【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい 作:藤沢大典
ウマ娘が
聖蹄祭で
やたら食う!!
説明!
……いや、オグりんがボテ腹晒して屋台荒らしをしていただけなんですけどね。
マジでどうなってんの彼女の腹。明らかにお腹の膨れ方に対して摂取量がおかしいんですけど。
さーというわけで始まりましたトレセン学園秋のファン感謝祭、正式名『聖蹄祭』。
学園のウマ娘ちゃん様達が日頃お世話になっているファン達のために一時開放された学園で、レース以外の催し物メインで交流を図ろうと毎年行われるイベント、ぶっちゃけ文化祭です。
春の感謝祭では職員企画ブースで足つぼマッサージを行わせて頂きましたわたくしメルテッドスノウですが、今回は『とある企画』が催されている関係で職員ブースがございません。ですので従来通り救護テントで待機している次第であります。
とは言っても、転んで膝を擦り剥いた子供くらいしか来ないので普段の業務並に暇です。
で、その『とある企画』というのがですね、このテントにもチラシが貼られておりますハイコレ!
『喫茶対抗戦 - カフェ・ロワイヤル -』!!
アニメやアプリでも描写のありました執事喫茶。あれが毎年催されているのですが、人気が毎年尋常じゃないようで余裕でキャパオーバーするらしいんですよ。
で、それを少しでも分散させる為に他のコンセプト喫茶も企画募集したらしいのですが、まぁみんな色んなアイディアが出るわ出るわで執事喫茶を含めて8企画くらい集まったようで。
けど1つの学園祭に8つの喫茶は流石にバランスが悪過ぎるぞさぁどうしようとなり熟考した結果、企画の数を減らしてバランス調整するんじゃなくてむしろそういうイベントにしてしまえ! となったようで。
公平を期す為に学園公式のウマスタとウマッターのアカウントで写真と動画、呟きを各店毎に同数投稿し、そこに集まった『ウマいね』の数で勝敗を決するというなかなか面白そうな催しになったという次第です。
で、その中に『トレーナー喫茶』というお客さんを担当ウマ娘に見立ててお世話する、というコンセプト喫茶がありまして、現トレーナーの方々が結構そっちの方に参加されているんですよね。
そのため今回は職員企画ブースが無く、わたくしはこうやって屋台が立ち並んで賑やかな様子を眺めながら、休憩時間が訪れるのを今か今かと待っている訳でございます。
だって、どの喫茶も楽しそうなんですもの。出来ることなら全ての喫茶に立ち寄りたい。
けど流石に全部回る時間的余裕は無いしなぁ……。
せいぜい2〜3店ほど見て回るのが精一杯でしょう。
何故わたくしは忍法影分身の術が使えないのか。今回は特に悔やまれます。
とはいえ無理なものは無理ですので、ここは涙を飲んで出向くお店を選出いたしましょう。
というわけで白衣のポッケから取り出だしたるは8面ダイス。たまにブルライコンビとボードゲームしたりもするので多面ダイスは手持ちがちょいとありまして。
ではでは、さっくり決めてさっくり向かいましょう。何が出るかな、何が出るかな〜っと。
お、この目が出た時は……。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「まいど! お、センセやないかお疲れさん。どや、ウチの店で茶しばいて行かへんか? サービスしたるでー」
制服姿にエプロンを付けたタマモっちがわたくしに呼び込みを掛けてきました。あらシンプルですけどハートに来る組み合わせ。家庭的なタマモっちにとても良くお似合いです。
入口の看板には毛筆で雄々しく『方言喫茶』と書かれています。
はい、こちらが今回最初のターゲットでございます。
「ん。そのために、来た」
「ほんまか! わざわざ来てくれるなんてメッチャ嬉しいなぁ。イナリぃ! ユキノぉ! 特別ゲストが来てくれはったで!」
部屋の中に向かってそうタマモっちが叫ぶと、中から出て来たのは二人のウマ娘。
「なんでい藪から棒に……ってスノウ先生じゃねぇかい!」
「
大きなツインテールを揺らしたやや乱暴とも取れなくもない江戸っ子口調のウマ娘イナリワン、ワンチャンと、わたくしなんかよりよっぽど妖精の名が相応しそうなユキノちゃんが顔を覗かせました。
こちらの二人もエプロン姿がぷりちーでございますね。
ここはどうやら文字通り、方言が強めの娘で構成されている喫茶のようですね。特にユキノちゃんは普段は標準語に寄せて話しているでしょうに、今日はコンセプト重視の為か方言強めです。なのでルビ振っときましょう。
というかですよ、歓迎ムードなのはとてもとても有り難いのですが……ちょっと歓迎度合いが強くないですか?
