主人公の近くに居れば安全だと思ったんだよ!   作:花のお皿

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俺が、生き残る為に

 あの、ボス戦の後のことだ。

 勝利に震える皆を置いて、いち早く次の層へと向かうキリトの後を追う俺とフード女。

 だが、途中でキリトが立ち止まり、俺とフード女を一瞥して言った。

 

「アスナ、ソラル――一緒に戦ってくれて、ありがとう」

 

 そんな言葉を言い残して、去ろうとするキリトをフード女――アスナが、被っていたフードを後ろに取っ払って止めた。

 

「どこで知ったの、私の名前」

 

 行きとは違って、黒いコートに身を包むキリトは、空中を指差してアスナに説明をしていた。

 俺の脳裏には、キリトがボス戦の後にディアベルと視線を交わして妙に分かりあっているかのような表情をし合っていたのが気になった。

 何なのだ、あれは。どこか、同郷出身の者を見つけたかのような、そんな顔は。

 

「なんだ、こんなところにずっと書いてあったのね」

 

 珍しく笑みを浮かべるアスナに目を見開きながらも、キリトに問わずにはいられなかった。

 

「キリト――お前、元βテスターか」

「――ああ、そうだよ」

 

 半ば確信していてそう聞いた俺に、キリトは間を置かずに答えた。

 何も感じていないかのように、無表情のままで俺を見つめているキリトのその顔が、俺にはただ強がっているだけの餓鬼の顔にしか見えなかった。

 

「そう聞いてくるってことは、君は違ったんだな。あの時、ボスがディアベルに接近してた時に即座に反応してたから、もしかしたらって思ったんだけど」

「ああ、まぁあれは――勘だな」

 

 主人公の初めてのボス戦で、何の問題も無く進むわけがない、って決めつけてたからなんだけど、言える訳ねえよ。

 

「キリト。俺はこれからも、お前とパーティを組んで先に進みたいって思ってる。だから、パーティを解散するのは、待ってくれないか」

 

 そう言うと、キリトは少し驚いたように瞬きをした後、申し訳なさそうに笑った。

 

「君達は強くなれる。もしいつか、誰か信頼できる人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには、絶対的な限界(・・・・・・)があるから」

「じゃあ、あなたは?」

 

 アスナの問いに、キリトは何も答えなかった。

 俺達に何の断りもなくパーティを解散させて、ただ悠然と未知なる第二階層に足を踏み入れていった。

 

――ふざけんな。

 

 主人公がどうだとか、安全性がどうだとかいう問題じゃねえ。俺が、キリトと共に戦いたいと言ったんだ。

 あの背中に、俺を守りその末に敵を打倒した背中に憧憬を見たあの時に、ようやく俺は主人公(キリト)をキリトという個人として見たのだ。

 だというのに、その背中が遠ざかろうとしている。

 

「っざけんな!」

 

 地を蹴って、キリトの背中を追いかける。

 第二階層へ続く門を通り抜け、その先を歩いていたキリトの背中に告げた。

 

「俺はいつか必ず、お前に俺の実力を認めさせてやるからな! そんでもって、お前の隣に立つに相応しい男に、俺はなる!!」

 

――キリトは、最後まで振り返らなかった。

 

 ***

 

 さて、どうするかな。

 キリトの隣に立つ、そう意気込んだのは良いものの、俺にはどうすればアイツの隣に立てるのか分からない。そもそも、そのビジョンすら浮かんでない。

 この世界はRPGなのだから、取りあえずはレベル上げかと思ったが、

 

「馬鹿が、それ以前の問題だろ。俺に必要なのはもっと根本的な――覚悟だ」

 

 あの時、俺がディアベルを庇ったのはキリトが助けてくれるだろうという博打と楽観的思考から来た無謀だ。

 それが何度も続けて起こせるかといえば、当然の如くNOである。

 そして、どうやったら覚悟を持てるのか。そんな問いに応えてくれる奴は、何処にも――

 

「……ねぇ。貴方は、これからどうするの?」

 

 居た。

 フードを取り、端正な御尊顔を露わにした少女がそこに居た。

 

「――フード女」

「アスナよ。知ってたんでしょ、貴方も」

 

 キッ、と睨んでくるアスナに背筋が凍ったのは置いておいて、聞かねばならないことがあった。

 

「お前は、何で最前線で戦おうと思ったんだ」

 

 何でだ。何でお前等はそんな風に戦っていられる。俺とは違って、決してこの世界を楽観視などしていない筈のお前等がどうして。

 主人公とヒロインだから? んなわきゃねえだろ。あのキリトが、強がってるだけの餓鬼が、主人公(ヒーロー)に見えたか? アイツを一人にしてたらいつか本当に孤独になっちまうんじゃないかって、俺でもそう思えたのに。

 このアスナにしてもそうだ。ヒロインなんてのは似合わないくらいに、キリトの隣で剣舞を躍った彼女はただ守られるだけの少女には見えず、それでも戦う剣士には思えなかった。

 

――この二人は、見た目通りの子供だ。

 

 俺とは違って、前世の記憶も何もねえ。なのに、どうして、

 

「私が、私でいる為」

 

 その声音には、有無を言わさぬ迫力があった。

 

「たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム――この世界には負けたくない。……どうしても」

 

――そうか。

 

 “負けたくないから” だから戦う。

 

 なるほど、確かに。

 負けたくないことに、理由も何もない。そうだったな。

 

 俺も、生きたいからキリトと共に戦ったんだ。なら、生きる為に、負けない為に、戦って勝つ。

 そこに、複雑な思考も覚悟も、必要なかったのかもしれない。

 

――必要なのは、意思だけだ。

 

「そうか、分かった。あんがとな」

「もういいの?」

 

「ああ。聞きたい事は聞けた。――もう、俺は迷わない」

 

 考えることは一つ。目の前にいる敵をどうやって打倒するか。

 その為にはまず、レベル上げと素材集め、そんで武器を新調からだ。

 

「さて、行くかな」

 

 俺が、生き残る為に。




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