とある鎮守府での提督のお話   作:金糸雀^_^

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着任

 深海棲艦。それは突如世界中の海に現れたこれまでのどの生物にも当てはまらない全く新しい生物の総称である。奴らは我々人類に対して友好的ではなく、敵意を向け攻撃を仕掛けてきた。

 我々はその深海棲艦に抵抗したが現代の科学技術では太刀打ちが出来ず瞬く間に制海権を奪われていった。

 

 しかし奴らが現れてすぐに「艦娘」という存在がが現れた。

 現代の科学技術でも通用しない奴らに唯一対抗でき、これを撃破できる艦娘が現れたお陰でどうにか人類は絶滅しなかった。しかし深海棲艦の勢力は想像以上に大きく緩やかではあるが、確かに侵略されていっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 今日は4月23日。春の代名詞でもある桜が散り始めるこの日に俺は本日着任予定の鎮守府に向かっていた。

 

 現在は大本営から着任する鎮守府まで車で移動しているところだ。道中ずっと窓の外を眺めていたが、穏やかな桜並木と海が見えるだけでとても深海棲艦と戦争してる危険な海だと思えない。

 

 ?「以上が大まかな内容になります。あの、聞いていましたか?」

 

 提督「ん?あぁ、聞いてましたよ」

 

 ?「そうですか?ならいいですけど」

 

 嘘である。本当は聞いていなかった。道中これから着任する鎮守府についての話や運営方法などの大まかな概要を説明していたみたいだが、ぼんやりと外を眺めていたらあまり耳に入ってこなかった。

 

 ふと隣に座る女性に目を向ける。隣に座っている女性は大本営で勤務している大淀さんという人だ。真面目で凜とした佇まいの女性で長い黒髪で青いヘアバンドと眼鏡がとても似合っている。今まで生きてきてこんな美人な人は見たことない。

 

 皆んなからは任務娘って呼ばれてそれなりに人気があるらしいが、噂だと怖いって言われてるみたいだけどどうなんだろう?

 

 大淀「これから提督としてやっていくのですからしっかりしてくださいね?」

 

 提督「了解です」

 

 大淀「もうすぐ着きますよ。あそこに見えるのが鎮守府です」

 

 前方を見てみるとそこには赤煉瓦で造られた大きな建物があった。鎮守府は大抵旧日本海軍の所有していた鎮守府を再利用している事が多くそれなりに老朽化しているが、あの建物は外観こそ古い様式の建物ではあるが、しっかりと手入れされているようで古さを感じさせなかった。

 

提督「おー、結構大きいな」

 

大淀「この辺では最大規模ですよ」

 

提督「なんでそんな大きな鎮守府に俺が着任するんでしたっけ?」

 

大淀「さっき説明しましたよね?やっぱり聞いていなかったんですね」

 

 やべ、バレた。

 

 大淀「前にここに勤務していた提督は引退されましたのですが、後任の提督が決まらなかったのでしばらく指揮官のいない状況が続いていました。そして鎮守府の防衛する艦娘も今回各鎮守府に移動になったので、これを機に新たに新規の部隊を作ろうとなってその指揮官に貴方が抜擢されました。

 

 提督「そんな所に俺が行って大丈夫なんですか?」

 

 大淀「不安にならなくても貴方は元帥殿が推薦されるほどの人です。きっと大丈夫だと思います」

 

 提督「いや、でも期待されてないと思いますよ」

 

 大淀「いえいえ、元帥殿直々に推薦なさるくらいですから、すごい期待してるのかと思います」

 

 期待?俺に?最近提督としての訓練が終わったばかりのそれも成績そんなに良くなかったのに?そんな奴が期待されて行くわけないでしょ。よく考えたら少しおかしい気がする。……まあいいや。

 

 提督「そうなんですね。期待に応えられるように頑張ります」

 

 大淀「はい、私も期待していますね」

 

 それにしてもめっちゃ美人だな。その笑顔でそんなこと言われたらやる気出るな。

 

 運転手「到着しました」

 

 無事に目的地に到着した。俺は車から降りて長時間の移動で固まった身体を伸ばしてほぐし、鎮守府の入り口に向かう。大淀さんも少し遅れて着いてきた。

 

 ?「お疲れ様です。司令官さん」

 

 鎮守府の玄関に1人の少女が立っていた。今鎮守府にいるって事はおそらく俺の部下である艦娘なんであろうが、たしか来る途中に名前は聞き流していた為覚えてない。

 

 提督「えーっと…」

 

 大淀「この子は駆逐艦の電です」

 

 名前を思い出せないでいる俺を見かねて助け舟を出してくれた。

 

 電「よろしくお願いします」

 

 提督「よろしく」

 

 電は挨拶と同時に軍人らしく敬礼をした。見た目は幼い印象を受けたが、意外としっかりしてると感じた。

 

