マイナスから目指すトップアイドル   作:茶蕎麦

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 お久しぶりです……後で加筆する可能性がありますが、ひとまず苦慮の上こんな形になりました。
 まだ終わりではないのですが、どうか少しでも感慨を覚えていただけますと嬉しいですー。


第三十四話 百合は、トップアイドルに

 偶像を前に、妖怪は縮こまる。

 そんな理想を、しかしカシマレイコのみは信じさせてくれない。

 何せ、いと麗しき天元とされた美貌は神々しさすら帯びていて、並大抵のアイドルなんかでは並びもしない程の異物。

 彼女は耳にしただけで死に繋がる冒涜の裏返し。余所の世界の都市伝説的存在である怪人の、反動として生じた報われるだけの存在だ。

 

 祝福された、六文字。永遠の美の支配者。どれもこれもが別の世に知られたカシマレイコと正対していて、だからこそ釣り合い取れてしまう、事実。

 そんなことを知らずとも、まことこの杭は出過ぎていてうざったいなあと百合だって思っていた。

 誰もが美の前に緊張に固まる、異常空間の中で自由な百合は、中指さえ立てずとも放送事故な言を紡ぐ。

 

「レイコ。ご想像の通りに、百合はあんたを殺しに来ましたぁ」

「そう」

 

 過激な言にざわつく周囲どころか世界を余所に、一切合切予定調和のように緩やかに二人の世界は進行する。

 レイコの部屋。理想の体現者の城にて、凶器の一つもなしに禍つものを内に。

 百合は閉じた視界の中、身体に感じる怒りの視線を無視しながら、続ける。

 

「そういや、このレイコの部屋って、あんたがゲストの話を聞くってだけのつまんない長寿番組ですよねぇ」

「ええ。貴女にしては、そうでしょう」

「そーですねぇ……ま、そんなだからいっそ潰しちゃおうかって、今までの言動もそうですが一切台本なしで挑んでるのですよぉ」

「まあ良いわ。貴女は、貴女だけはそれでいい」

「高く買ってくれますねぇ……まあ、百合を一言で伝えるならば、それは地獄ってことですぅ」

「その真意は?」

「こんなとこ、ですねぇ」

「あら」

 

 そして、徐に少女は眼帯を外す。迫り上がった焦熱地獄由来の光輝をぱちり。彼女は目を開いた。

 途端、絶叫巻き起こる、周囲。百合の眼としてある暗がり、その奥に燃える業を真っ直ぐ覗いて、カシマレイコすらも驚きに呟く。

 地獄は現世にありがたみを知るための、方便である。しかし、そんな末路の一つが現し世にまであり得て、むしろこんなに目の前で煌々と無慈悲に燃えていてしまえば、正気だって削りきれてしまう。

 きっと目隠しを取れば可愛らしい瞳が輝いているんだと勘違いすらしていたファンの大多数を、こんなものを仰いでいたのだという後悔と嘔気に包ませる、それは正しく最悪の結末。

 

 なるほどこれは見せられず、こんなものがあっては隠さねば魅せられず、しかしそれをあえて露わにしたということは。

 

「本気なのね」

「ですぅ」

 

 悲鳴と怒号。百合の地獄をファインダー越しに見てしまった数多は、心に異常を来して暴れる。

 カシマレイコが事前に今回は何があっても邪魔せず放送を止めないで、なるべく最後まで見てと現し世に呪いをかけていなければ、きっと暴力を持って百合はとっくに除かれていただろう。

 

「私は、ここで貴女に支配された世界を壊しますぅ」

 

 視聴率は常に50パーセント以上の番組での、肉親ですら憎まずにいられなかったマイナスの披露。

 そんなことがあると当然、この時点で世界に罅が入ってしまう程の衝撃が起きた。

 あの歌姫が容貌を隠していたのがここまでの穢らわしさのためだったとは。だが、それを怒りとともに報じるにはあまりにその瞳の地獄が狂的すぎた。

 

