【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい 作:藤沢大典
ギャグ全振り回
「うふふふふ、うふふふふ」
――なでなでなで
どうも、どーもどーも。
メルテッドスノウでございます。
さてわたくしは今、何処にいるでしょーうか?
「えへへへ、えへへへへへ」
――なでくりなでくり
正解は、ココでーす、こっここっこ。
トレセン学園からも程近い、駅前の居酒屋にやって来ております。
そして、現在の状況なのですが。
「スノウ先生は可愛いですねぇ、可愛くて……可愛いですねえぇぇぇ。えへへへへへへへ」
――なでりんこなでりんこ
なんかとってもご機嫌な桐生院葵トレーナーに先程から激しく撫でられまくっております。
うーん、これは状況説明の為にも、一旦回想シーンに飛んでおくべきですかね?
というわけでこちらのVTRをご覧下さい。どうぞ。
「壮行会?」
「そうです。理事長が秋から冬のレースに向けてサポートするトレーナー達の慰労と激励を兼ねて酒席を設けたとの事でして。で、メルテッドスノウ先生も是非に、と理事長が」
9月に入り、まだまだ暑い外気にやられないようにクーラーでがっつり冷やしている保健室にやってきたのは、黒いウェービーロングをなびかせ、これまた黒いスーツをビシッと着こなしたヒト娘、樫本理子トレーナーです。
「有り難いお話なのですが、私はあまりアルコールは得意ではなく。出来れば担当の事を考える為の時間を割きたくはないのですが……他のスタッフ達との横の繋がりを持つという意味ではそこまで悪い話というわけでもありませんし、費用は全て理事長持ちとの事なので、時間以外のマイナスもありません。総合的にプラスが多いと判断し、今回は一応参加しようかと」
「なるほど。で、それに、わたしも、誘われてる、と」
まぁ学園と言ってもそこにスタッフとして勤めるのは当然成人の社会人でありまして。成人した社会人となると、こういった酒の席はまま避けられない事態として発生することもありまして。
けど先程の理由なら、わたくしが誘われるのは場違いな気もしなくもないんですけど。トレーナーじゃないですし。
「ええ。理事長と、それと駿川女史が強く推薦されていましたよ。私としても同性が増えるのは心強いので参加して頂けるとありがたいのですが」
あの二人か。ここんとこなんかやたら甘やかされているような気がしますねぇ。
もしかして飴と鞭です? 今後は不眠不休で働かされたりするんです?
体力仕事じゃなければ構わんぞどんと来い。実際、24時間365日担当の事を考えているトレーナーに比べれば今のわたくしのやってる事なぞぬるま湯もいいとこでしょうし。
「なるほど。そういう、ことなら、参加で。わたしも、お酒は、そんなに、強くは、ないですけど」
お酒は前世も今世も好きなんですけど、好きだからと言っても強いとは限らんのですよ。
お酒単体より何かを食べながら飲むのが好きなので、すぐお腹いっぱいになっちゃいますし。
ですがまあ折角お誘いいただけた訳ですし、親睦を深めるのも大事ですし、古来より『他人の金で飲む酒と焼肉は美味い』と言われておりますし、ここは是非わたくしもご相伴にあずからせていただきましょう。
「ありがとうございます。では参加……と。当日は現地集合ですが大丈夫ですか?」
「ん、問題、ありません。ナビで、行けます」
樫本トレーナーが出席簿的なものにわたくしの参加を書き込みながら聞いてきますが、問題無いでしょう。会場は駅前のお店のようなのでとりあえず駅を目指せば良いでしょうし、今のご時世ウマホがあれば何とでもなります。
「そうですか。……皆さんは凄いですね。私はどうもそういった機械の操作は疎くて。念の為に印刷した地図を貰いましたが、それでも辿り着けるかどうかは神のみぞ知る、といったところでしょうか……」
……おいおいマジか。駅前に行くだけでそんな一か八かなのか。
確か彼女、前世のアプリでは凛とした見た目に対して目も当てられない運動性能とのギャップで一時期ネットで話題になりましたけど、運動以外も駄目なのか。
やだわたくしこの子の事がとても心配。
「ん、と。良かったら、一緒に、行きます?」
どうせ出発位置も到着位置も同じなら大した手間でもありませんですし、おいちゃんが連れて行ってあげますから。というか連れて行かせて下さい。
一人で向かわせた結果、会場であなたの到着をハラハラしながら待つことになる飲み会なんて落ち着いて飲めねーですよ。
ていうか理子ぴん、アプリよりちょっとポンコツさに磨きがかかってません?
