【完結】走れないTS転生ウマ娘は養護教諭としてほんのり関わりたい   作:藤沢大典

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カフェ視点。

まったり日常回……の予定がギャグ全振り回に。
方言バリバリでキャッキャウフフしたかっただけだったんだけど……

注意:当SSでのマンハッタンカフェ、キャラ崩壊激しめと思われます。


Case06:マンハッタンカフェと養護教諭たち

「〜♪」

 

学園の廊下を、私は上機嫌で歩いています。

前々から発注してあったちょっと珍しいコーヒー豆が、先日ようやく届いたことで私はウキウキしていました。

それを保健室のメルテッドスノウ先生と堪能すべく、私、マンハッタンカフェは彼女の元へ向かっているところなのです。

 

というのもスノウ先生、この学園ではかなり少数派なブラック党。

何でも、一時期漢方薬を服用したことがあって苦味に慣れた結果、コーヒーの苦味は美味しいということに気付いたらしいです。

私はどんな飲み方も好きですが、豆自体が持つ深い苦味や爽やかな酸味、仄かな甘みなどといったブラックの良さを語れる人は貴重なんです。

 

彼女は普段、ドリップバッグでコーヒーを飲んでいるので、ミルやドリッパーなどの器具も持参して保健室へ向かいます。

豆は三日ほど前に焙煎済み。焙煎したてより数日置いたほうが豆から余分な炭酸ガスが抜けて味に落ち着きが出るんです。

 

スノウ先生はいつも私のコーヒーを美味しいと言って飲んでくれます。本人曰く、『自分はバ鹿舌だから何を飲んでも美味しいとしか言えない』と言ってますが、ちゃんと風味や薫りの違いは分かっているようなので、そんなことは無いと思うのです。どんな豆にもそれぞれに個性があり、その個性の全てを受け入れてくれる人なのでしょう。

何より、自分の淹れたコーヒーを美味しいと言ってもらって嬉しくない訳がありません。

私はそんな彼女のことを好ましく思い、今日もこうして訪れているのです。

時々、彼女のオーラにタキオンさんと同室のデジタルさんに似た色を感じますが、悪いものではないでしょう。お友だちも警戒している様子は無いですし。

 

「失礼します。スノウ先生、新しい豆が手に入ったので良かったら……」

 

カラカラと戸を開けると、そこにはスノウ先生と、二人の学生が三つ巴で向かい合う形で座っていました。

一人は私のルームメイトのユキノビジンさん。

もう一人は学園の至るところで見かける、サクラバクシンオーさん。

どちらかというとスノウ先生とユキノさんが向かい合って、その二人をサクラバクシンオーさんが見ている、と言ったほうが正しいですねこの構図は。

 

「あ、カフェさん!」

 

「これはマンハッタンカフェさん! こんにちは!」

 

「ん、いらっしゃい」

 

三人がこちらに気付き、挨拶を返してくれます。

ただ、何故かユキノさんの頭の上にはカッパのぬいぐるみが、スノウ先生の頭には鹿の角が生えた獅子舞のお面のようなぬいぐるみが乗っています。

 

「……これは、何をやってるんですか?」

 

どういう状況なのか分からず、スノウ先生からいつものバイタルチェックを受けながら声をかけてみます。

するとサクラバクシンオーさんが、私の疑問に答えてくれました。

 

「はい! これはですね、ユキノさんとスノウ先生による、バクシン的岩手自慢五番勝負を行っているのです!」

 

「バクシン的岩手自慢五番勝負」

 

全く聞きなれないどころか、初めて聞く単語に思わずそのまま鸚鵡返しをしてしまいます。

 

「はい! 二人にはお題に沿ったバクシンスピリッツ溢れる岩手の名物をアピールしてもらい、私のバクシンジャッジでどちらがよりバクシン的か勝負しているのです!」

 

「なるほど。よく分からないということがよく分かりました」

 

会話の途中に挟まれている『バクシン』という響きが私の常識を掻き乱します。恐らく、二人が地元自慢比べをして遊んでいるのだ、という認識でそんなに大きく間違っていないはずですが。

 

「ちなみに、現在は1勝1敗1引き分けで第4試合に入るところです!」

 

「はぁ」

 

私は早くスノウ先生とコーヒー談義がしたいので、ここで茶々を入れると無駄に長引きそうだなと思い、とりあえず黙ってることにします。

 

「ではお二人とも、よろしいですか? 第4試合のお題は……『岩手の観光地』です! では先攻ユキノさん、アピールをどうぞ!」

 

「はい。あたしがオススメする観光地は……『小◯井農場まきば園』です!」

 

