…あれ?おかしいな。今回で終わらすつもりがまた長くなってる……。
我々は原因を探る為、トレセン学園の地下へと向かった…!
ps:今回の話に合わせて、家族/race4 家族の時間の最後を少し編集・追加しました。その為、先にそちらを読んでいただけると幸いです。
「___ねぇ、あにぃ。そろそろこれ…といてほしいんだけど…」
「駄目です」
___謎の少年が湿布をとあるウマ娘に渡してから数分後。
その張本人、カドベヤ様の噂を作った*1ころ少年はというと…現在、一人で帰ろうとしていた妹を同じ要領で拘束し、俵担ぎで連行していた。
「なんでだよ」
「だって解いたら即逃げるじゃないですか」
「あたりまえじゃん。レースには興味ねぇもん」
「そこ、得意気に言わないでください」
「だってさ。この状況を例えるなら目の前にどうやっても勝てないような魔王に捕まっているんだよ?そりゃそうするしかないでしょ。オレならそうする。エレジーだってそうする」
呆れ顔で突っ込む兄に対して、『いや、この場合なら当たり前な話だろ?』とばかりに妹は反論する。
実際、妹達視点だとただの人間である筈の兄にウマ娘である彼女達が『全力』と書いて『本気』と読むような喧嘩*2を何度か挑んで、今まで勝てたことなどたった一度たりともなかった。能力差によるゴリ押しをしたのにも関わらず、だ。
そうしていく内に、正攻法では叶わないと考えた妹達は、今度は手を変え、品を変えて違う視点からの攻撃をし始めていったのだが……それでも
最終的には『
そりゃ、逃げてしまいたくもなる。
ゲームで例えるならば、最序盤のダンジョンで念入りにレベリングをしていたらいきなり
『 ▼野生 の 魔王 が 現れた!』*3
となるようなものだ。
「…てか、そもそも、さ。別に、オレが見るひつようはないじゃん…。今日来たのだって、エレジーのやつに代わりに見に行ってと言われたのと、期間限定のこのダンボーがあったからだし。それにレースを見たところで、オレは…エレジーみたいには走れない、
「…パピエ」
その言葉に思わず、黙ってしまう。
その言葉を知るが故に。妹の…いや、
この妹の、諦観にも絶望にも嫌悪にも似た思いに対して、取り繕ったような、慰めにもならないもの…ただの言葉だけでは、どうやったって変えられないのを知っていたから。
それに先日の夜、エレジーに呼ばれた時、こう言われたのだ。
『___おにいちゃん。おねがいがあるの。私、パピと一緒に…レースを走りたい。けど…それをパピは嫌だだって言うと思うんだ…。『どうやっても、どうせ『一つ』じゃ勝てない』からって。でも『二つ』なら…おねがい。おにいちゃん、パピをせっとくして』と。
そんな妹の頼みを聞いたからこそ…もう一人のこの妹の思いを変えると決めた。
ただし、先程にもある通り、言葉ではこの妹は変えられないのは自分もエレジーもわかりきっていた。
ならば、みせてばいい。強烈なまでの景色を。
鮮烈なまでの光景を。
この妹に。
故にこの場所に来たのだから。
「…パピ。そういえば、今日の一番人気ですが」
「…あぁ、あの現役最強無敗とか幻のウマ娘とか言われてる人だろ?その人がどうしたんだよ?」
「今日その人を先程見た時に、走れないわけではなさそうですが、足を怪我していたことに気がつきましてね」
「へぇ…………え?」
「ぱっと見わかりづらい内部の怪我ですが、痛みはかなりのものと推測できます。あぁ、そこにさらに付け足すとするのなら…本人は全く気がついてませんでしたが、体調面も少し不調気味でしょうかねぇ…?」
「…えっ?でも」
「えぇ、だけど出走登録は取り消していない。だからこのままこのまま走るのでしょうね」
「それじゃ、今日勝つの無理なんじゃ…」
「えぇ…かもしれませんね」
事実、自分お手製の湿布をあげたとは言え、痛みが抑えるための物ではなく、完全に治癒に特化させた物であるため、痛みはまだかなり残っているはずである。
なんなら、無敗二冠というその重圧と怪我と不調と言う足枷もあるのだ。
妹が心配するように、痛みに気取られて負けるなんてこともありえる。
それでも尚、『
見てくれる
或いは、戦ってくれる
或いは、助けてくれる
