ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第11話 地下墳墓 その2

「それにしても、地図が見つかって助かったわ~」

 

 橋の途中で妖精弓手さんがさらっと愚痴をこぼす。俺達はさっき、遺跡へ通じる扉を開けたばかりで遺跡へ向かうところだ。

 橋は……木材で出来ているみたい。結構がっしりと作られている。下は深い壕になっているようだ。落ちたら戻れなさそう……。

 

「無かったら面倒な事になってましたからね」

 

 それに俺が同意する。

 

「マッピングは疲れるのよねぇ~」

「気持ちは分かるがの」

「でしょー」

 

 髭を弄りながら、鉱人道士さんも同意してくれる。愚痴愚痴言いつつも、遺跡へと到着。2体の大きな石像と巨大な門が俺達を待ち構えている。

 石造りの遺跡。ここには一体何が隠されているのやら。俺は期待に胸を膨らませつつ、一抹の緊張感がほとばしる。

 

「マッパーはお任せあれ」

 

 と、蜥蜴僧侶さんドン!と胸を叩いて俺達へ知らせる。

 

「いいんですか?」

「構いませんとも。皆さんは探索に集中してくだされ」

 

 マッパーは常に地図とにらめっこしながら、探索をしなきゃいけないから、大変なんだよなぁ。それを自分から進んでやるなんて、ありがたや。

 マッパーが決まったところでいよいよ、遺跡内へ突入する。幸い、壁に松明が設置されているようだ。これに火を付けて明かりにしよう。

 ゴブリンスレイヤーと俺が前衛を勤め、中衛に後衛メンバー、殿は蜥蜴僧侶さんといった布陣。そうそう破られはしない。気を引き締めつつ、周囲を警戒するのだった。

 

 松明の明かり無しでは探せないほど地面の上が暗い。

 遺跡内は侵入者を迷わせるためなのか、入り組んだ間取りになっているようで、油断していると迷子になるなこれ……。ホント、地図が見つかって助かったぜ……。

 数分間、遺跡内を歩いていると大きな部屋に出くわした。開けて入ってみることに。ゴブリンスレイヤーがドアノブに手を掛け、中へ入ってみると……。俺達を待ち受けていたのは、シンプルな内装の倉庫であった。

 ただ、長く使っていない部屋の空気が、謎の不気味さを醸し出している。

 

「なんか、気味の悪い部屋ね」

「まるで死人でもいるような……」

 

 女神官さんがボソッと呟く。

 

「変なこと言わないでよ!」

 

 それを聞き逃さなかった妖精弓手さんにダイレクトヒットしたようだ。女神官さんが謝っている。この2人がいるとなんか、和むな。

 

「ここって倉庫、よね」

「そのはずですぞ」

 

 マッパーの蜥蜴僧侶さんが言うからにはそうなのだろう。

 

「倉庫のわりに武器がないの」

「そうだな」

「あるのは日用品や食品箱ばかり、か」

 

 倉庫に武器がないとは。なんであそこまで厳重にここを守っていたんだ? 隠さなきゃいけないものでもあったのかな。

 周囲を探してもお宝らしきものは見つからない。仕方ない、別の部屋を探そう。

 俺達は部屋を後にすると……。

 

「ん?」

 

 妖精弓手さんが帰り際に突然、部屋の方に振り向いた。

 

「何かありました?」

「今、鈴の音がしたような……」

「気のせいではないか?」

 

 鉱人道士さんがそう言うと、室内が水を打ったように静まり返る。

 

「ごめんなさい。そうみたい」

「何をしてる。いくぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが声をかけ、先へ行こうと促す。

 

 別の部屋も探索することに。しかし、思った以上に何もない遺跡のようで、進展がないまま2階へと歩を進めていた。

 パチリパチリ。火花音だけが辺りに響く。

 

「静かな遺跡ね」

「ここまで静かなのも珍しいわい」

「そうですな……。普通なら魔物が出てもおかしくはありませぬが……」

 

 喋りながら遺跡の探索を続ける俺達。小部屋等も見つけるがまたもや何もない。ここにはお宝なんて無いんじゃないかとすら思えてくる。

 冒険としては安全で良いのだが、ここまで刺激もないのもつまらない。なにか起きて欲しいと下らないことつい考えてしまう。

 松明を頼りに道なる道を根気よく探索し続けると、カランコロン、カランコロンと遺跡にはにつかない音が響き渡る。

 

