何も知らないまま異世界転移に巻き込まれてしまった一般モブTS魔女っ子のログホラ日記 作:ログホラTRPGしたいけど友達がいない人
俺は今、洞窟の中にいた。
日本の都会とも田舎ともいえない、逆に特徴がないんじゃないかとも思う何の変哲もない街で生きている普通の男子高校生。それが俺だ。
しかし今俺はどういう訳か洞窟にいる。洞窟なんて、ちょっと遠出して観光にいくくらい能動的に動かないと、ほとんどの現代人には縁のない場所のはずだ。
それがどうしてこうなった。
重度のゲーマーである妹に命令され、《エルダー・テイル》の代行ログインをしたところまでは覚えている。連絡手段がゲーム内でのチャットしかない、いわゆるゲーム仲間の友人に、急用が入ったのでいけなくなった、すまん…と伝言を送る事。それが俺に強制的に課せられた任務だった。
ログインして、何故か妹のキャラクター…ウェーブのかかった赤い髪のロングヘア、小柄で釣り目、という猫のような少女、《ノア》が洞窟の中に現れた事を確認して、チャットを打とうと慣れないGUIに苦戦していた時だった。
突然、目の前が真っ暗になった。そして気が付いた時には、俺は洞窟の中にいたのだ。
「訳が分からん…この身体の事も。ツッコミどころが多すぎる!」
異常事態は洞窟に突然転移させられた事だけではない。
端的に言えば、俺の身体が、ノアという少女のものになっている。俺にとってはこれが一番の異常事態だ。
一応は男らしいと形容できるはずだった身長も筋肉も、今では見る影もなく華奢なソレへと変貌を遂げている。背は低く手足は細く、その上肌は透き通る程白かった。赤髪はふんわりと柔らかな曲線を描いて背を隠している。
つまり俺は男から女になったという事だ。しかも幼気な少女の身体に。
その上で問題はもう一つ積み重なる。
「喉が痛い…」
声がとにかく酷いモノになっているという事だった。いや、声自体は出すことができる。しかし喉がとにかく痛いし、出てくる声もとことん掠れていて、まるで喉を震わせず、空気を流す音だけでしゃべってみるみたいな感じだ。
中身がない声、という説明が一番近いかもしれない。
体の不調はそこだけではなかった。
「身体も動かせないとか…はあ…」
関連する問題で言えば、身体が動かせない、という酷くシンプルな絶望もだった。
動かすこと自体は出来るが、まるでコントローラーを初めて触る子供の操作するゲームキャラクターみたいに、身体が言うことを利かない。
立つことすら困難なほどだ。しかしこれに関しては多少納得は出来る。男子の平均身長だった俺が、女子中学生程の身長に突如として変わって、それで何の違和感もなく体を操作できるわけもない、という話だ。
どうしたものか。寝転がり、ごつごつとした岩の天井を見上げる。
まず、これまで俺の身に起きた様々な異常事態。それらの文脈を考えるなら、今俺はゲームの世界にいるということになる。
ゲームの世界に、妹が使っていたキャラクターの身体に入れられて転移した。それが事の顛末になるのだろう。
転生物の小説とか、そう言った感じの展開だ。まさか我が身に起きるとは思わなかったが…『異世界転生してみてー!』と叫んでいた中学生時代の友人と変わってあげたいものだ。
「メニュー…は出るのか。やっぱゲームの世界確定だな…ごほっ」
ああもう、独り言すらできやしない。
とにかく、少し意識を集中させると、メニュー画面が目の前に現れた。さっきまで自分が苦戦していた、独特なGUIで設計されているメニュー画面だ。そこにはプレイヤーネーム、レベル、職業、装備スロットと言った基本的な情報が当たり前のように記載されていた。
プレイヤーネーム《ノア》。レベルは90で妖術師…この世界だと、確かソーサラーと読むんだったか。廃ゲーマーである妹らしく、当たり前のようにレベルはカンスト済み、装備もなんだか豪華なもので揃えられている。
後気になる情報と言えば、フレンドリストだが…結構長い間プレイしていたはずなのに、妹とフレンド登録しているプレイヤーは4人しかいなかった。そしてそれらの名前は全て灰色でグレーアウトしている。試しに名前を選択してみても、『このプレイヤーは現在ログアウトしています』と出て連絡は取れない。
妹に伝言を頼まれていたプレイヤーの名前も灰色だった。つまり、相手も何らかの理由でログインしていなかったのだ。つまり俺の強制任務は最初から意味がなかったらしい。その上でこんな状況に陥っているのだからたまったものじゃない。
(アイテムは…この、『ダザネッグの魔法の鞄』、ってやつか?)
