明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
さやかの彼氏(?)の正体を知った緒方達は、そして飼い主(悪魔)に見つかった飼い犬(さやか)の末路は…
本人達はいたって真剣そのものですがギャグ時空が生まれています。
どうにもこの蒼い髪の女性は不思議な奴だ、と緒方は思う。交番勤務そこそこでマル暴に来ると聞いた時は、どんな肩肘張った男女かと思ったら、いたって普通のどちらかといえば中性的な愛嬌のある女性だった。そうしてどこか間が抜けている、お人好しと言ってもいい。ただし、警察学校でも有名だったが制圧術はずば抜けてうまいし、強い。身長も高い方だし、足手まといにはならない。そんじょそこらの男性と引けを取らないほどだ。ただ、緒方自身は目の当たりにしたことはないが、彼女は「暴走」するとすごいと噂を聞いた。かなり凶暴になるという。この二面性に緒方は非常に興味を持った。こんな女は見た事が無い。今も「彼氏」がこの店に来るかもしれないと戦々恐々している姿を見ると、なんだかおかしいような癪なような変な気持ちになる。もしかしたら俺はかなりこいつを気に入っているのかもしれない、と緒方は思った。そうしてさやかの方を見ていると、こちらも緒方を見ている、いや、というよりも凝視している。
「美樹?」
口にブランデーを含んだまま、まるで幽霊に会ったかのような顔。身体も一時停止しているかのように動かないさやかを見て、不思議そうに緒方が近寄ると、勢いよくブランデーが顔にかかった。さやかが吹き出したのだ。
「おい、お前…」
咳き込みながら緒方が顔をあげると、口からブランデーが垂れているのも気にせず、美樹さやかが目を見開き、緒方の背後を凝視していた。気付けば、周囲のキャバクラ嬢も刑事も呆けたようにそちらを見つめている。
「?」
緒方もつられて振り返る。
その顔がさやかと同じように驚愕のそれに変わった。
「………マジか」
二度と、同じ光景は見ることができないだろう、そう思うほどの、想像を絶する美しい女性がそこにいたのだ。
いつの間にか店内は静まっていた。皆、いつ現われたかわからない彼女を呆けたように見つめている。さやか達のいるソファの背後に女性は立っていた。黒づくめの服装、濡れたような長い黒髪、白磁のような肌、そして神が造詣したかのような美しい容貌。
――別格だ
緒方は心で叫んだ。
長い睫毛の下のアメジストの瞳は神秘的に輝いていて、もはや誰も目を離すことができない。なんなんだ、この…いや、これは人間なんだろうか?
「ほ…」
さやかの口からようやく言葉が発せられたが、続くことはできない。ニイ、と恐ろしいほどの美貌の女性が口元を歪めた。その視線は熱く、ただ蒼い髪の女性に注がれていて。
「いい度胸ね?「美樹ちゃん?」」
艶のある声が美しい唇から洩れた。言葉を話すのだ、と緒方は不思議な気持ちになる。そして言葉の意味を咀嚼して、緒方は更に驚いた。
「…美樹ちゃん?」
緒方は同僚の方へ視線を向けた。そこにはぶるぶると震えている蒼い髪の女性。もう一度反対を向くと、恐ろしいほど美しい女性がゆっくりと左手をあげ指をちょい、ちょいと動かす、「おいで」のジェスチャーだ。まさか、と緒方は一つの結論に達した。
「まさか…美樹の…彼氏さん?」
驚いたようにアヤカもこの絶世の美女を見上げる。あら、と珍しく黒髪の美女は「飼い犬」以外の存在に目を向けた。緒方に向かって囁いた。
「残念だけど、違うわ」
そう言ってさやかの背後に回ると、震える肩に触れながら、さも嬉しそうに微笑んで宣言した。
「嫁よ」
ひい、とさやかから悲鳴があがった。そのまま美女に肩を掴まれ、ソファから引きずりおろされる。その非日常的な光景に、もはや誰も関与できない。ただ、白昼夢のように見つめているだけ。
