【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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主人公視点&ちょっとキング視点。

次の話なににしよっかなーとか考えてたら脳内ウララが「わたしのお話書いて―」って言って5分でプロット用意してくれた。やはりウララは天使。


Case04:養護教諭とハルウララ

徐々に陽も延びて太陽は未だ高い位置におり、まだ今日という日が終わる影すら見せていない。雲は少なく、遙か上空にたなびく一本の飛行機雲が、後ろに伸びるに連れて淡く歪みながらも空を二分割している。学園至るところに溢れる緑も若葉色から新緑へと移り変わり、遠くない夏の訪れを告げてくれる。

どうも皆さん、いかがお過ごしですか。メルテッドスノウです。

 

あ? 今『スノウちゃんらしくないぞどうした悪いもん食ったか?』とか思った人、挙手。正直にね、怒らないから。

だって仕方ないじゃない! 衣替えですよ!? 夏服ですよ!? 薄着ですよ!!?

こんなの正気を保つの大変に決まってるじゃないですか!!!

ただでさえ普段からウマ娘ちゃん様達の素敵なお姿を無料で拝謁させて頂いているのに、その上更に肌色割合が増えてるんです。常日頃から冷静になる努力をしてないと、車椅子のままブレイクダンスしてステージをどっかんどっかん沸かせてしまうかも知れません。もちろん沸いてるギャラリーは全員スノウちゃんズです。

 

服装にあまり代わり映えのないわたくしも、さすがにこの時期に長袖の白衣はあっついですので、袖を何度か折って五分丈くらいにしております。

上着は相変わらずのワイシャツ、下はゆったりめのワイドパンツとサンダルが私の通年のデフォスタイルですね。上は寒くなればもう少し羽織ったりして変化するとは思いますが、下はなー、スカート慣れないんですよね中々。風通し良すぎて不安になっちゃう。履きやすいとは思うんですけどね。

 

そんなちょっと汗ばむような時期にも関わらず、未だにホットでブラックコーヒー飲んでるわたくしです。

一応、氷枕とかスポドリ類冷やしておく為に冷蔵庫も置かせてもらったのでアイスコーヒーも作れなくはないんですが、まだもうちょっとあったかいのを堪能したい気分なのです。明日になったら『こんな暑いのにホットなんぞ飲めるかー!』とか言うかも知れませんけど。

コーヒーはインスタントのやつはあまり好みではないです。ちょっと酸味が強めなのが多いのでそのまま飲むのは……砂糖ミルク入れれば嫌いじゃないですが。ブラックで飲むならドリップバッグのやつが個人的にはバランス良くて好きですね、味と値段の。

というわけで、いつもはコスパ重視で某大手メーカーのを飲んでますが、今日はほんのちょっぴり奮発してス〇バのやつを飲んでみてます。うん、美味しいかも。あんまり詳しいことは分からないけど薫りがいい気がする。まだ慣れてないのでいつものやつの方が好きではありますが。

 

「スノウ先生ー! こんにちはー!」

 

そんなこんなで優雅なコーヒーブレイクを楽しんでいたところ、ガラッと勢い良く戸を開けて元気な声が入ってきた。

小柄な体躯、桜色の髪をポニーテール。臙脂色の耳カバーと鉢巻を付け、その瞳に桜花を咲かせ続ける少女……そう、皆さんお待ちかねぇ! ハルウララの登場だぁ!!

 

「はい、こんにちは、ウララさん」

 

「先生、また擦り剥いちゃったから絆創膏くーださい!」

 

彼女はウチの太客です。2、3日に一度はこうやって絆創膏を求めてここへやって来ます。代わりに溢れんばかりの笑顔と元気を見せ、私の尊み成分を満たしてくれます。ハイオク満タン現金払いです。

絆創膏は入口近くの棚にしまってあり普段は必要な人には横に置いてある記入用紙に必要数を書いて持ってってもらってるのですが、彼女だけは利用頻度が高いので例のチェックも行うついでにわたくし自ら処置しています。そのために机の上に100均で買った小さな救急箱、通称『ウララ箱』も用意したりしました。中身は10割絆創膏の特別仕様です。

 

さてさて、それではお仕事モード発動です。

わたくしはウララんに隣の椅子に座ってもらい、擦り剥いた箇所を見せてもらいます。今日は肘ですね。可動部なので粘着性・伸縮性の高いやつ使いましょう。

 

「傷口は、水で洗った?」

 

「うん! 先生の言う通りに水で流したよ」

 