「……宜しいのですか?」
「まあ、折角、ですし」
おかしい。ことウマ娘ちゃん様達の育成に関しては厳しいなんて言葉すら生温いほどガッチガチに個を縛るような訓練を課しながらも、その教え子から慕われるだけの手腕と愛を持っていて、更には理事長代理を兼任出来るという、超が3つくらい付きそうなほど有能な人のはずなのですが……それ以外がひどすぎる。
「……ありがとうございます。では、当日こちらに伺います。どうぞ宜しくお願いします」
「これは、ご丁寧に。こちらこそ、お願いします」
んまぁ、それでも他のスタッフと交流を持とうと奮闘する姿勢、嫌いじゃないぜ。当日は普段は話せないようなガールズトークが聞けるかもしれませんし楽しみにしておきましょうか。
……てな感じで予定の都合がついた幾人かのトレーナー達が集い、駅前のちょっと良いお店を貸し切りで盛り上がっているといった具合でございます。
今回の主催者である理事長とその秘書も元々参加する予定だったらしいのですが、急用で敢え無く欠席。結果、わたくしを除いて数名のトレーナーのみという面子での開催と相成りました。
そしてわたくしですが、何度も言う通りお酒は好きな部類ではあるものの決して得意ではありませんので、最初に頼んだグラス1杯をゆっくりと楽しんでいるといった次第です。
「スノウ先生はお肌もちもちですねぇ、スベスベですねぇ。えへへへへへへぇ」
それでまぁ、場の雰囲気とアルコールに早々にやられた桐生院トレーナーがめっちゃわたくしに絡んできてるところでございまして。
彼女もまだサワー1杯くらいしか飲んでなかったような気がしますけど、わたくし以上にお酒には弱いご様子。ほらほら、人のほっぺたムニムニして遊んでないでちゃんとチェイサー飲んどきなさい。
「桐生院、さん、とりあえず、お水飲んで。こんな姿、担当の娘に、見せられ、ないでしょ?」
アルコール摂取時はいつも以上に水分が大事です。少し飲んだら間に水を挟む、といった飲み方が翌日の胃のムカつきや頭痛を防ぐ賢い飲み方なのです。
『酒も水分じゃん?』と思った貴方はアル中認定です。アルコールには利尿作用があり、摂取量より排出量の方が増えるので結果的に水分補給になり得ないのです。
はいじゃあここでスノウちゃんによるアルコールの分解に関するミニ授業です。
アルコールは分解過程でアセトアルデヒドという物質が生成されるのですが、これが最終的に二酸化炭素と水に分解されます。で、このアセトアルデヒドが生成され過ぎて分解し切れず血中濃度が上がると身体が不快感を訴えるのです。
節々の痛みやダルさなんかがコイツが原因ですね。
またそれとは別に、利尿作用によって体内の水分量が減ると、その分血液がドロドロします。そうなれば血流が悪くなり、当然脳へ提供される血液もドロドロして流れづらくなります。
すると、それを何とかしようと血管が拡張するのですが、その時に拡張された血管が周囲の神経を刺激します。
これが二日酔いによる頭痛のメカニズムです。
ですので間に水を挟みながら飲むことで飲酒量、すなわちアルコール摂取量をセーブしてアセトアルデヒドの生成量を減らしつつ、かつ血液のサラサラをキープして頭痛を予防しておくというのが、翌日に残さない上手な飲み方ってわけですよ。
ちなみにいくら水分を摂ってもアルコールの分解速度が上がったりする訳では無いのでそこは注意しましょう。はいここテストに出ますよー。