「そんな、テンション、上げる、ほどの事?」
なんぼなんでもはしゃぎ過ぎだと思うんだ先生。
「センセ、自分が雪妖精って言われとるの知っとるか? センセのいる所には幸運がやって来るーとかってジンクスもあるらしいで。つまりや、センセがここにいるって事はウチらの喫茶店が優勝したも同然や!」
「いやいや、いやいやいや」
なるほどそういう理由ね。何してくれてるんだ噂。
お前の出処は完全に締めたはずだろう。何を未だに独り歩きし続けてるんだよ。もう止まらないやつじゃんかこれ。
……もういいや、周りが飽きるまで辛抱しよう。人の噂も七十五日って言いますし。
「
ユキノちゃんがテーブルから椅子をどかして車椅子が収まるスペースを作ってくれます。そしてラ・フランスのジュースとか中々レアなの用意してきましたね。
「あったけぇ甘酒もあるぜ。ゆっくりしていきな先生よ」
「いやいや、ここはミックスジュースやろ。甘くて美味いでセンセ」
間髪入れずワンチャンとタマモっちも飲み物を勧めてきます。ふむ、そろそろホットな飲み物も美味しい時期ですしそれも素敵ですね。そしてミックスジュース……そちらも甘美な響き。悩ましいな。
「「「……」」」
……ん? 何ですかこの間は?
「抹茶あんサンドクッキー
「東京ば〇奈の限定チョコバナナ味、あるぜっ」
「センセは堂〇ロール、食うたことあるか? クリームたっぷりで美味いでー」
今度は3人ほぼ同時に食べ物を勧めてきました。またどれもこれも魅惑のお菓子じゃないですか。スノウちゃん迷っちゃう。
「「「……」」」
ですから何なんですか? この間は。
何でちょっとピリついた空気が流れるんです?
「先生は
「いやいや、今あたしらがいるココは東京だぜ? なら先生にゃ東京の美味いモンをもっと知ってもらおう、ってぇのが筋ってもんじゃあねぇか?」
「センセはウチのたこ焼きのファンや。つまり大阪の味が身体によう馴染むっちゅーわけや。やったらここはウチが……」
「「「……」」」
えっとね、先生的にはどの地方にもその土地ならではの魅力があってそれぞれがオンリーワンだから優先度を付けるようなものじゃないと思うの。
だからそんなバチバチするようなものじゃ無いと思うの。
「先生をお世話するのは(わだすだ)(あたしだ)(ウチや)!!」
何でバトル勃発しちゃってるのよ!?
やめて! わたくしの為に争わないで!(棒読み)
やいのやいのと騒ぎ立てるお三方。
ああああすみません煩くしてしまってすみません。
ほら、あまり騒ぐと他のお客様のご迷惑に……。
「関西弁の子って良いよなぁ。タマモクロス、可愛いなぁ」
「いやいや、江戸っ子べらんめえ口調のイナリワンも捨て難い。粋だねえ」
「ユキノビジンさん、何言ってるか良く分からないけどチョー可愛いーっ!」
あらま大好評。いやそうではなく。
誰かこの場を収めて下さい。わたくしには無理っぽいんでスローイングスプーンさせていただきたい所存。
が、結局お客の皆さんは微笑ましそうに眺めるだけで全く収拾がつかなかったので、ラ・フランスジュースと東京◯な奈、〇島ロールの3つを頼んで手打ちとさせていただきました。
ちょいとわたくしのウマボディに大食いスキルは付属していないようなので全て頼むのはちょっと無理ぃ。
さ、方言喫茶のSNS投稿にウマいねを付けて次行きましょう次。
てなわけでダイスロール。
……あらっ、ド本命が出ちゃった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「おや、これはこれはティターニアのお出ましだ。ようこそ、我らが女王よ」
「格を、上げないで」
女王にすんなし。妖精で呼ばれることですらおこがましいってのに。
出会い頭にわたくしを女王呼ばわりしたのはテイエムオペラオー、ラオーちゃん。ええ、やって来たのはこのイベントの発端ともなりました執事喫茶です。
うわぁい原作体験だぁー。
「はっはっは、そう照れることはないさスノウ姫。本来ならボク自ら第4幕のオベイロンが如くエスコートを申し出たいところなんだけれども生憎と手が塞がってしまっていてね。ルドルフ会長もすっかり囲まれてしまっているようだ……フジ寮長、あなたはどうだい?」
「あぁ、ちょうど手が空いたところさ。私に任せてくれて構わないよオペラオー」
さらりと女王から姫に変わっちゃってるし。格を下げろとは言いましたけどそれでもまだ高いんですよ。てか妖精から離れようぜ。
それはさておき、確かにとんでもない大盛況でラオーちゃんも給仕に接客にと大忙しの模様です。更にはお店の外には入店待ちの行列がずらりと出来あがっている状況。
本来であればわたくしもこの列の最後尾に並ぶべきなのでしょうが、そうしていると列に並んでいるだけで休憩が終わってしまいますので、関係者特権のプライオリティチケットをいただいております。並んでる人達ごめんね、その分早めに切り上げますのでご容赦くださいませ。
で、どうやら正にひと段落ついた様子なのがこちらの艷やかな青鹿毛を持ち栗東寮長も務めるイケウマ娘、フジキセキ。フッキーです。
「すまないね姫。あとのことは彼女にお任せしよう。ゆっくり楽しんでいってくれたまえ」
そう言ってラオーちゃんはカメラを構えている集団の元へ行ってしまわれました。大人気ですね、無理もないですけど。
「ふふっ、ではお手をどうぞ。スノウ姫」
そう言ってわたくしの手を取るフッキー。笑顔が素敵。しかもこんな自然に紳士的対応されちゃったりしたら惚れてまうやろ。うわぁ、フッキーのお手々柔らかいなりぃ。
っていうか姫扱い、継承されるんですか?
