明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
真実を告げたさやかと共に朝を迎えたほむらは、その日一人でどこかへむかっていた。
pixivにUPした続編「ほむら出張する」をきりよく区切って転載していきます。
二人の甘々とちょっとしたギャグ時空もあり。
今回は少し短いですが、朝にどこかへ出かけるほむらさんのお話。
幕間~とある朝の風景~
今までと同じ風景でも何故か美しく見える時がある、今、下町を歩いている暁美ほむらも
正にそうだった。
――不思議だ
今までと同じ下町の風景、朝の澄んだ蒼い空、開店したばかりの市場の風景、だが何もかもが鮮明に、新鮮に見える。
――何故かしら?
一人小首を捻りながらも、足取り軽く彼女は「目的地」へ向かう。そう、今日の午前、彼女は「あるひと」と待ち合わせていた。ひゅう、と冬の冷たい風が彼女の長い黒髪をなびかせる。
「………」
歩みを止め、ほむらは頬についた髪を白い細い指で払った。瞑った目の長い睫毛、そして透き通るような透明な白い肌に整った美貌。
「ねえあのひと」
「綺麗ねぇ」
道往く人々が囁く声も黒髪の美女には届いていない。いや、元々彼女は「自分がどう思われているか」ということについてひどく無関心であった。蒼い髪の相方や桃色の髪の大切な人があきるほど彼女の美貌について進言してきたが、本人はその度にただ微笑むだけで。
「…急がなきゃ」
一人呟いて、彼女は歩を早めた。待ち合わせ時刻には十分間に合う時間だが、それでも気がはやるのは、今日会う人物が彼女にとって大事な、尊敬できる師であったから。
* * *
ムードたっぷりのジャズに、セピア色の照明、そしてアンティーク調の室内、窓の外は午前中の独特な爽やかな陽射し。なんと素敵な喫茶店だろう、と佐藤清子は思った。
「何かご注文なさいますか?」
白いワイシャツのウエイターが慇懃無礼に窓際のテーブルに座っている清子に声をかけた。
「そうですね、まだいいわ…待ち人が来たら一緒に注文しますから」
「わかりました、その際はお声かけください」
丁寧に礼をしてウエイターは奥へと姿を消した。品の良い初老の女性に対して、この店の対応は完璧なものであった。清子は再び店内を見回す。彼女の目はまるで子供のように好奇心で輝いていて。店内には特に際立った装飾品は無いが、観葉植物が所々に置かれ、セピア色と緑色がうまい具合に調和している。申し分ない、と清子は一人満足そうに微笑んだ。そうして教え子のセンスの良さを誇らしく思った。今日会う大事な教え子の。
カラン、カラン、
涼やかなベルの音が鳴った。ドアにつけた鐘が来客を告げたのだ。いらっしゃいませ、というウエイターの声と、客が息を飲む音が同時に聞え、清子は苦笑した。そう、この「空気」を清子はもう数年も前から経験していた。それは大学構内であったり、研究室内であったり…これは清子の教え子がもたらす空気だった。この世のものとは思えない美貌の持ち主である教え子の。あらあら、と微笑みながら清子は近づいてくる女性を目を細めてみつめた。女性も清子を見て恥じらいながらも微笑んでいて。カジュアルなトレンチコートに身を包んだ長い黒髪の女性は、(彼女にしては珍しく)微笑みを絶やすことなく清子に歩みよってきた。
「お久しぶりです、教授」
そう言って、暁美ほむらは嬉しそうに微笑んだ。