ー ゼンダー門 取調室 ー
「…………では君達は『ノルドの巨神像』を見ていた所に共和国軍のガンシップが現れたんだな?」
ゼンダーの取調室で調査官がリィンに尋ねていた
リィン「はい……二隻のガンシップが近づいて来て後ろから追いかけて来たガンシップが前方のガンシップに銃撃を浴びせて巨神像の前に墜落しました」
「成る程、そこはあのノルドの少年やメイド、共和国軍中尉の証言通りか……では、これも本当の事かい?」
少尉の階級章を付けた調査官は綺麗にエンジンを切り飛ばされたガンシップの写真をリィンに見せた
リィン「はい、俺がガンシップを切りました」
「えぇ………幾ら低空飛行していたとはいえガンシップを斬るって……」
調査官は呆れた様な驚いた様な…何とも言えない顔になっていた
リィン「そうですか?我が国には似た様な事が出来る方が居るではありませんか、アルゼイド閣下とかオーレリア閣下とか」
「……君、その御二人と同じ高みにいる事に気付いているかい?」
リィン「あの方達と?まさか、まだまだ俺は足元にも及びませんよ」
「………」
調査官はリィンの答えに深い溜息をついた
リィン「俺からも一つ質問良いですか?」
「……何かね?言っておくが私とて答えられない事が多いぞ」
リィン「エミリア中尉……あの共和国軍将校はどうなるんですか?後、脱走兵も……」
それを聞かれ調書を書く調査官の手が止まった
「……さて、ね?あの中尉も事情が事情とは言えこちらの領域に無断で侵入して来たんだ。まぁ戦時では無いから捕虜にはならないだろう……唯、脱走兵はなぁ…」
リィン「何かあるので?」
「ッと…いや、何でもない。君が気にする必要はない、これで聴取は終わりだ。下がって宜しい」
そう言って調査官の目配せでドアに立っていた兵士が扉を開けリィンに退室を促した
フローラ「あ、リィン様お帰りなさいませ」
ガイウス「戻ったか、どうだった?」
リィンは用意された客室に入ると先に戻っていたフローラやガイウスの出迎えを受けた
リィン「あぁ、多分ガイウス達と同じ事を聞かれたよ。特にお咎めは無いと思う」
リィンは椅子に座ってフローラから紅茶を受け取った
ガイウス「そうか……ではそろそろ邑に戻れるかな?」
ガイウスもフローラから紅茶を受け取り口に含んだ
リィン「だと思うさ、まぁ………エミリア中尉はこのまま拘束されるだろうけどな」
フローラ「それですが……リィン様少し妙なんです」
リィン「妙……って?何か気になる事でも?」
フローラ「あの脱走兵とされる兵……呂律が回って無かったんです。あれは間違い無く……」
その時ドアをノックする音が聞こえた
リィン「……どうぞ、入って下さい」
「失礼する」
ドアが開かれると右目に眼帯をしている帝国軍将官が入って来た
ガイウス「お久しぶりです。中将」
「うむ。ガイウスこそ今回はとんだ災難だったな。怪我が無くて安心したぞ」
ガイウス「えぇ、彼等のお陰です」
ガイウスはそう言ってリィン達に視線を向けた
リィン「ガイウスの知り合いの方なのか?」
ガイウス「あぁ、一度魔獣に襲われかけていた所をな。その縁で良くして貰っている」
「フフフ、あの時は助かったからな。っと自己紹介がまだだったな」
将官はそう言って居住まいを正した
「帝国軍、第三機甲師団師団長、ゼクス・ヴァンダール中将だ。此度の一件、協力に感謝する」
リィン「ヴァンダール……!『アルノールの守護者』ですか!!」
ゼクス「ほう?その名を知っていたか?」
ガイウス「ふむ?アルノールとは確か帝国を治める皇帝の姓だったな?」
フローラ「……えぇ、皇室アルノール家を守護する武門の一族として有名です。そして帝国軍の名将として名高いのが目の前の《隻眼のゼクス》の異名を持つ方です」
ゼクス「ハハハ……私はそんな大した人物では無い。それよりも……今回の一件でもう少し頼まれてくれないか?」
リィン「それは一体……?」
ゼクス「その前に……入ってくれ」
ゼクス中将がそう言うと再びドアが開き、そこには何故かエミリア中尉と……レクター・アランドールが入って来た
レクター「よッ!久しぶりだな、アイスフェルト観光楽しんでるみたいだな。羨ましいぜ」
リィン「……何で居るんですか、アンタは?」
レクター「おいおい、ひでぇ言い草じゃねぇか仕事だよ。仕事」
リィン「書記官が出張る案件じゃないでしょう……と言いたいけど、アンタの本当の仕事は《そっち》みたいだな?」
レクター「……クククッ、流石に判るかまぁ改めて自己紹介すっか」
さっきまでの飄々とした雰囲気は鳴りを潜め冷たい目になっていた
レクター「帝国軍諜報部所属のレクター・アランドールだ。以後よろしくな」
フローラ「……書記官の肩書は偽りでしたか」
レクター「いいや?そっちも籍は置いてるぜ〜唯二足の草鞋を履いてるだけでな……」
ゼクス「そろそろ良いか?頼みたいのは他でもない、ここにいるエミリア中尉を共和国軍基地に送り届けて欲しいのだ」
その言葉にリィン達は驚いた
リィン「……理由を聞いても?」
レクター「そっからは俺が話すぜ〜」
レクターが喋りだした
レクター「知っての通り、このノルドはゼンダー門の帝国軍と南東のカルバード共和国軍が対峙している。だがお互いに戦争の引き金を引きたくないと考えていた。だけど今回の件は互いに非常に不味いと判断した」
リィン「……だから今回の一件は『無かった』事にしたい……と?」
レクターは頷いた
レクター「あぁ、共和国は帝国に秘密裏に謝罪とノルドの民にも必要とあらば賠償する事に同意して、帝国も墜落したガンシップの残骸と拘束した共和国軍将校の返還に合意した」
レクター「で、まさか帝国軍が共和国軍の領域に送り届ける訳にはいかないからお前達に此処にいるエミリア中尉を送り届けて欲しいと言う訳だな」
リィン「……送り届ける名目は?」
レクター「迷子になっていた共和国側の『観光客』を『親切』なお前達が送り届けるっていう体だな」
リィン「……無理がないですか?」
レクター「無理があろうが何だろうが名目がありゃあ良いんだよ。で、返答は?」