いにわたくしはそう答え、みんなの注意を空に向けさせます。わたくしの言葉に従い、見上げる4人。

さぁ、刮目せよー。

 

――ポンッ、ポンッ、ポンッ

 

まずは横並びに小さい花火が3発。

……プログラム後半の割には小振りじゃない?

そう誰もが思いかけたタイミングで高く伸びていく、5条の光。そして。

 

――ドドドドォンッドパァァン!

 

横一列に並んで視界いっぱいに広がる、一尺玉の菊花火が4発。

そして更にやや遅れてその中間に先の4発に負けないサイズの、蹄鉄を象った型物花火が黒い夜空に鮮やかに描き出されました。

音と共にやってきた衝撃波を身体全体で浴び、その余韻に浸る間もなく周囲から歓声が沸き上がります。

 

「おおおおーーーっ! 今の蹄鉄の形? すごいっ! すごいすごいっ!」

 

ぴょんぴょん跳ねて感動を表す師匠。

 

「へえぇ、蝶とか星の形は見たことあったけど蹄鉄型は初めて見たなぁ」

 

「その蹄鉄を彩った左右の花火もなかなか大きい見事なものでしたね」

 

「ほはーーー、面白い、綺麗、凄いっすわー」

 

ネイチャさん、イクノん、カネタンもそれぞれ感嘆の声を漏らします。お気に召していただけたようで何よりです。

 

「ん。特注」

 

「「「「……え?」」」」

 

「え?」

 

ん? いやそりゃそうでしょう。蹄鉄型花火なんて頼んで作ってもらわなきゃ出来ませんって。

 

《ただいまの花火は、中央トレセン学園からの協賛でした》

 

会場に花火の協賛者の名前がアナウンスされます。

こうやって大会に協賛金を納めることで花火を上げてもらうことが出来る場合があります。

金額によっては今回のように大きいサイズやオリジナルの花火を打ち上げてもらえたりもするんですよね。

 

「え、あぁ、今の学園(ウチ)出資()してるんだ。だから先生知ってたのか」

 

「な、なるほど。納得しました」

 

ネイチャさんとイクノんが先程までのやりとりとアナウンスの内容から解答を導き出したようです。おおよそ正解です。

 

「ん。ボーナス、ほとんど、突っ込んだ」

 

「「「「え゛っ!?」」」」

 

「え?」

 

いや、アナウンスされるのは知ってましたので個人名出すのは流石に恥ずかしいですので学園の名前で登録しましたって流石に。

ネイチャさんが恐る恐るといった具合に聞いてきます。

 

「……先生、ちょーっと確認なんだけどさ、さっきの花火はもしかして、学園が出資したものじゃ無くって、先生が個人で……?」

 

「ん。良いものに、仕上がって、良かった。綺麗だった、ね」

 

ウマ娘ちゃん様達の健康と発展の祈願と、みんなのひと夏の思い出作りの為に、バレンタインからこれまで大して課金出来なかったフラストレーションとお金を込めて、盛大なのを打ち上げてもらいました。

大きくてメジャーな花火大会とかで打ち上げるような3尺玉とかと比べると流石にやや小振りですが、それでも十分に大会最大サイズです。

特に型物花火は広がり方が球ではなく面ですので、逆さまになってしまったり運が悪いと縦線にしか見えないこともあるので今回は実にラッキーでした。

 

やぁ〜、それにしても間接的にとはいえこうやって推しの為に課金するのはやっぱり気ん持ち良いいィーーーッ!!

わたくしの課金欲も解消されてスッキリです。

 

「「「「うわぁ……」」」」

 

あれぇ……なぜこんな反応?

なんかターボ師匠までドン引いてるんですけど。

いや、いまどき個人で花火協賛するなんてそんなに珍しくもないと思うんですけど?

まぁ勝手に学園の名前使っちゃいはしましたけど、わたくし関係者ですし特に問題無いでしょう。メイビー。

 

ちなみに後日、カレンチャンがアップしてた花火の動画がバズり、それがたづなさんにバレてオハナシされた。ぐぬぬ。




■『眼鏡が似合うインテリ系ウマ娘』ランキング
1位:ビワハヤヒデ
2位:ゼンノロブロイ
3位:イクノディクタス
番外:シンボリルドルフ
よしんば2位だったとしても世界1位です。
つまり、みんな似合っててみんないい。

■ブラッディースクライ(略
実際にはパンチスピードがプラスされた程度で威力が上がるんなら苦労はしない。
机上の空論どころかただの妄想なのでお試しの際は自己責任でお願いします。
多分『銃振り回すな』って怒られます。
元ネタはダイの大冒険、ヒュンケルの必殺技から。
元々ここはるろ剣のガトチュで書いてたんですが、感想で『ブラッディーのほうが後の繋がりが良くね?』と言われてからずっと素敵な案だと思ってて、1年以上経過し満を持して修正。

■花火への掛け声
江戸時代の花火師の屋号『玉屋』と『鍵屋』が語源だと言われていますね。
たままやー:何となく響きがヤママヤーに似てたもので。誰かウマまんが大王とかって同人誌作りません? イラストはあるみたいですが本は無いみたいで。
中村屋:ご存知ない方は『披露宴 中村屋』で検索すると幸せになれます。なれないかも知れません。
ファー:ゴルフ用語。コースの先を回ってる人に危険を知らせる為の掛け声。主に打ち損じて変な方向にボールを飛ばしてしまった時に言うやつ。

■花火の尺玉
スノウちゃんには2~3尺玉くらい打ち上げてもらおうかとも思いましたが、流石に値段の桁が変わって来るのと消防法やら何やらで会場によっては大きすぎると打ち上げられなくなったりするらしいので1尺玉に抑えてもらいました。
ちなみに参考値ですが、隅田川花火大会では街中で打ち上げる関係上、最大で5号玉(1尺玉の半分)が限度らしいです。

■課金欲
課金厨のスノウちゃんは課金すること自体に喜びを見出す駄目ウマ娘です。
ガチャアア!! 10連ガチャア!!
いっぱいいっぱい回すのぉぉ!!
溶けるぅう!! 溶けちゃうう!!
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