ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第18話 隠し部屋?

 時刻は夕暮れ手前。俺たちは砦へと舵を切っていた。

 地図によるとゴブリンに占拠されたとおぼしき砦は、森にあるらしい。木々が立ち並び、深くはないものの、慣れてる人間でもなければあっという間に遭難してしまうほどの道中だ。

 それにしても面倒な所に砦を作ったな……。全く。いや、昔は広野だったって彼女が言ってたな。地形が月日が経って変動したのかもな。結果、面倒な場所に出来たと。こんな感じか?

 ん? それにしてもゴブリンスレイヤー……やけに静かだな。まああまり喋るタイプじゃないが、それにしても沈黙がすぎる。依頼主の家を出てからずっとこの調子だぞ?

 

「どうしたのよ? さっきから黙っちゃって」

 

 すかさず、妖精弓手さんが口を開いた。

 

「……いや」

「何か考え事ですか?」

 

 女神官さんもそれに続く。

 

「…………ああ」

「何か引っ掛かることでもあったかよ」

 

 俺がそういうとゴブリンスレイヤーはまた黙りこけてしまった。

 

「大柄なゴブリンのことか?」

 

 続けて俺が聞くと……。

 

「そうだ」

 

 ゴブリンスレイヤーはいつものようにシンプルに答えた。

 

「チャンピオン? ってやつなんでしょ? よく知らないけど」

「だとは思うのだが……どうもしっくり来なくてな」

 

 ゴブリンの専門家でもこういうことあるんだな。

 あっ! 分かった!

 

「あのゴブリンが前線に出て来てたからだろ?」

「……間違ってはいない」

 

 この反応をみるに遠からずってところか。

 

「私、ゴブリンに詳しくないけどそういうものなの?」

「リーダーというのは基本的には前線出てくるものではないだろう」

 

 縦社会なら基本的にはそうか。リーダーがやられたらそれで瓦解することが多いもんな。余程のことでも起きない限り、前に出ず部下に任せるものだろう。リーダーがやられなければ再起は出来るからな。

 

「だのに……件のゴブリンにはそれがあった」

「もしかしたら他にリーダーがいるのでは?」

 

 女神官さんの指摘は最もだ。

 その可能性も十分にある。

 

「否定はできん」

「なんにせよ……気張らねばならんのぅ」

「然り然り」

 

 もしかしたら、ゴブリンだけを狩り続けたこいつにしか分からないことがあるのかもしれないな。ゴブリンスレイヤーの中で違和感が生じているのかも……。

 油断しないようにしよう。

 俺は腕輪を擦りぎゅっと二の腕を強く握った。

 

 森の中を歩くこと数十分後。

 並木道に慣れた頃、一際大きな石造りの建物が顔を覗かせた。一目であれが砦なのだと悟った。

 

「それにしても大きい砦ね」

「探索大変そう……」

 

 女神官さんがボソッと本音を溢す。

 

「見てください! あれ」

 

 女神官さんが指差す方向には2匹のゴブリンが見張りをしているようだ。砦はゴブリンどもに支配されてると見て間違いないだろう。

 

「確か抜け穴があるって話だったな」

「ああ」

 

 依頼主の彼女が言うには緊急脱出用の脱出口が砦に備えられてあるらしい。ゴブリンに占拠されている可能性も否定出来ないが、上手く行けば安全に砦に入れるだろうとのことだ。

 

「これは賭けになりますな」

「正面切って戦いを挑むよりはマシだろう」

「それに耳長娘もおるしの」

 

 確かに妖精弓手さんの索敵能力は天下一品だ。このパーティーの要と言っていいほどだろう。この人が居なければ危うかった場面は多い。

 

「そうね。任せてちょうだい」

「この道の先だ。行くぞ」

 

 奥に歩を進めると巨大な大樹が顔を出す。

 道を歩き、目的地に到着した。

 見た目はただの巨大な大樹だ。横幅がとてつもなく広い。一人部屋が出来そうなほど。

 

「でっか……」

 

 思わず口に出てしまった。それくらいでかい。大樹をくり貫いて抜け道を作るとは、昔の人は大胆なことをするものだな。

 

「私の故郷にはこれくらいの木、自生してるわよ?」

「そりゃエルフの森だもの。同然だろうに……」

「自生してないの?」

「しとらんわ!」

 

 この2人の問答にも慣れたな。

 

「苔でカモフラージュされているな」

「開きますかな?」

 

 木々の歯軋り音が森に木霊する。

 

「開きましたね」

「行くぞ」

 

 頼りになる照明は松明だけ。俺たち一行は大樹をくり貫いた螺旋階段を慎重に降りていった。

 

 体感、数十分ほどだろうか? 100メートルほど降りたような気がする。ある程度広さのある踊り場が覗かせている。

 

「地図によるとこの道をまっすぐ歩けば、砦に到着するようですな」

 

 マッパーが板についてきた蜥蜴僧侶さんがそう口にした。

 

「進むぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーがそう言葉にした瞬間、針積めた空気が俺たちを包み込む。これから仕事が始まるのだ。今日の俺はやけに気合いが入っているような気がしていた。それは…元仲間の人からの依頼だからというのもあるのだろう。油断しないように勤めないと……。

 

 そうこうしている内に鍵付き扉が現れた。推察しなくても分かる。ここがお目当てのゴールなのだろう。

 妖精弓手さんが耳当てで中を確認する。しかし、敵はいない。ここにはまだゴブリンの魔の手が伸びていないようだ。幸いにとドアノブに手をかけ、螺旋階段を登っていくことに。