開いて見ると、雑多にものが入れられている。選択してみるとそれを当たり前のように取り出すことができた。
(ゲームなのか、現実世界なのか、はっきりしてほしいよ)
しかし、これで食料問題は解決できそうだ。何せ、雑多に入れられていたアイテム群の中には、料理アイテムも大量に入れられていたのだ。恐らく、節約していけば2,3週間…いや、一カ月はいける。恐らく、多分。
問題は、それだけ長い間…いや、もしかするとそれ以上の期間、洞窟の中にいなければならないかもしれない、という現状そのものかもしれない。
(とにかく、さっさと身体を動かせるようにならなきゃあな…)
そんなことを心の中で呟いた次の瞬間だった。
『グガアアアアアア―――――――!』
そんな爆音が、洞窟の中を物理的に揺らした。
耳をつんざくような―――いや、それ以上の音。質量さえ持っているのではないかという程凄まじい爆発的な音が、怪獣のような何かの鳴き声であるということに気付いたのは、数秒後の事だった。
声は終わった後も、何度も何度も跳ね返って、まるで津波の揺り返しのように洞窟中を響き渡った。
俺は完全に身体を硬直させ、強張った顔で耳を塞いでそれが過ぎ去るのを待った。
(…なんだったんだ、今の…)
原始的な恐怖を感じた。魂もが竦む程の威圧感だ。
音が完全に止んで数秒後、俺はやっと動けるようになる。恐る恐る動いて、そして音がした方向を探す。
ここは洞窟の突き当り、行き止まりだ。そしてそんな行き止まりの出口が実は二つある事に俺はやっと気が付いた。
一つは普通に歩いて行けるような、ごく普通に引き返す為の道。そしてもう一つは、隅の方にある地面が割けてできた穴。
体を引きずりながらその穴を覗き込むと、そこには巨大な空間が広がっていた。以前行ったことのある日本を代表するスポーツ用のスタジアム…そこでさえこんな広大な空間見たことがないと感動を覚えたというのに、その場所はその倍以上の空間が存在した。
その規模はもはや洞窟というよりも、一つの地下世界だ。
そして、そんな地下世界の真ん中には、明らかに人工的に作られた円状の広場があった。広場だけでも街一つは出来そうな程拾いその広場。その中央に、動く何かがいた。
それは巨大な亀だった。しかし亀のあのおとなしそうな、甲羅に引きこもるようなイメージとは真逆の存在だった。
顔はドラゴンのようにいかつく、目は赤くぎょろぎょろとおっかない。甲羅はギザギザしていて、触れるだけで怪我しそうな危うさと威圧感を漂わせていた。
更にそれは亀にしては異形だった。尻尾は幾重にも分かれていて、その一本一本の先端が槍のように鋭い。前足は鋭い爪があった。
(あれがさっきの爆音の正体か)
巨大な亀。目を凝らすと名前とレベルを確認できた。
《渇きし大亀(ザラタン)Lv85》。それが奴の名前だ。HP、MPバー、そしてその下には、『ランク:レイド』の文字もある。
(なんであんなのが…)
レイド…《エルダー・テイル》をプレイしていなくても、その文字の意味くらいは分かる。MMORPGを題材にした小説やアニメは多いし、専門用語も同じくらい世間には浸透している。
つまり、あいつは一人のプレイヤーだけでなく、大勢のプレイヤーが戦略を組み、作戦を実行し、力を合わせて戦う事を前提に作られたモンスターなのだ。
(なんでこんな場所にいたんだよ、あいつは!)
