明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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佐藤教授がほむらに紹介したい人というのは、さやかも良く知る人物で――


予想外な人

普段は飄々としている癖に、存外にこの蒼い髪の相方は嫉妬深いらしい。ほむらは腰と下腹部の痛みを抑えながらゆっくりとベッドから降りた。そうしてまだ寝転んでいる相方を見下ろす。起きてはいるが、どうやら激しい感情を出しつくしてしまい、消耗しきっているようだ。その激しい想いを全て受け入れたほむらは、ふう、とため息をつくと手を伸ばし、さやかの頬を軽く引っ張った。

 

「…い、いひゃい、いひゃい…」

「ほら、起きなさい、着替えるわよ、もう時間がないわ」

「わ、わかったわ…」

 

よろよろと起き上がる相方を引っ張って、ほむらはクローゼットへ向かう。適当に服をみつくろって相方に放り投げると、自分も着替え始めた。こうしている時、ほむらは不思議な気持ちになる。自分のマンションに一番手のかかる「要注意人物」だった蒼い髪の少女がいる。しかも大人になっても当たり前のように。そう、あの時からもう10年も経つのだ。

 

「…何さ?」

 

じい、と見つめ続けていたからだろう、さやかが視線を感じこちらを向いた。あの頃の面影を残したまま成長した女性の顔。フフ、とほむらは微笑んで。

 

「…別に?」

 

そうしてまた鏡に向き直り着替えを続けた。

それから数分ほどして、二人はマンションを出た。いつものワンピースにカーディガンを羽織るほむらと、デニムにワイシャツのさやか。

 

「……どういう人かなあ」

「何が?」

「あんたに紹介したい人よ、なんだか全然想像がつかないわ」

「そうね…」

 

喫茶店はマンションから徒歩10分だ。二人は日常の街なみを楽しみながら歩いていた。

ほむらは空を見上げる。

 

――確かに、あの深い知性の持ち主である初老の女性が紹介したいというのだから、ほむらが困るような人物ではないのだろう。ほむらは考えた。

 

しかし、どうしても想像がつかない。ほむら自身が妙齢な女性なだけに、一般的には男性を紹介するという可能性が高いのだ。思わずほむらはため息をついた。大学時代かなり面倒なことに巻き込まれたことがあるので、ほむら自身はもう異性の問題については関わりたくもなかった。そして本人自身、異性には興味が無かった。だが、敬愛している恩師の紹介だとすると断るわけもいかず、こうして相方と共に喫茶店へ向かうのだ。と、ほむらが顔をあげ、横にいる相方を見つめる。その手はいつの間にか相方に握られていて。

 

「大丈夫よ」

「……?」

「たとえ条件がいい男が出てきたとしても…ううん、違うわ…ええと」

 

さやかが首を振りながらほむらの方を見る。蒼い瞳が珍しく動揺していて。

 

「とにかく、あんたは渡さないわ」

 

しばらくほむらは口を呆けたように開けて。そうして口を閉じると今度は肩を震わせ、そうしてようやく笑った。

 

「な、なによ!私は真剣に…」

 

苦しそうに肩を震わせ、ようやくほむらは顔をあげる。その目は嬉しそうに細められていて。

 

「貴方ってほんとバカね…」

「へ、な、なんでさ」

 

ほむらがいきなりさやかに顔を近づけた。

 

「私は嫌だって言ってないわよ?」

「え…?」

 

キスの距離まであと数センチ。だがそこで二人は会話を続ける。

 

「私がその人をいいなって思ったら、貴方はどうするの?」

「………」

「貴方は引き下がる?」

「……嫌よ、私が嫌だもの絶対に…」

「絶対に?それな…」

 

だがからかうようなほむらの言葉は続かなかった、さやかの唇でその唇が塞がれたからだ。

ほむらは目を瞑る。時間停止を使用せずに二人は街中でキスをした。

 

「……渡さないわ、絶対に」

 

唇を離しながら、さやかが囁く。目を開けて、満足そうに微笑むほむら。まるで相方がそう答えるのを知っていたように。手を伸ばし、さやかの肩へ這わす。そうして今度はニイ、と不敵に笑った。

 

「馬鹿ね、冗談よ」

「え?」

「だって言ったでしょ?」

 

そうして今度はほむらがキスをする。

 

「私は貴方に就職しているのよ?」

 

そう囁くと、可愛らしく微笑んで、ほむらは先を歩いた。ぽかんとあっけにとられるさやか。しばらくしてやや乱暴に頭を掻くと、「まったくあの小悪魔は…」と呟いた。

 

それから数分ほどして喫茶店に到着した二人はやや緊張した面持ちでドアを開けた。

カラン、カランと音が鳴り、中から「いらっしゃい」と店員の声。BGMはいつもの通りジャズ。雰囲気のいい店内を数歩ほど歩くと、奥の座席から「暁美さん」と優しい声が聞えた。二人が声の主を見つめると。品のいい初老の女性と、向かい合ってスーツ姿の男性の後ろ姿が見える。すう、と蒼い髪の相方が傍で深呼吸をしたので、ほむらは思わず口元を緩めた。

 

「乱暴しちゃだめよ?」

「…わかってるわよ」

 

無愛想な相方の声に、またほむらは微笑んだ。とにかく今日は機嫌が良いらしい。

すたすたとまるで戦いに向かうように歩みを早める相方に続いて、ほむらも進む。

 

――まったく、どんな馬の骨なのか

 

さやかは心で呟いて、席へ近づく、と、その表情に変化が起きる。

席に座っている男は白髪だった。

 

――中年?いや壮年…

 

若い男でないということで拍子抜けしたのだろう、訝しげな表情を浮かべ、さやかが更に近づくと――

 

「美樹?」

 

さやかの身体が固まった。いつもの馴染みの顔、馴染みの声。

 

「主任?」

 

さやかの上司――岡山がそこにいた。

 

「あら、銀ちゃんの知り合いだったの?奇偶ねぇ」

 

驚くことなく嬉しそうに微笑む初老の女性。

その後ろでほむらが口を開いた。

 

「お久しぶりです、岡山さん」

 

固まる二人を残し、ほむらは優雅に席に座り、初老の女性と微笑み合う。

 

驚きのあまり固まった二人が口を開き、ようやくこの事情を理解するのはそれから数分後の事、そうして事情を理解した四人の談笑はまた別の話。

 

 




<余談>

その後の四人の談笑シーンはまた続編として書きます。
人生の先輩である初老の男女が大人ほむらさんと大人さやかさんに与える影響は大きいのだと思います。

魔法や魔女、魔獣、宇宙、そういったものを取っぱらって、リアルに人生を地に足をつけて生き抜いていくということが、彼女達にどういう影響を与えるか。そして人によって違う「世界」の格差。魔獣の蠢く世界が見える者。べえさんが見える者。そしてその他の超常現象、魔なる者が見える者。そして何も見えないが、人々に愛と希望という光を与える者。それらを理解した二人が今後どのような行動を取るのか。楽しみにして頂ければありがたいです。
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