「えへ、お水、飲みます〜。んくっ、んくっ……はぁー。スノウ先生は気配り上手ですねえ優しいですねえ可愛いですねえぇぇぇ。けどうちのミークもとおおおぉぉぉっても可愛いんですよぉ♪ 私なんかには勿体無いくらい良い子なんですよおぉ〜」
だいぶ正体を無くしてますねぇ桐生院さん。わたくし甘やかしモードから担当ベタ褒めモードに切り替わってきました。
まぁ確かにハッピーミーク、ミーちゃんは可愛いですけどね。あの一見やる気があるんだか無いんだか分からないような言動の奥底に秘めた強く静かに燃える闘志、わたくしでなきゃ見逃しちゃうね。いや桐生院トレーナーも見逃さなかったのか。
というかですね、正体を無くしても担当娘へのラァヴ(いい発音)は忘れないその精神、とてもとても素晴らしいでございます。なので褒めます。
「はいはい、桐生院、さんも、可愛いですよ。頑張って、ますよ。偉いですね」
「ううぅ、可愛くないですー、格好良くて頼られるトレーナーになりたいんですー」
机に突っ伏しながらぶーたれる桐生院さん。
全くもう……可愛いってお得ですね。こんなウザ絡みすら愛しく思えます。
「そうですね、格好良い、ですよ、偉いですよ、よしよし」
「……えへへへへぇ……すぅ……」
ちょろい(ちょろい)。
先程のお返しと言わんばかりにしばし撫でていると、にへらと破顔したまま寝息を立て始めてしまいました。
ま、無理に起き続けて飲み続ける必要も無いんです、しばらくこのまま休ませてあげましょう。
というわけで撃沈2人目です。
ぇ、1人目が誰か?
そんなんわたくしの隣にいる、開始早々にウーロンハイを一口飲んだだけで沈んでしまった理子ぴんに決まってるでしょういい加減にしろ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「お疲れ様です、メルテッドスノウ先生」
「お疲れ様、です、南坂、さん」
すやすや寝ている2名の敏腕トレーナー達の寝顔を肴にちびりちびりと舐めるようにロックグラスでお酒を味わっていると、チームカノープスの南坂トレーナーが声を掛けてきてくれました。手に持ってるジョッキはハイボールっぽいですね。
お顔はだいぶ赤いですが普段通りの受け答えです。顔に出やすいタイプなんですかね。
「合宿ではお世話になりました。うちの担当の子達と夏祭りにもお付き合い頂いたようで。ありがとうございました」
「いえ、わたしも、楽しかった、ですよ。こちらこそ、ありがとう、ございます」
「そう言っていただけると助かります。うちの子達、結構個性が強いので」
仕方無さそうに苦笑いを浮かべる南坂トレーナー。
『気性難で大変だったでしょう?』と言外に聞かれてますが、そうかなぁ?
カノープスに限らずみんな個性豊かで眩しい素敵な娘達ばかりだと思いますけど。
っていうか彼女らはこんなわたくしに声を掛けて、わざわざ夏祭りに一緒に連れてってくれた心優しいあったかい娘達ですよ。
「でも、みんな、良い娘たち、ですね」
「そう! 良い子達なんですよ! 流石先生、分かっていただけますか!」
いきなり大声になる南坂トレーナー。
お、おお? これはアレか、自分の好きな話になると勢いが止まらない系の感じか。酔った勢いもあるんだろうな、普段のこの人ならこうはなるまいて。
やはりこの人も担当の娘達のことが大好きな黄金の精神を持つトレーナーの一人ですね、感服です、尊敬します。
「ええ。とても良い、チームだと、思いますよ」
「嬉しいですね、学園の雪妖精にそう言っていただけるなんて」
そう言って手持ちのグラスの中身を一気に呷る南坂トレーナー。わぁお、豪快。