「ちょっと、あの姫って呼ばれてる子なんなの?」
「あのオペラオー様から一目置かれているなんて……」
「フジキセキさんと手を、手をっ!」
「うらやましい……うらやましいっ。けど、あの子もなんか可愛くない?」
入店待ちの子たちから聞こえてくる怨嗟の声。
まぁ関係者特権だとはいっても割り込まれたらそりゃあ良い顔しないでしょう。
申し訳ないね、サッと入ってサッと出てくから勘弁しておくんなまし。
「あはは、注目の的だね姫。みんながこっちを見てるよ」
「いやこれは、妬みの、類だと、思うけど」
明らかに負のオーラが立ち上ってますって。
ほんのり違うオーラを出してる子もいるっぽいけども。
「だとしても、そこまで酷いことを考える子はいないさ。とはいえ、このままでは少々騒がし過ぎるかもね……ちょっと失礼」
そう言ってわたくしから手を離し、入口前の彼女達へと向かっていくフッキー。
いや、注意とかしなくて良いんですよ? 誰だってちゃんと順番を守って並んでいたところを割り込まれたりすれば面白くないと思うのは当然なんですし。
んー、ダイスの導きとはいえやっぱ止めとけば良かったかな?
「失礼、お嬢様達。彼女はちょっと特別なお客様でね。君たちと同じようにちゃんともてなしてあげたいんだ。申し訳無いんだけれど、もう少しだけ待ってて貰えるかな?」
「はひっ!? ふ、ふふふふふフジキセキさまっ! 待ちます待ちます待ちますとも渋谷ハチ公像のように微動だにせず静かにお待ちしておりますっ!」
なんか
「ありがとうお嬢様。じゃあこれは待たせてしまうお詫びだ」
そう言いながらフッキー、片手をくるんと翻すとその手の中にはいつの間にやら小さなバラが一輪。そしてそれを最前列のお嬢様に手渡します。両手で、彼女の手を包むようにしながら。
「!? !!!〜〜!!!」
おお、宣言通り声を上げずしかも動かない。ファンの鑑よ。
「みんなにもプレゼントするよ。どうかもうしばらく待っててね、お嬢様達」
そう言ってフッキー、同じように再度片手をくるんとしてはバラを出し、行列を成しているお嬢様方一人ひとりに手渡していきます。
手渡される端から微動だにしなくなっていくお嬢様たち。うわぁ、すげぇ。
「待たせたね姫。さ、席まで案内するよ」
「流石だね」
そしてさらりと再びわたくしの手を取りエスコートの続きをしてくれます。
この通常運転イケウマ娘め。何故そんなムーヴを当たり前のように行えるんだ。
「こちらのお席へどうぞ姫。お飲み物はいかがなさいますか?」
「ん……ダージリン、ストレートで」
普段はコーヒー派ですけど折角なので雰囲気に合わせて紅茶にしておきましょう。
とはいえわたくしバ鹿舌なので産地による味の違いとか分からないんですけども。とりあえずメジャーなダージリンとか言っときゃええやろ。
「畏まりました。今から最高の一杯をご用意してくるよ。どうかしばしお待ち下さい、姫」
そのまま引いていたわたくしの手を持ったまま、その場に跪くフッキー。そしてわたくしの手に顔を近づけ……。
――チュッ
わたくしの手の甲に軽く唇を落とし、更にウインクして小さく手を振り去っていくフッキー。周囲の他の席から立ち上る黄色い悲鳴。
……えー……まってあたまがはたらかない。
順を追って状況整理しないと。
まず、フッキーにお手々繋がれたでしょ?
