ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第12話 地下墳墓 その3

 スケルトンの一戦から数十分後。

 とある一室にて。

 

「それにしても、鈴の音の発生源は見つからんのぉ……」

 

 鉱人道士さんが珍しく、ため息交じりに言葉を溢した。

 

「まだ奥が未探索ですゆえ、おそらくそこかと」

「だといいがの」

「陰気くさいわねぇ。流石ドワーフだこと」

「うるさいわい! 金床!」

「なにおう!? 喧嘩なら買うわよ!?」

 

 この2人が言い争いをすると、なんか一党の空気が賑やかになる気がする。気のせいかも知れないけど。

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

「「ふん!」」

 

 うっわ、息ピッタリ。マジで仲良いんじゃないの? この2人……。2人を見守っていると探索していたゴブリンスレイヤーが立ち上がり、おもむろに口を開いた。

 

「ここの部屋もあらかた調べ終わったな」

「そろそろ、次に向かいますか?」

 

 傍に付き添っていた女神官さんがゴブリンスレイヤーに訊ねると……。

 

「そうだな」

 

 と簡素に返した。

 そろそろ探索に戻ろう。

 

「2人ともいつまでも夫婦喧嘩してないで、そろそろ行きますよ」

 

 そう俺が言うと……。

 妖精弓手さん達が振り向き様にこう言った。

 

「「夫婦じゃないわい(わよ)!」」

 

 やっぱり、息ピッタリ。めっちゃ仲良し。誰かと仲良し小吉したいもんだな……はぁ……。心に大きなため息をつきつつ、調査を続ける。

 

 遺跡内を歩くこと数十分。

 重々しい扉が俺達の前に立ち塞がった。

 壁には重厚な装飾が施され、扉にも同様なものが彫られている。

 どうやら、地図によるとここが最後の部屋のようだ。

 

「最後ですな」

「ああ」

「ああぁぁ……。疲れるぅ……」

 

 疲労困憊とはいかないものの、相当キテるみたい。

 

「耳長娘よぉ、まだ終わっとらんよ。気を引き閉めんか」

「言われなくても分かってるわよぉ、もう……」

「あれから何度もスケルトンと戦いましたし、仕方ないですよ」

 

 女神官さんは優しい子だな。

 あの精神は見習っていきたい。

 

「水飲みますか?」

「いや、いいわ。大丈夫」

「そうですか」

 

 少し寂しそうにする女神官さん。

 

「何が来るか分からん。心構えだけはしておけ」

「は、はい」

 

 ゴブリンスレイヤーが俺達の中で唯一の黒曜等級の女神官さんに、一党頭らしいアドバイスを掛ける。

 こいつなりに頭目らしく振る舞ってるのかな?

 雰囲気を崩さねぇよう、俺は気を引き閉めるか。

 

「行くぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが扉に手を当て、緩やかに重々しい扉を押していく。石と石が擦れる音だけが俺達の耳へ進行する。

 扉を開けきり、薄気味悪い部屋に足を踏み入れると、そこには棺桶がズラリと一列に揃っている。入口付近は広く、奥に行くにつれ縦長の空間になっているようだ。入口の右手には上へと続く階段も見える。上にも何かありそうだな……。

 

「棺桶!? なんでこんなに置いてあるのよ」

「知らん」

「埋葬する場所、だったのでしょうか?」

 

 女神官さんが死者へ祈りを捧げている。

 俺はその間に周囲にある縦長の松明に火をつけていく。暗いんじゃ仕事にならんからな。奥には祭壇のような物も見える。

 

 俺達が中間付近に差し掛かると、それを引き裂くようにチリンチリンと美しい快音が辺りを包み込む。ここの雰囲気とは似ても似つかない、それが不気味さを増していた。

 

「来るぞ」

 

 各々が武器を構える。

 先程と同じ陣形だ。

 

 虫が巣から這い出るように、スケルトンがワラワラと湧き出て来やがる。 

 

「派手に暴れろ!」

「合点承知!」

 

 うおっ!? 蜥蜴僧侶さんが突っ込んだ!?

 仕方ねぇ、後衛の守りに徹しますかね!

