【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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Case25:養護教諭のご破算

はいっどーーーーーもーーーーーー!!

 

おはようございますこんにちはあるいはこんばんは。

わたくし、ウマ娘のメルテッドスノウと申します。

 

えー只今わたくし……なんかよく分からないところにおります。周りが雲っぽいような、霧というか靄がかっているような?

寒さは無く、ほんのりと暖かい風が頬を撫でます。

音も遠くから風の音? がする以外はこれと言って特に聞こえず。

全体的に明るいんですけど霞以外は何も見えない、そんな状態です。

 

んんん……マジでどこだここ?

うーん、記憶がやや曖昧ですね、ちょっとさっきまで何してたか思い返してみましょう。

えっと確か……。

 


 

「薬のアレルギーはありますか?」

 

「いいえ」

 

紅葉も色付き、寒さを覚える今日この頃。

わたくし、定期的な身体検査を受けるためにGWに入院した病院へとやってきております。

そして現在、ドクターから問診を受けているところでございます。

 

「今まで大きな手術を受けたことは?」

 

「前回のを、含めて、3度、いえ4度ほど」

 

前回の手術は2回分として報告すべきですね。幼少期に事故で1回、去年に鼻血ブーで1回、今年に胃と腸の2回で計4回。……そう考えると割と手術受けてるなぁわたくし。

わたくしとのやりとりを粛々と手元のタブレットで入力していくドクター。大病院はすごいですね、問診も電子化出来てるんだ。

 

「……はい、ありがとうございます」

 

一通り入力が完了したのでしょう。しばらく画面を見ていたドクターはわたくしの方を見て結果を告げます。

 

「検査の結果、少々心疾患の可能性が見えます。お時間があれば明日、再度精密検査を行うことが出来ますがどうしますか?」

 

わたくしにそう告げるドクター。前回主治医を務めてくれた方ですね。

ふむ、心疾患か……。まぁ割かし色んな娘から貰った覚えはありますので、ここらで一丁しっかり面倒見てもらうのはアリでしょう。

ちょいとじっくり再検査、よろしくお願いしまぁぁぁす!

 

「分かりました。お願いします」

 

「はい。じゃあ再検査は……この時間大丈夫ですか? はい、はい……。では本日の検査はこれで終了です。お疲れ様でした」

 

そう言ってドクターはわたくしのカルテに『診察終了』のチェックを付けました。どうせですのでしっかり調べてもらって、しっかり処置していただきましょう。わたくし、こう見えてもまだ死ぬ気はございませんので。

 

さて、これで今日のお勤めは完了ですね。また明日来ることにはなりましたが、早めに処置出来そうで良かった良かった。

うし、それじゃお会計して帰りましょうかー。

2階の外来診察室からエレベーターで1階の総合受付へと移動すべく、エレベーターホールで箱の到着を待つわたくし。

今日の晩御飯は何にしようかなーと考え始めたその時です。

 

――ドクンッ!!

 

不意に最大限の動きをしたかと思いきや、身体に極大のアラートを告げてくる鼓動。

同時に訪れる胸の痛みと、急激に力を無くしていく身体。

 

っ! 来たっ! 本当に心臓が止まりに来たっ!

このタイミングで来るのか!? とも思いましたがむしろ好都合。病院内なら周りの対応が早いはずっ!

迷わずわたくしは急いで首の防犯ブザーの紐に指を引っ掛けて引き抜きます。

 

«ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!»

 

いつぞやのナンパ師どもを撃退したときと同じく鳴り響くアラーム。

院内ですからすぐに誰かが気づいてくれるはず。

そしてこんなこともあろうかと、既にわたくしの車椅子には自前でAEDを積んでいます。これで近くに備え付けのAEDが無くても安心です。

というわけで後はお任せします医療従事者の方々。

そうしてひと仕事を終えたわたくしの手が力無く落ちようとした時、指に絡まったままのブザーの紐が車椅子の操作レバーに引っ掛かりました。

 

え。

 

不意にわたくしの意思とは無関係にバックで大きな弧を描くように暴走する車椅子。

ちょっ、待てって、止ま、れってば……!

 

このままじゃ気付いてくれた人も迂闊に手を出せないじゃないか。

しかし身体は言うことを聞かず、何とか紐を外すように試みますが軽く身じろぎをするので精一杯。実質、今出来るのは祈ることだけです。

そんなわたくしの思いが通じたか、車椅子は暴走を止めることになりました。

タイヤが近くの階段を踏み外して落下するという結末をもって。

 

おいうそだろ。

 

少しの浮遊感、霞んでぶれる背景、そして。

 

――ゴッ!!