フッキーがみんなにお花あげたでしょ?
席に着いたでしょ?
紅茶頼んだでしょ?
フッキーが跪いたでしょ?
わたくしの手に顔を近づけるでしょ?
んでもって、お手々に、チュッって……。
……もう、いきなりこういう事されると心の準備が出来ていないのでわたくしも正気保つのきっっっついんですけどー。
素数を数えて落ち着かなきゃ。にー、よーん、ろーく……。
・ ・ ・ ・ ・ ・
……ハッ。
あ、ありのまま今、起こった事を話すぜ!
わたくしは紅茶を頼んだと思ったらいつの間にかカップが空になっていた……な、何を言ってるのか分から(略
正気どころか意識を保ててなかったです。
うん、これは破壊力高すぎてヤバいわ。人気が高いのも頷けますわ。
時間は……それなりに経ってるし。もう少しちゃんとみんなの格好良く働いている姿を見ていたくはありましたが、あまり長居し過ぎてしまっては無言で待機しているお嬢様ーズにも申し訳無いのでそろそろお暇させていただきましょう。
「お会計、よろしく」
軽く片手を上げて近くを通りかかったウェイターのウマ娘ちゃん様にそう声を掛けたその時、ざあっと店内に吹き抜ける一陣の風。
「私が対応しよう。私達のもてなしは堪能してもらえましたか? メルテッドスノウ先生」
気が付けば目の前にいたのは我らが生徒会長、ルドりんです。
今の風はルドりんが走って起こしたものか……マジで見えなかったんですけど、よくこんな入り組んだ狭いスペースでここまで駆け抜けられるなぁ。ウェイターの娘もすごくびっくりしちゃってるじゃないですか。
というか会計ごときでそんな駿足披露してどうするんですか……幸いにも周りのお嬢様方からのウケは良いみたいですけど。
「ん。良い時間を、過ごさせて、もらった。ありがと」
「それは何より」
ちょっと滞在時間の大半の記憶がありませんけど。
そんな会話をしながら精算を済ませます。
ぇ、数百円しか払ってないよ? 桁2つくらい間違えてません?
これだけの体験をさせて頂いて万札を出せないのは却って辛いんですけど。
「メルテッドスノウ先生はこの後は?」
「ん、もう少し、他のお店、見るつもり」
「そうですか。では最後に……オペラオー、フジ。ちょっと良いかな」
「何だい?……あぁ、もちろんさ!」
「私も今行くよ」
ルドりんがラオーちゃん、フッキーを呼び、駆け付けて来るお二人。
わたくしが退店しようとしているのを見て何かを察したようです。
そして3人一列横並びになったかと思えば。
「「「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ、姫」」」
最後に微笑みながら礼をしてお見送りをしてくれるお三方。
ぐっほぁぁぁ!! キラッキラしてる! 背景キラッキラしてる!
物理的に何か飛んでるんじゃないかってくらいキラッキラしてる!!
これはSRなのかい、SSRなのかい、どっちなんだい!?
えすえすあーーーる! やー! ぱわあーーー!!!
「最後まで、姫なのね」
ふぅ、なんとか致命傷で済んだぜ。
端からそれを見ていたお嬢様方もだいたいが致命傷だぜ。
さて、思ったよりまだ時間に余裕がありますね。もう2店くらいは回れそう。
んじゃま再び運命のダイスロール。ころんっとな。
ほほう、こいつはまた……。
■説明!
ネタが古いかも知れませんので一応解説をば。
KONA〇Iのアーケードゲーム『ビシバシチャンプ』シリーズから引用。
3つのボタンを使うミニゲーム集で、とにかく勢いだけで押してくるタイトルが面白すぎる。元ネタはその中の『コギャルが レストランで やたら食う!!』より。
『パイ投げ』は好き。『アフロ』は苦手。
■ラ・フランス
岩手県盛岡市よりやや南に位置します紫波町。こちらは県内有数のラ・フランス生産地です。『ラ・フランス温泉館』って名前の宿がある程度には。
ラ・フランスは洋梨の一種で、青みがかった色と少し崩れた丸い形が特徴です。洋梨と聞いて良くイメージされる黄色くて少し縦長なのはル・レクチェという別の品種です。
■オベイロンとティターニア
ウィリアム・シェイクスピアの名作『真夏の夜の夢』に出てくる妖精の王と女王です。
劇中で『第4幕のオベイロン』と表現したのは、序盤のオベイロンは女王に対して結構酷いことするので。仲直りした4幕以降ならエスコート出来そうでしたので。