なら良し。では自分のお手々をアルコールで殺菌してから、絆創膏をぺたり。はい処置完了。

 

え、簡単すぎるって? 消毒はしないのかって? ちっちっち。医療技術及び論理も日々アップデートされているのです。傷口って消毒しない方が良いらしいんですよね。

傷口を消毒すると染みるでしょう? 痛いでしょう? あれって体内の常在菌、つまり身体を正常に戻そうとしてくれる菌も一緒に殺しちゃってるらしいんですよね。なので殺菌すると却って悪い菌が侵入しやすくなってしまうらしいのです。

傷口自体も今までは乾かしてかさぶたを作らせる乾式療法が主流でしたが、現在は湿潤療法のほうが効果が高いことが分かっています。かさぶた作っちゃうと乾いてるから細胞も傷を治しづらくなるんですって。

なので今は『かさぶたを作らせず常に湿った状態で、免疫力に任せて傷を治す』のが新たな常識となってきています。痛くないし早く治るし傷跡も残り辛い、といいことづくめです。なので備蓄している絆創膏もわたくしが赴任する前の備蓄を除いて全部湿潤式のやつに変えています。

デメリットはコストの割高さではありますが、会議で有用性をしっかりプレゼンしたので理事長の鶴の一声で承認していただきました。扇子に『承認ッ!』って書いてましたけど会話に合わせて何パターンか用意してたりするんですかそれ?

 

さてさて閑話休題。

 

「えへへ、なんかね、先生に絆創膏貼ってもらうと、傷が早く治る気がするんだー」

 

処置完了したのでもういつものテンションに戻ってもいいですよね?

……なんて可愛いことを言うのこの娘はーーー! 早く治るのは絆創膏の力だし、こんなんいくらでもしてあげますけど出来れば怪我しないように気を付けて欲しいな先生としてはー! ウララんの珠のようなお肌に傷が付いてしまうのは先生とても悲しゅうございます。

 

「はい、出来ました。それじゃ、いつもの、やるよ」

 

「あ、いつもの……ば、ばいかるちぇっく?」

 

うーん、ロシアにあるバイカル湖には測りたくなるほどの興味は無いかなー。

 

「惜しい。バイタル、チェック」

 

「えへへ、惜しかったー。はい、先生!」

 

そう照れ笑いを浮かべながら右手を差し出してくるウララん。

ほんとこの娘はポジティブマックスウマ娘やわぁ。一挙手一投足で幸せ振り撒いてくれますね。

彼女には結構な頻度でチェックを行ってるのであまり心配はしていませんが、習慣付いた行為だし念のためということで今日もやっていきます。

左手で彼女の手を取って掌を上に向け、右手の指先を手首にあてて全集中。とくんとくん。あぁ、ウララんの鼓動を感じる。ウララんが生きている。生まれてきてくれてありがとう、出会ってくれてありがとう。

 

「スノウ先生の手ってあったかいね。わたし先生にこうやって手を握ってもらうの好きだよ」

 

もうやめて! とっくにスノウが尊みを表現する語彙パターンはゼロよ!

ウララんはフルタイムで尊み成分を供給してくるのでわたくしでもテンションが追いつきませぬ。わんこそばのように間断なくブチ込んで参ります。はーやば、心臓止まりそう。でも心臓止めるのはバイタルを測ってからにしとこう。

さてさてと……ん、問題なし。

 

「はい、ありがとう。ウララさんは、今日も元気、です」

 

「うん、わたし元気だよ! あ、それでね先生。相談したいことがあるんだ」

 

よし心臓止めるかと思ったその時、ウララんが話を切り出しました。

ほう? ウララんがわたくしに相談とな? いいぜー乗るぜー超乗るぜー。

あ、ちなみにウララんはわたくしなんぞにも敬語を使わずフレンドリーに話してくれます。わたくし自身も望むところなので何の問題もありません。友達と呼べる相手はほぼいなかったのでこの気が置けないやりとりはむしろ新鮮だったりします。

 

「ん、何かな?」

 

「わたしね、いつもキングちゃんにたくさんたくさん、『ありがとう』をもらってるの」

 

首肯して先を促します。

キングちゃん……キングヘイローのことですね。可愛いと綺麗とかっこいいを高次元で併せ持つ超一流のお嬢様。が、割と肝心なところが抜けてて親しみを持ちやすい、ウララんのルームメイト。GⅠ勝利経験を持つ母親と確執があり本人の資質はそこまで高くないものの、決して諦めること無く常に顔を上げ続け、泥と汗にまみれてでも貪欲に勝利を追い求める誇り高きウマ娘。そういう娘、わたくし大好物でございます。そういう娘でなくても大好物でございますが。

