【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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2023/07/29 21:00 2話同時投稿(1/2)


Case26:養護教諭がいなくなる日

「駿川です。生徒会に確認して頂きたい書類をお持ちしました」

 

ここ最近は寒い日が続いていたが、ようやく陽射しの中に柔らかな春の気配が見え隠れしてきたトレセン学園。

バレンタインという学園内が浮足立つイベントも終わり、来る入学式と春の感謝祭に向けてにわかに忙しくなり始めたここ生徒会に、ノックの音と共にたづなさんの声がドア越しに聞こえた。

 

「どうぞ、お入りください」

 

「失礼します」

 

エアグルーヴが入室を促すと、手に書類を抱えたたづなさんがやって来た。

 

「こちらになります。いつものと、こちらが連絡事項です」

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってたづなさんは執務机で紅茶を嗜んでいたこの私、シンボリルドルフに書類束を差し出した。礼を述べつつ私は書類を受け取る。

いつもの……この時期から挙がり始める感謝祭に関する要望書に軽く目を通し、机の脇に置いた。

そして最後の1枚、連絡事項は……。

 

「そうか、いよいよメルテッドスノウ先生が……」

 

「ええ……もう、彼女のことを養護教諭とは呼べなくなってしまうんですね」

 

少し寂しそうに微笑むたづなさん。

ちょうど3年。彼女が養護教諭として学園に貢献してくれた時間だ。

余りにも短い期間だったことに私は僅かな驚きを覚えた。

 

「……ありがとうございますたづなさん。生徒達への周知はこちらで受け持ちましょう」

 

「宜しくお願い致します。では、失礼しました」

 

さて、どうやったら生徒達の混乱を少なく通達出来るか。

中々の難題に少しばかり思案しつつ、私は紅茶を一口飲んだ。

 


 

「ケエエエェェェーーーッ!? スノウ先生が辞めるデスゥーーーッ!?」

 

エルが驚嘆の声を上げます。……もう、近くであまり大きな声を出して欲しく無いんですけど。

 

「ちょっ、声が大きいって。かも知れないってだけだし」

 

「一体どういう事なんですか?」

 

今日のダンスレッスンを終えてそろそろチームのところへトレーニングに行こうかと私、グラスワンダーがエルと2人でレッスン部屋を出ようとした時、いきなり駆け込んできたセイウンスカイさんからそんな驚きの情報がもたらされました。

エルのように大声をあげるわけではありませんが寝耳に水なのは私も同じです。私はセイウンスカイさんに話の続きを促します。

 

「いやさぁ、さっきたづなさんが生徒会室に入ってったのをたまたま見かけてさ。何だろうなーって興味本位で聞き耳立ててたら、たづなさんの声で『もう養護教諭とは呼べなくなってしまう』って言うのが聞こえて」

 

その時の状況を話すセイウンスカイさん。

 

「それ、かも知れないじゃなくてもう確定じゃないデスカ!? イケマセン、これはみんなに伝えないとイケマセェェェェェェン!」

 

慌ただしく立ち上がったかと思うと、脇目も振らず大声を上げたエルはそう言って教室を出ていってしまいました。流石は彼女もウマ娘、あっという間にいなくなってしまいました。

 

「あ、ちょっとエル! ……行っちゃいましたか」

 

まずは当事者本人に事の真偽を確かめる方が先だと思うのですけれど……。

 

そのエルの行動が、学園のほとんどのウマ娘達を混乱の渦に陥れた大騒動の始まりだったとは、その時はもちろん私が気づく筈も無かったのです。

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「えーーーっ! スノウ先生が先生を辞めるの!? ヤダヤダ、ターボそんなのやーだー!」

 

「またまた、エイプリルフールにはまだ早いぞ。そんな嘘でこのネイチャさんを騙そうったって……嘘だよね?」

 

「何かあったのでしょうか。原因不明ですね」

 

「むむむむーん、これは事件の予感……! 犯人はこの中にいるっ!」

 

「なわけないでしょ。ちょっとどういうことなのか、みんなで保健室に聞きに行ってみよっか」

 

「「「賛成」」」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「それは……困る。スノウ先生がいなくなると、もうあの大きなポテチを貰えなくなる」

 

「自分は食いモンの心配かっ!」

 

「でも、理由が分かりませんねぇ。何故なんでしょう」

 

「ハッ、おおかたタマ公の相手をするのが疲れたとかなんじゃねぇのかい?」

 

