頸を喪った女王蟻の胴体は数瞬の後血飛沫をあげ斃れた。そしてリィンは刎ね飛ばした頸の方に歩み寄り……
リィン「……!」
無言で女王蟻の頭部を突き刺した!
ヴァン「お、おい……!?」
リィン「……一応念の為です。蟲は頭だけになっても生きてる事がありますからね」
リヒトを引き抜き、付いた血糊を飛ばして鞘に戻した。
ヴァン「そ、そうか……それよりもさっきの技……」
リィン「あぁ、アレは姉弟子の技を学んだんです」
エレイン「姉弟子………」
リィン「えぇ、彊い人ですよ。あの人は……うん?どうやら向こうも片付いた見たいですね」
リィンがそう言うと入口からフローラが駆け寄ってくるのが見え、リィンもフローラに近づいた。ヴァンとエレインとリゼットは顔を寄せ合ってリィンに聞こえない様に喋った。
エレイン「……姉弟子って彼女よね?」
ヴァン「十中八九アイツで間違い無いだろ、アイツ以外の黑神一刀流の使い手なんて俺は知らないぜ」
リゼット「何であの方はこの段階でリィン氏に出会ったのでしょうか?彼女も私達と同じく『戻って』来たのでしょうか……」
ヴァン「どうかな?アイツの事だから『強い弟弟子が居るみたいだから手合わせしたい』……なんて理由かもしれんぞ」
「「……普通に有り得そうな話ね(です)」」
シズナの性格を知る二人はその可能性は否定出来なかったので苦笑した。
エレイン「でもそれだとシズナさんは『戻って』無いって事よね?『戻って』たならヴァンに連絡しないのは可笑しいもの」
リゼット「いえ、そうとは言えないのでは?シズナ様はあくまでも猟兵、シズナ様は臨時助手として登録してますが猟兵としての正式に契約を交わした訳でもありませんし……」
ヴァン「シズナが無条件に俺達に味方する道理も無いってことか、まぁ言われてみりゃあそうだわな」
エレイン「納得してる場合じゃないでしょう……ただでさえ『匣』の事もあるのに」
ヴァン「まぁそうかも知れないが……だが幸いシュバルツァー………いや、アイスフェルトだったか、兎に角アイツとは良好な関係を築いていかねぇとな」
リゼット「ヴァン様は彼と同盟を結ぼうとお考えで……?」
ヴァン「あぁ、状況が判らねぇ今少なくとも筋を通せる相手が一人でも欲しい。その意味でアイスフェルトはうってつけの人間だと思うが?」
エレイン「……確かに、『灰の剣聖』と組むメリットは計り知れないわね。問題は歴史がどう動くのか予想出来ない事だけど」
ヴァン「そんなの今更だろ?俺達がこうしてここに居る以上そんなの当てにできねぇと思うぜ」
そんな会話をしていているとリィンがフローラを連れて戻って来た。
フローラ「お疲れ様です。無事に女王蟻を斃せたみたいですね?」
ヴァン「ま、俺は大した事していないがな、寧ろお前さんの主人が主体で討ち取ったしな」
リィン「いやいや、ヴァンさんは発勁でダメージ与えたじゃないですか。エレインさんやリゼットさんもいなければもっと討伐は難しかったでしょう」
ヴァン「そりゃどうも……で、嬢ちゃんの方も無事に片付いたみたいだな?」
フローラ「えぇ、こっちに襲ってきた奴等は殲滅しましたから、後応援来てますよ」
エレイン「………応援?」
フローラ「すぐに判りますよ。ほら丁度来ました……」
フローラが指差すと入り口から警官やら遊撃士が雪崩込んできた。
ヴァン「警官!?それに遊撃士も……アンタが連絡したのか?」
フローラ「いえ、どうやら通報があったらしくこうして駆けつけてきたみたいですよ」
ヴァン「……げっ」
フローラがそう言うと警官隊の中から一人の男性が近付いてきた。コートを羽織った黒人男性でその顔を見たヴァンは顔を顰めた。
「げっとはご挨拶だなアークライド……どうして貴様がここに居る?」
黒人男性はそう言ってリィン達を見回した。
「……アークライドの隣に居るのは……遊撃士か、君がこの化け物を斃したのか?」