「皆、構えて。なにか来るわ」

 

 真剣な声色で妖精弓手さんが皆に知らせる。ようやく敵のお出ましか。全員がそれを聞き、武器を取る。俺はお手製の打刀を構えて、獲物を待つ。

 

「《伶盗龍の鈎たる翼よ 斬り裂き 空飛び 狩りを為せ》」

 

 蜥蜴僧侶さんの呪文が木霊する。竜牙刀という武器を生み出す呪文らしい。準備万端って感じ。いつでもこい、魔物ども。

 

 カランコロン、カランコロン……。次第に音が強くなっていく。壁に松明があって助かった。照明に照らされ、敵の正体も徐々に露になっていく。

 

 敵に眼はなく、小剣と盾を携えた白い魔物。

 数体の魔物が俺たちの目の前に姿を現した。

 

「スケルトン……」

 

 不気味な音の正体はコイツだったわけか。

 スケルトンの両手には小剣と小盾。侵入者である俺たちを始末しに来たのだろう。 

 

「後ろにもですぞ」

「マジかよ……」

 

 後方の蜥蜴僧侶さんから悲報の知らせ。

 挟み撃ちかよ。

 

「後ろは何体だ?」

「4匹じゃな」

「こちらも同数です!」

 

 女神官さんが強気に言った。おっ、この子がこんなこと言うなんて珍しいな。前はぶるぶると怯えてたと思うけど。

 

「何体でもいいわ! やるわよ!」

「おうとも!」

 

 ピシュン!ヒュルルー! 風切り音と共に弓矢の射抜く音が響く。

 

「よし!」

 

 どうやら、妖精弓手さんの矢が敵に命中したようだ。

 

「こちらもやるぞ」

「おう!」

 

 俺は打刀を構え、スケルトンへ横凪ぎをお見舞いする。捉えきれなかったのか、吸い込まれるようにスケルトンの首もとへ打刀が入り込む。

 

「せやあっ!」

 

 俺が勢いよく打刀を引くとボトンッ! と頭がゴロゴロと転がり落ちる。

 

「っ!」

 

 女神官さんから唾を飲むような音が聞こえる。まだ新人には変わらないか。俺達がしっかりしないとな。

 

「次がくるぞ」

「分かってるよ!」

 

 もう1度、武器を構え直す。

 奥にいたスケルトンが俺に向かって斬りかかってくる。

 スッと打刀で振り下ろしをガードし、蹴りをお見舞いする。不意に蹴られたからか、スケルトンは後ろへ倒れこむ。

 

「ハァッ!」

 

 俺は追いかけて峰の部分を力いっぱい、振り下ろす。スケルトンの首根っこは体と離ればなれに。

 スケルトンの首くらいなら、峰で十分だ。

 

 カタカタカタカタ! 余ったもう1匹が俺の方へ突撃を噛まそうとする。

 

「やらせん」

 

 ゴブリンスレイヤーがスケルトンにタックルをぶち当てる。シールドバッシュによって、2体のスケルトンが後方へぶっ飛ぶ。

 すると、勢いにやられたのか起き上がることはなかった。

 

「こちらは済んだぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーの淡々と報告。

 ふぅ、無事に済んで助かった。

 

「大丈夫。こっちも今終わったわ!」

 

 どうやら、妖精弓手さんたちも無事に魔物を退けられたようだ。

 

「被害は?」

 

 と、ゴブリンスレイヤーがパーティーの確認をする。

 

「なしじゃ」

「ならいい」

「それにしても、なぜいきなりスケルトン達が現れたんでしょう?」

 

 当然の疑問。

 それは俺も気になっていた。

 

「多分、部屋に入ることがキーになってたんだと思うわ」

「と、いいますと?」

「さっき、部屋の中で妙な音が聞こえたのよ」

「部屋の中で止まったのはそれか、耳長娘」

 

 鉱人道士さんの問いに「そうよ」とだけ返す妖精弓手さん。

 

「なら、それに注意して行きましょう」

「そうだな」

 

 

 


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