 誰が言葉を尽くしたところで地獄を語れよう。

 無限の苦しみを抱く地獄の蓋は、今その役割を放棄してこれまで守ってきてた何もかもの常識を破損する。

 百合は、思いの通りにならない世の中に、思わずため息を吐く。

 

「はぁ。ホントなら歌って踊ってそれだけでやっつければ良さそうでしたがぁ……ま、そんなので倒せるなら、この世のアイドルなんて要らんですよねぇ」

「その通り。けれど、ここまで捨て身になるとは、流石の私も思わなかった」

「私も、予定にはなかったですけどぉ……百聞は一見にしかずってある通り、ここであんたを殺せなきゃ、世界は終わるって理解っちゃったんですよぉ」

「英断ね」

 

 だが、天辺まであと一息にまで届いた町田百合は、そこまでしなければこのアイドルの意味を変えてしまったカシマレイコというバケモノを除けないとあえて行ったのだ。

 世界中に広まった呪いを解くには、更に強い究極の一つを。あの片桐朝茶子の見目で届かないならば、最早私しか居ないのだと。

 

 カシマレイコという単一に囚われて、速度を落として何れ止まってしまうだろうこの世を救うためにと、百合は仕方なく英雄となる。

 

 地獄に比せば、世界にかけられたカシマレイコという呪いは小さい。故に、今より何もかもが光の目眩ましから覚め、互いの違いに気づいて認め合うユートピアに近くなっていくかもしれないのだが。

 

「でも、貴女は私と刺し違える気? ひょっとしたら、カシマレイコという祝福でしかない存在のベールは皆がマイナスに正気を取り戻すことで剥がれるかもしれないけど、それじゃあ……」

「ですねぇ……」

 

 そんな想いを秘めた百合も端から見れば神殺しの化け物。

 呪いが活きたレイコの部屋から出た途端に無惨に殺されるに違いない、ユートピアにだって存在を許されないだろう、地獄の縁者。

 だからこそ、カシマレイコは己から何もかもを救ってくれるのかもしれない本物のアイドル少女の無事を想ったのだが。

 

「まぁ。大丈夫だと思いますぅ。なにせ百合、実はこれまで本気で魅せたことないですしぃ……」

「そんな……なら、貴女は……」

「レイコ。ちょっとあんたの部屋借りて、ステージにしちゃいますよぉ?」

「あ……」

 

 そう語り、百合はレイコが縋っていたこの世で一番上等かもしれないマイクを奪って、立ち上がったのだった。

 

 

 

 町田百合はアイドルなんてものをやっているが、心底ルッキズムに支配された世界が理解できない。

 幾ら造作に優れていようとも顔は、顔。部位である。

 物真似のためにそのミリ単位の調整に手を入れる人間達の存在を知った際には開いた口を閉じるのに難儀したほど。

 視線の先にありがちとはいえ、それのみで評価をするのはいっそ暴力的とすら彼女には思っていたから。

 

「まあ、人間達に祝福は喜ばしいものとは理解していますよぉ」

 

 だがしかし、瞳で地獄を体現するバケモノが見目に拘る世間に唾を吐いたところで、そんなの否定で頬を強かに叩き返されるのがオチ。

 不細工が囀るな。主張しなかったからそんな言葉を聞いたことさえなくても、そんな道理への理解はある。

 故に、これまで百合は地獄を隠して大人しくしてはいたのだが。

 

「でも、光の奴隷なんて最早、人間じゃないですぅ」

 

 奇しくもその光、炎の剣カシマレイコという祝福/呪いに支配された安全地帯にて、彼女は本心を言い張った。

 そう。地獄は悲鳴で一様で、それでも人であるからには意味は異なる。

 そんなものを呑み込んで生きてしまっていた百合は、だからこそ誰よりも差異を認めていた。

 

「ありとあらゆるものは、輝く素敵ですのにぃ」

 

 百合は全肯定のために、あえてもう瞬きすら禁じて誰もかもが彼女から逃げた結果残ってしまった生き残っているカメラの前に立つ。

 

