明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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談笑を終え、帰路につく二人。
戦いに向けて、決意を新たにするが、その時ほむらがさやかに告げた言葉は意外なもので――。

今回の話のエピローグになります。


エピローグ

「今日は楽しかったわ」

「こちらこそ、教授、ではまた来週」

「ええ」

 

喫茶店の前で初老の女性と黒髪の女性が言葉を交わす。その横で、しかめっつらの白髪の男とにやにやと笑みを浮かべている蒼い髪の女性。

 

「おい…明日、辞令交付だからな、忘れるなよ」

「もちろんですよ」

「…ったく明日もそのツラで出勤したら承知しねえからな」

「はい」

 

そうして無言で初老の女性が手を振り、男は背を向ける。ほむらとさやかは軽く一礼して喫茶店を後にした。

 

 

「……いやあ、でもびっくりしたわね」

「そうね…」

 

さやかの言葉に相槌をうつほむら。だがその後は二人とも無言で。

しばらくして口を開いたのはさやかだった。

 

「でも…よかったと思う」

「何が?」

 

ほむらが横にいる相方を見上げると、そこには意外にも思い詰めた表情があって。ほむらは眉を顰めた。

 

「……これから、魔獣との戦いに主任を巻き込まないで済むわ」

 

ああ、とほむらは呟いた。

 

「…ようやく気付いたのね」

「あんたはわかってたの?」

「ええ…なんとなくね」

 

そう、人と融合した魔獣は無作為に出現している訳ではない。ほむらのマンション周辺、見滝原を臨む丘、美樹さやかの勤務する警察署近辺、そして暴力団事務所や風俗店などの裏社会――

 

「…人と融合した魔獣は、私を狙ってる。全部が一部かわからないけど」

「………」

 

ほむらは無言でさやかを見つめる。

 

『貴方の「モノ」を狙っているのは…私だけではありません』

 

魔獣と融合しながらもなお、知性を保持した男の台詞をほむらは思い出す。さやかは言葉を続けた。

 

「初めて人と融合した魔獣と会った「あの時」がターニングポイントだと思う」

「そうね…」

 

『あの時』…美樹さやかの人格にも影響を与えた事件のことだ。あの時、美樹さやかは魔獣よりも人間の所業のおぞましさに衝撃を受け、心に傷を負った。皮肉にもそれが悪魔である自分を許容する契機にもなったわけだが、とほむらは思った。

 

「でも、問題ないわ」

「え?」

 

ほむらの言葉に不思議そうに顔を向けるさやか。

強い意志を宿したアメジストの瞳がそこにはあった。その瞳に情けない表情を浮かべているさやかが映し出される。

 

「貴方は私が守るもの」

 

一瞬、さやかは言葉を詰まらせた。しばらくして「ほむら」と泣きそうな声をあげた。

 

「まあ、そうね…守るものが増えちゃって私は迷惑だけど」

「……」

「どこかで勝手にのたれ死んでもらったら困るのよ」

 

「飼い主の義務よ」そう言って、くすくす笑うと、黒髪の美女は先を歩く。その華奢な後ろ姿にしばし見惚れた後、さやかは慌てて追いかけ、その手を握る。再び二人は見つめ合った。

 

「なあに?」

「ありがとう、ほむら…」

「あら、それだけ?」

 

挑発的な相方の表情を見て、困ったように口元を緩めると、さやかはその唇に自分の唇を押しあてた。しばらくそのままの状態になる。

 

「……人目も気にしないようになったのね?」

「へ?」

 

ようやく唇をさやかが離すと、ほむらが面白そうに目を細め囁いた。慌てて周囲を見るさやか。こちらを見ている訳ではないが、行き交う車や数名の歩行者がいる。一瞬でさやかの顔が紅潮した。

 

「え、あ、あんた時間を止めてくれてるんじゃないの?」

「いきなりキスされて、いちいちそんなことする暇ないわ」

「そんな!」

 

うわ、恥ずかしいと顔を抑える蒼い髪の相方を苦笑交じりでほむらは見つめた。

 

「貴方ね、勝手にキスしておいて、時間を止めてくれだのわがままにもほどがあるわ」

「いや、それは確かにそうだけど…」

「それにね」

 

ずい、と顔をさやかに近づけると魅惑の表情で囁いた。

 

