ヴァン「コイツはリゼット・トワイニング、アークライド解決事務所の優秀な助手だ。リゼット、お前さんの口から紹介してやれや」
リゼット「はい」
リゼットと呼ばれた女性は前に進み出て綺麗なお辞儀をして名乗りはじめた。
リゼット「先程ヴァン様からご紹介に預かりましたリゼット・トワイニングと申します。私の本来の所属は《マルドゥック綜合警備保障》のサービスコンシェルジュを務めておりますが、ヴァン様のサポートとして出向しております。宜しくお願いします」
リゼットはそう言って微笑んだ。
リィン「《マルドゥック綜合警備保障》……」
フローラ「聞いた事があります。ここ最近PMC……所謂猟兵が法人化した組織が台頭しつつある中で頭角を現している会社が《マルドゥック綜合警備保障》だと……」
リゼット「うふふ……余り良い印象を持たれないのも判りますわ。ですが我が社は企業透明性はしっかりとしておりますから思っている様な御懸念は無いですわ」
ヴァン「ま、自前で武器を造って売ってたりしてるからな、お世辞にも一般的な会社とは言えねぇのは確かだしな。そう言えばアンタ達の名前も聞いてなかったな?」
リィン「そうでしたね。俺はリィン・アイスフェルトです」
フローラ「リィン様にお仕えしているフローラ・クリフトと申します」
ヴァン「リィンにフローラだな、まぁよろしくな。まぁ取り敢えず乗ってくれや」
自己紹介を終えリィン達は早速ヴァンの車に乗り込んだ。
リィン「インゲルト社のSUVですか、しかもカスタムされてる」
リィンは乗り込んだ車助手席の内装を見て呟いた。
ヴァン「おッ!判るか!?そうなんだよ〜、バンパーも換えたしホイールもインゲルトの物の上物に換えたんだ!当然ミラも相応にかかってな〜」
運転席に乗り込んだヴァンが上機嫌に答えた。
フローラ「……それ、大丈夫なんですか?事務所の財政的に」
リゼット「……少し、今月は厳しいかもしれません。ですから今回の依頼は助かりました」
後部座席に座ったフローラとリゼットの会話をヴァンは顔を引き攣らせて聞いた。
ヴァン「だ、大丈夫だ!下宿先の家賃と水道光熱費の分はちゃんと確保してあるから……!」
リゼット「ヴァン様……?」
ヴァン「は、はい……なんでしょうかリゼットさん……?」
リゼットはニコリと笑うと告げた。
リゼット「程々にしましょうね……?」
ヴァン「はい……」
リィン「……やれやれ」
フローラ「力関係が判りますね」
ヴァン「えぇい!兎に角、出発するからな!」
ヴァンはそう言ってキーを回し車を走らせた。そうして主要幹線道路に入ると車の量が多くなってきた。
リィン「帝国に比べると一般人が車を気軽に持てるみたいだな」
リゼット「共和国はヴェヌル社以外にも名だたる自動車メーカーがありますから、値段も帝国から比べれば安いかもしれません」
ヴァン「ま、それでも高い買い物である事には変わりは無いからな……田舎に行けば自動車なんて持ってるだけで注目の的だ」
リィン「俺も将来的には持ちたいな」
ヴァン「お、良いじゃねぇか、俺のオススメはやっぱりインゲルトだが……」
リゼット「ヴァン様、共和国の車は帝国では販売されてませんよ」
フローラ「それ以前にラインフォルト社も車の販売に力入れてますしね。リィン様が買うとしたらそちらになるでしょう」
ヴァン「ガクッ……ちぇ、インゲルト仲間ができるかと思っていたのによ」
リィン「ハハ……ところでまだ着かないのですか?」
ヴァン「ん?……あぁ心配すんな、もうすぐ着く」
そう言うヴァンの言葉通りイーディスの街中に入り、そして少し古臭い建物が立つ街区に入った。
フローラ「あら、旧市街に事務所があるんですか?」
ヴァン「あぁ、ここは家賃も安いからな。アンタその口振りからして来た事あるのか?」
フローラ「えぇ少し、ナンパ男が面倒臭いから撒く時に」
ヴァン「そりゃ災難だったな、だがここもそこまで治安も悪くないから安心しろ。住民もいい奴が多いから……っと着いたな」
ヴァンがそう言って車を停め全員が降りるとそこには《ビストロ モンマルト》の看板のついた店の前だった。
リィン「……事務所を兼ねてるんですか?」
ヴァン「あー、違う違う。ここは俺が借りてる部屋の管理人が経営してる店だ。ちと店はボロいが味は確かだぜ」
「ふん、ボロくて悪かったな」
そんな声が店の方から聞こえ中から精悍な顔つきの男性とその後ろから赤ん坊を抱いている女性が現れた。
ヴァン「げ…ッビクトルのおやっさん、聞こえてきたのかよ……」
ビクトル「ふん!店の前で話してりゃ嫌でも聞こえるわい!珍しく早起きしたと思ったら朝飯も食わずにでかけやがって……」