比喩抜きで、この世界にはいない可能性が高い全ての元凶に思わず心の中で声を荒げた。
(とんでもなく嫌な予感がする。そもそも、奴は一体どうして急に咆哮を上げた?何に対して…)
レイドモンスター…つまり、ボスモンスターが咆哮を上げる時。それはどのようなタイミングだろうか。プレイヤーが一人もいない場所で無駄に声を上げる事などしないだろう。咆哮は威嚇か威圧だ。つまり、奴は何かに対して威嚇をしたのだ。
では、その何かとはなんだ?目を凝らして広場全体を眺めようとしたその時だった。
ザラタンに動きがあった。奴は首をもたげ、そして上空を見上げた。
つまり、俺の方を見た。
(…っ、まさか見つかったのって…)
『ガアアアアアアア!』
(俺かよおおおお!?)
またもや魂が竦み上がる。絶大な質量を持った咆哮に、洞窟全体が晒され、パラパラと破片を落しながら洞窟の壁が悲鳴を上げている。
そして、奴は暴れ出した。文字通りの意味で。
『ガアアアアア!』
まず足踏み。強烈な重量を持った奴の足踏みは、それだけで広場全体に衝撃波を発生させて全てを吹き飛ばした。
『グガアアア!』
次に甲羅の隙間から紫色の煙を吐き出して、広場全体を包み込んだ。
『ググググガアアアア!』
最後は尻尾を動かして光線を吐き出した。更に、自身の口も開けてもはやレーザーにしか見えないブレスを吐き出した。
凄まじい攻撃だ。奴が動けば動くほど、洞窟に罅が入り爆風が吹き荒れる。
俺も最初は目を瞑って来る衝撃に備えていた。
だが、それも最初だけだった。
数分が経過し、際限なく暴れ続ける亀。奴は確実に俺の方を向いている。つまり俺は今奴と敵対しているのだ。
(…これってもしかして)
それなのに、衝撃波は地面を這うだけだし、紫色の煙は空間の下部分に溜まり、いつの間にか消えてるし、光線を吐く時は妙な硬直があるのか角度が足りていない。つまり、ほぼ真上にいる俺にはあらゆる攻撃が届いていないのだ。
(安置、ってやつか)
ほっとしたような、拍子抜けしたような脱力感が襲った。
つまり奴の攻撃は俺には届かない。放置しても問題ない、という訳だ。
明確な脅威の発見から、とりあえずの安全の保障。俺はただひたすら安堵して、ため息を吐きだした。
奴の暴走が始まって、1日が経過した頃。俺は目を充血させてただただうずくまっていた。
(…うるっせええええええ!)
耳を塞いでも貫通してくる爆音。
しかも奴の体力は無限大らしく、どれだけ時間が経過しても永遠に暴れ続けている。
質の悪い事に、思い出したかのようにあの強烈な咆哮を出してくるものだから、逆立ちしたって眠ることもできない。
まだ身体は動かせない。辛うじて立てるようにはなったけど、歩こうとすれば簡単に転んでしまう。身体の操作レベルで言えば赤ん坊程度だ。
故にこの洞窟からはどうしたって抜け出せない。そしてその抜け出せない洞窟は今や、音の地獄と化していた。
そんな地獄で1日も過ごせば、こちらの腹が据わるのも無理のない事だった。
(奴を殺す…俺の安寧の為に…!)
