ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第10話 地下墳墓 その1

 奥に大きな墳墓のような建物が見える。それと、ここには石造りの建物が建ち並び、1つの町を形成している。綺麗に区切られ、随所に大きな家もちらほらと見える。鉱山で仕事をしていた者達の住まいだと、推察出来た。

 階段を下り、地下遺跡に足を踏み入れる。どうやってこの空間を作ったのかは定かではないが、小さな町が出来ているほどこの遺跡は広い。相当な人員が割かれたのだということが分かる。

 俺は殿を勤めながら、考察に浸っていると前の3人が家らしき建物を凝視している。妖精弓手さん達のようだ。

 

「どこからどう見ても家よね、これ」

「入ってみますか?」

「そうさな」

 

 と、妖精弓手さんが女神官さんと鉱人道士さんを連れて、物怖じせず建物に入っていく。

 

「ここにはなにが置いてあるんだろうな」

「知らん」

「鉱山の町のようですからなぁ……。あるとすれば武器の類いでしょうな」

「武器か」

 

 雑談をしていると、探索を終えたのか3人が戻ってきた。

 

「なにかありました?」

「蜘蛛の巣と……」

「と?」

「ドワーフ好みとおぼしき酒樽があった」

「ってことは、ドワーフが拠点にしてた町で間違いないっぽいな」

 

 「そのようですな」と蜥蜴僧侶さんが同意してくれた。

 財宝はドワーフ作りの武器になるのかな。

 あまり、心は躍らないが金目の物だと嬉しいな。

 俺は期待しないようにしつつ、町の探索を進めた。

 

 歩きを進めると、俺達の眼前に一番最初に見えた巨大な建物が聳え立っている。如何にも、何かを隠してますよと言わんばかりだ。

 石造りの門構えが俺達を出迎える。ところが、押しても引いても、開く気配がない。鍵が掛かっているようだ。よく見ると扉の真ん中に不自然な丸い窪み。その中にも小さな丸みを帯びた窪みがもう1つ備えられてある。

 

「なんでしょう、この窪み」

「町の何処かにある鍵を探しだして」

「はめ込めっちゅーことか」

 

 ということで、しばらく町を手分けして探索することになった。

 俺と鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さん。

 ゴブリンスレイヤーと女神官さんと妖精弓手さん二手に別れて探索開始。

 俺達は右側、ゴブリンスレイヤー達は左を担当し、何か分かればここに戻ってくるということに。

 

「それじゃ、そっち頼むわね」

「耳長娘、しっかりとな」

「言われなくても分かってるわよ!」

 

 よし、行くか。

 しらみ潰しにやっていくしかないのかな。

 

「どこから行きます?」

「ここが町だというなら役所があるはずじゃ」

「それを探してみますか」

 

 ということで方針が決まった。

 まずは役所。上から見た時、取り分け大きな建物があったな。そこに行ってみるか。

 確か、右端の方に……。俺は2人を連れて目星を付けた場所へ向かう。

 歩くこと数十分。目の前に石造りの建物が姿を現した。

 

「とりあえず怪しいと思ったのが、ここなんですが」

「わしもそうじゃから心配はないぞ」

 

 2階建ての建物。よく見るとご丁寧に看板が地面に差してある。その文字を見ると役所と書かれている。

 

「ここで正解のようですぞ、ムーンライター殿」

「良かった。それじゃ行きましょうか」

「おうとも!」

 

 今度は木製の扉が俺達を出迎える。キィィィという歯ぎしり音と共に、恐る恐る役所へ足を踏み入れた。

 中はギルドでよく見かける丸いテーブル。待ち合い場所とおぼしき所には、椅子が設置され、奥は受付室になっているようだ。

 

「普通の役所じゃな」

「そうみたいですね」

 

 机を跨ぎ、受付室を調べると書類等が発見出来た。役所で間違いないっぽい。文字は擦れてよく分からないが、何枚かの書類でドワーフやら人間と微かに読めた。ここにはドワーフ以外にも在籍していたようだ。

 しかし、受付室を調べても鍵となる物は見つからない。となると二階か?

