シャドウガーデンと共に楽しい日々を 作:陰の実力者になれんかった
個人的渾身の一話です、と言いたいところですが、ハードルは低い方が好みなので黙っておきます。怖いので。
割とシリアス入ってます(多分)が、今回は書きたかったことを書けたかなと思ってます。①はなんとなくです。別にすぐに続くわけでは無いです。
日常編、それではどうぞ
『アルファの一日』
「……そういえば、家を建てたのだったわね。中々慣れないわ。……ベッドの上で起きるなんていつぶりかしら」
鳥のさえずりと朝日の光を感じて目が覚める。背中に感じる柔らかい感触と、仄かに香る自然、そして視線の先にある切った木そのままの木目を見て、そんな言葉を発してしまう。
悪魔憑きになってからまともな場所で寝る事も出来ず、ただ腐り、崩れ落ちていくのみの体となっていたついこの前と比べると、随分良い生活が出来るようになったものだと改めて思う。
「今日は何をしようかしら。鍛錬は元より、ディアボロス教団の情報も調査したいわね。それに他の悪魔憑きも探さなければならないし、この拠点も色々と改善すべき部分はある。やる事が沢山ね」
兎にも角にもまずは朝食を食べようと、ベッドから降りてキッチンへ移動する。
キッチンにはゼロが合間を縫って応急処置的に持ってきてくれた食材が置いてある。保存がきくものもあるから当面の間飢えることはない。
「いただきます……だったかしら」
彼、シャドウが言っていた謎の挨拶。彼曰く、食べ物に対して感謝する意味合いがあるらしい。私でも知らない知識を彼は知っていた。これがどんな影響をもたらすかは分からないけれど、彼がやっていたのだから私もやる価値はある。
ゼロが持ってきてくれた食材のうち、あまり日持ちのしないパンを食べる。
手に持った瞬間、私は自身の目に疑いをもってしまった。このパン、普通のものじゃない。そう感じるには十分な違いがあったにも関わらず、それに気付くことが出来なかったのだから。
持った時の感覚が私の知るパンと違った。見た目と比べて微細ながら確かに重い。それに、このパン自体上流階級の貴族でさえそう簡単に見ることの出来ない白パンだったけれど、私の知るそれらとは比べ物にならないほど綺麗な焼き色をしている。
おそるおそるパンをちぎると、再び驚愕した。ちぎって見えた中身はこれでもかというほどに詰まった白いクラム。決して大きな隙間の無い、 ボリュームのあるパン。
思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。悪魔憑きになる前でも、これだけのものは見た事がなかった。一体どれほどの味なのかと、一口。
食べた瞬間、私はこれを持ってきたとゼロとシャドウに感謝した。彼らが救ってくれなければ、彼が持ってきてくれなければ、私はこれを知らずにいたのかと。
そこには本当に美味しいものがあった。
これだけもっちりしっとりとしたパンを、私は今まで食べたことがない。パンでありながら繊細さを感じるほどに綺麗なクラストと、口の中の水分が余りに持ってかれないクラム。なんて素晴らしいパンなのかと何度も頭の中で反芻した。
次ゼロと会った時には色々と根掘り葉掘り聞こうと決意した頃には、既にそのパンは無くなっていた。
「ごちそうさまでした……で合ってるわよね」
なんだかとても長い時間を過ごした気分になりつつも、まずは鍛錬をする。
始めはシャドウから教わった準備運動というものを行う。これをやるとやらないとでは体に対する負担が大きく変わるらしい。 実際、これを行ってからの方が体は動かしやすい。彼は一体どれだけの知識を持っているのかと、改めて思う。
その後は型をなぞりながら基本形を体に覚え込ませる。その際に思い浮かべるのは彼の全く無駄のない太刀筋とこれまた全く見た事のない剣。
エルフにも剣の流派のようなものは存在するけれど、個々人の技量に大きく左右されるようなものが多い。あくまで嗜み程度だから基本、それを学んだだけでは大して強くもない。
けれど、彼のそれは勝つ為に作られたと言っても過言でないほどに合理性が追求されている。動きはコンパクトに、スムーズに、相手の動きに合わせられるように作られている。