ババーン! という効果音がユキノさんの背後に見えた気がしました。

……私は何を言ってるんだろう。効果音が見えるってどういうことでしょうか。

というかこんなにはっちゃけたユキノさん見たの初めてかも知れません。

 

「一日で遊び尽くせないほどの広大な敷地に数々のアクティビティにグルメが満載の観光農場です。あまりに広すぎる敷地を移動する手段として園内周遊バスや昔のバ車鉄道を利用したトロッコバ車などがあり、それでのんびり敷地を散策するも善し、アスレチックやアーチェリー、そして何より見渡す限りの草原を走り回って汗を流すも善し。お腹が空いたらジンギスカンや焼肉、生乳100%のソフトクリームなどがレストランや屋外バーベキュー場で堪能できます。またバターやアクセサリーなどの手作り体験で家族での思い出作りにも最適だす。そしてそんな中でも特にイチオシなのが、春に見ることが出来る、雪が残り尾根の形がくっきりと分かる雄大な岩手山を背景に、広い牧草地に佇む一本桜……これがもう最っ高のウマスタ映えスポットなんでがす!」

 

雄弁に情景を語り尽くすユキノさん。一瞬だが、晴れ渡る空、青々と広がる草原、その中を駆け回る彼女の姿を幻視したような気がしました。

ぇ、まさか、今のは一部のウマ娘が使えるという『領域』では!?

 

……いやいやいや、レースならまだしも地元自慢の雑談でそんなの展開しないで欲しいのですけど。というか『領域』がそんな事で展開出来るようなものであって欲しくないのですけど。

 

「はい、青空の下を楽しそうに走るユキノさんの姿が目に浮かぶような素晴らしいプレゼンテーションでした、ありがとうございます! では続いて後攻スノウ先生、お願いします!」

 

サクラバクシンオーさんにも私と同じ景色が見えていたみたいです。というかそんなサラッと流せるあたりこの人もかなり強いですね。

 

「こほん、では、参ります。……神秘。その一言に、尽きる。『岩泉、龍◯洞』」

 

スノウ先生がそう切り出した瞬間、辺りが暗闇に包まれる。いや、暗いが辺りが見えない程ではない。周囲はつるりとしながらも複雑な波模様で織りなされた岩で囲まれ、奥へと続く道は闇に阻まれ窺い知ることが出来ない。ひやりとした空気が流れ、身体を通り抜けていく。雑音が消え、そこには湧き出づる清水の音だけが響いている。

 

……だからこんな事に『領域』っぽいものを展開しないで欲しいです。流行ってるんでしょうか(現実逃避気味)

 

「日本三大、鍾乳洞の、ひとつ。総延長、約4km以上、そのうち、観光用に、700mが、公開、されている。未だに、成長を、続けている、鍾乳洞は、何万年、何十万年と、自然が、手掛けた、悠久の、芸術品。そして、その作品に、色を添えるは、ドラゴンブルーとも、呼ばれる、青く、澄み切った、名水を、湛えし、地底湖。時間の、流れすら、留めて、しまうような、静けさと、冷たさ、それでいて、どことなく、懐かしさも、感じられる、その魅力を、わたしの、語彙では、一割も、表現する、ことが、出来ない。だから、私が、言えるのは、これだけ。……実際に見て、感じて欲しい。以上」

 

「おおぉ、空気の温度が実際に下がったとすら思えるご紹介でした! 何となくスノウ先生の雰囲気にもマッチしている気がしますね、ありがとうございます!」

 

またもサクラバクシンオーさんの言葉で現実へ還って来る。私は先程から飲まれっぱなしだというのにこの人は一切ブレない。これがこの方の強さの一端なんでしょうか。出来ればレース中に体験したかったです。こんな時でなく。

 

「というか、何故スノウ先生はそんなに岩手に詳しいんですか?」

 

「あー……父方の、祖父母が、ちょっと」

 

私の質問にやや言い淀むスノウ先生。何でしょう、嘘では無いけど真実でも無い、そんな雰囲気です。結構よく分からないポイントに謎がある先生です。

 

「それでは、バクシンジャッジに参ります! 第4試合『岩手の観光地』、このお題の勝利者は……」

 

ダラララララララララ……

ドラムロールが聞こえる。え、まさかこの人も不思議領域の展開を!? と一瞬思ったが口で言っています。何か凄く安心しました。

 

「ジャカジャン! ユキノビジンさんです!!」

 

「やったべ!!!」

 

「くっ……」

 

ガッツポーズを掲げ、喜びを表現するユキノさん。対して、ガクッという擬音が聞こえんばかりに首を落とすスノウ先生。

ユキノさんの頭にぬいぐるみが追加されます。金色のお寺のような……金閣寺? あ、これ勝ち数に合わせてぬいぐるみが乗せられるシステムなんですね。

 

「あの、ちなみに勝敗のポイントは……」

 

そもそも何でこんな勝負をしているのか? という大前提の疑問を置いておけば、どちらのプレゼンもしっかりしたものであった気がします。正直、甲乙つけがたいと思いました。一体、どんな差があったというのでしょう。

 

「私は屋内より屋外が好きです! 何故なら走りやすいからです!」

 

「……は?」

 

私の脳内に宇宙が広がった気がしました。

私は人智を超えた何かに触れてしまったのでしょうか。理解が及ばないのか、理解することを拒んだのか、ただ固まってしまいます。

お友だちさん、私、開けてはいけない扉でも通ってしまいました?