 

「二階の方に行ってみます?」

 

 俺の問いに2人は頷き、左手の階段へ移動し2階の探索へ移ることに。

 2階には数個の部屋が設置されている。「奥側が市長の部屋だろう」と鉱人道士さんは言う。一旦、右手の部屋から調べてみることに。

 右手の部屋はどうやら待ち合い室のようだ。古びたソファーにテーブル。前の壁には絵が飾ってある。

 

「これは……」

「風景画のようですな」

「殺風景な町じゃもの、そういうのが欲しかろうて」

 

 確かに。鉱人道士さんの言う通りだ。風通しが少ないこの場所にとって、この美しい風景画は一種の息抜きとなっていたのだろう。

 

「他にはなにかありそうですかね?」

「いや、特にありませんな」

「別の部屋へ行くかの」

 

 向かいの部屋を調べることにしたのたが、そこは役所の控え室のようで、クローゼットが数個、テーブル、椅子が置かれているだけだった。

 なんの収穫もなし。他の部屋も調べはしたのだが、これといって出てくるものは埃だけだった。

 残すは市長とおぼしき部屋のみ。意を決してドアノブを回すと意外にも鍵は掛かっていない。簡単に開いた。

 

 部屋に入ると、まず目に飛び込んで来たのは奥に鎮座している、武器を持った騎士の石像だった。大きな斧槍を構え、いかにも動いてきそうな見た目をしている。これは市長の趣味なのだろうか?

 石像の前に机。客を出迎えるソファーと長方形型のテーブルが置かれ、壁際には本棚も設置されている。普通の所長室と行ったところだ。

 

「なにかあるといいけど」

 

 俺達は早速、部屋の探索を開始した。本棚からはドワーフの歴史書や住民票らしき物が見つかった。ところが、放置されて何十年か経っているのか文字がかすれて読むことが出来ない。

 俺は仕方なく机に向かうことにした。視線を向けると、鉱人道士さんの手にはなにやら半月型の石板が握られている。

 

「それが鍵ですかね?」

「おそらくな」

 

 と言って、鉱人道士さんが石板を見せてくれた。

 なっているようだ。片割れと合わせるのだろう。裏には丸い出っ張りがある。表には四角形の窪みが彫られている。随分とシンプルな絵柄。

 

「なにが描かれているんでしょうな?」

「さぁ? 俺には分かりかねます」

「皆が知っているものじゃて」

「鉱人道士さんは見当がついてるんです?」

「まぁの」

 

 鍵以外に何かないか、くまなく引き出しを漁ってみると、1枚の地図を発見。

 

「遺跡の地図ですかな」

「おそらくの」

 

 地図を手見上げに、俺達は足早に役所を後にした。

 

「ドワーフの隠れ里なんですかね? ここは」

「術師殿、何かご存知ではございませぬか?」

 

 蜥蜴僧侶さんの質問に頭を抱えながら、言葉を探している鉱人道士さん。何か知っていらっしゃるのかな?

 

「うーむ。引っ掛かってはいるが……歳のせいかの。すまん、思い出せんわ」

「無理に思い出さなくても良いですぞ。気になっただけですからな」

 

 しばらくそんな問答をしていると、待ち合わせ場所の門へと到着。

 数分後にゴブリンスレイヤー達も合流し、探索の成果を確認することに。別れた甲斐があってか、ゴブリンスレイヤーの手にも半月型の石板が握られている。

 

「鍵も見つかったようだな」

 

 と、ゴブリンスレイヤーが言った。

 

「無事に見つかって良かったですよ」

「何日も探索をしたくはないしね」

「はい」

「そうじゃの」

 

 鉱人道士さんが腕を組みながら、ウンウンと女性達に同意していた。

 

「早速、合わせて見ませんか?」

 

 俺がそう言うと、ゴブリンスレイヤーがスッと手渡してくる。門の前に行き皆が見てる中、石板を合わせてみることに。鉱人道士さん達と見つけた石板をはめて、次にゴブリンスレイヤー達の石板をバコン!と窪みの中に押し込む。

 すると、絵柄はダイヤモンドの形へ。

 

 絵柄の正体はダイヤモンドだったわけか。

 

 カチッという機動音と共に、ズズズ、ズズズと扉が下へと降りていく。再び、俺達の前に現れたのは墳墓へと繋がる道ではなく、また扉だった。

 

「ええーーー!? また扉ぁ!?」

 

 そう言いたくもなる……。

 

「ちょっと押してみますね」

 

 すると、すんなり扉は開かれ道が顔を覗かせた。

 

「なんだ開くのね」

「用心深いドワーフだったんじゃろうな」

「開けやすい扉にしときなさいよねぇ」

「わしに言うんじゃないわい!」

 

 ここまでくると、逆に仲がいいんじゃないかって思えてくるな、この2人……。絶対にこの2人の前では言わないけど。

 

 気合いを入れて、挑むとしますかね!

 

 

 


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