 

鈍い音と共にわたくしの意識は暗転した。

 


 

……うむ、思い出した。倒れたのかわたくし。

 

んじゃここは、夢の世界?

そういえばわたくし、この場に()()()()()()()()

 

の割には意識ハッキリしてるなー、明晰夢ってやつなのかしら。

うーん、以前に保健室で倒れた時は昔の出来事を思い返してたりしましたけど、今回は……ホント何だこれ?

当たり前ですけどこんなとこに来たことのある記憶なんてありませんし。

 

……もしかして、これ『死後の世界』ってやつかな?

だとしたら……そっか。いよいよ死んじゃったか。

 

 

 

やっと、死ねたか。

 

 

 

いえいえわたくし、死ぬつもりなんてありませんでしたとも。

転生生活を存分に満喫し、画面の向こう側にしか存在していなかったウマ娘ちゃん様達が明るい未来を目指して駆け抜けてゆく様を、ほんのり関わりながら見守っていくまでは。

 

まぁ、今はこうしてその願いはほぼ果たされているわけでして。そうなると、わたくしが『わたくし』に戻る以前、『私』だった時の想いが強くなってくるわけでして。

 

そう、『わたくし』はまだ死ねないって思ってたけど、『私』はそうじゃなかった。

私は、死にたかった。

 

だから、ウマ娘達を救いたいというわたくしの想いを叶えつつ、私の想いを叶えるためにみんなの因果を片っ端から集めまくった。

発動前のいくつかの因果を解消出来たりもしたけど、おかげで更に強い因果を見つけて受けることも出来た。

そう、私がやってきた事はウマ娘達の救済であると同時に、消極的な自殺でもあったのだ。

 

別に二重人格だったとかそういうわけじゃない。私もわたくしも同じもの。けど異なる考えが混在して葛藤するなんて誰でも当たり前のことじゃない?

 

まぁシンプルに言えば、私は死にたくなかったけど死にたかったってだけ。

死なないように努力はするけど、それでも駄目ならすんなり死ぬつもりだった。

 

私はお父さんに会いたかった。

私はお母さんに会いたかった。

また二人に、あの手で頭を撫でて欲しかった。

ただ、それだけだったんだ。

 

けど、死後の世界ってこんな白くて何も無いところなんだな。

転生した時は物心付いたら既に今の自分だったし、こういう場所を通った覚えも無いし。

 

そういや仏教とかだと死んでから三途の川まで800里くらい山道を歩くんだっけ。山も道も無いけど、約3200kmか……目印無しで歩くのきっつそうだなぁ。

 

あてもなく適当にふらふらと彷徨っていると、目の前に薄ぼんやりと何かが見えてきた。

丸いテーブルが置かれており、その周りに何人かが腰掛けているようだ。誰だろう。

 

「お、来たな。こっちこっち」

 

腰掛けていた内の1人、赤い髪を靡かせた浅黒い肌の女性が手招きをする。すごく気安く声をかけてきたけど知り合いじゃない。こんな綺麗な人に会ってたら忘れてない。

 

「さぁ、あなたもこちらに来てお座りなさい、メルテッドスノウさん」

 

「まさか本当にこうなるとはな……。しかもこちらが想定した以上の因果を集めた上で。どういう覚悟をしているんだお前は」

 

青いふんわりとしたロングヘアーの微笑んでる優しそうな女性と、黒いショートヘアのまるで軍人さんのような鋭い目付きをした女性も話しかけてくる。最初の女性と合わせて3人共ウマ娘ちゃん様のようだけど、やはり会った覚えは無い。

 

「あぁ、会った覚えが無いのは当然さ、初対面だからね。初めまして子羊ちゃん。俺はダーレーアラビアン。こっちの二人はゴドルフィンバルブとバイアリーターク。よく三女神なんて呼ばれてるよ」

 

……ええええええぇぇぇぇぇぇ。

 

なんか言葉にしなかったはずの言葉が通じたってこと以上にトンでもない情報が追加されたんですけどぉ!?

ぇ、じゃあこの褐色美人が、学園にも像がある三女神の一柱!?

そして脇に控えている方々が残りの二柱!?