「まぁまぁ、お父さん。ヴァンさんも仕事で出かけたんだと思うからそんなに怒らないで」
ビクトル「ポーレット、しかしだな……」
「それよりも……」
ポーレットと呼ばれた女性はくるりとリィン達の方に向いた。
ポーレット「うふふ、ごめんなさいね。突然の事でびっくりしたでしょう?私の名前はポーレット、《ビストロ モンマルト》の従業員よ。こっちは私の父のビクトル。気難しいところはあるから勘違いされやすいけどとても優しい人よ。ヴァンさんにはあぁ言ってるけどお父さんなりに心配してるのよ。あ、因みにこの子は私の娘のユメよ」
ビクトル「ポーレット!……はぁ、まぁ良い…お前さん達何か食ってくか?ランチタイムは過ぎたがシチュー位なら出せるぞ?」
リィン「……じゃあお願いします」
ビクトル「よしきた。じゃあ中に入りな、ご新規様《ビストロ モンマルト》にようこそっと!」
ビクトルに促され店内に入ると中は落ち着いた雰囲気の店だった。
フローラ「感じが良い店ですね」
ポーレットの配慮で一番奥のテーブル席に案内され椅子に座ったフローラはそう呟いた。
ビクトル「ハハ、そう言って貰えるなら苦労した甲斐があるってもんだ!ほら、ビクトル特製のビーフシチューだ。パンとサラダも付けたぜ!悪いな、すぐに出せるメニューは今これしかなくてな」
リゼット「いえいえ、充分ご馳走ですよ」
ビクトル「ったく、リゼットの嬢ちゃんはいい娘だなぁ。なんでこんな娘がヴァンの助手に……」
ヴァン「そりゃどういう意味だよ。おやっさん……まぁ兎に角食おうぜ、味は保証するぜ」
リィン「では、お言葉に甘えて……あ、美味い……!」
フローラ「本当ですね。肉もあまり噛まなくても口の中で解れて、野菜も味が染みて食べやすいです」
ビクトル「ワハハ!そりゃあ良かった、お替りしたかったら何時でもいってくれ。じゃあ俺は厨房に戻るぜ」
ビクトルはそう言って厨房に戻って行った。
ヴァン「……さて、飯を食いながらでもいいから依頼内容を確認しとこうか、依頼書にはお前さん達に協力して欲しいとしか書いて無かったが……どういう事だ?」
リィンは食べる手を止めヴァンに視線を向けた。
リィン「そうですね、最初にリベールで起きた事から話しましょう」
リィンはルーアンで起きた《オケアノス討伐》から《古代種》についても説明し、カルバートにも《古代種》が現れた可能性があると告げた。
リィン「……という訳です」
ヴァン「……《古代種》…」
リィン「信じられないですか?」
ヴァン「まぁ…な、突拍子も無いというか、だが確かにリベールで超大型の海洋生物が現れたって記事があったな。ガゼか大げさに報道したかと思ってたが……」
リゼット「でも確かに帝国ではその《古代種》の学術研究がされてると聞きます。与太話では無いのは確かでしょう」
ヴァン「それで?俺達に化け物退治の手伝いをすれば良いのか?」
リィン「そこまで図々しい事は頼みません。目的地まで運んでくれればそれで……」
ヴァン「ちょっと待て、まさかお前さん達二人だけでか?いくらなんでも無謀じゃないのか?」
フローラ「ご心配無く、私もリィン様も充分強いですしいざとなったら頼れる仲間もいますから」
ヴァンとリゼットは顔を見合わせた。
ヴァン「相談したい、時間をくれ」
リィン「当然でしょうね。勿論断っても構いません。俺達も無理強いしたくないです」
ヴァン「……助かる。今夜はここの二階にある俺達の事務所に泊まっていけ、部屋は余ってるからな」
リィン達はその言葉に甘え二階のアークライド解決事務所の空き部屋に泊まる事にした。そして……
ヴァン「どう思う、リゼット?アイツ、《シュバルツァー》だと思うか?」
リゼット「十中八九間違い無いと思います。何故姓が違うのかは判りませんが……」
ヴァン「どういうこった?訳が分からないぜ。あのメイドも以前はいなかったしな、まぁ《シュバルツァー》家のメイドだとしたら態々言う必要も無いだろうが…」
リゼット「調べようにもこの時代にはまだ導力ネットはおろかザイファすら無いですからね。もどかしいです」
ヴァン「この時代まだカトルやフェリ、アーロンもガキだしな。シズナや先生も連絡取りようもないしな……」
リゼット「エレイン様やキンケイド様はどうしますか?」
ヴァン「エレインは兎も角、ルネの奴は……まずは保留だな」
リゼット「……ヴァン様、アニエスさんは……?」
ヴァン「……正直、迷ってる。どうしたいかまだ解らねぇ……仮にアイツも『戻って』たとしたらなんて言えば……」
リゼット「……ヴァン様……」