 

「なるほど、盲点、だった……」

 

「納得出来るんですかその理由で!?」

 

ギリッと手を握りしめ、悔しそうに呟くスノウ先生。

いつも感情が表情に出づらい人なのに、眉間にちょっと皺が寄っています。そんなになるほど悔しかったんです……?

 

「では、いよいよ次が最後の試合です! ユキノさんが勝ち越してますが、まだ決着は分かりませんよ! 最後のお題は『岩手の銘菓』です!」

 

「あたしから行かせてもらいますよ! 盛岡の地方裁判所前にある、巨大な岩の割れ目から生える桜、『岩咲桜』をモチーフにした、その名もそのまま『岩咲桜』というゴーフルだす! 直径約15cmの薄い円形状のウエハースにクリームをサンドし、パリッとサクッとした食感と、その後にゆっくりと訪れる優しいクリームの味は老若男女を問わず愛され続けてるんでがんす。シンプルだからこそ、誰が食べても美味しい。これが今回あたしが自信を持ってお薦めする岩手銘菓です! メロン、バニラ、チョコ、3つの味!」

 

≪おおっとユキノビジン、ここで突き放しにかかる≫

 

≪掛かってしまっているかもしれません

 息を入れるタイミングがあればいいですが≫

 

……今、私の脳内で実況解説したの誰ですか!?

 

「なるほどなるほど、単純で想像できる味だからこそ、安心して食べることが出来る、質実剛健な、まさにバクシン的と言えるお菓子ですね! ありがとうございます! ではそれを迎え撃つスノウ女史はどんなお菓子を紹介してくれるのか!? よろしくお願いします!」

 

「わたしが、お薦めする、お菓子……それは『チョコ〇部』」

 

「な゛っっっ!?」

 

スノウ先生の発言に、あからさまに尋常ではない動揺の声を上げるユキノさん。

何でしょう、対決系グルメ漫画の体になってきたような……

 

「ほほぅ、それは?」

 

ユキノさんの反応の理由が気になるのか、先を促すサクラバクシンオーさん。

 

「岩手銘菓、といえば、確かに、『岩咲桜』は、有名。しかし、県外での、認知度は、『◯部せんべい』の、方が、遥かに上。だが見た目や、味などに、華やかさを、欠き、若年層の、人気は、低い。そんなせんべいを、砕いて、一口サイズの、クランチチョコ、として、新たに、生まれ変わらせた、新時代の、銘菓が、この『チョコ◯部』。ただの、クランチチョコと、侮ること、なかれ。サクサクと、ほどよい、歯応えの、◯部せんべいは、お米のパフとも、コーンフレーク、とも違う、独特な、食感を、生み出す。そして、せんべいに、含まれる、ピーナッツが、香ばしさを、プラスし、一度、食べたが最後、無くなるまで、その手を止める、ことは出来ない。応用力も、高く、イチゴ味や、期間限定、バナナ味、プレミアム、仕様や、果てはアイスにと、可能性は、無限大。これこそが、岩手に、新たな、旋風を、巻き起こす、革命児」

 

「おぉ、それは是非食べてみたいですね!」

 

確かに普通に聞く限り美味しそうです。

チョコですし、コーヒーとの相性も良いでしょう。

 

「じゃ、邪道だべ! 伝統ある◯部せんべいとチョコを合わせた菓子なんて……!」

 

抗議の声を上げるユキノさん。

駄目ですユキノさん。この流れだとそのセリフ、負けフラグです。

 

「確かに、邪道。が、新たな、道は、正道から、外れなければ、切り拓けない。伝統は、もちろん大事。けど、それに挑む、チャレンジ精神も、同じく大事。あなたたちも、伝統だけで、走るわけでは、ないでしょう?」

 

「!!!」

 

ピシャーン! という擬音と、ユキノさんに雷が落ちる背景が見えます。

なんだかそろそろいちいち反応するの疲れてきました。

 

「では、ジャッジと参ります。 最後のお題の勝利者は」

 

「いえバクシンオーさん。あたしの負けです」

 