ぇぇぇ、マッジでぇ……。恐れ多すぎてスノウちゃんブレインが処理し切れないんですけど。

 

「まず、ここは死後の世界ではない。その少し手前、こちらとあちらを隔てる境界線のようなものだ。そういうものだと理解しろ」

 

バイアリーターク様がそう話し出しました。

 

「わたしたちはあなたとお会いする為にここに赴きました。そちらのお二人に頼まれましてご同席させていただきます」

 

ゴドルフィンバルブ様がこちらを向いて……いや、視線は私の後ろに注がれている。

まるで私の後ろに他の人がいるかのように。

 

「メルちゃん」

 

「メル」

 

そして直後に背後から聞こえてきた、私を呼ぶ声。

 

……幻聴じゃ、無いよね?

どんなに再び私を呼んでもらうことを望んでいても決して叶わなかった、忘れもしない声。

会えなくなってから何年も経つのに、記憶の中のそれと全く変わらない声。

 

ゆっくりと、ゆっくりと振り返る。

そこに居たのは、たとえ忘れようとしても決して忘れることの出来ない、そんな二人の姿だった。

 

「立派になったわね、メルちゃん」

 

「全く心配ばかりかけさせて。仕方無いな、メルは」

 

二人は私にそんな声を掛けてくる。

嘘だろ。絶対会えないって思っていたのに。

 

「ぉ……お母、さん。お父さん……」

 

そこにいたのは、紛うことなく私の両親だった。

どんなに切望しても会うことなど叶わないはずの二人の姿だった。

記憶の中にいる、大事な二人の姿そのままだった。

歪む視界。私の双眸から滲み出て来る、涙という水分。

とっくに諦めていた。万が一という可能性すら烏滸がましいと思っていた。思っていたのに。

 

「ぅぁ……会いた、かった……会いたかった! お父さん! お母さん!」

 

ずっと、ずっと会いたかった。

例え夢だったとしても、ただただ、抱き締めて欲しかった存在。私の、お父さんと、お母さん。その二人が今、目の前にいる。

我慢なんて出来るわけが無かった。

 

お母さんに抱き着く。

お母さんの手が、私の頭に添えられる。

お母さんの大きくて柔らかくてあったかい手。

私が大好きな、優しい手。

この手に再び触れてもらうことを、一体どれだけ渇望しただろう。

 

あぁお母さん、どうかその手でまた私を撫でて。

今度は私もお母さん達と一緒に連れてって。

そうしたら、もう何も怖くないから。

 

 

 

そうやって、お母さんの手がゆっくりと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳を握り、もう片方の手も拳となって私の両こめかみにあてがわれる。

 

……え?

 

「お母さん? おかあーだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」

 

そのお母さんの手が、容赦なくわたくしの両こめかみをひねりを加えながら圧迫してゆく。

いわゆる、ウメボシ。

 

「メルちゃん? お母さん言ったわよね? 能力を使うのは本当にどうしようもない時だけにしなさいって。なのにあんなポンポンポンポンポンポン使って……。私の大事な大事なメルちゃんを傷付けるなんて、たとえメルちゃんでも許しませんからね!」

 

「あだだだだ痛い痛い痛い、お母さんごめん、その節は本当に申し訳無いといぎぎぎぎぎぎぎ! お、お父さん、助けて!」

 

表情は柔らかく微笑んだまま、グリングリンと的確にダメージを加えてくるマザーズダブルナックル。あ、これガチで怒ってる時のヤツだヤベェ。

ってかお母さんのコレ本当に痛いんだって! 早くも私のHPゲージ残り僅かだって! パパンお助けー!

 

「うん、すまんメル。お母さんには逆らえない。そしてお父さんもお母さんと同じ気持ちだ。甘んじて受けなさい」

 

しかし助けは無かった。ああ無常。

 

「そんな、痛ったたただだだだだだだだだ割れる割れる割れちゃう中身出ちゃうううぅぅぅ!!」

 

軽くミシミシ言ってないか私の頭蓋!?

ぐあああぁ、耐圧限界、理論値を突破。圧潰まで、5、4、3……ぁ、止めてくれた。

 

「もう……無茶ばっかりして。本当はお母さんだってこうやってすんなり抱きしめたかったのに」

 

解放された頭蓋の痛みの後に感じた、私の身体を包む柔らかな感触。

お母さんに抱き締められている。背中まで回された手が力強く私を引き寄せる。

急に優しくされたことで一瞬固まってしまったが、気が付けば私も負けじと同じようにお母さんを抱き締めていた。

あったかい、柔らかい、いい匂い。

 

「ごめ、なさい、お母さん。お父さん。でも、本当に、会いたかった」

 

「嬉しいわ、メルちゃん。お母さんも会いたかった」

 

