ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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久しぶりの投稿ですので、暖かい目で呼んでいただけると幸いです。



第1話 ゴブリンスレイヤー 

 ここは賽子がものをいう世界。神々が賽子を振るい、その結果で"全て"が決まる。それがこの世界の理。

賽子とは、片やロマン、片や理不尽、これが常につきまとう。これはそんな世界に生きる、ある男の物語である。

 

 穏やかな朝。もうすぐ、春風が顔を覗かせる時期だ。この辺境の街に、春が訪れようとしていた。

 辺境の街の隅っこ。家の裏から森が挨拶出来るくらいのところだ。木造建ての一軒家がポツンとたたずむ。そこに俺は住んでる。

 

 ん?偉そうに話してるお前は誰かって?

 俺は……鍛冶師かな。いや、ムーンライターと言ったほうがいいかもしれない。

 ムーンライターとはなにか、だって?いいよ、教えてあげよう。それはな、二重就業者のことさ。

 

 おっと、今は鍛冶の最中だ。集中しないと…。ハンマーを手にし、真っ赤な鉄へ目掛けて振り下ろす。

 カンカン、キンキン。ただの金属音だけが、静寂な夜にこだまする。

 

「ふぅ…一息いれよう」

    

 そう、俺は鍛冶を営みながら、冒険者をやってる。自分でいうのも変なんだが、相当な変人だなって思う。俺みたいなやつはそうそう居ないから。辺境の街には俺が初めてじゃないかな?多分。

 

 俺の一日の基本的なルーティンは、昼間に冒険して、深夜から朝にかけて、鍛冶をするって感じかな。毎日毎日へっとへとさ。その分、やりがいはあるが。察しのとおり、俺はぁ、冒険者も兼任してるんだ。

 あん?冒険する時の職業?それは、拳闘士だったり、戦士だったりするかな。

 相手によって臨機応変に変えてるよ。

 ゴブリンの時はどの職業かって?

 まぁ拳闘士で相手することが多いかな。刀を奪われたらことだし…。

 さてと、自己紹介はこんなところかな?

 

「もう少しでっ」

 

 俺はもう一度、ハンマーを振り下ろす。キン!綺麗な金属音が辺りに響く。作品が仕上がりそうだ。

 ジュウゥ…。ここ、この音が耳に心地い。

 冷水で鉄を冷やして、刃を付けたら完成だ。

 

◇◇◇◇◇

 

 さてと、俺はそろそろ床につこうと思う。手を組み上に上げながら、一つストレッチをした。

 

 それから仕事場をあとにし、仕事着をクローゼットに仕舞って、寝室へ向かう。白装束にしろと父に教わったからだ。

 自前で作ったはいいが…着心地は普通だ。

 

 外で来たら珍しげに見られるんだろうか。

 あ、やべ、部屋着に着替えんと。

 俺の部屋着は上は橙色のチェック柄のシャツ、下は白色の長ズボン。汗で濡れちまうが、明日洗濯すればいいだろう。

 自宅は仕事場から数メートル離れたところに建ててる。この疲れた身体だと、たかが数メートルの自宅の距離が物凄く遠くに感じてしまうな。けど仕上げた品を、昼前にギルドへ運ばなきゃいけないんでね。

 

 手に持ってるのは巾着数個。これに仕上げた品が入ってる。そうこうしていると寝室の前へとたどり着いた。長かったような、短かったような帰路。自宅だから帰路はおかしいかとしれないけど…。とにかく、部屋についた。

 木製のドアを開けて、木の軋む音とともに、中へと入る。部屋は五畳ほどだ。正面に窓、その前にベッド、クローゼットが入口の右隣に、そして、机がその真ん前に置いてある。ちと狭いが、まぁなんとか生活は出来てる。だからこれでよしとする。

 

 汗を吹いて、寝間着へと着替えねぇとな。クローゼットからタオルと寝間着を取り出した。寝間着は白い布地のシャツ、白い半ズボン。それに着替えると手荷物を机の上に。

 巾着袋を机へ置くと、じゃらじゃらと金属音が擦れたような音を立てた。これをギルドに運べば俺の仕事は終了。報酬金をゲットだ。

 

 ここから世知辛い話にはなるが………。

 俺には……金がねぇ!全くもって、金がない!金欠だ!