 

 道中のように質素な作り。ただ…逃げるために作られただけの道をたどり、目的地の扉へ到着した。斜に構えた扉にまた妖精弓手さんが耳当てをする。

 

「どうだ?」

「ゴブリンの足音は聞こえない。部屋にはいないと思う」

 

 その言葉を耳にした途端、ゴブリンスレイヤーがドアノブへ手をかけ…音が出ないよう慎重に扉を開けていく。

 

 木造扉の歯軋り音が小さく壁を叩く。

 ゆっくりと部屋の中へゴブリンスレイヤーが足を踏み入れる。彼の手招きで残りの俺たちも部屋と入っていった。

 

 ん? 部屋にしては細くないか? まるで通路って感じの広さなんだが……。周囲は石造りの壁に囲まれているようだ。

 

「おそらくここ、隠し部屋だと思うわ」

 

 妖精弓手さんが付け足す。隠し部屋?

 

「敵に侵入されて逃げ道が見つからないようにという配慮でしょうな」

 

 そういうことか。

 まだ部屋には入っていないってことか。

 

「ゴブリンどもはこの逃げ道に気付いていないようだな」

「どうして分かるんですか?」

「もし、ゴブリンがこの隠し部屋に気付いているのなら、罠を用意しても不思議ではない」

 

 アイツらは児戯みたいな罠を張るからな。一理ある。

 

「そこまで凝ったことゴブリンがするの? 信じられないわ」

「ゴブリンどもにとって、罠を張ることは一種の遊びでしかない。そういう生き物だ」

 

 粛々とゴブリンスレイヤーは語った。

 

 妖精弓手さんがその話を聞きながら、とある物に気が付いたようだった。

 

「ここね。ここだけ壁の造りが違うわ」

「どうやら、隠し部屋ということで間違いないようですな」

 

 妖精弓手さんの手には既にシリンダーが握られている。すかさず、彼女が捻るとカチッという起動音が静かに響いた。

 

 すると、シリンダーの下に窪みのようなものが出現した。どうやらそこがドアノブの役割を担っているようだ。

 

「開けるわよ」

「静かにな」

「分かってるわよ!」

 

 一悶着しつつ、慎重に妖精弓手さんがドアを開ける。まず、俺たちの目に入って来たのは壁に掛けられている人間の頭蓋骨だった。

 

「なによこれ……」

 

 それには妖精弓手さんも絶句していた。

 

「ゴブリンどもの趣味だろう」

 

 彼女の次に部屋に入ったのはゴブリンスレイヤーだった。続いて他のメンバーも部屋へ足を踏み入れていく。

 

「部屋の様子から察するに…以前のここは執務室のようですな」

 

 蜥蜴僧侶さんがそういうと辺りには本棚や大きな机、高級そうな布などが設置されている。しかし、どれもボロボロでゴブリンどもが壊したような跡があった。

 

「好き勝手やりやがる……」

「ゴブリンにはお灸を据えてやらないとね!」

「そうだな」

 

 ゴブリンスレイヤーが自然な流れで周囲の警戒へ。それを見た俺たちもゴブリンスレイヤーに続いた。

 

 中央は広いスペースが見受けられる。ここで敵を待ち構えたり、稽古したりするのだろう。見取り図の角には階段のようなマークがある。2階もあるようだ。

 砦の見取り図で俺たちの位置を確認すると、中央の奥側に執務室が設置されてたみたいだ。そこで反時計回りに砦を潰していこうって話に。ここはマッパーの蜥蜴僧侶さんに頼ろう。

 

 とりあえず、部屋の外へ。もちろん、警戒は怠らない。油断したら命取りだからな。

 ゴブリンどもは出会ったら、即刻始末しないと。ゴブリンスレイヤーの受け売りだけど、ゴブリンどもは皆殺しにしないとな。

 

 右よし。

 左よし。

 俺たちが部屋を出ると、中は薄暗く日の光が入りづらくなって明かりがないと歩けないほどだった。松明の出番はまだ続きそうだ。

 

 執務室の隣はどうやら寝室のようだ。蜥蜴僧侶さんの話ではここが指揮官の寝室らしい。まぁボロボロでみる影もないけど。

 見取り図の左上には2階に登るための階段と小規模の小部屋。どうやら、2階は敵を見張るために構築されたようだ。見取り図の中央にも外側のほうにも目を向けられる作りになっている。

 

 数十分、砦の左上の探索をしていると女神官さんがあることに気が付いたようだった。

 

「この巣……人の人達は居ないのでしょうか?」

「結構、探してますけど見かけないですね」

 

 女神官さんが言う通り、人っ子一人いないのだ。俺も何回かゴブリン退治を請け負っているが、捕虜がいないケースは初めてのことだった。

 

「ってかそんなことあるの? 捕虜がいないなんて」

 

 妖精弓手さんがゴブリンスレイヤーへ問いかける。

 

「……ああ。たまにだがな」

 

 マジであるのか。

 

「使い物にならなくなった捕虜を明日の糧にするケースも珍しくない」

 

 うぇっ。あまり考えたくないな。

 ゴブリンスレイヤーの言う通りなら、捕虜の人達はもう亡くなったってことか……。

 ならなおのこと、ここのゴブリンどもは殲滅させねばなるまい。これが捕虜の人達へのせめてもの手向けだろう。よし、探索続行だ。

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