何も知らないまま異世界転移に巻き込まれてしまった一般モブTS魔女っ子のログホラ日記 作:ログホラTRPGしたいけど友達がいない人
〈原初に還る魔導書:幻想級〉。
効果。レベルアップ時のステータス上昇に補正。所有者のレベルアップに応じて〈原初の魔導書〉の性能が上昇。メイン職業を〈魔導士〉に強制変化。
この魔導書は、装備した者を自身の所有者として認め、初めに対価として所有者のレベルを吸い取り己の糧とする。この時吸い取ったレベルの数に応じて上記の効果の性能に上昇補正。この魔導書は所有者と共に成長していく生きた魔導書(リビング・スペルブック)である。
なお、この魔導書は一度装備したら、二度と外すことはできない。
「呪いのアイテムじゃねえか!」
地面に叩きつけた魔導書は、一度地面にぶつかりバウンドすると宙に留まり、そしてふわふわと俺の方に向かってきた。
そのふてぶてしさははたから見れば可愛いという感情を掻き立てるかもしれないが、俺にとってはただただ憎らしい。
さて、何が起こったのか具体的にまとめよう。
と言っても簡単だ。上記の〈原初に還る魔導書〉の効果を見てもらえば一目瞭然だ。
俺は何度も何度も何度も見返したステータスをもう一度見てみた。
《ノア》、魔導士。レベルは、どこからどう見ても『1』。
つまり、俺の身体はどうやらカンスト上限のレベル90から、レベル1に早変わりしてしまったという事らしい。
原初に還る魔導書って、俺が原初に還るんかい!と説明文を読んだ後本を大暴投してしまったのは無理からぬ話であったろう。
ライザップも驚きの急変に、俺はもう既に風邪でも引きそうだ。
「はあっ…どうすんだよこれから…」
つまり、あの時魔導書に吸われていた文字は、経験値。妹…否、《ノア》という少女がこれまで歩んできた冒険者としての経験だったのだ。
そのお陰でレベルは下がり、ステータスは大幅ダウン、使える魔法は殆ど無くなった。
それだけではない。問題は服だ。服として着れるもの…つまり、この世界では装備と呼ばれる類のアイテム。
この世界ではそう言った装備アイテムはレベル制限が存在する。そして《ノア》が所持する装備は全てレベル90である自分が身に着けること前提のアイテムだ。多少下がる事はあれど、それはー10程の下がり値でしかない。
レベル1である今の俺に、カンストプレイヤーだったノアの所持する装備アイテムで装備できるものは一つもない。
さらにさらに、それは《ダザネッグの魔法の鞄》と言ったコンテナアイテムにも言える事だった。
この魔法の鞄の装備レベルは45。レベル1の今の俺じゃ逆立ちしたって装備することは出来ない。
「さ、最悪だああああ!詰んだ…!」
ノアが持っていたアイテム、そして大亀を倒して手に入れたレイドの報酬、その全てをここにおいていかなければならない…そういう事なのである。
幸い、コンテナアイテムは魔法の鞄だけではなかった。ミニポーチ、と呼ばれるアイテムが、魔法の鞄の隅の方に空の状態で入れてあったのだ。
ミニポーチはクマの形をしていて、妹の趣味趣向とマッチしているように思えるが…そもそも何故魔法の鞄の中にさらにコンテナアイテムが入っているのかは不明だ。しかし今はその妹の杜撰さに助けられた形なのは確かだろう。
ミニポーチは魔法の鞄と比べると圧倒的に入れられるアイテムの数は少ないが、生きるのに必須な料理アイテム系はいくつかストック単位で持って行くことができる。
また、今後の事を考えてアイテム化した魔法の鞄もポーチに入れて持っていく事にする。
他のアイテムに関しては、いずれまた取りに来ることにしよう。もしかしたらあの亀が復活するかもしれないが、そうなった場合はもう仕方がない。諦める他ないのだろう。
問題は服だが…もはやこれに関しては何もできない。本当に何もできないのである。せめてと思い、財宝の中にひっそりと交じっていた素材アイテムであろう白い布を身体に巻いて、服の体を取らせることとした。
さて、他に使えそうなアイテムはあるだろうか。財宝の山を探っていると、いくつか今の俺でも使えそうな秘宝級アイテムを見つけることができた。
その一つが《大亀の心臓》という消費アイテム。プレイヤー一人に付き一回しか使うことができず、一度使うと永続的に立ち止まった状態に限り魔力自然回復量がアップし、魔法の消費魔力を数%カットすることができる。
そしてさらにもう一つ。こちらも消費アイテムで《聖なる杯》。使う事で、最大魔力量を永続アップ。
使って損はない為、どちらも使うことにした。
さて、紆余曲折…というには起きた出来事があまりにもショッキングすぎるが、色々あったが、やっと本命だ。