けど今なんだか聴き逃がせない単語があったんですけど。
「え、と。その、雪妖精って?」
「ぷはっ。おや、ご存知ない? 巷で言われていますよ。保健室にひっそりと佇み、訪れた子に癒やしと安らぎを与えてくれる、白き衣に身を包んだ雪の妖精がいると」
なんかまた本人の預かり知らぬところで噂話が一人歩きどころかターフをほぼ独走状態で駆け抜けてやがるぞぉ!? 最終コーナーから一気に抜けてきた! 中山の直線は短いっつってんだろうがぁ!!(意味不明)
わたくしみたいな欲望にまみれた妖精が存在しているわけが無いでしょうがよ。だから絶対にその噂、どっかで悪霊とかと間違えてますってば。夜の学園とかで無表情で白衣の車椅子ウマ娘なんかに近寄られてご覧なさい。わたくしなら怖くて粗相してしまう自信がありますぞ。
「……一体、誰が、そんなことを?」
それはさておき噂の出処を抑えて締めておきませんと。
せめてこれ以上の拡大は阻止しておきませんと。
「ええと確か、がくえ」
空になったジョッキを持ったまま、会話の途中で唐突にバッタリと机に突っ伏す南坂トレーナー。
ん? あれ? おーい。
「南坂、さん?」
「くかー……くかー……」
落ちやがった! 肝心な情報を吐く前に落ちやがった! この人の酔い方、1か0かのタイプか! 『がくえ』ってことは『学園の』誰かなんだろうけど範囲が広すぎて絞り込めなさすぎる! 犯人は一体誰なんだちくせう。
ぐぬぬぬぬ、撃沈、3人目ェ……。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「……」
「……」
「……何だ」
「あ、いえ。お疲れ様、です」
「あぁ」
わたくしが陣取ってたテーブルが最早ただの寝床と化してきていたので移動です。
お店の端の方で延々と熱燗を手酌で飲み続けていた方がおりましたのでご挨拶をば。
こちらの御仁は黒沼トレーナー、ブルるんを担当されている方ですね。
テーブルにはつまみの冷奴も乗ってましたが、そちらは一切手を付けられていません。すげぇ、酒単体で飲み続けられる人だ。かっくいい。
「……」
「……」
あまり他人と会話をすることの無い黒沼トレーナーと、表ヅラは無表情無口系のわたくし。まるでスライムを使って卓球してるんじゃないかってくらいに弾まない会話。
ただ黙々とお互いに盃を傾けるだけという、居酒屋にあるまじき緊迫した雰囲気が生まれてしまいました。
とはいえこの御仁、意外と飲むペースが早くてそれに付き合ってると酔い潰れてしまいそうでしたので、わたくしはお酒のグラスは横に置いといてチェイサーの烏龍茶を飲んでますけども。
「……ブルボンが」
「?」
黒沼トレーナーが何度目かの空になったお猪口をテーブルに置いた時にふいに口を開きました。
「ブルボンが、あんたに感謝していた」
「……」
ブルるんが感謝、ですか? 何かしたっけわたくし。
最初の出会いの時に何か言いかけてましたけどそれ以降も特にその話題になったこともありませんし。あれからお米様と共にたまに遊びに来てくれますけど本当に遊んでるだけですし。
「俺からも、感謝する」
んー……ブルるんと遊んでくれてありがとう、ってことで良いのかな? 親目線的な。それならむしろわたくしの暇潰しに付き合ってもらっちゃってるのでわたくしの方がお礼を言わなきゃなくらいです。
「いえ、こちらこそ、ありがとう、ございます」
「……ふっ、変わったヤツだなあんた」
……ありゃ? 回答間違えたかな?