 ああ、この世は綺麗で素敵でだからこそ、地獄はそれを開いて見つめてしまった。

 少女の目蓋は、本当は永劫に閉じられていれば良かったのかもしれない。だが、自愛なんかでありとあらゆるものに対する想いを捨てられるものか。

 何もかものために、カシマレイコという絶対唯一をたった一人認めずに。少女はこうして呪りとしか動けなくなった世界へ解呪のためにとマイクを取った。

 

「百合は、負けないですぅ」

 

 観客として壁の花と化したトップオブトップのカシマレイコを気にも留めず、自分のために百合は言い張る。

 愛は、独占しても良い。でも、それがありとあらゆるものの自愛をすら損ねているなら、否定せざるを得ないだろう。

 百合は一度目を閉じて、内に今も燃え残っている大切なあの人のことを想い起こして。

 

『私はずっと、貴女が好き……』

 

 せんせーのためにも勝たないとな、と決意し再び瞳を開くのだった。

 

「え?」

 

「それでは、歌いますぅ」

 

 炎が瞬き。そして、この世は地獄の本質を知る。

 

 

 

 

「――――」

 

 地獄は誰かの命を燃料としている、無慈悲な炎。

 だが、そんな無情のどこが綺麗じゃないと言ったのか。

 

「――――」

 

 ましてや、溢れんばかりのそんな地獄の炎を纏って至極の音色を響かせている百合が美しくないと、誰が思おう。

 ミリ単位の造作の違いで人が美しさを判ずるのならば、ならばこれほどの輝きは果たして。

 

「――――」

 

 そう、百合の瞳はファンのかつての予想以上にどうしようもなく地獄の炎に輝いていて、蓋から溢れるほどの全肯定に揺れていた。

 偶像。それがアイドルならば、なるほど地獄ほど崇拝に足るものはなかった。

 

 なにせ、彼女はこの世ならざる風景であり、絶唱は生きたかったという命に対する最大の称賛の昇華の声色。

 

 それは電波で流れて、何もかもに対する祝福をすら壊して、一時の評価をすら一変させてる程のインパクトであったが。

 

 泣いても届かぬ寂寥に、生きては往けぬ断絶に、心は溺れて砕けて数多の視線は百合に釘付けになったタイミングで。

 

「――――っ!」

 

 その名もなき歌は、サビへとたどり着く。

 

 最高潮にて、マイナスはゼロ地点の境界に到達。

 地獄は燃焼を増して、百合にただならぬエネルギーを届かせた。

 

「――――――――♪」

 

 歌は線ならぬ区切りの集合。

 だが、極まったそれは意味を持ってひと繋ぎとなり、何もかもの心に触れて自覚を促す。

 震えんばかりの感動に、しかしこれでも命じゃなく、なら私達はどれほどの価値があるのか。

 アイドルは、偶像は、カシマレイコを最大最高の踏み台としてとうとう天へと手を伸ばして、それに触れる。

 

「―――……」

 

 全力をもって、死人と唄った命のための歌声。地獄の少女はこの日頂点へと至って、だからこそ。

 静寂。カメラの向こうのの誰かのために旋毛を向けて。

 

「ありがとう、ございましたぁ……」

 

 感謝を一声。意味の全てを使い果たして、彼女がふらりと崩れ落ちる前。

 

「百合っ!」

 

 全てに輝きを届けてくれた君にそんな無様だけは許さないと力強く抱いたマネージャーの胸元で。

 

「ふふ……百合は、トップアイドルになれたですかねぇ……」

「っ、んっ!」

 

 疑問を一つ。輝く全てに届いたとは自信は結局得られなくても、涙目の彼の頷きを答えと捉えて。

 

「……なら、私はこれで良かったのですよぉ」

 

 そして地獄を塞ぐための不燃ゴミでしかなかった少女は、成長し頑張り物語を続けた結果として天使の梯子を登りきり。

 

『♪』

 

 耳にするは喇叭の音。

 

 町田百合は終わった世界の再生を見届けることもなく、天へと召されたのだった。

 

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