シャドウガーデンと共に楽しい日々を 作:陰の実力者になれんかった
それでは本編どうぞ
あれから、シドが悪魔憑きに魔力を好き勝手流し込み時折唸りながら様々な方法を試すこと3週間。
毎回軽く会話を重ねた後は魔力の制御に没頭するシドと、それを見てどのような制御法があるのかを学ぶ私がいた。
実に興味深い日々だった。この世界において魔力というのは広く使われているものの、その技法に関しては秘匿されていることがまちまちにある。
それ故に、自分の感覚で制御の訓練をしなければ魔力操作などの技術はほぼ向上しない。そのうえ、他のお手本など見る機会はほとんど無いため、参考となるものも無い。
レベルの高いものとなると、それこそ魔剣士を目指している家系ぐらいなものではなかろうか。
シド本人も実力が高まっていくのを感じているのか、いつも楽しそうにしていた。より綿密に、より繊細にと少しずつ、しかし物凄いスピードで成長していく姿には驚愕せざるを得なかった。
細かい部分で私とは違ったやり方というのがまた参考になる。まだ技術的には追い付かれていないとは思うが、特化的にはすぐに抜かされるのではないだろうか。
魔力単体で比べるのは不可能だが、見える範囲でのこの優位はなるべく保っていたいものだ。とはいえ、あの技を越えるものは当面つくれそうにないが。
今日も今日とてシドが悪魔憑きの魔力の制御を試みる。その場面を見ていた私は、いつもと感覚が違うことに気づいた。波長の違いと言ってもいい。
彼は魔力の制御に夢中になっていて、まるで前を見ていないが、確実に少しずつ元の体に戻っていっているのだ。
ついに魔力暴走を完全に制御下においたかと確信した時、あの悪魔憑きは見事、金髪エルフの少女になった。
これがビフォーアフターで出されても誰も信じないだろう。むしろ違い過ぎるが故に信じられるということもあるのだろうか。
彼がその事に気づくと同時に、彼の目の前の金髪エルフも意識を取り戻し始める。ようやくこのシーンだと、感慨深さを感じながらも私は彼の元へ近づく。
「私は全て君に任せる。そうだな……私のことは盟友とでもしておこう」
「……え? ああ、うん、そうしようか」
とりあえず形を……と言いながら木箱の方へ向かうシド。少しわくわくしてきた。
「目が覚めたかい?」
「……え、嘘、どうして? 私の体が」
目の前の金髪のエルフは自身の体を確認して驚いている。気がついたら傷一つない体に戻っていたのだから当然だろう。
「君を蝕んでいた呪いはもう解けた。もはや君は自由だ」
「あなたが、わたしを? 呪いって」
「ああ、呪いというのは……」
少し詰まった後、早口で話し始めるシド。意訳すれば、悪魔憑きという呪いの正体と教典にあるお伽話の関係性。
「我が名はスタイリッ……我が名はシャドウ」
今スタイリッシュ暴漢スレイヤーって言おうとしたか? いや、スタイリッシュ盗賊スレイヤーか? どっちでもいいが。
「シャドウ……」
アル……金髪エルフは金髪エルフ……で疑問を持つべきだろ。スタイリッ、まで聞こえていただろう。
「そして君は……仮にアルファとしよう」
シドによるアルファ命名の時。たしか1番目だからとかそんな理由だったはずだ。だがわかりやすい上になんとなくそれっぽい。
おかげでアルファと聞くと毎回彼女の顔が思い浮かぶようになってしまった。すでにギリシャ文字のうち8文字は完全に汚染されている。
「わかったわ」
アルファは頷いた。容姿はさっき言ったものに典型的な碧目、色白で美人系。なるほど、テンプレなうえに、確かに伝説の姿にそっくりだ。
「そして君の仕事は……」
アルファが真剣な表情でシドを見つめる。シドは真剣な雰囲気を出しながらアルファを通して後ろの酒瓶を見つめる。
「魔人ディアボロスの復活を陰ながら阻止することだ」
「魔人ディアボロス……」
アルファが反芻する。幼少期のアルファってこんなだったのかと思う。成長後と比べると幼い部分が垣間見える。
「先に話した通りだが、遙か昔……」
シドがこの世界の伝承である魔人ディアボロスと3人の勇者の話を元にした、でっち上げ(本当)の話をし始める。先程の続きだ。
アルファはそれを聞き、自身の既知の知識と自身の未知の知識、真実を知る事になる。
陰の実力者の設定と言いながらこれだけの話を組み合わせられるのは、1つの才能だろう。シミュレーションだけでどうにかなるものじゃない。先程よりもスムーズ且つ詳細に言えている。
現時点ではシドが創り出した、ただの空想だ。しかし、この世界の伝説には疑問点が少なからずある。謎の空白、矛盾に似たもの。
それがシドの語る真実によって埋められていく。
「魔人ディアボロスを倒した英雄の子孫たちは……」
淡々と、しかしどこか声に熱量を伴いながら話すシド。きっと自分でも納得のいく内容になってきたことでテンションが上がっているのだろう。
「だけど今は感謝されることはない。それどころか……」
アルファもその話を自身の経験と重ねていく。表情は内容が進むにつれて変わり、驚愕から隠された憎しみ、そして。
「困難な道のりだろう。だが、僕らが成し遂げなければならない。協力してくれるね?」
「あなたがそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。そして咎人には、死の制裁を……」
アルファは青い瞳でシドを見据え、不敵に笑う。そこには覚悟と決意に満ちた、かつて前世で見たような、しかしそれを上回る気迫があった。
シドの言動はあまりにもそれらしい。疑念を抱く余地すら与えないほどに。外側から観ていたのとは訳が違う。これ程陰の実力者にふさわしい存在は居ないだろうと確信させるものだ。
