明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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同じころ、さやかの勤務する警察署では――



出張命令

この時期になるとめっきり盛り上がる話題がある、これはどこの官公庁でもそうだろうが、警察も例外ではないらしい。

 

「よお、美樹お前今度どこ希望してんの?」

 

軽薄な口調で、ヤクザのような身なりの男が美樹さやかに尋ねてきた。

 

「え、もちろん現職希望に決まっているじゃないですか」

 

蒼い髪の女性は、何を今更という様に男を睨んだ。彼女とこの一見軽薄な男は年が近いためか絡むことが多い。へえ、と男はにやりと口の端をあげ、遠慮なくさやかのパソコンを覗き込んだ。

 

「ちょっと!」

「まあまあ、固いこと言うなって」

 

周囲の強面の男達もニヤニヤ笑う。ここは○警察署の捜査第四課、「マル暴」の執務室だ。

無機質な室内の中、十数名ほどが無言で(美樹さやかと同僚は覗いて)執務に没頭していた。皆、一様にスーツの中、さやかも同様少し野暮ったい黒のスーツを着用している。

 

「まったく…」

 

あきれたように男を横目でみながら、美樹さやかは腕を組んでため息をついた。黒のスーツに皺が寄る。眉をひそめて垂れ気味な目を二、三度しばたたかせた。男がパソコンに表示されたさやかの入力途中の「身上調書」を見ながら、お、と声をあげた。モニターを指差して得意げに周囲を見渡してニヤリと男は笑った。

 

「こいつ、マジで第一希望現職にしてやがる!」

「ちょっと、読みあげないでよ!」

 

どっ、と周囲から笑い声。

 

――人の異動希望調書を覗き見るなんてなんてデリカシーの無い、サーベルでも出してやろうか?

 

半ば本気で美樹さやかは考えた。だが考えてやめた。左手からいきなり現れた剣を見て腰を抜かす同僚を想像しただけで怒りは収まった。それにしても、実際自分の武器は「剣」「サーベル」どちらだろう?とさやかはこれまたずれたことを考えた。彼女が保有している武器は刃の形状からは「日本刀」と言えるのだが、ナックルガードがついていて、刀身も反り返っている…だめだ、とさやかは心で舌打ちをする。演じるような気分でこの世界で生活しているせいか、時折思考が逸脱してしまうのだ。どこか一般人とはずれた、浮世離れした人間になっていることをさやかはいつも痛いほど自覚していた。隔世感ともまた違うが、どうにも社会との間に深い隔だりを感じてしまうのだ。

 

――あいつもそうなのかしら?

 

ふとさやかは黒髪の女性を思い出す。生活を共にしている他の誰よりも美しい悪魔を。

 

「おい、おい、美樹い、俺の希望も聞きたいだろう?」

「はあ?なんであんたの…」

 

男は単に希望を聞かせたかったのだ、とようやくさやかは気付く。一体なんなんだこいつはと思いながらさやかはいったん口を閉ざし、いやいやながら呟いた。

 

「…で、どこ行きたいの?」

 

*      *      *      *

 

元々、交番勤務もそこそこに通常ならあり得ない速度で刑事になったさやかにとってはこれ以上、希望する部署などなかった。そもそもこのマル暴が第一希望で他は考えられなかったのだから。

これも「あの時」の経験からだとさやかは自覚していた。初めてリアルに人の死や殺人に関わったあの日、さやかは全てのものに対して絶望した、己自身も含めて。唯一の希望は皮肉にも暴力団員だった。死の直前、さやかに警察への通報を託した改心したヤクザの男。

罪を重ねていきながらも、最後、男の顔は安らかだった。

 

――私も最後、あんな風に救われるのだろうか?

 

悪の撲滅を強く望み、罪を重ねている己にも救いがあれば…さやかはこの年になってようやく自分自身が救済を求めていることを自覚していた。ただし、かつて地球外生命体の生みだしたシステムにいいように弄ばれた挙句、概念とならざるえなかった幼馴染の「円環の理」には決して戻りたくはなかった。あれが全てではない、と今の美樹さやかは知っていた。もっと、高次な違う世界の「何か」があるはずだ、と。さやかはただ、消えてしまいたかったのだ、許されるならば。全ての罪を浄化して。だが、それはかなり先の話しだとさやかは思っていた。相方である美しい悪魔の傍らにずっといると誓ったから。彼女がどうなっていくのか見守り続けたい――幼馴染を見守る以外に新しい目的ができたのだ、なによりも大切な目的が。

 

「…それでさ、俺は公安を第一希望としているわけよ」

 

傍で男が機嫌よくさやかに語りかけている。よく喋る男だな、と思いながらもさやかはただ相槌をうっていた。そういえば、明日の「研修」も彼が行くことになっていたな、とふと思い出す。公安系の研修だ。

 

バタン、

 

派手な音を立てて執務室のドアが開いた。そこには白髪の男がしかめつらで立っていて。

 

「おい美樹いるか?」

「はい、います」

 

いつものようにドスの効いた声で呼ばれ、反射的にさやかは返事をした。彼女が最も信頼している上司であり、そして父親のような存在でもある男だ。どこか疲れ切ったような顔でさやかを見つめると、ため息をつきながら言葉を紡いだ。

 

「お前、明日公休だったよな」

「はい」

 

いやな予感がする――。

 

「取り消しだ」

「え!そ…」

「お前もこいつと明日の研修に参加しろ」

 

傍のチンピラ風の男が呆けた顔になる。

 

「人事から直接命令があった、明日から出張に行くんだ」

 

そうして予感は的中した。

 

 

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