バクシンオーさんのバクシンジャッジを遮り、ユキノさんがそう言います。

そのまま、刑事ドラマのラストシーンで崖に追い詰められ己が罪を懺悔する真犯人の如く、ユキノさんは語り出します。

 

「あたしは、伝統にこだわり過ぎてました。田舎からチンクルシリーズに出て来て、シチーガールを目指している……常識を破ろうとしているあたしが。それなのに、守りに入る余り、挑戦する心を忘れてしまっていました。ですので、あたしの負けです」

 

「……ユキノビジン、さん。伝統とは、受け継がれる、心。それを、大事に、思うのは、先人に、敬意を払う、素晴らしい、在り方だと、わたしは、思っている。落ち込むことは、ない。誇りなさい、ユキノビジン。そして、新たな、気持ちで、前に、進みなさい。想いを、受け継ぎ、そして、超えなさい。あなたには、それが出来る」

 

「スノウ先生……!」

 

スノウ先生……すごく良いことを言っているはずのに、いつの間にか彼女の頭に追加されているやしの木のようなぬいぐるみが気になって話が入って来ません。何で他のぬいぐるみは全長10cmも無いのにその木だけ30cmくらいあるんですか。喋る度にみょんみょん揺れてます。

 

「最後に一つだけ、確認。……冷麺は、小辛、中辛、大辛、どれを選ぶ?」

 

「……! 別辛、です……っ!!」

 

「お見事です、ユキノさん」

 

「先生ぇ!!」

 

「最高です! これこそ真のバクシン的勝利です!!」

 

ひっし、と抱き合うユキノさん、スノウ先生、バクシンオーさん。

 

「なにこれ」

 

はやくコーヒーがのみたいなぁ。

 




■銘菓
「岩咲桜」はユキノビジンがアニメ劇中で物産展に出していたものです。
実物は「石割桜」という名称で親しまれていましたが、現在は経営不振のため令和を迎えることなく販売停止していました。かなしみ。
他にも岩手銘菓で有名なのは「か〇めの玉子」ですかね。
ノーマルよりプレミアム仕様の「黄金か〇めの玉子」が好きです。お高いですが。
異論は認める。

■初めて会った時の岩手解像度高すぎるユキノビジンの一言
「いんやぁ、おらどおなずゆぎのじへぇったなめなのぺっこきになってみにぎだら、まっさがこっだなおなごぶりぃーひどだどおもわねがったじゃ。やんだ、やだらしょす、あまみねでけれで……」
↓に翻訳あり(文字色反転でご覧ください)
「その、私と同じように『雪』が入ってる名前とのことでちょっと気になって見に来たんですけど、まさかこんなに素敵な人だったなんて思わなくて。やだ、すごく恥ずかしいです、あまり見ないで下さいよぅ……」

■バクシン的岩手自慢五番勝負 前半戦の内訳
第一試合『岩手の民芸品』
ユキノ『チャグチャグウマ娘(コ)の置物』
スノウ『南部鉄器』
見た目の華やかさに加えウマ娘ゆかりの物ということでユキノに分があるかと思われたが、『綺麗ですが、重くて走りづらそうです!』というバクシンジャッジによりスノウの勝利。

第二試合『岩手の海産物』
ユキノ『三陸わかめ』
スノウ『釜石のフカヒレ』
釜石にもあるにはあるが、フカヒレで有名なのは気仙沼市で更に宮城県だというスノウの記憶違いによる自爆でユキノの勝利。

第三試合『岩手の温泉』
ユキノ『志戸平温泉』
スノウ『須川高原温泉』
これにはさすがの委員長も『マイナー過ぎてよく分かりません!』とのことでドロー。
くずおれる二人。

■ぬいぐるみ
・カッパ → 遠野河童伝説
・獅子舞のような → 鹿踊り(ししおどり)
・金色のお寺 → 中尊寺金色堂
・みょんみょん → 奇跡の一本松
いずれも岩手ゆかりの何がしかです。

■別辛
盛岡冷麺は基本的に辛さが選べます。
辛味なし・小辛・中辛・大辛と、辛味を別皿でもらえる別辛です。
自分の好きなタイミングで辛さを変えられる別辛が好きです。
異論は認める。
ちなみに、岩手に『冷麺屋』は存在しません。
『焼肉屋』で冷麺を食べます。
冷麺が主食、焼肉はサイド扱いです。
異論は認める。

■雑記(2022/12/24)
メリークリスマスでございます。
新衣装ブライアン格好いいですね。
前衣装が闇の中で光を照らす感じで、新衣装が闇を振り払う感じ。
よくSNS上で絵師さんが『描けば出る』と言いますので前話がたまたまブライアンでしたし試しに10連引いてみました。
マジで出るとは思いませんでした。

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