 

「奥の方に親玉らしき魔物が見えますぞ!」

 

 蜥蜴僧侶さんが大声で俺達に通達する。

 

「了解! あいつが親玉ね!」

 

 妖精弓手さんがそういうと、親玉目掛けてピュッと弓矢が飛んでいく。針に糸を通すようにスケルトンどもをすり抜けて、ゴールまで一直線。

 しかし……。

 

「ダメ! 効いてないわ!」

「別の手を使うしかないぞ! かみきり丸!」

「分かってる。石の弾だ」

 

 ゴブリンスレイヤーが鉱人道士さんへ指示を出す。

 

「ほいきた! 《仕事だ仕事、土精ども。砂粒一粒、転がり廻せば石となる》!」

 

 鉱人道士さんが砂を撒き、呪文を口にすると……。砂から石へ。徐々に徐々に、肥大化していく。

 

「戻れぃ! 鱗の!」

「承知!」

 

 大声で蜥蜴僧侶さんへ知らせると、すぐさま俺達の元へ帰還する。

 

石弾(ストーンブラスト)!」

 

 鉱人道士さんが中に手を翳したと思えば、石の雨がスケルトンへ降り注ぐ。

 盾で防ぐものもいたが、大方片付けられたな。

 さてと、残りを殲滅するのみ!

 チリンチリン。鈴の音だ、またか……。ため息交じりに打刀を構えると……。ん? あれはなんだ? 上の階が少し光った?

 

「鈴の音か! また来るぞ!」

 

 考えてても仕方ねぇか。

 今は目の前の事に集中だ! 渇を入れ直し武器を構えた。

 美しい音色と同時に、ワラワラとまた這い出てくるスケルトン。流石に多すぎたのか、前の打漏らしが現れる。

 

「ムーンライター殿!」

「任せてください! せやぁ!」

 

 前衛の打漏らしを残らず叩く! それが俺の仕事だろ!

 

「ふっ!」

 

 誰も抜かせない!

 

「流石にやるわね!」

「お褒めにあずかりどうも!」

「次が来ます!」

 

 女神官さん、バッチリ戦況を見てるな。助かる。

 戦闘開始から僅か数分後。

 

「いくらなんでも多すぎるわよ!?」

 

 たまらず妖精弓手さんが愚痴を溢す。

 

「奥にいるスケルトンの親玉を倒せばいいのではないか?」

「小鬼殺し殿、どうやら鈴らしき物は持っていないようですぞ」

 

 マジか。ん? 居るとしたら……もしかして。

 

「となると、召喚師を探し出せちゅーことか」

「一度、体制を整えませんか?」

「分かった。引くぞ」

 

 女神官さんの提言により、一度入口まで下がることに。

 入口の壁を背にスケルトン達の方へ目線を向けると、どういうわけか追ってこない。部屋の中央付近をうろうろと徘徊している。

 

「どうやら、スケルトンどもの感知範囲はあの中央からのようですな」

「親玉が鈴を持っていないということは……」

「どこかに召喚師いるってことになるわね」

「面倒じゃのう」

 

 鉱人道士さんの愚痴が聞こえてくる。俺の推測が正しければ…。皆に知らせないと。

 

「さっき、ベル音らしき音が鳴ったときなんですけど」

 

 俺がそういうと皆の視線が突き刺さる。

 

「上の方でなんですけど、何か光ってるのが見えました」

「確かに鈴の音は上から聴こえてきたわね」

 

 妖精弓手さんも聴こえてたか。これはありがたい。

 

「乱戦の中よく気がつきましたな」

「なら、二手に分かれるぞ」

 

 俺の提案がすんなり通った。いやー、良かった良かった。

 つか、妖精弓手さんが手助けしてくれなかったら、スルーされてたかもな。俺の意見……。なんにせよ、ここから本番だ。気合いを入れ直そう。

 

 下はゴブリンスレイヤー達に任せて、俺と妖精弓手さんと鉱人道士さんの3人は階段へ足を走らせた。

 道なりに従い、上へ上へと駆け上がる。すると、古びた一室へたどり着く。

 

「ここが真の親玉のハウスね」

「お前さんの耳が正しければな」

「一言余計なのよ! アンタは!」

「まぁまぁ、行きますよ! 2人とも!」

 

