この砦は広く2階と1階に分けられている。砦の壁に囲まれる形でスペースが製作されており、1階の多くは居住スペースのようだ。くまなく当たりを探していると、女神官さんの言うとおり人の気配が全くない。俺たち以外はだが……。
あるのはゴブリンの糞だめとゴブリンの死体だけ。それと、武器と防具が少々。この砦に常備されていたものだろう。
しかし、巨体のゴブリンの姿がない。ゴブリンスレイヤーがいうには「広場で獲物待っているのだろう」とのことだった。
それを確認すべく2階へと静かに駆け上がった。中央の広場には案の定、ゴブリンどもが陣取っている。
俺たちは2階からゴブリンどもを見下ろし、奴らの動向を探っていた。巨体のゴブリンもいる。なにやら兜やら鎧も着込んでいるな。よりにもよって大楯を装備か。お誂え向きだなぁ、おい。しかもごりっごりの重装兵タイプのものを。ダメージどうやって通そうか……。俺が悩んでいると……。
「あれは……ゴブリンジェネラルだ」
ゴブリンスレイヤーが口にする言葉に俺は目を丸くした。ゴブリンジェネラルだって? 初めて聞く名だな……。俺は唐突に口したゴブリンスレイヤーの聞きなれない単語に思わず聞き返そうになった。
「ゴブリンジェネラル!?」
妖精弓手さんが小さく声を上げる。俺が聞く前に妖精弓手さんが聞いてしまったか。
「話を聞いていた時から、どうも突っかかっていてな」
「なににですか?」
女神官さんから当然の質問が飛んでくる。
「チャンピオンだというのなら、他のゴブリンどもを盾に使ったり、自分だけ生き残ればそれでいいと言う立ち振舞いをするものだが……」
ゴブリンスレイヤーは指差してこう言った。
「ゴブリンジェネラルは巣を守ることが仕事なのだ。だからああして俺たちがくるのを待っている」
ゴブリンスレイヤーの指の先には捕虜の女性たちを使用した肉の盾を構えている。なんとも狡猾な野郎どもだ。
「いや、あれはおそらく捕虜たちの死体だ」
「なんですって!? 死体!?」
おいおい。嘘だろ? ゴブリンスレイヤー。
「よく見ろ」
ゴブリンスレイヤーは俺たちへ捕虜を見ろと再度促した。
ゴブリンどもが武器で肉の盾を刺したり、切ったりしている。しかし、捕虜たちは反応せず、なんなら肌は青白く全く生気を感じなかった……。
「……なるほどね。彼女たちからは吐息の音を感じないわね」
「確かなのか? 耳長娘」
「……確かよ。エルフの耳の良さを信じなさいよ」
青白くなっているのであれば死んでから時間が経過してるようだな……。くそっ! マジで胸くそだな……。ゴブリンどもめっ! ここまで性根が腐っていやがったか!
「俺たちが逃げればゴブリンどもの勝ち。逃げなくても捕虜を使って増やして勝ちだ」
「なら、ここで止めるしかないわね」
「そうだ」
妖精弓手さんの言葉を聞いて、改めて俺たちの決意が断固のものとなった。俺らが奴らを駆逐しない限り、被害は甚大なものとなるのは明白だ。俺は兜の緒をちょっとばかり、強く締めた。
「俺も変異種を見たことはあるが……あんなやつは知らないぞ」
驚きを隠せない自分がいる。
「多くの冒険者に認知されているのはホブやシャーマンだからな。知らなくて当然だ」
「お前は相手をしたことがあるのか?」
「1度だけな」
ないよりかはマシだな。
「奴はゴブリンだ。殺すことにはかわりない」
彼の言葉に安心をしてしまう。ゴブリンスレイヤーのなんとも頼もしいことか。
「ゴブリンの種類って、どうしてあまり知られていないのでしょう?」
女神官さんの唐突な質問。
妖精弓手さんが口を開いた。
「だってゴブリンだもの」
「冒険者としてレベルが上がったら、ゴブリンの相手なんてせんものな」
鉱人道士さんがすかさず彼女の捕捉をする。
「そう、ですね……」
相手にしたことがないゴブリン故に、女神官さんは心配しているのだろう。
「問題にはならん」
「ゴブリンスレイヤーさん」
彼の言葉に俺同様、彼女は安心したようだ。
「しかし、正面突破するにも石弾じゃ心許ないのぉ」
腕を組みながら鉱人道士さんがそういうと……。
皆がじっと俺を見つめてくる。
え? 俺?
「致し方あるまい。おい」
ゴブリンスレイヤーが俺の方へ体を向ける。
「な、なんだよ」
「お前、あの腕輪は持ってきているのか?」
「あ、ああ」
俺は雑嚢から取りだして見せた。
「本当は持ってくるつもりはなかったんだけどね……」
「そうなんですか?」
「不安が過ってつい持ってきちゃったんだ」
「よし。ならば作戦はこうだ」
ゴブリンスレイヤーが皆を集め、作戦会議をおっぱ始めた。