「なんやと? それを言うなら狐なのか犬なのかよう分からんウマ娘に愛想尽かしたんかも知れんなぁ」

 

「あ?」

 

「お?」

 

「こらっ、2人共喧嘩はメッ、ですよ! それよりその噂が本当なのか先生に聞いてみませんと」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「えええええーーーっ! 何で、どうしてーーー!?」

 

「何か事情があるのではなくて? 例えば……例えば、えーと……」

 

「わたし、先生大好きだよ! キングちゃんと同じくらい大好きだよ! キングちゃんとずっと一緒にいたいって思うのと同じくらい、先生と離れ離れになるのは嫌だよ!」

 

「この子はさらっとこういう事を……/// き、気になるのなら実際どうなのか本人に確認してみればいいでしょう?」

 

「そっか! じゃあ、先生のとこに行こう!」

 

「ちょっ、ウララさん手を引っ張らないでー!」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「えええっ、ほ、ほんとに!? 先週一緒に遊んだ時にはそんなこと全然言ってなかったのに……」

 

「……」

 

「や、やっぱりライスが悪い子だからなんにも教えてくれなかったのかな……ううん、勝手な想像で落ち込んじゃ駄目って先生も言ってたでしょ、負けるなライス、がんばるぞ、おー」

 

「……」

 

「でも、だとすると先生どうしちゃったんだろう……。ブルボンさんは何か聞いてました? ……ブルボンさん? ぶ、ブルボンさーん!?」

 

「……」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「……ふーん、辞めるんだ、あの先生」

 

「う゛う゛う゛そ゛お゛お゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「まさか。彼女にとっても我々にとってもメリットが無い。デマだろう。デマ、だよな?」

 

「興味無い。あたしは帰る」

 

「タイシン、帰り道はそちらではないぞ?」

 

「……」

 

「み゛ん゛な゛て゛き゛き゛に゛い゛こ゛お゛お゛お゛!!」

 

「……そうだな。既に行くつもりだった奴もいるようだしな」

 

「っ///」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

じゃじゃじゃ(ええええええっ)!? まぁだすっただごと(またまたそんなことある)あるわげねがべじぇ(わけないじゃないですか)!」

 

「ユキノ、方言強く出過ぎ」

 

「あわわ、すみませんシチーさん。すんげぇ驚いてしまって」

 

「まぁ気持ちは分かるけどさ。でも、へぇ……アタシに黙っていなくなろうとしてたなんて、いい度胸してんじゃんスノウ先生」

 

「し、シチーさん顔が怖いべ……でもそんなシチーさんも美しいべ……

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「ハァ!? スノウ先生が辞めるって何なのよ!?」

 

「おいトレーナー! どういうことだよ!」

 

「マジでどういうことなんだ!?」

 

「あ、トレーナーも聞いてなかったんだ……あれ、マックイーンは驚かないの?」

 

「えぇテイオー。先生とは懇意にさせて頂いておりますので聞き及んでおりましたから」

 

「え、それってどういうこ」

 

「たたたたた大変です学園の一大事です!! 皆さん、先生のとこに……あれ、ゴールドシップさんは?」

 

「『こうしちゃいられねぇ! ちょいと日本アルプス原産の極上のウニ採ってくるわ』って言っていなくなったわよスペちゃん」

 

「えええ……」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「へ? あぁ、存じてましたよ」

 

「流石デジタル君……というか、君の割には落ち着いてるねぇ。普段ならこんな話を聞こうものなら髪を振り乱して巨大化して口から火を吹きながら理事長室に突入していきそうなものなのに」

 

「タキオンさんの中のあたしってどうなってるんですか……。まぁおめでたいことなので後でお祝いしようかとは思ってはいましたけど」

 

「辞めることが、おめでたい? ……あぁ、そういうことですか」

 

「はい。というわけでカフェさん、何か先生の欲しいものってご存知ですか?」

 

「コーヒーですね」

 

「あ、あながち間違いではないのですが……あぁっ、でも即答できるカフェさんが尊いでしゅぅ……」

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

「あっ、アヤベさん、アヤベさーん!」

 

「……なに。今忙しいから後にして欲しいのだけど」

 

「スノウ先生が辞めるって噂、聞きました? 今学園中がもの凄くもの凄いことになってて!」

 

「えぇ。今からそれを問い詰めに行くところよ」

 

「アヤベさんも学園辞めちゃうんですか!?」

 

「……どうしてそうなるの」

 

「え、だって、アヤベさんと先生って()()()()ご関係なんでしょう?」

 