 2人は黙って頷き、俺はバコン!と扉を蹴破った。

 中はこじんまりとした休憩室となっているようで、中央には小さなテーブルと椅子が設置されている。勢いよく妖精弓手さんが飛び出し軽快にテーブルを蹴飛ばす。テーブルはするすると魔物のほうへとすっ飛んでいく。

 

「居たわ! アイツね」

 

 すっ飛んでいったテーブルをなんなくかわし、我が物顔で部屋に陣取っている魔物が1匹。

 俺達を待ち構えていたのはスケルトンのスペルキャスターだった。黒いローブ、立派なステッキにもう片方の手にはハンドベル。

 あれが音色の正体ってわけか。

 

 チリンチリン。この音色が鳴ったということはっ! やっぱ、お前らが来るよな! そうだよな、ちくしょう! 辺りから湧き水のようにスケルトンがわらわらと顕現する。

 俺は武器を取る。奴らを迎え撃つ準備だ!

 

「性懲りもなく、また来たわね!」

「何度もうち倒すまでです!」

「その意気じゃ!」

 

 鉱人道士さんの鬨の声とともに戦闘開始!

 前衛は俺だけだ。やるしかない!

 俺はスケルトンの鎖骨辺りに狙いをつけ、打刀を斜めに振り下ろす。

 

「おりゃあ!」

 

 そのまま、流れるようにスケルトンの体は真っ二つに斬られ、残り数体。涌き出ている最中のスケルトンもいる。まだいやがるな。

 俺が前衛と見るやいなや、2体のスケルトンが襲い掛かってくる。

 

「させない!」

 

 間を置かずに妖精弓手さんの援護が光る。放たれた矢はスケルトンの頭を貫き、後ろへ倒れこむ。

 そして、すかさず他の矢も射出。射ぬかれたスケルトンは涌き出てきた後続連中を巻き込み、ドミノのように倒れこむと仲間達の足を引っ張った。

 

「おまけじゃ! 《仕事だ仕事、土精ども。砂粒一粒、転がり廻せば石となる》!」

 

 鉱人道士さんが砂を撒き、呪文の下準備に取り掛かった。残りのスケルトンの頭上に石弾が形成される。先程とは打って変わって、小石なんてちゃちなものじゃなく、スイカほどの大きさ。それが数個も!

 おいおい、そんなこと出来るのかよ!?

  

石弾(ストーンブラスト)!」

 

 倒れこんでるスケルトンやまだ這い出てる連中目掛けて、小石、いや岩の弾が無惨にも落下する。鈍い音とともにスケルトンであったものが四散。

 成仏してくれ。頼むから俺達を恨まないでくれよ。

 放つには少し時間を要するのか…鐘の音が鳴る様子はない。今がチャンスだ。

 

「召喚師! 覚悟!」

 

 俺は打刀を構え直す。どこから攻められてもいいように、しっかりと敵を見据える。

 数十秒間の沈黙。

 ニジリ、ニジリと間合いを詰め、相手を追い込んでいく。相手に逃げ道はない。彼の前は俺達3人で塞いでいるのだから。

 あと数m。

 最早、敵と接触するのは時間の問題だ。

 

 カタカタカタカタ。召喚師とおぼしき敵の口が不気味に動き始める。ま、まずい!

 敵が杖を翳し、呪文を放とうとしている!

 

「させんよ! 《土精、水精、素敵な褥をこさえてくんろ》」

 

泥罠(スネア)!」

 

 鉱人道士さんの掛け声とともに、敵は地面に足を取られ身動きが取れなくなる。地面は凝固し、身悶え苦しんでいる。

 ピクン! と敵の右腕が動いたような気がした。

 

「そこだぁ!」

 

 俺は敵の懐に入り込み、すかさず切り上げをお見舞いした。

 肢体から右腕が斬られ、地面へとポトリと落ちる。ハンドベルと旋律のない、音を奏でながら。

 

 俺は腰を落としそのまま、横薙ぎを振るう。敵のローブごと頭が体にさよならを告げる。

 

「倒した?」

「多分これで、召喚は収まったはず」

「よし。下の援護に向かうぞ!」

 

 


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