エレイン「カルバート警察のダスワニ警部ですね?私はエレイン・オークレール、C級遊撃士です。斃したのは私一人の力では無く……彼等のお陰です」
ダスワニ「ん……?アークライドは違うとして、彼等は遊撃士かね?」
ヴァン「……あ〜、話がややこしくなるが簡単に言うと俺の依頼主だわ」
ダスワニ「ほう……アークライドの、ね。済まないが同行願うぞ?」
ダスワニ警部はそう言って部下に合図を送った。
地上に戻ったリィン達は警察が緊急の指揮所に使っている村の家で取り調べを受けていた。
ダスワニ「……リィン・アイスフェルト、エレボニア帝国人ね。君は何故アークライドと一緒にいたんだ?」
リィン「……それを答える前に一つ聞きたい事があります。あの巣の中に生存者は…?」
ダスワニ「……」
ダスワニは無言で首を振った。
リィン「そう、ですか……」
ダスワニ「勘違いしないで欲しいが。君が奴等を討ち取ってくれた事は素直に感謝したい……だが、君は奴等の正体を知っているんだな?そうでも無ければ態々ここカナンの村に来たりしない、違うか?」
リィン「……えぇ、リベールのルーアンに現れた怪物騒ぎは知ってますか?」
ダスワニ「知っている。その口振りからするとソレと関係してるんだな?だが、なら何故アークライドに依頼した?我々に知らせても……」
リィン「証拠も無く、口だけの証言で警察は動きますか?」
リィンは暗に動かないでしょう?と告げる
ダスワニ「それ、は……」
ダスワニも思い当たる節があるのかバツが悪そうに顔を顰めた。
リィン「それが悪いとは言いません。組織とはそう言う物ですから、だけど被害が出た以上猶予もありませんでした」
ダスワニ「だから遊撃士にも通報せずに…か?だとしても民間人である君がすべき事では無いだろう?」
――― コンコン ―――
ダスワニ「何だ?」
ダスワニがそう言うと警官が入ってきた。
「失礼します。警部、大統領調査室の方がおみえです」
ダスワニ「……何だと!?」
警官がそう告げて後の人物に道を空けるとスーツを着た男性が入ってきた。
「失礼、大統領調査室の者だ。この件は国家案件として預かる事になった。警察は速やかに撤収するように」
ダスワニ「な……ッ!?巫山戯るな!犠牲者が出たんだぞ!?警察として捜査を……!」
男は懐から命令書と思われる紙を取り出しダスワニ警部に突きつけた。
「これは大統領命令だ。君達には従う義務がある。後の事は我々に任せるが良い」
ダスワニ「…………ッ」
ダスワニ警部突きつけられた命令書の内容を読み歯軋りをして部下に撤収命令を下していた。そして黒服はリィンを見ると告げた。
「リィン・アイスフェルト君だね?少し我々に付き合って欲しい」
男はそう言って背を向けた。
リィン「……」
リィンは無言で席を立ち、まだ歯軋りしているダスワニ警部に一礼した。
指揮所を出ると完全武装した共和国軍兵士が忙しく動き回り蟻の死骸をストレッチャーに乗せていたりしていた。
「此方だ。着いて来たまえ」
男はリィンを連れて村外れに停めてあるリムジンの前まで来た。
「閣下、お連れしました」
男はリムジンの主に窓越しに報告した。スモークガラスなので中の人物は見えない。
「おぉ!来たか、君は少し下がりなさい。彼と話たいのでな」
「ハ……ッ」
中の人物の命令で男は下がった。そしてリィンはリムジンに近づいた。
「先ずは礼を言わねばならんね?君が怪物を斃してくれたお陰で危機は去った。ありがとう」
中の人物はそう言ったがガラスのせいで中は見えない。
リィン「……いえ、結局犠牲者は出ましたから」
「いやいや、君はエレボニア人だ。本来なら我が国の問題に干渉する義理も無いのに我が国の民を救おうとしてくれた。それはやはり礼を言わねばならぬよ」
リィン「それこそ俺一人の力では無いですよ。礼なら彼等にも言ってください」
「勿論そうする積りだ。だが、個人的に私が君に会いたかったのだよ。ハーリング准将の報告にあがった君を……ね?」