「お父さんも会いたかったぞ」

 

私達2人を更に上から抱きしめるお父さん。

あぁ、やっぱり私はこの2人が大好きだ。

しばらくそのまま一つの塊となった私達。

 

「けど、それとこれとは話が別です。お母さんとの約束、2つとも破るなんて。お母さん許せないわ」

 

ややあって、2人は私から離れる。

ぷんすかと怒るお母さん。やだ、私の母可愛すぎ……。

 

「だからお母さん、メルちゃんには罰を与えます。本当に許せないんだから」

 

「ぅ、お手柔らかに」

 

罰かぁ……出来ればさっきのウメボシはご遠慮願いたい。

もう少しで目玉ポーンしちゃうレベルの攻撃でしたのでアレ。

 

「ダメです容赦しません」

 

あはは、容赦無しかぁ。

ウメボシ以上ってなるといよいよもって切腹くらいしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでメルちゃんへの罰は……能力の没収でーす!」

 

 

……えっ。

 

「能力と、今まで集めた因果まとめて全部没収でーす。ついでにメルちゃん自身の足と肺の怪我も没収でーす」

 

えっ。

 

「いやぁ、実はキミの中にあった心臓の因果を意図的にちょっと解放して仮死状態になったところをここに呼ぼうとしたんだけどさ……」

 

人差し指でポリポリと頬をかくダーレーアラビアン様。

 

「お前が当初こちらが予想していた以上の因果を抱えてしまったせいで予測が狂ってしまった。まさか最後に受けたあの因果が絡んで同時に発動しようとするとは。結果的にここに呼ぶことは出来たが」

 

「今、あなたは意識不明の状態でここに来る前にいた病院に入院しています。幸いにも最後の因果は発動し切る前に対処することが出来ましたが……危うく意識が戻っても体を動かすことはおろか、喋ることも出来ない状態になるところでした。これはわたし達の不手際です。ごめんなさい」

 

バイアリーターク様とゴドルフィンバルブ様が言葉を繋げる。

あー、まぁ言われてみれば後ろ向きで階段から落ちるって結構危ないか。

 

「本当はあんまりこういうことしちゃいけないんだけどさ、お詫びも兼ねて俺たちの権能で君の中に蓄積されている因果と併せて、傷病も全て取り除かせてもらうよ。にしても、随分無茶したみたいだね。本当にいつ破裂してもおかしくなかったよ? その足」

 

「外の神から付与された能力なので難しいかも知れませんが、その転嫁能力をあなたから切り離します。あなたは数多のウマ娘の為にその身を犠牲にして救いをもたらしてくれました。なら今度はあなた自身を救ってあげませんと。あなただって前世はともかく、今はウマ娘なんですから」

 

すげぇ、神様ってすげぇ。

そんなことも出来るんだパねぇ。

すごすぎて語彙が足らない。

 

っていうか、え、私の足、パーンしないで済むの?

それどころか、足治るの?

 

……また歩けるようになる、の?

 

「お前のその異能の能力だが、転生特典とやらなのだろう? 確かに個人が扱うには過ぎた力だが、それでも自らの意志で使うのであれば我々三女神としても傍観するつもりだった。が……こいつに誘導されて使用させられたというのであればこちらにも責任がある」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

そう言うバイアリーターク様が横に移した目線の先には、一体いつからそこにいたのでしょう、超々ロングヘアの女性が、首から『私はスノウちゃんがより多くの因果を抱える原因を作りました』と書かれたプラカードを下げて正座していました。目から光を失ったまま謝罪の言葉を呪詛のように呟き続けています。よく見るとお顔がフクちゃんに似ているような。

なんかデジャヴ感あるけど……もしかしてこの人がシラオキ様!?

ってか使用させられた、って……何の話でしょう?

 

「けど一番の理由はキミのお母さんに強く頼まれちゃったからかな、『うちの娘を助けろ!』って。シラオキの首根っこを掴んで俺たちのところへ駆け込んで来た時はびっくりしたよ。女神相手に殴り込みをかけるなんてとんでもない度胸だね」

 

「あら、いつの時代でも母は強し、ですよ。うふふふ」

 

何てことしてるんだ母上えええぇぇぇ!?