俺は匍匐前進で例の穴まで向かって、そして無駄に豪華な杖を握り締めて亀に手を向けた。
「〈オーブ・オブ・ラーバ〉!」
初めて使った魔法は、それでも思った以上に予想通りに発動し、操作することができた。
音声認識の要領で発動した炎の魔法。溶岩の紅玉が生み出され、凄まじい速度で飛んでいき、遥か眼下にいる亀の頭に衝突して爆炎を生み出した。
『グガアアア…』
亀のHPがドット一ミリ減る。対してこちらのMPはそれ以上に減った。時間経過で回復するようで、じわじわと回復していっているが…奴のHPを削るのに、果たしてどれだけかかるだろうか。
「耐久戦と行こうじゃないか、亀君…ふっふっふっふっふ…」
徹夜明けのテンションでそう呟いて、俺はまた魔法を詠唱した。
こうして俺と《渇きし大亀》の果てしない戦いが、今幕を開けたのだった。
1話目:始まりの声
戦いが始まってから2日が経過し、ザラタンがやっと倒れ、俺もぶっ倒れてから丸1日気を失って目を覚ました。
つまり現在、洞窟に来てから4日目。
起きたばかりだというのに、身体の節々が痛い。しかしそれも当たり前で、ベッドは直接岩肌なのだ。休まるものも休まらない。
しかし頭の休息程度は何とかこなせたようで、前まで鉛のように重く鈍い頭痛が絶え間なく続いていた頭は多少さっぱりとしていた。
俺は鞄から料理アイテムを取り出して、それを口に運ぶ。
相変わらず料理アイテムの味は一切しない。まるで味のないパンを味のない水でふやかしたような味が口いっぱいに広がり、空腹で湧き上がっていたはずの食欲を大幅に低減させてくる。
最初に食べた時はそのあまりの絶望さに愕然としたものだ。何せ、この薄暗い洞窟で唯一の娯楽というか、心の支えになるだろうと期待していた料理アイテムの数々。ホットドッグやポテト、おにぎりやたこ焼き、更にはデザート系など種類豊かなそれらアイテム。
その味が全て同じで、しかも全く味がしないという最悪な裏切りは、容赦なく俺の心を貫いた。その時の衝撃は筆舌に尽くしがたい。
最初は俺の舌の方を疑ったものだが、検証してみると簡単にその説は崩れた。そして残ったのはただただ料理アイテムは味がしないという事実のみ。お陰で食事の時間が来る度に泣きそうになっている状況だ。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。最初の目標の一つである亀の討伐。それが成ったのだ。
今、洞窟はとにかく静寂に包まれている。意識がなかった昨日1日を勘定に入れなければ、2日ぶりの静寂。何と心の休まる事か。
さて、この2日間、MPが切れるまで亀に魔法を打ち、MPが回復するまでの時間は全て身体の操作に費やしてきた。
事故で長年動けなくなった人が、リハビリで動けるようになるまで数カ月かかった、みたいな深刻さならどうしようかと思っていた俺だったが、どうやらそうではなかったらしく、この2日で俺はまだ不慣れながらも歩ける程度にはなっていた。
また、声の方も多少の改善が見られた。こちらは時間経過で徐々に喉の痛みが和らいで行っており、またアイテムの回復ポーションで喉うがいをすると劇的な改善を見ることができた。
お陰で少しくらいなら声を出せるようになった。案の定、俺の声ではなく少女ノアの、ソプラノの美しい艶やかな声だが。
さて、そういう訳で体の操作が大分良くなった。走ったら絶対コケるだろうが、歩く程度なら問題は無い。それはつまり、この洞窟から抜けだせるかもしれないという事に他ならない。
だからこそ、今俺は悩んでいる。
(どうしたもんかな、アレ)
頭を悩ませているのは、遥か眼下にある財宝の山だ。
亀を倒した直後に唐突に湧き出てきたそれらは、ゲーム的に考えて恐らくボスを討伐した報酬なのだろう。
しかもソロで討伐したお陰か、膨大な経験値が入ったようでレベルも90から91に上がっていた。確かこのゲームは90が限度だと妹から聞いたことがあったが、アップデートが適用されているのであればレベル上限が引き上げられていてもおかしくはない。
亀に勝利した報酬は財宝の山と経験値の2つ。問題は、あの財宝を取りに下に戻るべきか、それとも無視して洞窟の脱出を優先させるべきか、二択を選ばなければならないという点にある。
当然、この状況で財宝を取りに行く事が選択肢に上がるのにも理由がある。
一つは、財宝のすぐ近くに生えている、小さな石碑のようなものの存在だ。
