ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第13話 地下墳墓 その4

 ガタガタッ! 階段を軽快に下へ下る。

 

「皆さん! 無事ですか!?」

 

 俺の心配する声とは裏腹に3人はピンピンしていた。

 

「そっちはどうなっている?」

 

 ゴブリンスレイヤーの確認が入る。

 

「召喚師は潰したわ!」

「道理でスケルトンどもが崩れ落ちたわけですな」

 

 蜥蜴僧侶さんが言うように辺りには1つの骨すら残らず、綺麗さっぱり消え失せている。

 

「良くやった」

「ふふん! 当然でしょ!」

 

 妖精弓手さんがまたもやふんぞり返っている。彼女は調子に乗りやすいエルフみたいだ。

 

「大きいスケルトンも召喚された魔物だったみたいで」

「途端に消えてしまいましたな」

 

 各々が中央付近に集合し安全確認。

 よし、重傷者なし。全員無事だな。いやー良かった。

 ん? 鉱人道士さんが何やら考え込んでいる。一体? まぁいいや。

 

「みんな、無事みたいね」

「それは何よりですな」

「上はどうなっていた? なにかあったか?」

 

 ゴブリンスレイヤーが妖精弓手さんに目線を送る。

 

「召喚師がいたのと…数体のスケルトンだけよ」

「とんだ拍子抜けじゃわい」

 

 鉱人道士さんが一言付け加える。

 

「そうか」

「ボスも倒したみたいですし、奥へ行ってみませんか?」

 

 そう一党メンバーへ促すと、各々が頷いてくれた。周囲を警戒しつつということもあってか、足取りは重かったけど。

 何とか無事に奥の棺へとたどり着いた。

 

「墳墓なのですよね? ここって」

「おそらくな」

「お墓を調べるのは気乗りしませんね……」

 

 女神官さんが流し目でそう言った。

 彼女は離れさせたほうが良さそうかな。

 

「それじゃ、離れとく?」

 

 俺の問いに首を横に降って彼女は答えた。

 最後まで付き合うようだ。

 

「せーの!」

 

 俺と蜥蜴僧侶さんで棺の蓋をゆっくりと押す。

 ガタン! 石造りの蓋が地面に落とされ、大きな音を立てる。グイッと顔を棺の中へ覗かせると……。

 

「これは……剣?」

「鍔のところにダイヤモンドが彫られてる?」

 

 一本の剣だけがその姿を現した。

 

「そうみたいね」

「剣だけのようですな」

「なんで剣だけなんでしょうか?」

 

 当然の疑問だな。

 

「ああっ!!」

 

 鉱人道士さんの突然の大声に、全員がビクッとする。

 

「なによ! 突然大声なんてだして! ビックリしたじゃない!」

 

 妖精弓手さんが代弁してくれた。

 

「大声出したことは謝る。すまん」

「それで? 声をあげたってことは何か気づいたんでしょ?」

「うむ。その剣を見てピンと来たわい。ここは数百年前に作られたドワーフの隠れ里じゃ」

 

 隠れ里。

 そんなものがドワーフにもあるのか。

 

「その昔、わしのじいさんから聞いた話なのじゃが……」

 

 と、神妙な面持ちで鉱人道士さんが語り出した。どうやらここは、人嫌いのドワーフが発足し作り出した町だったらしい。そのドワーフが作った剣にはトレードマークのダイヤモンドが彫られていたそう。そういや、墳墓にもダイヤモンドが彫られていたっけ。

 元々鉱山だったこの場所に、ドワーフの人達が働いていたそうで。その住居を作りたかったみたい。 が、鉱石も次第に減っていき、職場を失くしていった。山しかない窮屈なこの場所に住民たちは嫌気が差したのか、徐々に人は減り、次第には人嫌いのドワーフだけが残ったという。

 

「リーダー的な人は?」

「病で倒れたと聞いたの」

「お墓はここにあるんでしょうか?」

「そこまでは知らん。家族がいたと言う話も聞いとらんし、墓はないのかもしれん」

 

 なんて寂しい話なのだろう……。

 見守る家族も居なかったのか……。

 それとも、作ろうとはしなかったか……。

 どちらにせよ。

 

「それで? この剣はどうする? 持って帰るのか?」

 

 と、ゴブリンスレイヤーが口を開く。

 

「耳長娘、お前さんが決めろい」

「ええ!? 私?」

「元はと言えばお前さんが持ってきた依頼じゃろう?」

「そうだけど……」

 

 彼女は口を尖らせ、嫌そうにしている。

 

「それじゃ戻します?」

「そうしましょ。なんか気分悪いし」

 

 満場一致したところで、俺達は墳墓を後にした。

 

 入口付近へ戻ってくると、外は暗く深夜だと推測出来た。今帰るのは危険と判断し、野宿をすることに。丁度、鉱山の麓が広く川辺もあり、野営にはピッタリな場所だ。

 非常食を取りつつ、代わり番子で見張りをすることになった。

 灯火がともる。チリチリ、チリチリ。火花が散り、枝の焼ける音が心地い。焚き火の近くで無心に火を見つめている、ゴブリンスレイヤーの姿があった。

 俺は話し掛けてみた。

 

「火の調子はどうだ?」

「順調に燃えている。問題はない」

 

 背中越しにそう返すゴブリンスレイヤー。

 俺はスッと向かい側の席へ腰を落とす。

 

「お前さん、もしかしてこのパーティー居心地が良いのか?」

「……そう見えるか?」

「以前のお前だったら、一党なんて組まないだろ?」

「……そうだな」

 

 一息入れて彼はそう答えた。

 焚き火の仄明かりがゴブリンスレイヤーの兜を淡く照らしている。流石に兜の中までは照らせてはいない。顔は残念ながら見ることが出来ない。だから、ゴブリンスレイヤーがどんな表情をしてるかは想像することしか出来ない。けれども、声からしてどこか明るいようなそんな気がした。

 

 俺と仕事していたときと比べても、あり得ないことだった。今以上に寡黙だったし、聞いても最低限のことしか言わなかったからなぁ。こいつ……。

 彼と女神官さん達が良い刺激になっているのは間違いなかった。

 

「優しそうな人達でよかったな」

「ああ」

「お前がゴブリン退治以外に赴くとは驚きだったよ」

「……約束であれば仕方ないだろう」

 

 妖精弓手さんとの約束だったっけ。

 

「お前って案外義理堅いよな」

「そうか」

「そうだよ。今度俺の依頼も手伝えよな」

 

 俺はニカッと笑顔を彼に向けた。

 

「…………ゴブリン退治がなければな」

 

 と、ゴブリンスレイヤーらしい言い回しで言った。

 

「おう。約束な」

「ああ」

「それじゃ、寝てこいよ。俺が見張るからさ」

「分かった。よろしく頼む」

 

 ゴブリンスレイヤーが草木の寝床へ消えていく。

 俺は薪をくべて火を起こす。薄暗い洞窟にポツンと俺だけを淡く照らし、心地い火花音だけが響いている。

 さぁて、見張り頑張りますか!

 

 後に、ギルドから調査依頼の報酬金が支払われることとなった。

 

 


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