「……寝惚けたことを言うのはこの口かしら?」

 

「い、いひゃい、いひゃいれふよアヤフェふぁん!」

 


 

……うっし、今日の書類仕事完了。

すっかり冷めてしまったコーヒーを一息に飲み干し、軽く伸びをするわたくしメルテッドスノウでございます。

 

いやぁ、あの時は大騒ぎでしたねぇ。

あれからどうなったかかいつまんでご説明しておきましょう。

 

どうやらわたくし、目覚める直前に軽く発光していたらしいんですよね。

周りがなんじゃこりゃあ!? って思った矢先にいきなりわたくしが目を覚ますわ、かと思ったら大声上げて泣きじゃくるわでそりゃあもうお見舞いに来ていたみんなは訳も分からず大パニックでございました。

 

更には歩けるようになってるわ呼吸は正常になってるわで病院側も大パニック。検査とリハビリに軽く追われましたとも。

そう、歩けたんですよリハる前から。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これにはわたくしも驚愕。さすが女神パゥワー。

おかげで年単位を覚悟していたリハビリも確認のための2、3日で終わってしまいました。あの時のリハ技師さんの何とも言えない表情はしばらく忘れられそうにありません。

 

ドクターがもの凄ぉーーーく学会発表したがってましたけど、こんな再現性も発展性も無い事例はただのオカルトなので止めといてもらいました。

まだ車椅子を全く使わない生活には慣れませんが、徐々に馴染んでいくことでしょう。

 

そしてチート能力のほうですが、確かに使えなくなってしまったようです。

一度、擦り傷があったウララん相手にこっそり試してみたんですが駄目でした。

けどチート使ってる時とは違った妙な感覚はあるんですよね……何だろ。後日要検証ですね。

 

手軽にウマ娘ちゃん様達から曇り原因を取り除けなくなってしまったのは悔やまれますが……いや手軽にとか言っちゃ駄目だな、またお母さんに怒られる。

もし仮に能力が残っていても今のわたくしは以前ほど使用することは無かったと思うので、結果的に無くなって良かったのでしょう。

 

一応筋を通すためにメジロのご当主様にはもう治せなくなってしまったことと、致し方ありませんが契約キャンセルでも構わないことを伝えたんですが、『貴方はメジロを恩知らずの一族にしたいのですね?』とか言いながらもんの凄い圧をかけられました。怖かったです(小並感)。

向こうが望んだものはわたくし側からは既に支払っており、その後の治癒行為が出来るかどうかは関係無いだろうということで、そのまま引き続き対価をいただけることになりました。

おかげで今まで密かに進めていた計画がポシャらずに済んだので地味に助かりました。あのお方には本当に頭が上がりませんね。

 

と、そうやって慌ただしいながらも平穏とした日々を取り戻したという事でございます。

どーれ、ひと仕事終わったしいつものグラウンドを眺めるお仕事の方をしましょうかね。今日はどんな娘が頑張って未来を目指して研鑽を積んでいるんでしょうねぐふふふふ。

 

……あれ、なんかいつもより外を走ってる娘の姿がやけに少ない気がしますぞ?

そう思った時、だんだんこちらに近づいてくる駈歩の音。

おっと、何事でしょう……ってかなんか結構な大人数が来てる音だぞ? しかも駈歩どころか襲歩じゃないか、おい軽く地響きしてるぞ? えっ、どんだけ来てんの?

そしてその勢いのまま、ドバゴシャアッ! と過去イチやばい音を上げて開けられるドア。おい大丈夫かドア。

 

「「「メルテッドスノウ先生っ!」」」

 

聞こえてきた足音の通り、たくさんのウマ娘ちゃん様達が一斉に保健室へ駆け込んできました。

お、おおぅ。どうしたみんな。そんなに大勢で……お部屋のウマ娘ちゃん密度が加速度的に上がっていきます。密です。だんだんと超至近距離で囲まれていきます。ひゃあ。部屋に満ち満ちていくウマ娘ちゃん様、ウマ娘ちゃん様、ウマ娘ちゃん様。ひゃああ。通勤ラッシュの電車じゃあるまいし何でこんなに近くにたくさんの娘たちが待って待って折角健康になった心臓がまた止まっちゃうやばいから。うひゃあああ。

 

「ん、みんなどうしたの? 急患?」

 

ひっひっふー。ひっひっふー。

何とか頑張って平静を保ちます。

こんなみんなでやってくるような事態なんて……おいおいまさか集団食中毒とかでも発生しましたか!?

