レーヴェとの戦闘で怪我を負ったアガットはモルガン将軍が乗ってきた警備艇に乗せられてラヴェンヌ村まで移送され、村にあるアガットの自宅のベットに寝かされ治療を受けていた。
フローラ「……よし、これで手当ては終わったわ」
そう言ってフローラは最後の包帯を巻き終えるとアガットを横たえた。
ティータ「あ、あのあの……アガットさんの具合は……?」
フローラ「安心しなさい。安静にしないといけないけど生命には別状は無いわ」
フローラはティータの方に顔を向けてそう言って微笑んだ。
ティータ「よ、良かった〜」
ティータはその言葉を聞いて安心したのか傍にあった椅子に座り込んだ。
フローラ「さて……私はリィン様に報告に行くけどティータさんはどうするの?」
フローラは手当に使った道具を片付けながらティータに聞いた。
ティータ「あ……あの、できればアガットさんのお世話をしたいです。目が覚めた時誰も居ないとアガットさん寂しいと思うし……」
フローラ「そう、ならこれを渡しておくわね」
フローラはそう言って軟膏を取り出した。
ティータ「これは?」
フローラ「私の故郷に伝わる塗薬よ。これを定期的に塗れば傷の治りも早いと思うわ」
ティータ「い、良いんですか……?そんな貴重な物を……」
フローラ「子供が遠慮しない、こんなのは幾らでもその作れるものよ。良いから受け取りなさい」
フローラはそう言って軟膏をティータの手に握らせた。
ティータ「あ……ありがとうございます!」
フローラ「別に礼はいらないわ。じゃあ後は頼むわね」
そう言ってフローラはアガットの家から出ていった。
ティータ「はぁ〜フローラさん素敵な人だなぁ……私もあんな女性になれたらなぁ…………あれ?そう言えばフローラさんの故郷って聞いた事無いなぁ?リィンさんなら知っているかな?」
―― ラヴェンヌ村果樹園 ――
リィン「……」
フローラ「リィン様」
焼け焦げた果樹園の跡を見ていたリィンはフローラからの声に反応して振り向いた。
リィン「ご苦労様。アガットさんの容体は?」
フローラ「はい、生命には別状は無く回復すれば前の様に武器も握れるでしょう」
リィン「そうか……ならその事をエステル達にも伝えてくれないか?今は村長宅にいる筈だ」
フローラ「承知しました。それにしても……酷い有様ですね」
リィン「あぁ、死人が出なかったのは幸いだが……村人達の努力の結晶がこんな形で崩れるのは……やりきれんな」
リィンは炭化した木の枝を拾い上げるとそれは脆くも砕け散った。
フローラ「……エステルさん達に伝えてきます」
フローラは一礼してから村長宅に向かった。リィンはその背中を見送りながら改めて果樹園を見渡した。
オリビエ「酷い有様だね……まるで戦場だよ」
フローラと入れ違いにオリビエがリィンに近づいてきた。
オリビエ「やぁ、何だかんだで再会の挨拶が遅れたね。カルバートはどうだったんだい?」
リィン「……えぇ、色々と知見を得ましたよ」
オリビエ「そうかい……いやぁ若いって良いねぇ〜柵がないだけでも羨ましいよ。僕も末席とはいえ貴族だから義務やら何やらがあって……」
オリビエは飄々とした顔で言っているがその眼はリィンを警戒していた。
リィン「それで……オリビエさんはそんな事を俺に聞かせたい訳でもないでしょう?」
オリビエ「……」
それを聞いたオリビエは何時もの飄々とした表情ではなく真面目な顔になって言った。
オリビエ「リィン君……君は何者だい?」
リィン「何者と言われも困りますね。俺の経歴は知っているでしょう貴方は?」
オリビエ「勿論知っているがあれだけの戦闘力と君が佩いているその太刀……どう見たって一平民が持ってて良い代物ではないね。改めて聞くけど、君は何者だい?答えによっては……」
オリビエはおもむろに銃を取り出しリィンに銃口を向けた。
リィン「……」
オリビエ「君は謎が多すぎる。帝国での活動、リベールでの動きに加え今回のカルバートへの動き……君は……鉄血宰相の子飼いの工作員じゃないのかい?」
オリビエはリィンに銃口を向けながら問うた。
リィン「……工作員?随分想像豊かですね。証拠でもあるのですか?」
リィンはそんな問いに呆れた声で逆に聞いた。
オリビエ「証拠は……ない、だが疑わしい状況があり過ぎるだろう?」
リィンはそんなオリビエに失望の溜息をついた。
リィン「……オリビエさん、貴方は今自分が嫌っている宰相や貴族と同じ顔してますよ?」
オリビエ「……何?」
リィン「『自分に味方しない奴は全て敵……』そんな表情です」
オリビエ「……僕が宰相殿や貴族と同じだって……?違う、僕は帝国をより良い方向に変えたいだけだ……その為には敵味方を見極めなければ……」
リィン「前にも言った筈です。貴方が帝国を憂う気持ちは否定しないと……だけど俺は俺でのやり方でオズボーン宰相と対峙していくつもりです。貴方の完全な味方とはなり得ません」
リィンはオリビエに向かって歩き出した。
オリビエ「……宰相殿や貴族と対立するつもりだと?君の様な一平民で何が出来ると……」
リィン「それはやってみないと判らないでしょう……まぁ状況が変化すれば貴方と一時的な協力体制は敷けるでしょう」
リィンはそう言ってオリビエの横を通り過ぎる。オリビエは引き金を引けなかった……
リィンは果樹園を出て村長宅に向かう道中クローゼが立っていた。
クローゼ「リィン……」
リィン「やぁクローゼ、アガットさんの容体は聞いたか?」
クローゼ「うん、さっきフローラさんから話を聞いたわ」
クローゼはそう言うとリィン抱きついた。
クローゼ「リィン……お帰りなさい」
リィン「……ただいま、クローゼ。悪い、言うのが遅くなった」
クローゼ「ううん良いの、それどころでは無かったから……ねぇリィン?」
リィン「うん?どうした?」
クローゼ「……無理しないで、一人で抱え込まないで欲しい。貴方を慕う女性《ヒト》達も悲しむから……」
リィンはその言葉に驚いた。
リィン「クローゼ……」
クローゼ「情報部が廃止されたとはいえ今も情報は王室に入るわ。それは貴方に関することも……正直貴方を独占出来ないのは悔しいけど……私は納得してるし、お祖母様も了承しているわ」
リィン「……正直俺は君に引っ叩かれて振られても文句は言えないと思っていたけどな」
クローゼは頭を振った。
クローゼ「私を嘗めないでよ?惚れた男をその程度で突き放したりしないわ」
リィン「おっかないな…リベールの次期女王様は」
リィンは肩を竦めた。
クローゼ「あら?褒め言葉よ。それは」
クローゼはそう言ってリィンにキスをした……その後ボース支部に戻りルグラン爺さんに報告していると王国軍から連絡が入りリベールの飛行艦隊を使い、龍捕獲作戦を実行する旨を伝えてきた……