翌日、エステル達はドロシーと一旦別れ、ルーアンギルド支部に向かい今回の事件の報告をした。
ジャン「……そうか、報告ご苦労様だったね。《身食らう蛇》……カシウスさんから話を聞いた時は正直、半信半疑だったけど……とりあえず報酬と依頼達成の手続きはしておくよ。まさかこんな形になるとは思わなかったけね」
ジャンはそう言って依頼書の処理にかかった。
ジャン「調査結果はすぐ王国軍に報告しておこう。あちらさんも相当情報を欲しがってたからね」
シェラザード「えぇ、お願い。あの投影装置を考えると相当な規模の組織かも知れないわ。しかも《ゴスペル》をまた持ち出してくるなんて……」
フローラ「……」
オリビエ「どうやら結社の目的は新型の《ゴスペル》を使った実験をする事にあったようだね。幽霊騒ぎは趣味の入った実験結果でしか無かったみたいだし」
エステル「怪盗ブルブラン……アイツ、自分の事を《執行者》と呼んでたわよね?」
ジャン「恐らく結社のエージェントの様な立場なんだろうね。察するに、例のロランス少尉も同じ立場だったんだろう」
エステル「…………」
クローゼ「エステルさん、あの……」
クローゼは黙り込んだエステルを心配そうな顔で見ていた。
エステル「うん、解ってる……《漆黒の牙》……あの日、ヨシュアは自分の事をそんな風に呼んでいたから……多分、ヨシュアも甞てその《執行者》だったんだと思う」
シェラザード「初めて会った時から普通じゃないと思ってたけど……まさかあの齢で、あの怪盗男と同格だったなんて……多分あの子、自分の実力を隠していたかもしれないわね」
エステル「うん、そうかも……ねぇジャンさん」
エステルはジャンに向き直った。
ジャン「うん、何だい?」
エステル「あの仮面男は計画は始まったばかりだと言ってた。だとすればまた別の処で今回の様な騒ぎを起こす可能性が高いと思うわ。他の支部からは何か情報は入ってないかな?」
ジャン「うーん……今は特に情報は入ってきてないね。ただエステル君が言うように結社がリベール各地で暗躍を始めている可能性は極めて高いと思う。幽霊騒ぎも一段落したし他の地方へ移った方がいいかもね」
シェラザード「そうね。アタシもそう思っていたところよ。ジャン、どこか手薄な場所とかはある?」
ジャン「強いて言うならツァイス支部だと思うよ。常駐しているグンドルフさんが王都方面に出かけたらしくてね。かなり大変らしいよ」
エステル「だったらアタシ達が手伝いに行った方が良さそうね。でもルーアン支部は大丈夫?」
ジャン「それは大丈夫さ、数日後にボース支部のスティングさんがこっちに来てくれるんだ。それまではメルツ君に頑張って貰うさ。そうだ、ツァイスに着いたらラッセル博士を訪ねた方が良いね。新たな《ゴスペル》の件はラッセル博士の知恵を借りた方が良さそうだ」
エステル「確かにそうね。ティータにも会いたいしすぐに工房を訪ねてみるわ」
オリビエ「それじゃあ、準備が出来たら早速飛行場に行くとしよう。ジャン君、ルーアン行のチケット六枚手配してくれたまえ」
ジャン「へっ……?」
ジャンはオリビエの言葉に戸惑い、エステルはジト目でオリビエを見た
エステル「いきなり仕切って何図々しい事言ってんのよ……って六枚?」
オリビエ「ふっ……エステル君とシェラ君。そしてこの僕と姫殿下、リィン君とフローラ君の分に決まっているじゃないか」
シェラザード「呆れたわね。まぁそんな気はしてたけど、この先もついて来る気満々ね?」
オリビエは頷いた。
オリビエ「当然だよ。ヨシュア君を探すのは愛の狩人たる僕の使命でもある。新たな好敵手とも巡り会えたし、同行するには充分な理由だと思うけどね?」
エステル「あ、アンタの戯けた理由は兎も角……クローゼやリィンとフローラさんまで巻き込むんじゃないわよ!」
クローゼ「いえ……実は私も同じ事を頼もうかと思ってました」
エステル「へっ……?」
クローゼ「リベールで暗躍し始めた得体の知れない《結社》の存在。王位継承権を持つ者として見過ごす訳にはいきません。それに何よりも……エステルさんやヨシュアさんの力になりたいんです」
エステル「クローゼ……で、でも学園の授業はどうするの?単位も……」
クローゼ「実は学園長には休学届を出してきました。試験の成績も問題無いですし進級に必要な単位も取ってあります。ジルやハンス君に相談したら『行ってきなさい』って……」
エステル「い、いつの間に……で、でもリィン達は……?」
リィン「水臭いな、俺達がついて来るのは嫌か?」
エステル「そんな事は無いわよ。ただ……」
リィン「どの道結社と無関係とはいかないからな。遠慮なく頼ってくれ」
エステル「リィン……ありがとう。シェラ姉もいいよね?」
シェラザード「フフ……勿論よ。アーツにしても剣技にしても二人とも頼りにしてるわ」
クローゼ「あ、ありがとうございます」
ジャン「話が纏まったみたいだね。なら三人は協力者という立場で扱う「すいませーん」……おや?」
ジャンが言い終わるよりも前にギルドの扉から飛行場の職員が入ってきた。
ジャン「おや、依頼ですか?丁度遊撃士もいますから対応出来ますが…」
「あ、いえいえ依頼じゃなくて郵便です。リィン・アイスフェルトさんという方宛のお手紙を届けに来ました」
リィン「俺ですが……手紙?」
リィンは怪訝な顔をした。
「あ、丁度良かった。こちらになります。受領証にサインを……はい、確かに、では私はこれで」
職員はそう言って去って行った。
エステル「リィンに手紙……?誰かしら?」
シェラザード「それ以前になんでリィンがルーアンにいることを知ってるのかしら?宛名は誰かしら」
リィン「……」
リィンは無言で手紙の封を切って中身を読んだ。
クローゼ「リィン……?」
リィンは読み終わった手紙を綺麗に折りたたんでポケットに入れた。
リィン「ジャンさん、すいませんがルーアン行のチケット二枚キャンセルしてください。変わりに王都行のチケットを手配してくれませんか?」
エステル「えっ……いきなりどうしたの!?」
ジャン「……穏やかじゃないね。なにが書いてたんだい?」
リィン「……とある人物がカルバート共和国に来て欲しいと、村人が消えたそうです。そしてこう書いてました…………
『古代種』の可能性あり……と」