【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい 作:藤沢大典
春。
ここ府中では桜が満開です。
今年も夢と希望に胸を膨らませた多くのウマ娘たちが、トレセン学園に入学します。
ある者は、己が強さを証明するために。
またある者は、競い合えるライバルの存在を求めて。
はたまたある者は、誰かの想いに応えるために。
色々なウマ娘が様々な想いを胸に戦いの舞台へと身を投じる、その登竜門へとやってきたのです。
そして私、キタサンブラックもそんな多くのウマ娘のうちの1人でした。
どうにか無事に入学試験を突破し、いよいよ今日からこの学園でトゥインクルシリーズを目指して学んでいくことになります。
そう、今日という日から私達の輝かしい未来が……。
「だから言ったじゃない! 大事な日の前は早く寝なさいって!」
「だってだって! 緊張してなかなか眠れなくて!」
……始まらないかも知れない。
今日という日が楽しみすぎて、全然眠れなかった。
おかげで当然寝坊した。ごめん。ほんっとごめんダイヤちゃん。
入学初日から遅刻はちょっとシャレになんない。
私と私の大親友であるダイヤちゃん……サトノダイヤモンドの2人はまだ見えぬ校門を目指して敷地周りの歩道を怒られない程度のスピードで走っています。
というかトレセン学園って何でこんなに大きいの! 右手に敷地を眺めながら結構長いこと走ってるんですけど!?
心の中でそんな悪態をつきながら、なおかつこんな事態に陥っているのが自業自得であることを反省しながら適性を軽く超える距離を走り続けること数分。そうして何とか。
「ま、間に、合った……」
「結構、ギリギリ、だったね……」
肩で息をする私達。どうにか予鈴が鳴る前に校門へ辿り着くことが出来ました。
少し呼吸を落ち着けて顔を上げれば、その先に見えるのは立派な校舎。
感謝祭とか他にも色んなことがあったりする度に訪れていた場所だけど、今日からは違う意味を持つ校舎。
……遂にここまで来たんだ。
「……いよいよだね。ダイヤちゃん」
「うん。一緒にがんばろ。キタちゃん」
真っ直ぐ伸びる道の先に見える学び舎を見つめ、私達は決意を新たにします。
そう、今日から私達もここトレセン学園の一員となるんです。
ここで研鑽を積んで、絶対にあの憧れの人達の背中に追いついてみせる。
私と、ダイヤちゃんの2人で。そして、憧れのその先へ……!
「ほら、早く教室行こ、キタちゃん」
「待ってってうわあっ!」
慌てて再び駆け出した結果、校門のレール部分に躓いて盛大に転んでしまった。痛たたた……。
どうも本格化を迎えて身体が急成長したせいか、まだ色々と感覚が追い付いてないみたい。
「大丈夫、キタちゃん!?」
「う、うん……痛っ、膝擦りむいちゃった」
左脚の膝頭が擦り切れ、じわじわと赤い領域が広がっていく。やってしまった。前途多難だなぁ、私の未来……。
「……ん? どうしたの? 怪我しちゃったの? 大丈夫?」
膝を抱えてその場に蹲ってしまっていた時です。校舎と反対側……私達が今入って来た校門の方からふいに声を掛けられました。
振り返るとそこにいたのは、1人のウマ娘。
群青色のショートヘアの毛先は灰色に透けてグラデーションがかっていて、透けた陽の光で輝いています。右耳には鮮やかなライムグリーン色のシュシュ。
どこまでも透き通るアクアマリン色の瞳は、その色の名が示すように広く広く海のように全てを包み込む優しさを湛えているかのようです。
そしてその身を包む白衣が、まるで羽衣のように彼女から醸し出される清明さを彩っています。
きれい。
現実でありながら非現実的な雰囲気を匂わせるそのウマ娘は、恐らく飲むつもりであったのだろう、水のペットボトルを片手に持ちながらそう聞いてきました。
彼女はゆっくり歩いて私に近寄ります。そして私のそばにしゃがんで傷の様子を診察し始めました。
「あ……」
この人は。
「ちょっと痛いかもだけど、ごめんね」
そういうと彼女はポケットからハンカチを取り出し、更にパキッと音を立てて開封したペットボトルから中に入っていた水でハンカチを濡らしていきます。
そのハンカチでちょんちょんと傷口を軽く拭いて、どこから出してきたのか絆創膏をぺたり。
「いたいのいたいのとんでいけ。はい、処置完了。いくらウマ娘の身体が頑丈だと言っても気を付けてね、キタサンブラックさん」
そう言って微笑みながら私の頭に手を乗せて、軽く撫でられました。
柔らかくてあったかくて、優しい手。
やっぱり、この人は。
あの時もこうやって私を撫でて励ましてくれたこの人は。
諦めずに信じ続ける強さを私に教えてくれた、この人は……!
「はいっ! ありがとうございます、スノウちゃん先生っ!!」
私達の輝かしい未来が、やっぱり、今日から始まるのかも知れない。
■後書き
くぅ疲。
この度は『走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい』を最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
無理に無理を重ねた形でしたが、何とか着地出来たのではないかと思います。もし読み終わった時に皆様の脳内で画面が暗転し、スタッフロール&うまぴょい伝説が流れ出していたのならとても嬉しゅうございます。
この結末の草案を思いついたのが2023年のバレンタイン前くらいの頃なんですけど、その約2週間後にアプリでグランドマスターズの発表、つまり公式三女神様が出てきたんですよね。
もうね、『この話で行け。書け』って言われた気がしました。気のせいでしょうけど。
本来飽き性の自分がよく書き続けることが出来たものだと今でも思います。
これもひとえに評価、感想、ここすき、誤字修正やツイッターでの読了報告をしていただけた読者の皆様のおかげだと只々感謝するばかりです。
流石にSeason3の予定はありません。
余談や閑話は極稀に投稿するかも知れませんが物語としては完全に完結となります。
発表から充電期間を含め約9ヵ月もの長い間、メルテッドスノウを応援していただき本当にありがとうございました。スノウちゃんの幸せはこれからだ!
それでは全ての読者様方とウマ娘ちゃん様達の幸せと今後の益々のご発展を願いつつ、この場はこれにてお開きとさせていただこうと思います。
重ねてありがとうございました。