 大淀「それでは提督、私はこれで帰ります」

 

 提督「もう行くんですか?もう少しゆっくりしたら良いのに」

 

 提督の言葉に大淀さんは苦笑いをして首を振った。

 

 大淀「帰ってからもまだまだ仕事はありますので、今回はお暇させていただきます。あとこちらの封筒に入っているのが電さんのプロフィールやこの辺りの海図等の資料です。参考にしてください」

 

 提督「ありがとうございます」

 

 俺は大淀から資料を受け取り中身を確認する。電のプロフィールや海図の他にも装備の設計図などもあった。非常にありがたい。

 

 大淀「それでは電さん、提督をよろしくお願いしますね」

 

 電「了解なのです!」

 

 提督「気を付けてくださいね」

 

 大淀「貴方こそ頑張ってくださいね。また会いましょう」

 

 提督「はい。次はお茶でも飲みながらゆっくりお話ししましょう」

 

 大淀「はい!」

 

 大淀さんは笑顔で敬礼をすると車に乗り込み帰って行った。さりげなくデートに誘えたぜ。しかもオッケーだったわ。めっちゃ嬉しい。

 

 俺と電は大淀さんを乗せた車を見えなくなるまで見送った。

 

 電「それでは中に入りましょう。執務室まで案内するのです」

 

 提督「頼むわ」

 

 鎮守府の中に入り執務室までの廊下を歩きながら周りを見る。外から見てもそうだったが、思ったよりしっかりと整備されていたのかそこまで目立った老朽化は見られない。

 

 提督「この鎮守府は出来てどのくらい?」

 

 電「築60年くらいと聞いているのです。しかし整備はしっかりしてあるので全然綺麗なのです!」

 

 提督「確かに綺麗だな。でも思ったより古くないな」

 

 大戦時の施設を再利用してるのが多いって聞いてたからもっと古いものだと思ってた。

 

 提督「艦娘は君1人だけ?」

 

 電「はい、電1人だけなのです」

 

 提督「ふーん」

 

 この広い施設に2人だけはかなり広すぎる。これから増えるとはいえ、100人以上は余裕ではいりそうだな。

 

 窓の外から見える鎮守府の建物を順番に流し見る。すると周囲と比べて一際目立つ大きな施設があった。あそこは工廠だろうか?あまりの大きさに思わず魅入ってしまった。……ん?なんか入り口の扉が動いた気がする。誰かいるのか?

 

 提督「艦娘以外で誰かいたりする?例えば整備員の人とか」

 

 電「居ないのです」

 

 扉が動いた気がしたから整備員とかが居るのかと思ったが電が嘘を言っている様子ではないから気のせいかまたは泥棒かな?後で見に行くか。

 

 それにしてもこの子あんまり話さないな。電は確か恥ずかしがり屋だったっけ?緊張してるのかな?

 

 俺はさっき大淀さんからもらった。電のプロフィールを取り出し目を通す。その資料によると電は気弱で恥ずかしがり屋でドジっ子な女の子と書いてある。

 

 気弱で恥ずかしがり屋かー。どうやってコミュニケーションとろうかな?

 

 提督「…………」

 

 電「はわわ、なんですか?電の顔に何かついてるのですか?」

 

 電は近づいてきてジロジロ見ている俺に気づき、顔を赤くする。

 

 提督「あぁいや、なんでもない。ごめんね」

 

 電「だ、大丈夫なのです」

 

 ちょっと顔見てただけであたふたしてる。……スッゲー罪悪感が湧いてきた。

 

 提督「電はいつからここにいたの?」

 

 電「み、3日前からなのです」

 

 提督「そうなんだ。1人で怖くなかった?」

 

 電「だ、大丈夫なのです。でもちょっとネズミがいて困っていたのです」

 

 このくらいの子だと夜とか怖いだろうな。早く人増やしていかないとなー。

 

 「チュー」

 

 目の前にネズミが出てきた。非常に可愛らしい見た目だが、早めに追い出さないと建物に影響を及ぼしたり、病気を蔓延させるかもしれない。

 

 俺は目の前のネズミを追い払おうとすると隣の電が発狂した。

 

 電「ようやく会えたのです!今日こそぶっ潰してやるのです!」

 

 電はそう叫ぶと素早く拳銃を構えて一発撃った。

 

 提督「?????」

 

 ……この子だれ?さっきまでの緊張した顔で会話してた子はどこにいったんだろう?あっ、この子か。このネズミを確実に駆除すべく般若の顔で拳銃を向けている子か。

 

 提督「……」

 

 電「邪魔なのです!」

 

 提督「あっはい」

 

 怖い!さっきまでとは別人すぎる!プロフィールに怒るとこうなるって書いてなかったよ。

 

 「チュー!」

 

 電「逃げたか。次こそは必ず仕留めるのです」

 

 提督「電さん?」

 