 

「朝起きれないときいつも起こしてくれたり、くるくるぽんって髪をまとめてくれたり、制服に着替えるの手伝ってくれたり、朝ごはん一緒に食べてくれたり、他にもね、えっとね、えっとね……とにかく、キングちゃんはいーーーっぱい、『ありがとう』をくれるの」

 

「わたしね、嬉しくて、そんな優しいキングちゃんが大好きで、だからわたしもキングちゃんに『ありがとう』を返したいの。だけどどうやってキングちゃんに『ありがとう』を返したらいいか分からなくって。スノウ先生なら、どうしたらいいか分かるかなーって思って」

 

「えっと、だから、どうしたらいいと思う?」

 

天使か。いや天使だったわ。あっ、尊すぎて眼から何か出そう。もうね、言葉をまとめ切れないながらも身振り手振りを交えながら一生懸命伝えようとしてくれるその姿が眩しくて。

 

「わわわっ、スノウ先生!?」

 

「ごめん、大丈夫。ちょっと、寝不足で」

 

マジでちょっとうるっと来て目頭を押さえてたら心配されてしまった。なんでしょう、実年齢+前世年齢で割といい歳になるから涙脆いんですかね。

 

「あー、眠くってあくびすると、ふぁーってなって涙でちゃうよね!」

 

ピュアか。精霊だわ。人里離れた森の奥で暮らしてて汚れを知らないとかそんな類か。あんまり純粋すぎてちょっと将来心配になっちゃうレベルだわ。けど貴重な絶滅危惧種なので是非そのままの君でいてください。

 

「ウララさんは、そのままで、いいと思う」

 

「うーん、そうなのかな」

 

もうね、あなたの存在自体が幸せの塊なんですよホント何この娘。わたくしを尊死させたいの? させたいんだな?

てか思わず心の声が漏れて結果的に『特に何もしなくていい』って意味の回答になってしまった。このわたくしがせっかくのウララんの想いを否定するなぞあってなるものか。軌道修正すっぞオラァ!

 

「いいと思う。けど、ウララさんは、キングさんに、何かして、あげたいんだ、よね?」

 

「うん! だってわたし、キングちゃんに『ありがとう』をもらうとぽかぽかーってなって、ふわふわーってなって、すっごく嬉しいもん。だからキングちゃんにもぽかぽかーってなって欲しいんだー。そしたら一緒にぽかぽかーになって、もっともーっとあったかくなると思うんだー」

 

その真理に辿り着くとは神か。女神だわ。やべぇ、四柱目の女神の誕生に立ち会ってしまったわ。とりあえず拝んどかなきゃ。南無南無ハレルヤ。

 

「先生、手を擦り合わせてどうしたの?」

 

「気にしないで。それより、『ありがとう』の、お返し、一緒に、考えよう」

 

「うん! ありがとう先生!」

 

守りたい、この笑顔。やーべぇ、ハイオク溢れそう。いやさっき溢れたな。引火して爆発炎上しないよう気を付けなきゃ。

にしても、プレゼントか……結構悩むことが多いんですが、さっきのキングエピソード聞いてる時にちょっとピンと来たものがあります。あまり重く受け取られなくて、そこそこ長い期間、形に残ってくれて感謝を伝えられる、そんなプレゼントが。

 

「たとえば、こんなのは、どうかな?」

 


 

「ただいま、キングちゃん!」

 

午後のトレーニング終わりにトレーナーと少し話し込んでたらやや遅くなったので、今日のところは寄り道もせず真っ直ぐ寮に戻ったのだけれど、いつもは先に部屋に戻っているはずのウララさんの姿が見当たらなかった。どこかに出掛けているのだろうかと部屋を見回しながら荷物を置いた矢先、彼女は戻ってきた。

 

「おかえりなさい、ウララさん」

 

どこかに行っていたの? と聞こうとした時、彼女はこちらに尻尾を向けて何やらゴソゴソしだした。肩から下げていたスクールバッグの中を漁っているみたい。一体どうしたのかしら。

 

「キングちゃん、あのね……はいこれ! プレゼント!」

 

ウララさんは急に振り向くと、バッグの中から取り出した何かを私に差し出した。

先端がピンクの白い筒状のもの……見ると一輪の花束だった。

 

「これは……カーネーション?」

 

一体何故?

