オリビエはリィンの言葉を聞いて安心したようで「じゃあ、本国に帰ったら連絡してくれたまえ〜!」と言いながら去って行った。
リィンはそんな去っていくオリビエを視線で追いながら手は釣り竿を握ったままだった。
リィン「……オリビエさん、俺を利用するつもりじゃないだろうな……?」
リィンは釣り竿を引き上げて釣針に刺した餌を確認しながらオリビエの『姉弟』の顔を思い浮かべた。
リィン「……まぁいいか、少なくとも『世界を教えたい』というのは本当だろうし、もしソレをダシにして俺達を利用してきたならこちらもそれなりの『報復』をするだけだ」
リィンはそう言って釣り糸を再び投げた。リィンは『オリビエ』個人は信頼はしているが彼の本来の『正体』については警戒していた。
「何や釣れへんのかいな?」
その独特な訛りを聞いてリィンは後ろを振り向いた。
リィン「ケビンさんですか……」
そこには釣り道具を装備してきたケビン神父が立っていた。
ケビン「いや〜エステルちゃんも釣りしてるって前に聞いていたからワイも久しぶりに釣りをしよかと思うてな?隣、ええかな?」
リィン「……どうぞ」
リィンは少し位置をずらしてケビンが座るスペースを作った。
ケビン「おおきに」
ケビンはリィンが作ってくれたスペースに腰を下ろして釣り糸を垂れ下げた。
それから十数分……
ケビン「……釣れへんなぁ……」
リィン「こういう日もありますよ」
一匹も釣れず互いにぼーっと湖上を眺めていた。
リィン「……で?ケビンさんはただ釣りに来ただけではないのでしょう?」
ケビン「タハハ……、やっぱり分かってたか……まず用件を言う前に改めて謝っとくわ。あの時は済まんかった……」
ケビンは静かに言った。
リィン「……謝罪は不要です。あの時誠意を持って対応していただいた。それで充分です」
ケビン「いや〜、ケジメって奴や……それと用件な、コレを渡して欲しいと《あの方》から頼まれたんや」
ケビンは懐から一枚のA4サイズの封筒を差し出した。
リィン「……今中身を確認しても?」
ケビン「……」
ケビンは頷いたので封を切ると中には七耀教会教皇と《彼女》の連名で『七耀教会はリィン・アイスフェルト氏が現在保有している《アーティファクト》及び同氏が今後入手する《アーティファクト》についても教皇の名において保有を認める事をここに記す』と書かれた紙が入っていた。
リィン「……なんですか、これは?」
リィンはその紙をヒラヒラさせた。
ケビン「見ての通りや、教会はリィン君が今持っとる《ソレ》やまだうちらに話してない物を正式に保有を認めたんや」
ケビンは肩を竦めた。
リィン「よく封聖省や僧兵庁が認めましたね?彼等なら問答無用で俺を消しにくると思ってましたが……」
ケビン「なんや、リィン君随分詳しいなぁ?……まぁ確かにそんな動きもあったけどな?《あの方》が全責任を全て自分が負う言うて納得させたんや」
リィンは以前会った彼女の顔を思い浮かべた。
リィン「……一応納得はしましたが、俺が話してない事なんて無いですよ?」
リィンはリヒトをチラッと見て惚けてみせた。
ケビン「ハハハ……まぁ、そういう事にしといたる。話を戻すけどな僧兵庁や封聖省も勿論懐疑的で妥協案で近いうちにリィンを傍で監視する人間を派遣するつもりや」
リィン「へぇ……?その監視する人間ってケビンさんになるんですか?」
ケビン「勘弁して……流石にあのメイドさんにそんな事言ったら本気で沈められる……」
リィン「ふっ……冗談ですよ。……有り難く頂戴します」
リィンは封筒を仕舞い、釣り道具を片付けて立ち上がった。
ケビン「何や?もう釣り辞めるんか?」
リィンは肩を竦めた。
リィン「えぇ、このまま粘っても釣れなさそうですし……ケビンさんはどうするんですか?」
ケビン「ワイはもうちょい頑張ってみるわ、何か釣れそうな予感するし」
リィン「そうですか……ではお先に失礼しますね」
リィンはそう言って立ち去った。そして釣り道具をスタッフに返却して一階のテラスにいくと真っ昼間からシェラザードとフローラ、そして少し青褪めたオリビエが酒を飲んでいた……
シェラザード「あらリィン、丁度良いわ。アンタも呑みなさいよ〜」
シェラザードがワインの入ったグラスを近づけた。
リィン「シェラザードさん、何度も言ってますけど俺未成年ですよ?それに……もう四本も空けてるし……」
シェラザード「アハハ、こんなの呑んだ内に入らないわよ〜ねぇ、フローラ?」
シェラザードは静かに飲んでいたフローラに話を向けた。
フローラ「貴女と一緒にしないで頂戴、それとリィン様……その四本シェラザードがオリビエに注いだ分で実際彼女が呑んだ量はもっとです」
リィン「あぁ……だからオリビエさんあんなに真っ赤なのか……」
オリビエはまだ持ち堪えているみたいだが時間の問題だろう。
オリビエ「は、ハハハ……り、リィン君……シェラ君は兎も角、彼女はなんであんな涼しい顔して飲んでるんだい?あれでワインボトル三本……いや、五本は飲んで……」
オリビエは青褪めながら顔を真っ赤にするという器用な事をしながら聞いてきた。
リィン「さぁ?単純に酒に強いからだと思いますよ?」
オリビエ「そんなレベルの問題では無い気がするんだが……」
オリビエは青褪めながら納得していなさそうに呟く。
シェラザード「ん〜、少しこのワインも飲み飽きてきたわね……よし!フローラ、《アレ》出しなさいよ。あるんでしょ?」
フローラ「《アレ》……あぁアレね?あるけど……貴女も好きねぇ……」
シェラザード「良いじゃない、美味しいんだから……さあ!早く出して!!」
シェラザードは早くとフローラを急かしてくる。
フローラ「ハイハイ、ちょっと待ちなさい」
フローラは鞄をまさぐると一本のラベルの無いボトルをテーブルの上に置いた。
オリビエ「おや……これはどこの国の酒だい……?というかラベルも剥がれているし、本当に酒かい?」
シェラザード「ふっ、ふっ、ふっ……安心なさい。これはちゃんとお酒よ。私も知らないけどコレ美味しいのよね〜」
シェラザードはそのボトルを掴んで愛おしそうに撫でた。
リィン「なぁ、フローラ……もしかしアレは?」
リィンは二人に聞こえない様にフローラに耳打ちした。
フローラ「はい、『アンファング』のワインセラーから……まぁ誰も飲んでいないので大量にあり余ってますから丁度いいんですが」
フローラはしれっとそう言った。
リィン「正体を知ったらシェラザードさん卒倒するな……」
リィンは嬉々としてボトルの栓を抜いてグラスに注ぐシェラザードを見て頭を振った。
フローラ「ご安心ください。極上の一本は厳重に保管してます……いつかリィン様が大人になられたら封を切りますから、楽しみにしていてください」
フローラはそう言ってグラスを持ちながらリィンに微笑んだ。