明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
『………もしもし』
やけに他人行儀な相方の声を聞いて、まだ研修が続いているのだろうか?と一瞬ほむらは思った。
「どうしたの?やけに他人行儀だけど、まだ研修?」
『へ、い、いやもう終わったわ…ちょっと、』
「ちょっと何?」
『仲間と「食事」に来てて…』
「そう…」
『うん……』
しばらく沈黙が起きる、だがこれは話題が尽きたわけではなく、彼女達独自の「間」なのだ。互いの息を感じ、繋がっていることを感じることができる心地よい沈黙の。しばらくして口を開いたのはほむらの方からだった。
「……明日、帰ってくるのよね?」
『うん…』
「ねえさやか」
初めて、そう初めてかもしれない、彼女は電話の前で素直に言った。
「貴方がいないと寂しいわ」
* * *
『貴方がいないと寂しいわ』
最初、さやかは夢でも見ているのかと思った、あるいは幻聴だと。だが、違った。
「え、ほむら…本当?」
『本当よ』
「本当に、本当?」
『しつこいわね、殺すわよ』
「えへへ…そう、そうなんだ」
場所など構わず、さやかはだらしないほど顔を緩めた。内容を知らない同僚とキャバクラ嬢は、思わず引き気味になる。頭を掻きながらさやかは満面の笑みを浮かべて囁いた。
「私も…あんたがいないと寂しいわ」
おいおい、と同僚が肩をすくめ、女性がうわ~とわざとらしく声をあげる。ラブラブなカップルに対する軽い嫉妬だろうか、二人は目を合わすとニヤリと笑った。そうして狙いすましたように、女性がさやかに勢いよく抱きついていった。
* * *
『私も…あんたがいないと寂しいわ』
相方の声を聞いて、ほむらも口元を緩める。おそらく本人の前では見せないくらい嬉しそうに。これで今夜は一人でも眠れる、そう思った矢先。
『「ねえ、美樹ちゃん彼氏なんてほっといて私と飲もうよ?」…わ、わわ、ちょ!』
「?!」
携帯の向こうからいきなり見知らぬ女の嬌声が聞こえ、更に男の笑い声も聞えた。
一瞬で鋭くなるほむらの目。
「ちょっと…貴方今どこにいるの?」
『いや、違うわ、ほむらなんでもない!今のは幻聴、幻聴よ忘れて!』
「寝言は寝て言いなさい、幻聴な訳ないでしょ、貴方、今どこにいるのか吐きなさい!」
思わず立ち上がるほむら。警察用語が出てくるのは相方の影響か。
『え、どこって、わ…ちょ、ちょっと…!』
相方の慌てる声の後、見知らぬ男の声がした。
* * *
「あ、こんばんは、俺、美樹の同僚の緒方です、美樹の彼氏さんですか?」
「あああ、こ、殺される、やめてやめて!」
しなだれかかるようにして、キャバクラ嬢の若い女性がさやかに抱きついている間に緒方が器用にもさやかから携帯を奪い、勝手に喋り出している。酔いがだいぶまわっていた。携帯の向こう側の主から返答が無いのか、緒方は一方的に喋っている。
「ここは○○街の『クラブ ローズ』、ええ、だから、ここはホストクラブじゃないんで、安心してください!はい、では失礼します!」
携帯を切ると、緒方が得意げにさやかに携帯を返した。
「な、これで彼氏の疑惑も一気に解決…って、なんだよその青ざめた顔は!」
さやかのこの世の終わりのような顔を見て、緒方は驚く。
「な、なんてことしてくれたのよ、こ、こ、殺されるわ、私!」
「まさか、今から来るなんてことねえだろ?どんだけ嫉妬深いんだよ」
「そんな問題じゃ…」
「まあ、まあ、とにかくこれ飲んで、落ち着いて、ね?」
アヤカから酒を注がれ、さやかは一気に飲み干す。身体がぶるぶると震えている。もはやアルコールすら今から来るであろう恐怖に対抗することはできなかった。
「あらあら、尋常じゃないわねえ」
色香溢れるママがさも嬉しそうに笑う。人の不幸はなんとやら、だ。
「もう、腹くくれよ美樹、お前仕事の時より情けないぞ」
緒方と同時に、刑事達も笑う、なんて勝手な奴らだ人の気も知らないで。さやかが五杯目を口につけた。仕事よりももっと恐ろしいものがあるのを彼らは知らないのだ。
拙作、お読みいただきありがとうございます。
悪魔は時々素直になるんですが、なんというか今回はタイミングが悪かったようで…これから怒りの彼氏笑が襲来するのですが、さやかの彼氏の正体を知った緒方達はどういう反応をするのか楽しみにして頂ければと…
ではでは何かコメントありましたらお気軽によろしくお願いします!(妄想の糧になるので嬉しいです)