或いは……大切な
「ですが…勝つ可能性だってあるんです」
「・・・・・」
「まぁ、だから見てみてはどうでしょうか?もしかしたら、すごいものを観れるかもしれませんよ?」
「…はぁ、わかったよ。どうせ、このまま何も見ずに帰ったら、エレジーの奴に『なんで見なかったの!?』って怒られるだろうしな…。けどその代わりに拘束を解くのと、その人が出ない、負けたとわかったらオレは帰ってもいいってのをオレが見る条件としてつけてくれる?じゃなきゃ、オレはエレジーに怒られようとも、テコでも見ないからな?」
「えぇ、それでも構いませんよ___」
自分の提案に『どうせ動けないならば…』と不満そうな顔する妹に対し、にこりと笑う。
賭けは成立した。
その為、パピの拘束を解き、観客席へと戻ったのだが…。
「…おや?何があったんでしょうか?」
何やら観客席が騒がしい。
少し気になった為、近くにいた人に聞いてみると…。
「あぁ…なんか何故かさっきから今日の一番人気であるトキノミノルが出てこないって言う話になっててさ。一応今、係員が急いで様子を確認しに行っているらしいんだが……」
どうやら、そう言うことらしい。
そりゃ一番期待を寄せられているウマ娘が何故か出てこないとなれば騒ぎ始めもする筈だ。
「もしかして、やっぱり___」
「いえ、彼女は…トキノミノルは出てきます。それも必ず…です」
帰れると思ったのか、目を少し輝かせる妹の言葉を遮るように、死神は必ず来ると力強く話す。
かつて___前世の記憶を思い返す。
彼女と同名…それどころか彼女の魂の一部分となっている存在の馬、トキノミノル号。
弱い右前脚を抱えながらも彼女と同じく連戦連勝、一度たりとも負けたことのないこの馬は、脚に不安を抱えつつもこの日本ダービーを勝利しているのだ。
こちらでも同じように勝利するかはわからない。
わからない……が。
彼女の顔を見た時、覚悟を決めた気迫ある顔をしていたのだ。
故に…『少なくとも、怪我で戦わないという選択肢は絶対に選ばないだろう』と確信しており。
その確信はすぐに答えとなって現れた___。
「___すみません、時間に気づかず…!お待たせしました!」
『あっ!やっと来ました!トキノミノルです!トキノミノルがやって来ました!』
その凛とした声と共に会場にアナウンスが流れ、最速と言われる少女が入場する。
一見するとただ遅れたかのように見えるが…しかし巧妙に隠してはいるものの、右脚に包帯が巻かれており、少し庇うように歩いている点、靴からくるぶしが僅かに競り上がっている点、左にほんの少しだけ体重移動が偏っている点などの様子から、その原因があの後から呼び出されるまでの間テーピングなり、フェルトなりで脚の保護をかなり念入りにしていて、時間だと気が付かなかったのだと分かった。
…最も、これに気がつけたのは、彼が医学知識や人体工学などの知識があった事や先程、足を間接的にとはいえ診察したこと、ある程度とはいえ、トキノミノル号や彼女の事を知っていたからであり、普通の人であれば、違和感を感じるのが精々で、遅れた理由までに辿り着く人物はそう何人もいないのが実情だった。
『___さぁ、各ウマ娘。全員揃いました。これより出走準備へと入ります!』
「…むぅ…」
「はぁ…何をそんなに膨れっ面してるんですか、パピは?」
「わかってる癖に…怪我で出てこないからもしかして帰れるのか?と思ったんだよ…。ちぇっ、つまんないの」
「あはは…」
むくれ顔をしてる妹に対して惚けてそんな質問をしてみれば、つまんなさそうな顔で嫌味が返り、思わず苦笑する。*4
仕方ない。元々、もう一人の妹とは違い、レースどころか走ることに興味がないのだ。
興味ないものを見てもつまらないと思うのは普通のことであろう。
だが。
「ふふふっ…」
「…んだよ。」
「いえ、レースを見るのが楽しみだな…と」
言っていることは嘘ではない。
ただ…その言葉にあえて口に出さなかった言葉を付け加えるとするなら。
このレースを見て、エレジーと同じようになって欲しいなと。
そう、切に思っただけだ___。
race6決意の時間・三時間目
エレジーの秘密①
パピエマシェとは誕生日が一緒。