 何故かって?素材費やら、生活費やら、日用品やら、それらに取られて貯金が出来てねぇ。

 質の良い素材を使って、新しい鍛冶に手を出してみたいが、なかなかどうして上手くいかねぇ。

 だけど、生活はなんとかなってる。辛うじてだが…。

 もう少し、余裕を持って生活したいもんだなぁ。

 

 俺は窓際のベッドへ倒れこむ。ギシィという軋む音を聞きながら、仰向けになった。

 俺はこの街に来て、もう十年になる。ようやく、ようやく、鍛冶に手を出せるようになってきた。昔から鍛冶師になりたかったから。父さんが鍛冶師だったんで、俺も父さんのような立派な鍛冶師なるんだって自然とそれが俺の夢になってた。

 銀等級の冒険者になって、ようやく形になった。

 

 この街に来た時、仕事をどうするか迷ったよ。

 料理が好きなんで、料理屋っていう手もあったんだが、街の住民の好みを知らないし、そこまでの腕に自信はな。

 

 だからまぁ、冒険者をやるしかなかったのさ。金稼ぎならこれが"一番マシ"だからな。

 

 って、そろそろ寝ないと……。おやすみ…。

 

◇◇◇◇◇

 

 朝。

 陽気な朝だ。俺は寝ている。ぐうすかぐうすかと。

 起きてくるのはおそらく、昼前になるだろう。

 陽射しが俺の部屋に注ぎ込まれている。

 窓の前に俺の寝床があって、丁度俺の顔に、眩しい眩しい光が差し込んできた。

 

「ふぁぁ………」

 

 大きな欠伸。眠い…。春の陽気が俺の眠気を誘っている。もう一回………。

 いや、駄目だろ! 仕事だろ!

 

 掛かってる毛布を広げながら、ゆっくりと起き上がった。まるで植物の発芽のように。

 

「んぅーー!気持ちのいい朝だな」

 

 窓を開けると、太陽が大地を暖かく照らしていた。母が子を抱き締めるように…。

 

「出向く準備っと」

 

 朝飯はぁ、ギルドでとろうかな。

 寝間着を着替えんと。

 クローゼットの前へ行き、出向く準備を粛々と始めるのであった。

 

 選んだ服は上は青と白の長袖、下は水色の長ズボン。まぁこれでいいか。今日は休みだし、のんびりしよう。用が済んだら、昼寝でも………。

 

「服も着替えたし、袋をリアカーに積んで、ギルドだ」

 

 俺は寝室を出た。今度向かうのは仕事場の隣にある倉庫だ。そこにリアカーがある。そこまでの量は運べないが、巾着数個を安全に運べる便利なやつだ。

 そうこうしている内に倉庫へ到着した。

 

 リアカーを取り出して、巾着数個を乗せる。ギルドへ赴く前に中身の確認をしておこう。

 指定された品は入ってるな。その品は棒手裏剣50本5セットだ。なんでも階級の低い子達に人気らしい。

 安いからだとか。

 

 使用用途は獲物に向かって投げるだけだしな。そりゃ人気も出るか、なにより楽だし。まぁ敵の目ん玉を意図的に狙ってとかだったら、練習せんと無理だろうが。

 

 けど、使われてるんなら製作者としては嬉しいね。製作者として冥利に尽きるってもんだ。そういう話を聞くと笑みがこぼれる。

んじゃ、行きますかね。

 俺はリアカーを引きながら、倉庫を後にしギルドへ出発したのだった。

 

 家を出て、かれこれ三十分は経過しているだろうか。石造りの大きな家が顔を出す。ようやく、目的地のギルドが見えてきたようだ。

 

「このギルドはいつみてもデカイな」

 

 ポツリとそんなことを呟くと、やたらギルドの入口が賑わってるような声が聞こえてきた。今は春先だ、きっと多くの新参冒険者が来訪しているのだろう。と、そんなことを思っていると、裏口の方から誰かが出てくる。一体、誰だろう。

 俺が用があるのはその裏口だ。その人物は俺に話しかけてきた。

 

「こんにちは~」

 

 気の抜けたような声だ。まるで綿菓子のような……。ああ、いかんいかん。声に聞き惚れてしまった。

 なんか随分と、ほんわかしている女性だな。

 髪色は特徴的な赤髪。ゆったりとまとめられている。上は白色の  長袖だろうか、鎖骨から胸元にかけてフリフリも付いているように見える。紺色のリラックスデニムだろうか?疎い俺にはお洒落はよく分からないな。長靴を履いているし、農家の子なのだろうか。

 

「こんにちは」

 

 挨拶を返す。挨拶には挨拶だ。

 

「初めましてかな?」

「そうですね、こちらこそ初めまして」

 

 この女性とは初めての会合だった。鍛冶屋を運営出来るようになったのも、2、3年前からなのだ。その何年間でこの人とは会った記憶がない。思い出しに耽っていると彼女が話し掛けてきたようだ。

 

「そのリアカー…あなたも納品の仕事?」

「ええ、そうですが…あなたもということは…」

「うん。私は農場の酪農品だよ~」

 

 彼女は賑やかにそう、説明していた。

 

「ギルドの店のチーズとかも、貴方のところの?」

「そうだよ~。私っていうかおじさんのだけどね~。私はそれの手伝い」

 

 そんな彼女の顔は、少し誇らしげに見えた。

 

「これから納品なんでしょ?」

「ええ」

「どんな物なの?」

「冒険者道具で投げナイフのようなものです」

「へぇー!鍛冶屋さんなんだー凄いね~」

 