 

「うん。わたしね、キングちゃんにお返ししたくって、何をしたらいいのか分からなくて、スノウ先生に相談したの」

 

「スノウ先生って……保健室のメルテッドスノウ先生のこと? というかお返しって、何の?」

 

基本的にウララさんの話は突拍子の無いものが多いけど、今回もやっぱりよく分からなかった。

ウララさんはちょくちょくメルテッドスノウ先生とやらに会っているらしいが、私は会ったことは無い。一流の私は怪我なんかしないので保健室にそもそも用事がない。

そしてお返しと言われても何のことか思い当たらない。誕生日……にはウララさんからプレゼントは貰ったし、私からもウララさんの誕生日にはプレゼントしている。それ以外となると本当に思い当たらない。

 

「うん。キングちゃんはいつもわたしのこと見ててくれて、わたしがダメなとこをちゃんと教えてくれて、優しくって最高のお友達だって言ったら、スノウ先生が『まるでお母さんみたいだね』って言って、カーネーションのこと教えてくれたの。『本当のお母さんではないし、母の日でもないけど感謝を伝えるのに花をプレゼントするのは変なことではない』って。それを聞いて、わたしもキングちゃんにお花をあげたいって思ったんだ」

 

「だから、いつもありがとう、キングちゃん! これからもよろしくね!」

 

……なるほど。日頃の感謝というやつなのね。

彼女から受け取った花束をじっと見る。母の日、感謝、親愛……確かピンクのカーネーションの花言葉には『上品』や『気品』というものもあったわね……なかなか分かってるじゃない。ウララさんがそこまで考えてこれを選んだとも思えないけれど。

母親みたいと言われるのは少し、いえ正直かなり複雑だけど。私とウララさん、同学年よね……。

 

「まったくあなたは唐突にこういう事を。そう思うんならせめて普段から自分でキチンと朝起きられるようになりなさい。……けど、ありがとう、ウララさん」

 

すうっと、香りを吸い込む。青い草の匂いと、花の芳しい香り。

たまには花も悪くないわね。

 


 

「スノウ先生ー! こんにちはー!」

 

「はい、こんにちは、ウララさん」

 

ウララんの相談を受けた翌日。今日も彼女はやってきた。

ただしいつもより来る時間がやや遅めですね。普段ならトレーニング直後くらいには来ているのに今は終業のチャイムが鳴ってからそこそこ経ってます。

これはアレですな、わたくしのアドバイスに沿って先程お花を購入して来たんでしょう。そして『今夜キングちゃんに渡したいけどどうやって渡したらいいかなー?』とか聞きにきたってところでしょうね。くぅーいいなぁ! アオハルしてんなぁ!

 

「あのね、今日は先生にプレゼント持ってきたの。はい、これあげる!」

 

そういってウララんはわたくしに後ろ手に隠していたものを出した。

それは、一輪の花束。きちんとラッピングまでしてある。

というかこの花……

 

「カーネー、ション……? なぜ、わたしに?」

 

はて。確かにわたくしはカーネーションとかいんじゃね? とアドバイスはしましたが、それはキングちゃんに対してでございます。いくら何でも流石にわたくしとキングちゃんを間違えてる可能性は無いよなぁ、さっき『スノウ先生』って呼ばれたし。

 

「昨日ね、スノウ先生に教わったプレゼント、キングちゃんに渡したの。そしたらキングちゃんすっごく喜んでくれて、二人でぽかぽかできて、なんかすっごくすっごく、うまく言えないんだけど本当にすごかったんだー!」

 

何とこの娘、相談した昨日のうちにキングちゃんに渡しておりましたか! 行動早すぎんだろなんだこの流石すぎるバイタリティは。結果大成功みたいですし、本当に幸せそうで何よりなんですけどね。おかげでわたくしも幸せです。今日もご飯が美味しく頂けそうです。

キンウラは正義。もちろんそれ以外も全て正義。異論は聞かぬ。

 

「でね、その後に気付いたの。こんなにポカポカできたのはスノウ先生のおかげだったんだなーって」

 

何を仰るやらこの現人神様は。わたくしはせいぜい『花でもあげたら喜ぶんじゃね?』位のことしか言ってませんよ? 全てあなたの心から生まれたイノセントなすてきんぐなのですよ。

 

「……でね、スノウ先生はすっごく柔らかくて、あったかくて、何でも受け止めてくれて、キングちゃんとは違うけどスノウ先生もママみたいって思ったから、先生にもカーネーションをプレゼントしたかったの」

 

「だから、ありがとうスノウ先生!」

 

…………

 

――ぽっ

 

おや? 何が……

 

――ぽたっ、ぽたっ

 

んん? ふとももあたりに何か垂れてる音が。雨漏りですかね? おっかしいなー雨も降ってないのに。雨じゃなくて水道の漏れかしら? 学園って歴史はあるけど建物はそこまで古いものじゃ無いんだけどなぁ。なんかウララんが驚いた顔でこっち見てるぞ。わたくしの顔に何かありました?