苦笑いを浮かべるダーレーアラビアン様に対し、にこやかに微笑み返すお母さん。

 

いや……でも、ずっと見守ってくれていたんだ。

いつもいつも、私のことを見てくれていたんだ。

 

「それじゃあ改めてお母さんと約束。今度こそ守らないと本当に許さないんだから。……メルちゃん、どうか、ちゃんと幸せになりなさい。笑って、泣いて、怒って、愛して、愛されて、生きて、生き抜きなさい。今のあなたにはそれが出来るわ。だって、お母さんとお父さんの大事な娘なんですもの」

 

「ほら、聞こえるだろうメル? お前のことを待っている人たちの声が」

 

お父さんはそう言って後ろの何も無い空間へと視線を移します。

相変わらずの白い靄がかかっているだけの何も見えない場所。

しかし、遠くから聞こえる風のような音に紛れて、小さく、しかしはっきりと、聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

 

 

『スノウ先生、目を開けてよ。お願いだからさ』

 

――ネイチャさん。

 

 

 

『センセ、早よ起き。たこ焼き冷めてまうで』

 

――タマモっち。

 

 

 

『先生、お寝坊さん? わたしと同じだね!』

 

――ウララん。

 

 

 

『あんたには借りがある。返させろ』

 

――ブライやん。

 

 

 

『スノウ先生、まだそちらに行くのは早いですよ』

 

――カフェちゃん。

 

 

 

『いい加減起きなさいスノウ先生……貴方まで星にならないで』

 

――アヤベさん。

 

 

 

『頼む……帰って来てくれ、メルテッドスノウ先生』

 

――ルドりん。

 

 

 

『あなたとはまだゲームの決着がついていません。再戦を願いますメルテッドスノウ先生』

 

――ブルるん。

 

 

 

『同志先生ええええぇぇぇぇぇ!!!』

 

――デジたん。

 

 

 

『早く目覚めなさい。メジロは……わたくしはまだあなたから受けた恩を返せていませんわ』

 

――パクパクさん。

 

 

 

『親より先に逝くんじゃねぇバ鹿モン。……戻って来い』

 

――施設長(オヤジ)っ。

 

 

 

『おら、こんだけ呼ばれてっぞ。どうすんだ?』

 

――ゴルシちゃん。

 

 

 

他にもたくさん聞こえる、私を呼ぶ声達。

 

あぁ、そっか。

私がみんなを好きみたいに、みんなも私を好きでいてくれてたのか。

私という存在を認めてくれていたのか。

心の何処かで未だにアニメの中の事だと思っていたのか、それとも死ぬ前提で動いていたからなのか分からないけど、私はそんな簡単な事にも気付けなかったんだなぁ。

 

「お母さん」

 

「なぁに、メルちゃん?」

 

「ありがとう。私、みんなのとこに行くよ」

 

慈しみに溢れた笑みを浮かべたお母さんの手が、私の頭に添えられる。

お母さんの大きくて柔らかくてあったかい手。

私が大好きな、優しい手。

 

その手が、私の頭をゆっくり優しく撫でた。

 

続いてお父さんもわしわしと私を撫でた。お父さんの手は大きくてあったかいけどちょっとゴツゴツしてるし力が強いからお母さんより好きじゃない。

嘘だ。お母さんと同じくらい大好きだった。

 

「行ってらっしゃい。お父さんとお母さんは、いつでもメルちゃんのことを見守ってますからね」

 

「元気でな、メル」

 

「うん、行ってきます」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

――メルテッドスノウに、永久に続く幸福を――

 

――メルテッドスノウに、長きに亘る栄光を――

 

――メルテッドスノウに、彩に溢れた未来を――

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「「「「「「スノウ先生!!」」」」」」

 

中々焦点が合わない視界で見えてきたのは半年前にもお世話になった天井と、わたくしの周囲を囲むみんなの姿。

 

視線は……動く。

首は……動く。

手は……動く。

起き上が……れる。

足に意識を向ければ、ぴくりと反応する足の指。

深く深呼吸をする。胸に痛みは無い。

 

まいったなぁ。

夢だけど、夢じゃなかった。

 

――ぱたたっ

 

両の目から涙が溢れ、流れ落ちる。

 

ありがとう。

ありがとう、お父さん、お母さん。

 

――ぱたっ、たたたっ

 

涙が止めどなく溢れては流れ続ける。

 

「ぅ……ぁぁっ……ぁああああああああああああっ……!!」

 

ありがとう。

ありがとう、みんな。

 

私と出会ってくれて、ありがとう。

 

私を愛してくれて、ありがとう。

 

両親にも会えたし、死ぬ理由無くなっちゃったなぁ。

んじゃ……約束だし、頑張って生きますかな。




次回、最終回。

※ネタバレ回避のため、次回投稿まで感想返しを控えさせていただきます。
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