そして救われたこととは別に、シドの、本物だけが持つものを感じ取っていることも、アルファのただならぬ忠誠へと繋がっているのだろう。
……将来的に、君はシドに負けず劣らずの存在になっていく。どの面でもというわけではないけれど、君もあの存在に近づく。実力も、オーラも、その芯も。それが楽しみで仕方がない。
そしてシド……わかりづらいが、少しだけ頬が上がっている。このエルフちょろいわとか思ってる場合じゃないんだ。
……この場面、こんな描写だっただろうか。大した差ではないから記憶違いの可能性もある上に、大筋はブレていないのだが。
私がいる時点で充分原作から離れているというのはその通りだが、原作とはあくまで参考にするもの。全くその通りに動くことなど無い。やはり、原作知識に頼り過ぎるのは良くないな。既に壊した原作など、あってないようなものだ。
「我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩る者だ……」
「シャドウガーデン。いい名ね。ところで、そこの彼、ええと「ゼロだ」……ゼロもその仲間なの?」
ここで私に話が向くか。確かに、それもそうだろう。今の私は壁に背を預けながら腕を組んで話を聞いている謎の存在だ。説明もなかった。気にならないわけが無い。
ただ、陰の実力者ムーブは出来ているんじゃないだろうか。シドに評価してもらいたいものだ。
「え? ああ、ゼロは盟友だ。我等シャドウガーデンと共にある存在で間違い無い」
なるほど。おそらくは、私が盟友と言ったことで私が大きな活動でもした時、私が認めた人などでシャドウの名を出すことで、陰の実力者プレイに幅が出るとかそんな思考になったのだろう。
それで、共にあるというのは、今後に繋がるものだろうか。シャドウの言葉は未来予知で有名だが、これもその一種かもしれない。
だとすれば、思い当たる展開はあるが……果たして、どうだろうか。もちろん、シド本人がどう思っているかは別とする。
「改めて、ゼロだ。アルファ。君がシャドウガーデンのメンバーとなること、とても嬉しく思う」
「ありがとう、ゼロ。私からもよろしくお願いするわ」
なんとも不思議なもので、アルファはすんなりと私を受け入れた。少なくとも表面上は。
シャドウの言葉があったとはいえ、その忠誠心と警戒心、そして才能は本物のようだ。さすがはシド。さすシドといったところか。
「ま、とりあえず魔力制御鍛えつつ剣の練習しますか。メイン戦闘は僕がやるけど、君も雑魚戦はやってもらうからそれなりに強くなってね。ゼロは今回も見学するの?」
シドはまた新たな道が見えたのか、そう言い始める。シャドウガーデン自体が今後、相当な組織となる事は考えていなさそうだが、なにか思いついたのだろう。
「そうだな、今回は私も練習する事にしよう。私だけ剣技が見るからに劣っているというのは、まずいだろうからな」
「そう? まあ確かに、1人だけ上手く使えないのも妙な風に見えるね」
「シャドウ、ゼロ。敵は強大、そして戦力の底上げは必須。同じ剣技を元にしていれば今後にも繋がるというわけね」
私とシドを交互に見ながら話を静かに聞いていたアルファがようやく口を開く。
「そうそう、そんな感じ」
アルファの発言に同意するシド。それらしい方向に向かっていて満足なのだろう。
「他の英雄の子孫を探し出して保護する必要もあるわね」
「え、あぁ、まぁほどほどにね」
ここは、そんなに多くの人数は要らないと考えているんだったか。その考えは儚く散ることになるが。
私としても、あまりに多すぎるということになるのならば疑問を抱く。いつか組織として問題が出ないといいのだが、その時はその時か。
「ま、ひとまずは強くなることに集中しようか」
そう言ってシドはアルファに稽古をつけ始める。傍から見てもアルファの筋は良いように見える。魔力に関しても、悪魔憑きだったことを含めても中々のものだ。
魔力量に関して、そもそも悪魔憑きの症状の一つが魔力暴走なのだから、それを制御出来るのであれば自身の魔力量は増大するだろう、というのが私の考察だ。
私の場合は悪魔付きの症状は起きなかったので、また別の方法を利用して魔力を増している。おそらくシドも何らかの手段は講じているはずだ。だが……悪魔憑きの症状に近いものを利用したことはある。
未だ悪魔憑きの詳しい原理は不明だが、症状について伝説に因んだものとは別に立てた仮説の末、とあるアーティファクトの原理を応用して擬似的に悪魔憑きに類似した現象、魔力過多と魔力暴走を引き起こし、それを利用したことがある。
とある研究者の協力を得てそれを実現、少しばかり危ない場面はあったものの、実験に成功。実験そのものよりも、研究者の方が大変だったがそれはひとまず置いておく。
「ゼロ? 次はゼロの番だよ」
「ああ、わかった。今行く」
とりあえずは目の前の稽古をするとしよう。ゆくゆくは実戦形式でもしたいが、まだ先の話だろう。魔力だけでどうにかなるほど、シドは、シャドウは甘くないからな。
……はい。番外編の方が多いという状況を阻止するため、本編を仕上げて投稿しました。でもおそらく番外編に追い抜かされます。もう少しなんだ……もう少しであれを買える……。
本編、あと一、二話でプロローグは終了にする予定でいます。その後は章分けしながら色々書いていこうと考えています。メインもサブも書きたいことだらけです。特に描写が(多分)ほぼ無い空白の数年間ですかね。想像するだけで楽しいですね!
それではまた次回。