 電「⁉︎……は、はわはわ、びっくりしたのです」

 

 提督「いやいや、無理があるやろ」

 

 急に取り繕ったようにはわはわ言っても遅い。

 

 電「っち、取り乱したのです」

 

 この子舌打ちした?それに苦虫を噛み潰したような表情だし。そんな顔出来るんだ。

 

 電「何見てるのです?」

 

 提督「いや、君電?性格違いすぎない?」

 

 電「そうですね。簡単に言うと電は普通の電とは違う特殊個体なのです」

 

 提督「特殊個体?」

 

 電「はい。電の場合は他の個体と性格が違います」

 

 提督「なるほど」

 

 他と性格が違うか。確かに同じ艦娘でも個体によっては多少の違いはあるらしいけど、それでも大きく違うことは無い。

 

 提督「なんで最初は普通の電みたいにしてたの?」

 

 電「特殊個体というレアな個体はいろいろと不利益を被ることが多いので信頼できる確信するまでは黙っているつもりだったのです。まあもうバレてしまいましたが」

 

 電は手に持っている拳銃を向けてドスの利いた声で脅してきた。

 

 電「分かってるとは思いますが、この事は黙っていて欲しいのです。電が特殊個体だと知っているのは一部の人間だけなのです。そのお陰で今日まで無事に生活してこれたのです。もしバラすようなことがあれぱ容赦はしないのです」

 

 冷や汗が背中を伝う。まさか初日から部下に拳銃を向けられるとは思わなかった。

 

 提督「安心して、誰にも言うつもりはないよ」

 

 電「信じてもいいのですか?」

 

 提督「あぁ、俺は大本営が嫌いだ。あいつらが喜ぶことをするわけない」

 

 電「気が合うのです。電も大嫌いなのです。……信用してやるのです」

 

 電はそう言って銃を下ろした。

 

 提督「いいのか?」

 

 電「このまま離していても埒があかないのです。言葉でダメなら態度で示してもらうのです。忘れないでくださいね。電はいつでも撃てるのです」

 

 提督「覚えとくわ」

 

 ……信頼得られるまで命狙われるってヤバいな。今戦争中だぜ?

 

 一旦話が終わりまた歩き出す。ネズミが出てくる前までの緊張とは別の緊張感が漂い、先程よりも話しかけづらくなった。

 

 電「着きました」

 

 提督「ん?あぁ、ここか」

 

 執務室の前に着いた。シンプルなドアに執務室というプレートが付いていた。

 

 俺は執務室のドアを開けて中に入り、部屋を見回した。中には特に何も無く段ボール箱が3個だけあった。

 

 提督「何もないね。それにしてもこの箱なに?電の?」

 

 電「違うのです。それは……司令官の机なのです」

 

 提督「は?」

 

 前にいた所から送った覚えのない箱が置いてあったから電のかなーって思い、確認すると電はとても申し訳なさそうにしながら答えてくれた。

 

 提督「これ机?大本営ってそんなに予算ないの?それともふざけてるのかな?いくらなんでも扱い酷すぎない?」

 

 段ボール箱を机にして執務する提督が何処にいるんだよ!

 

 電「また後で請求しておくのでしばらくはそれでお願いするのです」

 

 俺はいつか大本営のこれを支給した担当にに文句言ってやると心に決め書類を段ボールの上に投げる。

 

 もはや仕事をする気も無くなった。特にする事も無いので窓際まで移動をして海を見た。

 

 そこには深海棲艦は見えず平和そうな景色が広がっていた。しかしどんなは海を見渡しても船や人が全くいない。

 そもそも深海棲艦に制海権を奪われてからは船を見る事は無くなった。危険な海に危険を冒してまで出ることが無くなったからである。

 

 すぐそこまで深海棲艦いるんだよなー。そうは見えないけどね。

 

 電「どうしたのですか?」

 

 ずっと海を見ている俺に気になったのか電が横に来た。俺は艦娘である電を見て今日から提督として戦っていくんだなって改めて思った。

 

 提督「頑張って制海権を取り返そうな」

 

 電は唐突にそう言われて少し困惑した顔をしたが、少しだけ微笑みながら返事をする。

 

 電「当然なのです」

 

 提督「思ったよりやる気があるんだな」

 

 電「当たり前なのです。むしろ消極的になる理由が無いのです」

 

 提督「さっきのやりとりで平和に生活する為には行動するけど、戦争には興味ないのかなって思ってた」

 

 電「むしろ戦争を終結させる方が平和に暮らせるのです」

 

 提督「確かに」

 

 なんだ。ちょっと心配してたけど、大丈夫そうだな。

 

 俺はこれから共に戦う仲間に向かって微笑みかけた。

 

 提督「この戦争勝つぞ」

 

 電「はい。暁の水平線に勝利を刻みましょう」

 

 この子と一緒に頑張っていくか。

 

 

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