 こちらに、にこやかな笑顔を向けて話し掛けてくる。初めての人なのに、なぜか気軽に話せてしまう。それがこの人の魅力なのだろうか…。なんにせよ、仕事を戻らねば。

 

「えと、それじゃ僕はこれで」

「うん。頑張ってね~」

 

 荷物を置くと俺はいさんで受付へと向かった。

 

 カランコロン、入口の鈴の音が俺を出迎えてくれた。人は多いと踏んだが、なかなかどうして想定していたよりかは人が減っている気がする。

 パーティー組が多くてまとまってクエストを選んだのか、それとも受付の人の処理が上手かったんだろうか。どちらにせよ、これは好都合。さっさと仕事を済ませてしまおう。

 俺は列に並んだ。数分待っていると、俺の番が自然と回ってくるのだった。

 

「すみません、仕事の納品に来たのですが」

 

 というと、茶髪のロング髪の受付嬢さんが担当窓口へやって来た。

 白と紺を基調とした制服を来ている。胸には赤いブローチに黄色いスカーフ。スカートは黒色とどうみても高そうな洋服だ。俺は縁の無さそうな品だな。

 

「はーい。あ、ムーンライターさん。こんちには」

 

 俺は軽い会釈をした。

 

「いつもお世話になってます」

「いえいえ、助かってるのはこっちですから。それじゃ、納品書に記入してくれるかな」

 

 営業スマイルを交えながら、受付嬢さんが言った。

 

「はい。いつもの袋に品を入れてますので」

「了解です。こちらで確認しますので、少々お待ちくださいね」

「はい」

 

 俺はその納品書にゆっくりと記入していった。しかし、読み書きは自信はない。この街に定住して十年あまり、その歳月でようやく並み程度に身に付いただけなのだ。文字を教えてくれたのはギルド職員の方々だ。その人達には頭が上がらない。感謝だな

 

 すると、俺が記入しているのをみるやいなや、受付嬢さんは受付から奥の部屋へ消えていった。程なくして彼女は俺の前へと歩いて来た。

 

「納品確認致しました」

「良かった。品は自分で届けますので」

「そういうと思って、はいこれ」

 

 と、彼女が品を持ってきてくれている。ただ、一人では持ってこれなかったのか、男性職員もそれを手伝ってくれていたようだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 二人に礼をし、その場を後にした。

 

「どういたしまして。それじゃ頑張ってねー」

 

 彼女の見送りにお辞儀で返し、ギルドの鍛冶屋に歩を進めたのだった。

 

「お邪魔します」

 

 俺は鍛冶屋の両開きのドアに手を掛ける。ギィと軋む音を立てながら、店と入って行った。

 そこには白色をベースとした冒険者が武器を物色中、筋肉質の店主らしき人物が仕事をしてる真っ最中のようだ。この人がここの店長。何度もお世話になっている。

 格好は耐熱エプロンと手袋のみのだ。シンプルすぎる格好…。裸エプロンみたいな容姿ではない、ちゃんと後ろにも布地がある。

店内の周囲には武器やら、防具やら、はたまたスクロールのような貴重品まで、商品棚に綺麗に飾られている。

 

「これ、頼まれていた品です」

 

 俺が品を受付に置くと、店長が言った。

 

「おう、おい! 品頼むぞ」

「あ、はーい!」

 

 奥から少年の爽やかな声が聞こえてくる。どうやら弟子のようだ。服は灰色の長袖に、濃い茶色のエプロンをして黒いズボン、質素な格好の少年が顔を出した。

 彼が受付をし、品を品定めをし、査定してくれる。

 

「えっと、銀貨2枚というところですかね」

「了解」

「払ってやれ」

「はい」

 

 彼にお金を手渡され、それを懐に仕舞った。これにて俺の仕事は終了。長かったが、まぁこんなものだろう。

 俺は礼を言ってここを去ろうとすると…。

 

「また頼む」

 

 と、奥から店長の言葉が店内を支配した。そのシンプルすぎる言葉に、俺は……。

 

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 と俺も負けじとシンプルに返したのだった。

 

 

 店を出ると、人が少なくなってきたのか辺りは静けさを取り戻していた。すると、受付より少し離れた丸テーブルの位置に、ある人物が立っているではないか。肘をつき、何かを待っているかのように佇んでいる。

 鎧は銀色だが、油で塗りたくっている。昔は綺麗だったであろうに、その面影はない。他の装備はというと最低限、小剣とナイフや雑嚢があるだけ。みてくれで判断するなら新人かもと勘ぐってしまうだろう。

 そんな人物に俺は話し掛けた。

 

「よう、ゴブリンスレイヤー」

 

すると、その男は…。

 

「ああ」

 

 とだけ、返したのだった。

 

 

 




投稿頻度は前より落ちるとは思いますが、宜しくお願いいたします。
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