あれが何なのか俺には分からない。分からないが、あれがもしレイドボスを倒した後の、ダンジョンから脱出する為の入口だとするのであれば…俺は一切の苦労もせずにこの洞窟から脱出することができるということになる。
二つ目の理由は、単純にあれだけ苦労したのだからレアアイテムの一つでも手に入れないと割に合わないという個人的な私怨。こっちは勘定に入れなくても良い…かもしれない。
「…いや、やっぱり行こう」
俺は結局、ゲーム的な思考から、レイドボスを倒せば出口が出現する、というゲームではありふれた仕様を信じて飛び降りる事にした。
当然ただ身投げするつもりはない。あの亀を倒す時、妹が育てた《ノア》が覚えている魔法は一通り全部試した。その中で使えそうな魔法が一つあったのだ。その魔法も又、選択肢を一つ増やした要因なのだが。
とにかく腹は決まった。俺は杖を握り締め、そして穴に飛び込んだ。
まず浮遊感が全身を襲い、次の瞬間重力が全力で俺の身体を引っ張り出して、モツが全部引っこ抜かれるような感覚に襲われた。
そして次に下腹部がゾワッとくる感覚。呼吸をしようにも風圧のお陰で全くできないし、目頭が熱くなって鼻奥がつんとなる。
端的に言えば、マジで怖い。
「〈ガシアスフォーム〉!」
地面に背を向けて風圧から喉を守り、俺は音声認識の要領で魔法の名前を叫んでいた。次の瞬間、俺の身体は霧となって霧散、重力の枷から外れ、地面に到達する頃にはふわふわと風船が降り立つ程度の衝撃しか残っていなかった。
ガシアスフォーム。身体を霧に変化させ、敵からの攻撃を避けやすくする魔法。上手くいって良かった。
「はぁっ、はぁっ…こ、怖かっだ…」
霧から元の身体に戻って、俺はその場に崩れ落ちた。思った以上に恐ろしかった。例えこの身体が高レベル帯のものであり、通常の身体と比べタフになっていると分かっていても恐ろしかった。
だが、お陰で無事に降りることに成功した。当然目の前には石碑と財宝がある。
「…この石碑は…」
それは、真っ黒なモノリスだった。しかし俺が手を触れさせた途端、光り輝き、文字が刻まれる。
〈ノア〉…つまり、今の俺の名前だ。
「…ただの記念碑、だったのか。こんな状況じゃ実感わかねえな…」
廃ゲーマーが力を合わせて攻略したのではなく、俺は安置からチクチク削っていっただけだ。それも必要に駆られて。達成感はあれど感動は少ない。
それよりも、財宝についてだ。まず、金貨は勝手に鞄の中に収納された。その額…現実であれば、人が遊んで暮らせる程度。
そしてアイテム。武器が十種、防具も十種、その他希少なポーションや宝石品等。大判振る舞いと言ったところ。
中でも興味をひかれたのは、最もレア度が高いと推測される二つのアイテム。幻想級と名前の下についている、一際目立つ場所においてあるアイテムだった。
一つ目は〈原初に還る魔導書〉。本の形をした杖カテゴリのアイテム。
二つ目は〈リトルウィッチ・ブルーム〉。魔女の箒。騎乗アイテムらしい。
「こっちの方がレア度高いし、変えた方が良い…んだよな?」
魔女の箒はともかく、魔導書は今の俺にはありがたい。この異世界において、力は持っていれば持っている程良い、はずだ。身を守るのもやりたいことをやるのにも有効のはず。
俺は装備スロットから杖を外して、魔導書をそこにセットした。
「…えっ?」
次の瞬間だった。装備を変え、俺の手元に現れた魔導書。それは一見ごく普通の分厚い本だった。
それがひとりでに浮かび上がり、ページをすさまじい速度で捲り始めたのだ。
そして、俺の身体から文字が抜け出て、その本に吸い込まれ始めたではないか。
「うわ、これっ、不味い…!?」
俺は逃げ出そうとしたが、身体が硬直して言うことを利かない。
俺から抜け出る文字はよく分からない言語で書かれていて読むことはできない。でも、嫌な予感しかしない。何が吸収されてるのか分からないという事そのものがもうヤバそうだ。
しかし俺には何もすることはできず、この現象は数十秒続いた後、本が突如としてぱたんと閉じて光を失い沈黙したことで終了したのだった。
思わずその場で腰を抜かすように座り込み、俺は自分の身体を見下ろした。
「…なんだ、何も変わってな―――」
いじゃないか、と続けようとして、俺の着ていた服がぽん、と突如として俺の身体をすり抜けてそこら辺に散らばった。
慎ましやかな胸とシミ一つない柔らかな肢体が、俺の視界に飛び込んでくる。
「…いや、どういう事!?」
そんな少女の叫びが、地下世界の中を響き渡った。