私にはまだここまでしか分からないけれど、彼の行うそれが絶技と呼ばれるに相応しいということはわかっている。
彼が作り上げたこの剣。シャドウガーデンの一員として、彼に追いつけるよう、使いこなせるようにならなければ。
「……彼は一人であれを作り上げたのかしら。知識だけではなく、こういった面でも本当に凄い」
黙々と剣を振るい、自分の体に馴染ませていく。いつか相見えるだろう敵を見据えながら。
午後。鍛錬も終わり、昼食にもパンを食べた後。今日はディアボロス教団についてではなく、食料を調達出来るようにしようと少し外まで出てみることにした。
この森は果実や木の実がそこそこ実っていて、見た事がある実もちらほらと見かけた。最低限の食料は調達出来そうで一安心する。
「……とはいえこの森、果実とか多過ぎないかしら。見渡す限りにあるのだけれど」
見える範囲だけでもほとんど全ての木に実がなっている。それも、複数種類。
木はこんな生え方をするのだったかと疑問に思いながらも、とりあえず幾つか採って帰ることにした。
シャドウに聞けばヒントはもらえるし、詳しい事はゼロに聞けば教えてくれる。つまりは、2人とも私の知らない知識を知っている。
「私は彼らに追いつけるのかしらね……追いつかなければならないのだけれど」
夜。今日はシャドウが来ると言っていた日。ゼロも遅くなるが来れそうだと言っていた。用意すると言うほどのものではないけれど、掃除をしておいた。
せっかく皆で建てた家なのだから綺麗にしておきたい。彼が来るのが待ち遠しく感じる。
「やっほー。来たよ、アルファ」
「シャドウ……いらっしゃい。いえ、お帰りなさいかしら」
そんな風に考えていると、タイミング良く彼がやってくる。彼なら心の中も見破れそうと思ってしまう。
「好きな方でいいんじゃないかな。……うん、やっぱり良い家だね」
「当たり前でしょう。だって私たちでつくったんだもの」
「そっか」
「そうよ」
暫く彼とこの家を見ていると、外から足音が聞こえてきた。
「遅くなってすまんな。これ、追加の食料だ」
「あっ、そうだ。僕からもこれ」
「またこんなに沢山? ありがとう」
ゼロとシャドウからカゴと共に、中に入った食料を渡される。野菜や物持ちの良い食べ物、少なめだけど肉も入っている。
これだけの量、自分の家から持ってくるのも大変だと思うのだけど、大丈夫なのかしら。色々と。
「でも、私一人じゃこんなに食べ切れないし……一緒に食べない?」
「おっ、それはいいね。アルファにもちゃんとしたもの食べて欲しかったし。やっぱり栄養は大事だよ」
彼は私の提案に乗ってくれた。見た限りではゼロにも乗り気そう。それに栄養は大事。何か更に私の知らない知識を知ってそうね。今度聞いてみましょう。
「そうだな。では私が何か作ろう」
「いえ、私が作るわ。二人共疲れているでしょう」
「それはアルファも同じだろう。まだ私の方が体力は残っている」
「……そうだ。皆で作ればいいじゃん」
私とゼロがどちらも引かずにいると、シャドウが仲裁案を出した。
「それは、良さそうね」
「ふむ、まあそれなら良いだろう。では早速始めようか。アルファも腹が減っているだろう」
「じゃあ僕は──」
なんてことの無い一日でも、この二人が居るといつも以上に彩りが生まれる。朝とは違って暗いけど、月明かりに照らされるこの家は、明るくて、暖かい。
「ほらアルファ。言い出しっぺは率先してやらないと」
「……それをお前が言うか? だがまあ、アルファ。あまりゆっくりしていると作り終わってしまうかもしれないぞ」
「──そうね。私も遅れないようにするわ」
私たちの道には困難が待ち受けているし、やらなければならない事は多い。だから、モタモタしている暇は無い。
でも今ぐらいは、こんな生活も良いかしらね。
アルファがまだ一人だけだった頃の話。
シャドウが夜にやって来る、とある小屋が彼女にとって大切な場所で、彼と過ごす二人の時間が幸せなものだったように
この世界でも、三人でつくったこの家が大切な場所で、三人で過ごす時間が幸せなものであるといいなあと、私はそう願いました。
それではまた次回!