明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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急なさやかの出張に怒りを隠せないほむらだが――
今回、甘々回(当社比)珍しく大人気ない、可愛らしいほむら(24)をお楽しみください。



ほむらとことん怒る

「………どういうつもり」

 

白いテーブルの傍に立っている黒髪の美女は、手を椅子に添え、もう一方の手を腰にあてた。喫茶店から帰りくつろいでいたのだろう、服は白のキャミソール一枚を身に纏っただけだった。眩しく白い肩に長い黒髪がほんの少しだけ乱れてかかっていた。

 

「……それは」

 

首を縮めたまま、さやかは目をうっすらと開け、相方の鎖骨あたりに漂う様にして視線を向けた。怖くて顔を見つめることができないのだ。

 

「私…何も聞いてないのだけど?」

 

恐ろしいほどの美貌に怒りの表情、整った眉はつり上がり、アーモンド型の美しい目の中にあるアメジストの瞳も怒りで燃えていた。ごくり、と喉を鳴らした後、ようやくさやかは口を開いた。

 

「き、今日…きゅ、急に…言われたのよ」

「誰に?」

「え?」

 

美しい顔がさやかに接近する。

 

「……誰に言われたの?」

 

ドスの効いた声で囁かれ、ひ、とさやかが変な声をあげた。

 

「し、しゅ、主任よ…」

 

はじかれたように、ほむらはさやかに背を向け、ベッドのサイドテーブルに向かった。手にしたのは青い携帯。

 

「あ、ちょ、ちょっと!やめてよ」

 

一瞬、さやかを横目で見て、ほむらは携帯を操作した。だが飛び込むようにしてさやかがほむらの身体に抱きつき、半ば強引に携帯を奪い取った。無表情に携帯を奪われた手をみつめるほむら。

 

「や、やめてよ!いきなり上司に電話するなんて!非常識じゃない!」

「そういう風に言うんだ?」

「へ?」

 

挑むような視線でさやかを睨みながら、ほむらは不敵に口元を歪めた。

 

――こ、怖!

 

一瞬身体が硬直して動けなくなったさやかの手から再び携帯がもぎ取られる。

 

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

だが時は遅し、ほむらは一瞬でさやかとの距離を離し、携帯を耳にあてた。

 

――ジーザス!

 

さやかは再び心で叫んだ。

 

「あ、もしもし、岡山さん?」

 

わああ、とさやかが変な悲鳴をあげているが、気にも留めず、ほむらは携帯の向こうの相手と会話を続ける。

 

「ええ、そうです、美樹の携帯です、ちょっと聞きたいことがあって…ええ」

 

最初は不審げだった(らしい)岡山も、ほむらに対してはどうにも弱いらしい、会話は彼女の主導で進んでいく。

 

「じゃあ、出張って本当なんですね?はい…」

 

――なに疑ってんのよ!

 

華奢な相方の背中を見つめながらさやかは心の中で叫ぶ。

 

「はい…そうですか、わかりました」

 

しばらくして、会話が終了した。携帯を持つ手をぶらりと下げて、ほむらは、はあ、とため息をひとつつく。

 

「出張、本当なのね」

「そ、そりゃそうよ!私が嘘つく訳ないでしょ?」

「岡山さんが「急に」というくらいなんだから、仕方ないわね…」

 

――あれ?

 

意外にもほむらは怒りが静まったらしい、力なく肩を下げて、とぼとぼとベッドへ向かう。拍子抜けしたさやかは小首をかしげ、心配そうに声をかけた。

 

「ちょ、ちょっとあんた…」

「何?」

 

気だるげに振り返る黒髪の美女は、どことなく気落ちしているようだ。

 

「怒んないの…?」

「別に……」

 

やや乱暴にサイドテーブルに携帯を置くと、ほむらはいそいそとベッドに潜り込む。

 

「え、あんた夕飯は?」

「いらないわ、おやすみなさい」

「おやすみって…!」

「貴方はソファにでも寝たら?」

 

そう言って、これみよがしにクマのぬいぐるみを抱きしめながら、ほむらはさやかに背中を向けた。

 

――まだ怒ってんじゃない!

 

だが、いつもの怒り方とはまた違う。ほんの少しの違和感に気付いたのはいいが、その違いが起きた原因まで辿ることができないのが、美樹さやかの欠点だった。

その後、いろいろ声を掛けてみたが、結局家主はさやかの声には応じない、どうやらそのまま寝てしまったようだ。

 

「まあ、準備でもするか…」

 

明日も早い、公安系の研修は初めてだし、さっさと寝よう、とさやかも決め込んだ。音を立てないようにクローゼットからトランクケースを取りだし荷造りを開始する。時折ちらり、とベッドへ視線を向けるのは相方が心配だからか、寂しいからか。ふう、とため息をついてようやく荷造りを終えたのは30分ほど後だった。

 

『貴方はソファにでも寝たら?』

 

相方の言葉を思い出し、ソファをしばらく見つめるが、さやかはぷるぷると首を振り、そそくさとベッドへ向かう。音を立てないようにそうっ、とベッドに潜り込むと恐る恐る黒髪の女性の背中に近づいた。いつもの「定位置」だ。もぞもぞと動きながら身体をぴったりとくっつける。相方のひんやりとした肌の感触を味わいながら、さやかは目を瞑った。

 

「…………夕飯食べたの?」

「起きてたの?」

 

おもむろに相方の艶やかな声が発せられたので、驚いたようにさやかは囁いた。

 

「…………ええ」

 

背中を向けているので相方の表情は見えないが、どこか寂しそうなその声を聞いて、思わずさやかは両手をほむらのお腹辺りに回し、背後からクマのぬいぐるみごと抱きしめた。初めて、相方がいじらしく、そして――

 

「ごめんね」

 

――可愛らしいと思った

 

さやかの手の上に黒髪の女性の手が添えられた。

 

「………貴方が謝る必要なんてないわ」

「でも、謝りたいのよ…」

 

そう囁くとさやかは更に強く相方を抱きしめた。クマのぬいぐるみがへこむ感触がして、ほむらがふ、と息を漏らす。

 

「……ちょっと、ぬいぐるみがへこんじゃうわ」

「大丈夫よ、少しくらいなら」

 

そう囁いて、さやかは相方の項に顔を埋めた。何故か不思議なくらい歯止めが効かない。戸惑いながらも、それでもさやかは己の本能に従った。忠犬の積極的な行動にとうとう飼い主は声をあげて笑った。

 

「なあに…発情でもしてるの?…」

「そうかも」

 

進歩しているのはほむらだけではなかった。珍しく相方を求めてくる蒼い髪の女性をほむらは一目見ようと振り返る。その切れ長の目は艶めかしく潤んでいて。

 

「ねえ…」

 

いつものほむらの短い言葉。それははじまりの合図で。

 

「うん…」

 

二人は申し合せたようにゆっくりと唇を重ね合わせた。

 

 




「そういう風に言うんだ?」と挑発的に言い放ち、職場に堂々と電話するほむらさん…まさに鬼嫁…そして喧嘩した後の仲直り甘々はまさに夫婦…(なんと…)ちな喧嘩した後の流れは想像におまかせします笑
とことん怒るけどとことん許すほむらさんでした。
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