 

「先生、養護教諭辞めちゃうって本当!?」

 

誰かがそんなことを聞いてきます。

……耳が早くないっすかね。まだ一部の関係者にしかリークしてない情報なのに。

 

「ありゃ、情報早いね」

 

「じ、じゃあ……」

 

「うん、本当だよ」

 

まぁ、知られてしまったからには仕方ない。

本当はギリギリまで隠しておいてみんなを驚かせようとしていたのですけど。

事実であることを告げると、ざわついていたみんながシンと静まり返ります。

……ぉや?

 

「……やだ……」

 

「ん?」

 

「嫌だ! 先生がいなくなるのは嫌! お願い先生、学園、辞めないで!!」

 

今にも泣きそうな声で訴えてくるウマ娘ちゃん。

周囲からも嗚咽まじりに辞めないでという声が聞こえてきます。

……んんん? 何か空気がおかしいぞ?

 

「ん? 学園は辞めないよ?」

 

「……え?」

 

「え?」

 

再び静寂に包まれる保健室。

何? どういうこと?

 

「っと……養護教諭、辞めちゃうんだよね?」

 

「ん。辞めるよ」

 

「じゃあ、学園は……」

 

「辞めないよ」

 

「え?」

 

「え?」

 

……あ、ようやく理解。

みんなはわたくしが『養護教諭を辞める』って話を『学園を退職する』って話だと勘違いしちゃったのか。

 

やだなぁ、こんな最高に素敵な職場を辞める訳が無いじゃない。

適当にゆるっとお仕事してるだけでコーヒーを嗜みながらウマ娘ちゃん様達と触れ合える上でお賃金がいただける職場なんて他にあるとは思えませんし。

 

「え、っと……どういうこと先生?」

 

まぁ『養護教諭を辞める』ってことはバレてしまったので、どうせですからこの場で完全ネタバラシしてしまいましょうか。

わたくしは机の引き出し、その一番下の段から封筒に仕舞っていた、仰々しい字が書かれたB4サイズの厚紙を取り出してみんなに見せます。

 

「ふっふっふ。じゃじゃーん」

 

「なに、それ?」

 

「医師免許」

 

「へ?」

 

いやぁ、前々から地味にストレスだったんですよね、怪我したりした娘をチートを使わずにちゃんと治してあげられないのって。

一般的な中高校ならまだしも、国内屈指のアスリート養成校に専門医が常駐してないのって普通に考えてあり得ないでしょ。

 

ですのでわたくし、ちょっと頑張ってスキルアップをすることにしました。

本来は医大に通わないと免許取得出来ないんですけど、今の職場を辞める気は無かったのでちょいと権力持ってる人にお願いして何とかしてもろて。

あ、試験自体は実力突破ですよちゃんと。

 

というわけで。

 

「先生、春から保健医になります」

 

「はい!?」

 

「ちょーがんばった。ぶい」

 

「「「……はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

これからもよろしくね、みんな!




■保健医
医師業務が行える養護教諭のようなもの。実在はしておらず、架空の職業だったりする。実在するのは以下。
養護教諭:いわゆる保健室の先生。養護教諭免許を必要とするが扱いとしては教員免許に近く、医療行為はNG。
学校医:学生に診療やアドバイスをする医師。学校に常駐しているケースは稀で、普段は病院勤務とかしてたりする。
保険医:保険診療を行える医師。つまり保険医=一般的な医師、という認識で問題無い。学校は関係無い。

本来医師免許取得には『医学部に入り6年勉強し、資格試験を突破する』というむっちゃくちゃハードル高い絶対条件があるらしいのですが、前半部分をメジロ力(ぢから)でなんやかんやしてもらいました。試験自体は超勉強して頑張ったし、更に免許取得後2年間の研修期間が必要なのですが今後メジロ主治医に面倒を見てもらうことでカバー。無理があるですって? 知ってる。

■メルテッドスノウのひみつ①''
実は、転嫁能力が無くなった代わりに『怪我がほんの少し治りやすくなるおまじない』が使えるように。
能力除去の名残りと、女神の祝福が関係しているらしい。
もちろんノーリスク。やさいせいかつ。

■永世MVP
シラオキ様。
『お母さんのオハナシ』の効果により自身の精神を生け贄にすることで三女神を召喚。スノウちゃんを完全回復に至らしめる。
ろくな出番が無かったのに重要フラグの立役者。
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