それは転移門。財宝の山に触れた時点で、財宝の後ろ側に転移門が出現したのである。
流れから見てもそれが外への出口であることは明らかだ。どうやら賭けには勝ったらしい。その割に失ったものがあまりにも大きい気はするが、生きてるだけで儲けもんと考えよう。そうしないとやってられない。
(…もしレベルが下がったなんて言ったら、妹に殺されるよな…)
もし帰れたら、誠心誠意謝ろう。密かにそう覚悟しながら、俺は転移門へと足を運んだのだった。
第二話 見知らぬ大地にて
エルダー・テイルについては詳しく知らないが、それは剣と魔法の世界…つまり、ファンタジーの世界観なのだと聞いた。
とすればここは異世界のはずで、俺が持っている知識は一切が役に立たない。つまり洞窟から外に脱出することができても、むしろそこからが本番であることを俺は薄々知ってはいた。
しかし、まさかこれほどの景色と出会えるとは。
そこは穏やかな高原地帯だった。突き抜けるような青い空。眼下には周囲を大森林に包まれた緑の絨毯。風が心地よく吹き抜けて、草花を捕まえては揺らし、遊ぶように俺の頬を優しく撫でた。
洞窟の入口はそんな高原を足元に置いた小高い山の麓にあるようだった。入口は遺跡のようになっていて、露出した岩を掘って古代の人の顔や荘厳な柱を形作っている。
目を凝らしてみると名前が出てきた。名前は《セメンジオ大洞窟》。
案の定全く知らない場所だ。俺の常識が一切通用しない、俺の事を知っている人は誰一人としていない自由な世界。
俺は、胸いっぱいの感動を、深い深呼吸で何とか吐き出して、平常心を保った。
「さて、これからどうしたものか」
気が付けば、声は完全に治っていた。また、身体も自由に動く。その唐突の改善を不思議に思うが、きっかけと言えば魔導書にレベルを吸われ、レベル1になってしまった瞬間だ。あの瞬間から、俺の身体の違和感は完全に消えたように思える。
また、喉も痛みは完全に引いていて、声を出してみると綺麗な声を出すことができた。
今一体の不調とレベルの変化に関連性を見出せないが、まあ悪い事ではないので気にしないでいいだろう。むしろ気にするべきはレベルの変化…レベル1のこの現状から、どのようにして抜け出せばいいかについてだ。
まあ、まずは人を探すべきか。友好的な原住民か、願わくば同じ状況にいる他プレイヤーか。どちらにしろ今の俺には重要な項目だ。
情報が一つとして足りていないのだ。皆無と言っても良い。これが、元々ゲームをプレイしていたプレイヤーであるのならまだ見当の一つも付けられようが、俺は完全なるド素人。エルダー・テイルについては、妹から聞いた知識ともいえないいくつかの断片しか知らないのである。
一に情報、二に情報。三四で住む場所食べるもの、と言ったところか。
「早速移動するか…よっと」
俺は手に持っていたアイテム、〈リトルウィッチ・ブルーム〉に跨った。
〈リトルウィッチ・ブルーム:幻想級〉。効果は騎乗することで浮遊し、自由に空を飛ぶことができる。最大継続飛行時間は5時間ほどで、時間経過で飛行時間を回復させることができる。また飛んでいる最中は周囲に魔力の結界を張ることができる。これは攻撃を防ぐほど強固ではないが、風圧を防ぐことができる。
これを手に入れる事が出来たのは、僥倖というほかない。何せこの広大な見知らぬ大地を人の身一つで歩いて移動なんて、どれだけ時間がかかるか分からない。その点この箒を使えば上から見渡すことができるし、移動も早いしでいいことづくめだ。
「よし…飛べっ!」
俺が小さな声ながらも一気呵成にそう念じると、ふわりと足が浮かび上がり、俺は空中へと舞い上がった。
(操作方法は、身体で分かるな)
今まで箒に跨って空を飛ぶ経験など一回もなかったが、不思議と自転車を漕ぐみたいな、身体に馴染んだ感覚で空を飛ぶことができた。
それに違和感を感じるよりも前に、俺の情緒は自由に空を飛びまわることができる感動にあっという間に塗りつぶされた。
「凄い…!」
高度はどんどんと上がっていく。50m、100m、先ほどの高原が小さく見える程度に高度を上げて、俺はそこで留まった。
そして周囲を見渡す。どこまでも、どこまでも続いていく大森林。右に微かに見えるのは海か。背後には巨大な山。360度どこを見渡しても大パノラマ。その壮大な光景は、俺の心をあっという間に魅了した。
「どこ行こうかな」
声色が明るくなり、語尾が跳ねる自覚がある。
箒の乗り心地はまずまずといった感じだ。どうにも柄に跨る関係上、その部分が痛くなりそうだったが、そこは箒を囲む結界の形を操作することで、座り心地を調整することができるようだった。