「痛い、痛い、離してよ!」
「……誰に向かって言っているの?」
「あらあら、優しくしてあげないと」
ママさんだけが、見事というか、「平常」であった。普通に美女に向かって声をかける姿を見て、緒方はただ感服した。
「一応そうするわ…」
ママの方を見ずに、美女は呟いて、そうしてそのままさやかを引き摺り出す。
「悪いけど、これは私の所有物なので返してもらうわね」
緒方に向かって美女は囁いた、おそらく電話を掛けたのが緒方だと知ったのだろう。緒方はただ、こくこくと頷くばかりで。薄情者!と引き摺られている彼女の「所有物」が叫んだ。
――俺はきっと夢を見ているのだ、
緒方はとりあえずブランデーをお代りした。
* * *
宴もたけなわ、一次会を終了し、家路につくことにした中年男性は、行儀の悪いことに「催して」しまった。
「困った…」
用を足そうにも店に再び入るわけにもいかない、しかしこんなことで警察に捕まるわけにもいかないし、何より公共の場だし…色々と考える、しかし切羽詰まってくる。ああどうしようとうろうろと路地裏に進んだ時、なにやら女の悲鳴が聞えた。慌てて周囲をきょろきょろと見渡して、ぎょっ、としたように目を見開かせた。
「摩擦!摩擦がっ!痛いわ!」
摩擦、摩擦と悲鳴をあげながら、スーツ姿の女性が引き摺られていたのだ。じたばたと暴れる脚、アスファルトとスーツが派手な音を立てて擦れている。なんという暴力的な光景、だが更に男が驚いたのは女性を引き摺っているのはこれまた、更に美しい女性だったのだ。引き摺っている側が小柄な女性で。引き摺られている側はまた少し大柄なスーツ姿の女性。…一体なんなんだこれは?男は催したことを忘れ、ただその光景を呆けたように見つめるだけ。二人の女性は闇に消えて行った。
* * *
やはり昨日の事は夢だったのだろうか?
緒方はあれから浴びるように飲み、笑い、酒の力で夜明けまで楽しんだ。他の刑事もそうだっただろうが、あれからまた思い思いの店へと出かけてしまったため、どうなったかわからない。
「おはようございます、昨日はお疲れ様でした」
「ああ、おはよう、楽しかったっすね」
昨夜の刑事が手をあげ緒方に声をかけた。いい飲み仲間になれそうだ。
「ところで、あの方は…?」
刑事が不思議そうに緒方に聞く。ああ、美樹のことか、とすぐに察しがついた。
「いや、あれからまだ見てなくて」
「綺麗な方でしたねえ、しかし」
「あれは、ご友人…?」
刑事達が緒方に質問する。
「いや、確か…」
――嫁よ
思い出した、あれは夢ではない。
「…俺もわかんないんすよ、なんかすげえ仲良しらしくて…」
緒方はごまかしはじめる。どうにもそこには深く突っ込んではいけない気がした。
「おはようございます…」
妙にしわがれた声が聞えて、男達はぎょっ、とした様に声の主を見た。美樹さやかだ。
「おい、お前大丈夫か…?」
蒼い髪の女性はかなりしょぼくれていた。髪は乱れ、目にはくまができ、どこかやつれきっている感がある。
「……大丈夫です…」
大丈夫じゃねえだろ、と誰も突っ込めず、ただよろよろと机に座るさやかを見守るばかり。
とりあえず、研修が終わるまで何も聞くまい、と緒方は決めた。
そうして、また、「基本中の基本」の研修が始まる――
その頃、美しい悪魔は相方のホテルのベッドですやすやと気持良さそうに眠っていた。
彼女が研修終了後の本庁に乱入してくるのはまた別の話――
拙作、お読みいただきありがとうございます。
あれから――ホテルに着いた後から、翌朝の研修出席の間さやかはずっと眠れなかったようです、美しい悪魔のために(なんと…)その間の出来事についてはR18短編集に掲載しています(「ほむら熟睡する」)ので、18歳以上で興味ある方は是非お読みください。
では感想等ありましたらお気軽によろしくお願いします!