……ってまぁ、鈍感系主人公じゃあるまいし分かってるんだけどさ、わたくしの目から零れ落ちてる涙だってことくらいは。視界歪んでるし。

 

――ぱたたっ、ぱたっ

 

『ママみたい』、かぁ……

そうですね、久しく忘れてましたがわたくしはTS転生者であると同時に、メルテッドスノウその人でもあるんだった。わたくしが誰かにそう言う分には気にもならないですけど、わたくし自身に対して『ママみたい』は、ちょーっと色々思い出しちゃってプレイヤーに対してダイレクトアタック(物理)って感じになっちゃいますね。

 

「スノウ先生、どうしたの!? どこか痛いの? お花、嫌だった……?」

 

おっといかんいかん。ウララんが不安そうにこちらを見ている。

袖口でゴシゴシと涙を拭おうともしましたが服装が夏仕様で袖が無い。まぁそこは大人ですのでポケットからハンカチを取り出し、そちらで拭き取ります。

 

「違う、の。嬉しかった、だけだから。大丈夫」

 

本当は嬉しさ以外にも哀しさとか寂しさとか他にも色々な感情が一気にぶわーっと来ちゃってましたけどね年甲斐もなく。はーまだまだ小娘だなわたくしも。

でも、おかげで久々に思い出したな……だから、これは純粋なお礼。

 

「ありがとう、ウララさん。嬉しかった、から、お礼に、ちょっぴり、魔法を、見せてあげる」

 

「魔法?」

 

「ん。でも、他の人、には、内緒ね」

 

そう言ってわたくしはウララんの手を引き寄せ、昨日絆創膏を貼った肘にそっと手を触れます。そして、小さな声で一言呟きます。いざ、チート能力ちょっと解禁。

 

「いたいのいたいのとんでいけ」

 

見た目には何も変わりません。わたくしはウララんから手を離します。

 

「絆創膏、剥がしても、いいよ」

 

「え?」

 

「ほら」

 

「う、うん……?」

 

突然そんなことを言われて戸惑うウララん。まぁ意味分かんないだろうね、何でそんな事言うのか。まぁ、剥がしてみれば分かるから。

まだ治りきってない傷口を晒す痛みを警戒し、おっかなびっくりといった様子で絆創膏を剥がすウララん。しかし剥がしてみても予想していた痛みが無かったのか、首を傾げる。そのまま恐る恐る傷口に触れ……

 

「あれ、痛くない……傷が、無くなってる……なんで!?」

 

「魔法、だからね」

 

両の目をこれでもかと見開き呆然とするウララんの表情に、わたくしは悪戯が成功したが如く笑みを浮かべながら、『内緒だよ』の意味を込めて人差し指を口の前に持ってきて、しぃーっとポーズを取ります。ふふふ。

 

 

 

……わたくしは今、あなたに誇れるようなウマ娘になれてますか?

あなたとの約束を守りながら、約束を破ってる親不孝者ですけど。

守ってる約束も、多分守れなくなりそうな気がしてますけど。

いや、さすがに怒りそうだな。でも出来れば怒って欲しくないなぁ。

 

どうかな、お母さん。




■メルテッドスノウのヒミツ①
実は、触れた相手から傷を無くすことが出来る。
おまじないの言葉は、ただの雰囲気作り。

■雑記(2022/12/10)
第3話公開時、ジャンル:ウマ娘で日間総合評価1位をいただけました。このような稚作に過分なご評価をいただき、まことにありがとうございます。今後も週イチペースですが、エタらないよう頑張っていこうと思います。
筆者もコーヒーはブラック派です。味の良し悪しはマジで分かりません。お店で一番安いブレンドとお値段5倍くらいする高級ブルーマウンテンとの違いがさっぱり分かりませんでした。
あとキンウラって言うと筆者そこそこおっさんなので仮面の電車王かと思っちゃいます。桃全受け。

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