とりあえず、原付は運転したことがあるので、それをイメージして座り心地を調整。大分マシになった。
「どっちに行くかな。山か、海か、森か…」
そう言って、俺は目を凝らして注視する。
山は、行かない方がよさそうだ。微かにだが、何やら黒い生き物が周囲を飛び交っているのが見える。この身体になって明らかに良くなった視力で目いっぱい見てみると、それはどうやら巨大な鳥のようだ。
山に巨大な鳥の様な生物。ファンタジーだとグリフォンかワイバーンか…どちらにしろ、行っても碌な結果にならなさそう。
海を沿って、上空から森を突っ切るのがよさそうだ。そういう事で、俺は森を突っ切ることにした。
移動する。それだけの事で、情報はまるで雨の如く俺の目に飛び込んできた。
そこの地名。出てくるモンスターの名前や平均レベル。そして、度々目に映る都市の廃墟群。
どうでもいいが、何だこの世界は。朽ちた現代社会みたいな感じだ。森を横断するような感じで朽ちた道路が続いていたり、廃ビルが緑に呑まれようとしていたり…ファンタジーな世界かと思っていたが、どちらかというとポストアポカリプスな世界なのかもしれない。
むしろ、そう言った遺物はどこか日本の建築物を思い起こさせる。
「…どういう事なんだ?地名とかも、日本っぽいのがいくつか交じってる」
もしかして、ここはエルダーテイルの世界じゃないのではないか?そんな疑問も首をもたげた。
「…ん?あれって村か?」
森の中を、一筋の煙が立ち上っているのに気が付いて、俺はそっちに近づいた。そしてよく見てみると、そこにはみすぼらしい集落が。中は緑色の肌をした汚い小人がいる。
《ゴブリンLv9》。数は7体。
「…今まで見てきたモンスターの中で、一番レベル低いな…試してみるか?」
少し考えて、やっぱり試してみることにした。
俺には箒がある。対する奴らは対空手段も空を飛ぶ手段も持っていないように見える。だとすれば、彼我に戦力の差があったとしても、俺は安全にヒット&アウェイを行えるはずだ。
それに、無理やり替えられた職業《魔導士》がどれだけ強いのかについても、気になるところだしな。
職業《魔導士》。説明文を見るに、どうやらこれは魔法職系統の職業だ。魔導書を媒体とし、魔法を自由に生み出すことができる。魔法を発動するには、魔導書のページに魔法を刻み、登録する必要がある。
「自由に、ねえ…」
俺は魔導書を開いて、そのページにとりあえず思いついた魔法を登録してみた。登録の方法は至極単純で、魔法の名前、詠唱呪文、そして効果を念じればいいらしい。
すると、魔法が出来上がる。魔法ができると消費魔力とリキャストタイムが、その効果の程度と詠唱の長さによってランダムに決められる。
なお、説明文によると、特に何も使わずに念じて魔法を作ることもできるがそれには限度があり、さらに上の魔法を作るにはよりレア度の高いインクと羽ペン、魔導書が必要らしい。
今の俺にはインクも羽ペンも魔導書もない為、とりあえず最低ランクの魔法を作る事にした。
(それにしてもこれは…いや、今は羞恥心なんて捨てろ。とにかくやってみるのみだ…)
俺は早速集落に近づき、ゴブリン達の上空に陣取った。そして。
「『魔力よ、収束せよ!《エナジーボール》』!」
呪文を詠唱し、魔法名を唱える。すると魔導書がひとりでにページを開き、魔法を発動した。
魔方陣がいくつも展開され、そこから魔力が収束してできたエネルギー弾が射出。ゴブリン達に向けて放たれ、当たると同時に小規模の爆発を引き起こした。
『ギャァ!?』
悲鳴を上げ、ダメージを受けるゴブリン達。錆びたナイフや石の斧を投げてきたり、そこら辺の石を投石してきたりするが、どれも俺には当たらないし、よしんば近くに当たってもこの程度の威力なら箒の結界で跳ね返ってしまうらしい。
「『雷の妖精よ、その力の一端を現せ!《サンダーレイン》!」
『ギャア嗚呼!?』
予想通り、一方的に攻撃できる。出来るが、しかし…。
(恥ずかしすぎる!なんだこれ!)
自分で考えた詠唱を唱えて、自分で考えた魔法を使う。その行為はこの世界では純然たる戦闘行為のはずで、敵を倒すのに必要な工程なのは自分でも分かってる。
でも、それでも恥ずかしい。
今後、この気持ちと戦って生きていかなければならないのか。御先は真っ暗だ。
「『火の妖精よ!その力の一端を現せ!《ファイアボール》!ふは、ふははは!死ね、死んでしまええええ!」
俺は湧き上がる羞恥心を誤魔化す為、全力でノリながら声を上げて笑ったのだった。