ガタガタッ! 階段を軽快に下へ下る。
「皆さん! 無事ですか!?」
俺の心配する声とは裏腹に3人はピンピンしていた。
「そっちはどうなっている?」
ゴブリンスレイヤーの確認が入る。
「召喚師は潰したわ!」
「道理でスケルトンどもが崩れ落ちたわけですな」
蜥蜴僧侶さんが言うように辺りには1つの骨すら残らず、綺麗さっぱり消え失せている。
「良くやった」
「ふふん! 当然でしょ!」
妖精弓手さんがまたもやふんぞり返っている。彼女は調子に乗りやすいエルフみたいだ。
「大きいスケルトンも召喚された魔物だったみたいで」
「途端に消えてしまいましたな」
各々が中央付近に集合し安全確認。
よし、重傷者なし。全員無事だな。いやー良かった。
ん? 鉱人道士さんが何やら考え込んでいる。一体? まぁいいや。
「みんな、無事みたいね」
「それは何よりですな」
「上はどうなっていた? なにかあったか?」
ゴブリンスレイヤーが妖精弓手さんに目線を送る。
「召喚師がいたのと…数体のスケルトンだけよ」
「とんだ拍子抜けじゃわい」
鉱人道士さんが一言付け加える。
「そうか」
「ボスも倒したみたいですし、奥へ行ってみませんか?」
そう一党メンバーへ促すと、各々が頷いてくれた。周囲を警戒しつつということもあってか、足取りは重かったけど。
何とか無事に奥の棺へとたどり着いた。
「墳墓なのですよね? ここって」
「おそらくな」
「お墓を調べるのは気乗りしませんね……」
女神官さんが流し目でそう言った。
彼女は離れさせたほうが良さそうかな。
「それじゃ、離れとく?」
俺の問いに首を横に降って彼女は答えた。
最後まで付き合うようだ。
「せーの!」
俺と蜥蜴僧侶さんで棺の蓋をゆっくりと押す。
ガタン! 石造りの蓋が地面に落とされ、大きな音を立てる。グイッと顔を棺の中へ覗かせると……。
「これは……剣?」
「鍔のところにダイヤモンドが彫られてる?」
一本の剣だけがその姿を現した。
「そうみたいね」
「剣だけのようですな」
「なんで剣だけなんでしょうか?」
当然の疑問だな。
「ああっ!!」
鉱人道士さんの突然の大声に、全員がビクッとする。
「なによ! 突然大声なんてだして! ビックリしたじゃない!」
妖精弓手さんが代弁してくれた。
「大声出したことは謝る。すまん」
「それで? 声をあげたってことは何か気づいたんでしょ?」
「うむ。その剣を見てピンと来たわい。ここは数百年前に作られたドワーフの隠れ里じゃ」
隠れ里。
そんなものがドワーフにもあるのか。
「その昔、わしのじいさんから聞いた話なのじゃが……」
と、神妙な面持ちで鉱人道士さんが語り出した。どうやらここは、人嫌いのドワーフが発足し作り出した町だったらしい。そのドワーフが作った剣にはトレードマークのダイヤモンドが彫られていたそう。そういや、墳墓にもダイヤモンドが彫られていたっけ。
元々鉱山だったこの場所に、ドワーフの人達が働いていたそうで。その住居を作りたかったみたい。 が、鉱石も次第に減っていき、職場を失くしていった。山しかない窮屈なこの場所に住民たちは嫌気が差したのか、徐々に人は減り、次第には人嫌いのドワーフだけが残ったという。
「リーダー的な人は?」
「病で倒れたと聞いたの」
「お墓はここにあるんでしょうか?」
「そこまでは知らん。家族がいたと言う話も聞いとらんし、墓はないのかもしれん」
なんて寂しい話なのだろう……。
見守る家族も居なかったのか……。
それとも、作ろうとはしなかったか……。
どちらにせよ。
「それで? この剣はどうする? 持って帰るのか?」
と、ゴブリンスレイヤーが口を開く。
「耳長娘、お前さんが決めろい」
「ええ!? 私?」
「元はと言えばお前さんが持ってきた依頼じゃろう?」
「そうだけど……」
彼女は口を尖らせ、嫌そうにしている。
「それじゃ戻します?」
「そうしましょ。なんか気分悪いし」
満場一致したところで、俺達は墳墓を後にした。
入口付近へ戻ってくると、外は暗く深夜だと推測出来た。今帰るのは危険と判断し、野宿をすることに。丁度、鉱山の麓が広く川辺もあり、野営にはピッタリな場所だ。
非常食を取りつつ、代わり番子で見張りをすることになった。
灯火がともる。チリチリ、チリチリ。火花が散り、枝の焼ける音が心地い。焚き火の近くで無心に火を見つめている、ゴブリンスレイヤーの姿があった。
俺は話し掛けてみた。
「火の調子はどうだ?」
「順調に燃えている。問題はない」
背中越しにそう返すゴブリンスレイヤー。
俺はスッと向かい側の席へ腰を落とす。
「お前さん、もしかしてこのパーティー居心地が良いのか?」
「……そう見えるか?」
「以前のお前だったら、一党なんて組まないだろ?」
「……そうだな」
一息入れて彼はそう答えた。
焚き火の仄明かりがゴブリンスレイヤーの兜を淡く照らしている。流石に兜の中までは照らせてはいない。顔は残念ながら見ることが出来ない。だから、ゴブリンスレイヤーがどんな表情をしてるかは想像することしか出来ない。けれども、声からしてどこか明るいようなそんな気がした。
俺と仕事していたときと比べても、あり得ないことだった。今以上に寡黙だったし、聞いても最低限のことしか言わなかったからなぁ。こいつ……。
彼と女神官さん達が良い刺激になっているのは間違いなかった。
「優しそうな人達でよかったな」
「ああ」
「お前がゴブリン退治以外に赴くとは驚きだったよ」
「……約束であれば仕方ないだろう」
妖精弓手さんとの約束だったっけ。
「お前って案外義理堅いよな」
「そうか」
「そうだよ。今度俺の依頼も手伝えよな」
俺はニカッと笑顔を彼に向けた。
「…………ゴブリン退治がなければな」
と、ゴブリンスレイヤーらしい言い回しで言った。
「おう。約束な」
「ああ」
「それじゃ、寝てこいよ。俺が見張るからさ」
「分かった。よろしく頼む」
ゴブリンスレイヤーが草木の寝床へ消えていく。
俺は薪をくべて火を起こす。薄暗い洞窟にポツンと俺だけを淡く照らし、心地い火花音だけが響いている。
さぁて、見張り頑張りますか!
後に、ギルドから調査依頼の報酬金が支払われることとなった。