・ ・ ・ ・ ・ ・
その後、黒沼トレーナーとはまた延々と盃を酌み交わすだけのサイレント飲み会になってしまっていたたまれなくなったのと、つまみ無しに飲み続けていられなくなったのとで再度テーブル移動です。
「おおっ、噂をすれば妖精さんご本人の登場だぁ」
こちらではスピカの沖野トレーナーと、リギルの東条トレーナーが向かい合って飲んでました。
おっほぉ、バーではありませんがアニメ劇中再現が目の前で繰り広げられるとは……やっぱりテンションぶち上がりますね。アニヲタやってて良かったなぁ前世のわたくし。
ってかどこまで広がってるんです? その妖精扱い。
「噂?」
「合宿、防犯ブザー」
すかさず東条トレーナーが答えてくれました。
あぁ、あれか……。
「あぁ、あれか……」
いやぁ、あのナンパ野郎ズには適度に痛い目を見てもらって今後の教訓としてもらえれば良いかなーと思ってはいましたけど、ちょいと相手が悪すぎた。パクパクさんが社会的に、ゴルシちゃんが精神超えて魂魄的に制裁を加えましたので、そりゃあもう……此処から先は思い返すことすら恐ろしい。ガクブル。
「いやいや、あの時は迷惑を掛けてしまって申し訳なかった。けど正直助かった。あんたがいてくれるとゴルシがいつもより素直に言う事聞いてくれる気がするんだよ」
「へぇ、あのゴールドシップが。彼女と何かあるの、先生?」
東条トレーナーが興味深げに尋ねてきます。
足を組んで頬杖をついて、ちょっと小首を傾げて。
うーわーぉ、アダルティーな魅力もりもりっすたまんねぇっす。
ウマ娘ちゃん様ではありませんが『眼鏡(以下略』ランキングにも食い込んできそうだなこの知的美人さんめ。
「まぁ、ちょっと、ね」
ゴルシちゃんとの関係ですと?
一方的に秘密を握られてるだなんて言えるか恥ずかしい。
「ふぅん、訳あり、ね……まぁ何にせよ助かってるのはウチもそうよ。ルドルフやグラス達からもあなたの事は聞いてるわ。いつもありがとうね」
「いやいや、むしろいつも、お世話に、なってますので」
リギルは大所帯なだけあって知り合いの娘も多いですし。こちらはいつもいつも捗る思いをさせていただいておりますので、ほんとお世話になってます。
「ふふ、じゃあお互い様っていうことで。これからも宜しくね、メルテッドスノウ先生」
「こちらこそ」
お互いに微笑みながらグラスをカチンと合わせます。わたくし、表情筋の微調整は苦手なのでちゃんと微笑めたかは分かりませんけれど。
「おっと、女性二人だけで親睦を深めてるんじゃないぞぉ。俺も混ぜ、っとと、水、水……」
ちょいとふらつき気味の沖野トレーナー。そこそこ飲んでいるのか、だいぶ酔いが回ってるようですね。
水を求めて彼の手がテーブルの上を走り、わたくしの手からグラスを掻っ攫います。っちょ。
「あ」
「……ごヴァッハァ!!」
ぐいっと飲んだかと思う間もなく、即座に吹き出す沖野トレーナー。
黒沼トレーナーの席でチェイサーは飲み切ってしまっていたわたくし。今奪われたグラスは開始時から飲んでいたお酒のグラスです。まだ7割くらい残ってました。
気管からアルコールの臭気が回ったのか、そのまま目を回して後ろ向きに倒れました。ってうぉい大丈夫か!?
慌てるわたくしを横に、『またか』と言わんばかりにため息をつく東条トレーナー。
「ま、コイツは大丈夫よ。それよりあなた、これ何飲んでたの?」
え、酒の席ですし、そりゃあ酒ですよ。
「『天〇の、誘惑』って、焼酎。ストレート」
これ、それなりに強いお酒ですからそんな呷るような飲み方しちゃ駄目ですって。
「……よく平気ね、あなた」
「まだ、1杯目、だから」
というかこの1杯しか飲むつもりありませんでしたし、しかも結局半分も飲んでませんでしたし。わたくしお酒はそんなに強くありませんので。
撃沈、4人目入りやしたー。
・ ・ ・ ・ ・ ・
さて、宴もたけなわ、お開きです。
起きなかった桐生院トレーナーは東条トレーナーが、南坂トレーナーは黒沼トレーナーが寮まで連れ帰ることとなりました。
あ、沖野トレーナーは東条トレーナーから水を吸わせたおしぼりを顔にかけられて強制的に起こされてました。この扱いの差よ……てか最悪死ぬぞそれ。
「樫本さん、樫本さん」
「んぅ……」
「起きて。帰るよ」
そして残るは理子ぴん。お願い起きて。キャリーカートを装備していない今のわたくしでは貴女を運んであげることが出来ませぬ。
彼女の肩を揺らして起こそうとしているのですが、中々起きてくれません。頼むから起きて。
「んぅ……やーぁー、ねんねするのー」
……このタイミングでその不意打ち攻撃は反則だろうがよぉ!