「もっと恥ずかしいことを私にさせている人にそう言われたくないわ」

「う…」

 

こればかりはもう議論の余地もなく、さやかはぐうの音も出ない。情けない表情のさやかの鼻に人さし指をちょん、とつけほむらはくすくすと笑った。

 

「変な顔…」

「ひど!」

 

と、ほむらはさやかの腕に自分の腕を絡め、寄り添うようにして歩きだした。

 

「じゃあ、早く帰りましょう」

「え、あんた買い物に行きたいんじゃなかった?」

「変更よ、それよりやりたいことがあるの」

「や、やりたいことって?」

 

嫌な予感がする。さやかは困ったような表情を浮かべ、自分の身体にもたれている美しい悪魔を見つめた。悪魔は満面の笑みを浮かべて、さやかに聞える程度で囁いた。艶のある唇。

 

「へ、そ、そんなまだ昼よ!」

「あら、いつも気にせずしているじゃない」

「あ、あんたがやる気満々の場合はまずいのよ!明日は辞令交付で大切な日なのよ!」

「ほんと、わがままな人ね、いつも好き勝手したい放題しているくせに」

「人聞きの悪いこと言わないで!」

 

そう言って、実際に逃げ出そうと腕を解いたさやかを、そうさせまいと素早く掴まえるほむら。まるで子供の追いかけっこだ。はあ、とほむらはため息をついて、さやかを掴まえたまま、バッグに手を入れると携帯を取り出した。

 

「わがまま言っていると、これを見せるわよ」

「え、な、何…」

 

ほむらは無言でさやかに己の携帯を見せる、驚愕に歪むさやかの表情。

 

「こ…!」

 

そこには妙齢の女性にはそぐわない、口を大きく開けて、お間抜けな表情で寝ているさやかの顔。しかも、頭を撫でている白い手が写っている、もちろんほむらの手だ。極めつけに黒のスカートにさやかの頭は乗っている。膝枕されているのだ。

 

「な…こ、これ…ひざ…」

「どう?いい写真でしょ?」

 

にこやかに微笑む悪魔と、青ざめるさやか。

 

『写真でも撮ってみる?』

『やめて!』

 

あの時の、珍しく悪魔がさやかを労わって、膝枕してくれた日の写真だ。きゃあ、と可愛らしい悲鳴をあげてさやかが顔を手で隠した。

 

「あ、あ、あんた!いつの間に撮ったのよ!」

「貴方が熟睡している時よ、あまりにお間抜けな顔をしているものだから面白くてつい」

「お間抜けって、てか、これあんたっ、待ち受けにしてるじゃない!」

 

さやかのお間抜けな顔にいくつかのアイコンが貼りついている。ほむらは涼しい顔で、ああ、と呟くと

 

「だって、まどかもモカちゃんを待ち受けにして愛でてたし」

「愛でてたって…」

「……この画像、教授に送ってもいいんだけど」

「うわ、やめて!は、恥ずかしくて死んじゃうわ!」

「ついでに岡山さんも見ることになるはず…」

「よし、ほむら、早く家に帰るわよ」

 

さやかがきりっとした表情で力強くほむらの腕を掴み、引き寄せた。嬉しそうに笑い声をあげる黒髪の美女。

 

「あら、やる気になってくれた?」

「もちろんよ、まかせて」

 

くすくすともたれながら笑うほむらはさながら小悪魔のようで。その小悪魔を珍しくリードしてさやかは歩く。

 

これはもしかしたら明日の朝までもつれるかもしれない――明日の辞令交付式をきちんと迎えられるか不安になりつつも、さやかはほむらの手を離すと、今度は彼女の腰をしっかりと引き寄せた。

 

 

END

 

 




親しいものを巻き添えにしないですむと今回の異動に安堵するさやかと、ようやく気付いたのねとささやくほむら。魔獣との戦いに対し決意を新たにするさやか。次回のシリーズでは新たな敵が現れ、そしてさやかの過去。トラウマとなっているあの事件(「魔獣は暗闇より」(R18参照))が掘り下げられることになります。

次回から性的描写、残酷な描写が登場するため、R18シリーズとしてUPしていきます。
そして、翌日辞令交付だというのに、さやかは一体どうなるのか笑合わせて楽しみにして頂ければ幸いです。それでは!
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