完全に夢の中なのでしょうか、幼児退行しちゃってんじゃんか。ギャップ萌え狙い過ぎてて胸焼けするわ。大好物ですけどね!!
てかウマ娘ちゃん様じゃないのにわたくしの
急遽SSR認定! お前がナンバーワンだ!!
「ほらほら、帰って、着替えてから、お布団で、寝ましょうね」
とりあえず心臓止めるのは寮に帰るまで我慢するとして。
この気持ち、なんでしょう……これは、まさかあの噂に名高い『でちゅね遊び』の片鱗なのでしょうか……お世話したい。甘やかしたくて仕方がない……。
「んぅ……はぁー、ぃ……め、メルテッドスノウ先生、今、私何か言ってましたか?」
お、覚醒した。色々とセーフ。セーフ?
「やー、寝るのーって」
わたくしのそんなセリフを聞いて、夢の中で言っていたことが実際に声に出てしまっていたことを察したのでしょう。りこぴんが眉間に寄った皺を手で押さえます。
「……すみません、その件は忘れていただけると」
「ん。わたしの、中で、留めておく」
具体的にはわたくしの心の中のサポカ一覧に。
誰にも言わないけど忘れない、そんなことを言えば理子ぴんの眉間の皺が益々深くなります。
「出来ればそれも勘弁していただければ」
「どうしよう、かな」
「ええ……」
「ふふふ」
いやぁ、実に楽しい飲みの席でした。
■ブルるんの感謝
手段は突き止められてはいないが、『先生に相談した(未遂)』→『脚が治った』→『先生が治したに違いない』と、結果からの無理矢理三段論法で最も限りなく正解に近い状態。が、やはり推測の域を抜けられず、感謝はしているもののなかなか本人には真相を聞けない模様。
■噂の出処
「え? 雪妖精ですか? そりゃもうあの名前と見た目、その佇まいから受ける第一印象とウマ娘ちゃんのことを思いやる慈愛に溢れた丁寧で献身的な対応、そう形容する以外に無いでしょう。私にまで優しいとか絶対に女神か天使の生まれ変わりですってあの同志先生。かといってそのまま女神と呼称してしまってはオリジナリティに欠けますので我々学生と同い年かと見紛うあどけなさ可憐さと触れれば消えてしまいそうな儚さを併せ持った存在として、時として神出鬼没な行動を取る事も加味してそう表現させて頂きました。いやぁ我ながらピッタリな表現だと自負しておりますグフフフ。冬には彼女をモデルとした本を執筆させて頂こうかと考えているくらいでして、その素晴らしさを果たして私の筆がどこまで表現出来るかが試されているわけでございまし(以下略」
いったい何ネスデジタルなんでしょうね。
■天使の〇惑
甘味や旨味はしっかりとあるが香りに芋っぽさが無く、樽熟成という焼酎では珍しい手法によって、まるでブランデーを思わせるような芳醇な薫りを放つ芋焼酎。
その可愛らしいネーミングとは裏腹にアルコール度数が40度もあり(焼酎の一般的な度数は25度前後)、普通に飲んでいるといつの間にか文字通り天国へと誘われてしまう。なのでつまみを食べながらちまちま飲まないととても危険。チェイサーも必須。
沖野Tがどれだけヤバいことをしたのかは、スト◯ロ500mL缶を一口で一気飲みしたとでも例えれば分かりやすいでしょうか。
■没ネタ
沖野「全く鍛えていないトモ……すまん、触ってみてもいいか?」
スノ「ん……ちょっと、待って」
――ピッ
スノ「はい、どうぞ」
沖野「え、いや、それは?」
スノ「? 動画、録ってる、けど?」
沖野「えーと、何で?」
スノ「そりゃ、物的、証拠として、訴える、材料に」
沖野「」
スノ「はい、どうぞ」
沖野「触るかぁ!!」
スノ「セクハラ、野郎は、潰れて、消えろ、ゴミめ」
沖野「むちゃくちゃ辛辣だな!」
沖野Tは